第一回、ホワイトファミリー会議。
地球から異世界の館に戻った俺は、玄関ホールの階段の奥にある会議室に皆を集めた。少し人数が増えたので顔合わせと自己紹介の為だ。ついでに今後の方針を決める会議を開く事にした。
第一回、ホワイトファミリー会議、開催である。
メンツは俺、フラム。ティーちゃん、シーちゃん、リーちゃんの妖精族。クレア、リベルト、エイム、セーナさん。セーナさんのお母さんはまだ療養中なので部屋で休んで貰っている。
それから融真とキャサリン、クライだ。顔合わせと会議の為に、リベルト、エイムには一度、館に戻って貰った。そして何故か、フィーちゃんとウィルザーもいた。
この二人は毎日来ている気がするんだが気のせいかなw?
取り敢えず、それぞれ自己紹介して貰う。自己紹介が終わった所で、今後の方針などを話した。
まず、俺とフラム、リベルト、エイムは当面、東鳳での活動に集中する事を話した。セーナさんは王立図書館での司書の仕事だ。
融真、キャサリン、クライは引き続き、フィーちゃんと『魔障気』訓練の続きだ。
クレア、ティーちゃん、シーちゃんには、留守番と『鬼哭』の監視、そして椿姫とアーキンドさんとこの娘さんの護衛だ。リーちゃんには連絡係をして貰う事にした。
留守番と聞いたクレアがすぐに不満を表明する。
「…主、わらわはファミリーの戦闘要員ですぞ?戦闘要員が留守番では恰好が付きませんが…?」
フィーちゃんに『龍気』を人間に教えてはダメだと言われたクレアはする事がないから暇を持て余しているんだろう。
クレアはそう言うが留守中に館を護る者も必要なのだ。
「…クレア、良く聞いてくれ。子供達だけだと軽く見たヤツらが侵入してくるかもしれないんだよ。融真達は修練中、セーナさんは仕事、お母さんは療養中なんだ。だからクレアには俺の名代として留守中を任せたいんだ」
「…ん?みょうだい?とは何ですか?」
「俺の代わりって意味だよ。肝心な時に俺がいない場合もある。そう言う時に俺の代わりをして欲しいんだ。つまりファミリーではお前が俺に次いで二番目って事だ…」
そう言うとクレアは少し考えた後に呟く。
「…ふむ。悪くはありませんな…。しかし、いずれはわらわも戦闘に出ますからな?」
「…あぁ、解ってるよ。取り敢えず臨時の措置だと思って我慢してくれ…」
クレアがなんとか納得したようなので話を進める。
ウィルザーからは、東鳳に派遣しているエージェントについての話を聞いた。
「既に何人か送り込んでいる。太蘇領キヒダの直轄地、三地方の太守領だ。いずれも能力者だから心配はない。そっちはそっちで集中してくれ…」
その言葉に俺は頷いた。
次に融真達から食事や、その他の雑事をどうするか聞かれた。俺は商業ギルドに料理人、使用人、警備員の募集登録を出している事を話した。
するとフィーちゃんが小さな手を上げる。
「食事はしばらく、わっちが魔界から料理人を呼ぶでな?しかし料理人を雇ったら引き上げるからの…」
フィーちゃんに続いて、セーナさんが手を上げる。
「少しでしたらわたしも料理が出来ますよ。仕事の帰りに食材なども買い込んでおきますね…」
「ありがとうございます!!後で纏まったお金を渡します。それから皆にもお金を渡しておくから食材の買い出しをしておいてくれると助かる」
俺の言葉に一同、頷く。更にセーナさんが話を続ける。
「母からの提案なんですが孤児院の子達を『徒弟』として迎え入れるのはどうでしょうか?」
セーナさんによると、孤児院の子供達を迎え入れて、庭の草むしりや館の掃除などをして貰う代わりに三食寝床付きという交換条件で働いて貰うそうだ。現代日本だと子供を働かせるといろいろと問題だかここは異世界だ。まぁ、要するに江戸時代の丁稚奉公みたいなものだろう。
「庭師の方や使用人、料理人の方にそれぞれ子供達を付けおけば将来的に子供達の為にもなるかと思います」
