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地球にも支局があった。

 翌日、手早く仕事を終わらせた俺は、一カ月後の退職願を出してから退勤した。


 向こうの世界で活動していると、こっちの仕事にまともに出られないからだ。めんどくさいヤツらも多いし全然、未練はないw


 という事で今後、地球での生活は、向こうの世界から持ち帰ったものを売って生活していく事にした。取り敢えず持ち帰った物の価値をネットで調べてみた所、結構な金額だったからねw


 退勤後、帰りに貴金属や宝飾を買い取ってくれるお店に向かう。白シャツ、ジャケット、スラックスと革靴という出で立ちで宝飾店に入った。


 豪奢なソファを勧められて座る。来る前に事前に電話していたので店員の応対も早い。俺は手袋をはめて、ビジネス用の鞄から、クロスで包んだ宝石数点と鉱石を出した。


 お店の鑑定士も手袋をはめて、小さく丸い鑑定ルーペでまずは宝石から鑑定を始める。なんかいろいろと調べた後、金額を提示された。


 鑑定士の説明によると一カラットがうん万円なので、総カラットだとこの金額になりますと言われた。


 俺はその金額を見て思わず固まってしまった。その宝石一つで俺の今までの給料の二倍の金額を簡単に超えてしまった…。


 その後、持ち込んだすべてのアイテムも鑑定して貰った後、総額を提示された。勿論、断る理由がないので売買契約をしてお店を出た…。


 俺はその提示された金額を思い出して笑みが零れた。


「…フフ、フフフッ…フフフ…ィヒヒッ…」


 結果から言うと俺が地球でおよそ持ったことのない金額になった。勿論、向こうの世界の富豪ぶりに比べれば大した金額ではないのだが…。


 しかし地球で、しかも今の日本でこれだけの金額を手に入れる事などそうそうない。この調子で行けば地球でもかなりの金持ちになれそうだw


 しかし大金を持っている事を悟られてはいけない。だって(たか)られちゃうだろうw?俺は自分で募金はするが、募金クレクレ団にはお金は出さない。


 クレクレ言われると余計に出したくなくなるんだよねwしかもクレクレ言われると本当に困ってる人達にお金が行ってるのか疑わしいからなw


 俺が大きな街にいた頃は募金詐欺団体なんてのもいたし…。気を付けるに越した事はない、うん。俺は上機嫌で山の上の自宅に帰った。



 …家に戻ると、母さんの車があった…。


 …やっぱり今日も来たか…。まぁ、その内こうなるだろう事は予想はしていたが…。玄関を開けようとすると、向こう側でフラムが台に乗って鍵を回しているのが見えた。


 フラムが鍵を開けて台を横に置いてから、俺は玄関のドアを開ける。


「あぅぁー、おあいぃー(パパー、おかえりー)」

「ただいま。ありがとな、フラム」


 そう言いつつ抱っこしてやる。早速、キッチンを指さして母さんが来ている事を教えてくれた。


「おかえりじゃの」

「おかりでしゅ」

「おかえり、今日は遅かったんな?」

「…あぁ、ちょっと寄る所があったからね…」


 そう言いつつ母さんの隣を見ると父さんがいた。


「…おぅ、元気か?」

「ぁ、あれ?父さん、入院してたんじゃなかったのか?大丈夫か?」

「…あぁ、今日退院出来たからな。母さんから話を聞いて一緒に来たんだよ。何で子供がいる事を言わんかった?」


 そう聞かれて俺は昨日、母さんとトメ婆に話したのと同じ説明をした。


「…期待させても会えないと残念だからね…」


 そう言いつつ、フラムを赤ちゃん椅子に座らせて冷蔵庫からストックしていたビールを出す。ちょっと高いが最近はクラフトビールにはまっている。


 それを出した。


「…父さん、これ、持って帰って。発泡酒じゃなくてビールだからな?味わって飲んでよw?」

「…あぁ、すまんな。けど最近あんまりな…」


 …なんだ?ビールが飲めない程、弱ってんのか…?


 よく見ると顔色が余り良くない。しかもかなり痩せている。俺はチラッと母さんを見る。俺は何となく父さんの状態が解かった。


 最近ではこっちの肉体にも向こうの世界での活動の記憶がリンクされて簡単なスキルなら使えるようになっている。


 俺はそっと『龍眼』で父さんを視た。


 …オーラと言うか生気がほとんど消え掛かっている。これは…。


「…そうか。なら元気になったらその時、飲んでくれ…」


 そう言って渡しておいた。そろそろ帰るというので玄関前まで父さんと母さんを見送る。


「…子供達は明日帰るんだ。俺も子供達と一緒にしばらく日本を離れるから…」

「…あぁ、判った。気を付けろよ?子供達に会えて良かったよ。次は嫁にも会わせてくれ…」

「…うん。連れて来るからそれまでは…元気でいてよ?」

「…あぁ、じゃあな。子供達もまた会おうな…」

「じぃちゃん、またじゃの」

「またくるでしゅ、じぃちゃん。バイバイでしゅ」

「いーぁぅ、あぃぁー(じーちゃん、ばいばいー)」


 玄関前で、車に乗って帰っていく父さんと母さんを、皆で見送った。



 ティーちゃんに鑑定結果を聞くまでもなく、俺は龍眼で父さんの状態が解かった。


 …いつかは解からないけど…たぶんその時が来るだろうな…。これは予感とかではない。龍眼で身体の中が視えたのだ。


 …思っていたより、かなり悪い状態だった…。


 家に入った俺達は、少し早い夕食の準備をしながら、話をした。


「…地球での仕事は辞めるよ。向こうの宝石や鉱石類を売れば充分裕福に生活していけるからね…」

「…うむ。これで向こうの活動に集中出来るのぅ…」


 そう言ったティーちゃんだったが、俺の心の中が読めるせいか声のトーンが低い。シーちゃんもテンションが低い。そんな中、フラムが俺の腕を、小さな手でぽんぽんする。


「…フラム、ありがとうな…」


 そう言いつつ、フラムの頭を撫でてやる。


 ティーちゃんに薬草と錬金で治療薬を作って貰おうかとも思ったが、それが効くかどうか解らない程、病状は進行していた。


 父さん本人が気付いてるかどうかは分からないが、お金の力でも、異世界の錬金薬の力でも、解決出来るレベルではないだろう。


 しかし俺はこの時、神様に会った時の事を思い出していた。あのスキルならもしかしたら…父さんを助けられるかもしれないと思った。


 翌日、仕事に出て退勤する前に、上司と残りの出勤と有給消化の調整をしてから俺は家に戻った。


 帰り際、銀行のATMに寄って、纏まったお金を引き出す。ATMから出た所で風体(ふうてい)のおかしな男とすれ違った。



 男はボロのハットを目深(まぶか)に被り、髪は白髪交じりの黒でバサバサのロングだ。年季の入った皺と無造作に伸ばした髭面が特徴的だった。


 ボロイ革の軽装とポンチョ、革のパンツにブーツを履いていて一見、浮浪者の様にも見える。


 男は腰に警棒?の様なものを下げていた。


「…お前がアンソニー・ホワイトか…?」


 すれ違いざま、男に声を掛けられて俺は振り向いた。


「…そう言うアンタは時の旅人ですかw?」


 浮浪者というか、そんな風にも感じたからねw


 俺の返しに、男が笑う。


「お前、おもしろいヤツだな?まぁ、その呼び方も間違っちぁいないがな…」


 そう言った男はハットを少しだけ上げて目を見せる。


「…全宇宙時空警備隊、天の川銀河太陽系地球支局所属のレイン・オブライトだ。お前に警告…と言うか注意に来た。少し話せるか…?」


 そう言われても知らない人とお話ししちゃいけませんって小学校の時、先生に言われた気が…。そんな事を考えていた俺はハッとなって思わず声を上げた。