「それは良いですね。料理人や使用人を多く雇うとその分お金がかかりますからね。ここで色々学びつつ、子供達が手に職を付ける事が出来れば孤児の子供達も将来、独り立ちも出来るかと」
リベルトの話に頷くエイム。
「わたしも賛成です。子供達が学び成長する事で個人の将来だけでなく、国の将来をも強固に出来るかと思います」
エイムに続き、ウィルザーも賛同する。
「俺も賛成だ。この世界では国だけではどうしてもカバーし切れない部分がある。孤児達の教育をする者がいればそのうち中産階級が増えるだろう。国民の能力水準を上げれば飢える者もいなくなる」
俺はうんうんと頷きながら皆の話を聞いていた。その時、抱っこしていたフラムが俺の服の袖を引っ張るとこしょこしょと話し掛けてきた。
「…あぅぁー、あぅあ、えぇう… (…パパ、はは、ねてる…) 」
そう言いつつ、クレアを指さす。俺がクレアを見ると、腕を組んでうんうんと頷いている様に見えるが…。
…スース―と寝息が聞こえた…。クレアのヤツ、寝てやがったw
コイツは話がめんどくさくなるとすぐ、うたた寝を始めるな。…まぁ良いかw
「…フラム、ハハは放っとこうなw?」
「うぅー(うん)」
俺がフラムに、こしょこしょと話した瞬間、カッと目を見開いて俺を見るクレア。
「…主、何か言いましたかな?」
「…えw?何も言ってないけどw?」
「…そうですか。なにか聞こえた気がしたのですが…気のせいか…」
そう言いつつ、再び目を閉じるクレア。コイツ、妙な勘だけは鋭いなw
取り敢えずクレアは放っといて、孤児達を徒弟として迎え入れる事に皆が賛成したので後日、孤児院を周って来てくれそうな子供達を募る事にした。
◇
翌日から俺達は事前工作の為に、俺とフラム、リベルト、エイムで東鳳へと向かった。リベルトは太蘇の各領地に転移して、太守兼将軍の離反工作に掛かった。
俺とエイムはヒスイ城下の街にある商会へと向かう。まずは商人として商工会で登録して持ち込んだ西洋酒を見せる。
受付の担当の職員に、売りに出して良いか、価格帯の設定などを確認した。それとは別に西方の国で売る為に、東鳳の米を買い取りたいと伝えて、買い取りの相場を見せて貰った。
提示された相場の金額を見てから、それより少し高い額で買い取りたいと伝える。あからさまに高く買い取り過ぎても怪しまれそうなので、まずは平均より少し高い金額から始めた。
上手くいけばもう少し高い値で買い取り、ヒスイ城内からの反応を見たい所だ。今回は様子見なので西洋酒の売りと米の買い取りはここらで止めておいた。
商工会の人から西方の物資で、東鳳で売れそうな物を教えて貰って次回持ってくると伝えて商工会を出た。
この後、城下の食堂が並ぶ通りで、昼食にする。
フラムが食べやすい、雑炊?お茶漬けか?っぽいモノを注文した。フラムに食べさせながら俺とエイムも食べてみる。
米が柔らかめだが出し汁?の旨みが美味しい。海鮮と野菜?で出汁を取って塩未を加えてるのかな?野菜や肉などの具材もしっかりと入っていて食べ応えがある。
「これはかなり美味しいですね。シンプルな味ですが出汁の旨みを感じます」
俺はフラムにゆっくり食べさせながらエイムに出汁の素材分析をこっそりと頼んだw館に戻った時に作ってみたいからですw
食後に、デザートに小さな白餅に餡子が入った大福を食べてからお店を出た。昼食の後、備戎陣営に飛んで備尚に会いに行く。
前回はビショウが情緒不安定で話にならなかったからね。
備戎の地下陣営に到着。俺達の突然の訪問に驚いていたが、落ち着いて応対してくれた。今なら冷静に話が出来るだろう。
これからの作戦と連携について話した後、ビショウ以下、備戎幹部達が俺達に見て欲しい物があると言ってきた。幹部の一人が布に包んだ『それ』を俺達に見せた。
「…これを鑑定、もしくは分析して頂きたいのです…」
布に包まれていた小さな塊を見た俺は驚きつつ、ビショウ達に話す。
「…これは…鑑定も分析する必要もないです。外の星からここに来た俺達はこれが何か知ってますからね…」
俺の言葉に、ビショウ達が驚く。その前でエイムが説明を始めた。
「これは『弾丸』ですよ。筒状の物にこれを装填し射出する武器の一種で『銃』というモノです。この武器で銃撃されると受けた部位によっては…即死します」
エイムの説明にビショウ達が顔を見合わせる。
「…正に、父上が倒れた時がそうでした。乾いた大きな音と共に突然、父上が倒れたのです。そしてそのまま、息を引き取りました…」
俺は弾丸を『龍眼』で視る。かなり微量だがスキルの残滓が残っていた。俺はエイムを見る。
「えぇ、ホワイトさんが考えている通り、これは能力者が使ったものです」
「…太蘇側にガンナー能力者がいるって事か…。気を付けた方が良さそうだな…」
弾丸の数から、鉄砲隊がいるような感じではない。コイツは暗殺系の個人能力者だな…。
「ホワイトさん、これを見て下さい。違う種類の弾丸が混ざっています。これは遠距離で狙撃も可能、近距離銃撃も出来る個人か、もしくは複数人の銃撃能力者がいると思われます。どうされますか?」
エイムに問われた俺は即答した。
「そいつは先に排除した方が良いな。作戦の妨げになる。別に能力者がいる可能性もあるし、リベルトと合流して能力者の排除を先にやろう…」
俺達の会話に若干、引き気味のビショウに伝える。
「ビショウ、待ってろよ?お前の親父さん殺したヤツを俺が始末して来てやるからな!!」
俺の言葉に、無言でうんうんと頷くビショウ。俺は備戎の面々にしばらく防衛に専念して攻撃に出ない様に伝えた。
俺はこの東鳳の件に関して、おかしいと思っていた。太蘇が何故この四勢力の中で突出する事が出来たのか?キヒダの存在だけではここまでバランスが崩れる事なんてないだろう?
キヒダ+『鬼哭』の力を考えたとしてもここまで勢力図が変わるのはかなりおかしい。
そこで出てくるのが『能力者』だ。
アマダが暗殺されてからの内戦や今までの戦闘の状況を備戎の幹部に確認したところ、やはり奇怪な能力を使う者が複数人、確認されていたようだ。
「ではリベルトさんと合流し、速やかに能力者を排除しましょう」
エイムの言葉に頷いた俺は、リベルトが今、どこにいるのか妖精達に確認する。太蘇領南部の沿岸都市『士武馬』という街の太守屋敷で交渉しているようだ。
しかし俺が転移しようとした矢先に、妖精達から不穏な情報を知らされた。
「リベルト様は士武馬の太守『燿禾』と交渉中、突然行方が分からなくなりました」
「はっ!?どうして急に行方が分からなくなってるんだ?リベルトからの救難信号は出てなかったのか?」
「現在、リベルト様からの救難要請は出ていません」
…交渉中に突然、行方不明か…。
離反工作には危険が伴う。だから俺は事前にリベルトにスキルを渡しておいたが…。
「エイム、リベルトが危険だ。場所は解かったからすぐに転移しよう」
「危険?何かありましたか?」
「…どうやら交渉中に行方不明になったらしい…」
「解りました。すぐに飛びましょう」
俺達が転移しようとした正にその時、備戎陣営の外から突然、爆発音が聞こえた。
「どうした!?何が起こってる!?」
俺の問いかけに、見張りの兵から報告を受けた備戎の幹部が答える。
「太蘇南部、士武馬領からの攻撃です!!」
俺はすぐに迎撃に出ようとしたビショウ以下、備戎幹部を止める。
「エイム。ここの防衛を頼む。敵の一般兵は適当に脅して退却させてくれ。能力者は発見次第、抹殺だ」
「解りました。すぐに掛かります」
そう言うとエイムはすぐに洞窟の外へと転移した。俺はビショウ達に外はエイムに任せて戦力の温存をしろと指示した後、フラムと共に士武馬の街へと転移した。