「…あッ!!ぜんうちうちくうけえびたいいかッ!!」

「…オイオイ、いきなりなんだ!?」

「…ぁ、いや、違った。全宇宙…時空警備隊だったか…ゼルクの爺さんがいる組織ね…」

「ゼルク?聞いた事ねぇな?そりゃどこの隊員だ?」


 と、聞かれたので七銀河離れたとこにいる時空警備隊長官だとレインに話した。


「…そりゃ解らねぇわ。遠すぎる上に銀河ごとで組織が分かれてるからな。まぁ、それは良い。話ってのはお前が地球に持ち込んでいる宝石、鉱石類に関してだ…」

「…え?それなら協定にひっ掛かるかどうか確認して貰ってるけど?何がダメなのさ…?」


 俺は自販機でブラックコーヒーを二本買って一つレインに渡す。俺達は近くにあるベンチに座って話した。


「お前が持ち込んでいる一部の物で売ってしまうと惑星での絶対数が増えてしまう物がある。それは持ち込んでも良いが売ると惑星の価値が変わる。それが何を意味するか解るか?」

「…惑星の価値が変わる?欲深いヤツが買占めに来るとかw?」

「少し違うが似たようなもんだな。この天の川銀河の中には色々な生命体がいる。穏やかなヤツもいれば戦闘的なヤツもいる。戦闘的な星のヤツってのは大体が強欲なんだ。そして地球より文明が発展している。そういうヤツらが星の鉱石価値が変わった事を知ると…」

「…根こそぎ掘りに来る?」

「そう言う事だ。お前が持ち込んで売った少しの鉱石がヤツらを勘違いさせるんだよ。この星には資源が眠っている、ってな…」


 …そうか。そう言う事か…。


「今の地球の軍隊じゃ宇宙から来るヤツらに対抗出来ない。お前は対抗出来るか?未知の能力を持ったヤツらが大挙して押し寄せる。ヘタすりゃお前が狙われるぞ?」

「…いやー、そりゃ勘弁して欲しいな…」


 宇宙人に家を荒らされても困る。戦闘的なヤツってのは人間でも宇宙人でも人が事情を説明しても聞かないからな…。


 そんな事を考えているとレインが一枚のリストを出す。


「これをお前に渡しておく。売るモノ禁止リストだ。ここに載っているモノ以外なら売っても大丈夫だ。じゃあな…」


 そう言うとレインは起ち上がり、飲み干したコーヒーの空缶をゴミ箱に入れると何かを思い出したように振り返る。


「…そうだ。注意喚起がもう一件ある。お前、銀河間転移航行スキルを持っているだろう?」

「…ん?あぁ、持ってるけど…何でアンタが知ってんの?」

「時空警備隊が全宇宙に検知システムの網張ってるからだよ!!それよりお前、そのスキルで銀河間航行を多用するなよ?」

「…え?何でw?」


 俺の答えに溜息を吐くレイン。


「銀河、星系、惑星間、惑星内の転移は良い。それを出来るヤツが今まででいるからだ。だが銀河間を転移航行するヤツはお前が初めてなんだよ!!宇宙人に捕まってその身体弄り回されたくなかったら控えとけ(笑)!!」


 そう言って笑いながらレインは空間に消えた。


 家に戻った俺は、皆とおやつを食べながら、帰り際にレインに会った事を話した。


「まさか地球にも時空警備隊の支局があるとは知らんかったよ」

「地球の文明がまだまだ宇宙空間を飛べるまでにはなってないからのぅ。そういう組織がある事は秘密なんじゃ」

「そのおじさんと何話したんでしゅか?」


 俺はティーちゃん、シーちゃん、リーちゃん、フラムに今日のおやつのホワイトチョコチップクッキーを出して上げつつ、売るとマズイ鉱石や宝石があるという事、スキル『神幻門』を使うと危険宇宙人にキャトられる(キャトルミューティレーション)可能性がある事などを教えて貰ったと話した。 


「…あぁ、言うの忘れとったが確かに売ったらダメなヤツがあったのぅ…」

「今の所、リストに載ってる宝石、鉱石は売ってないけどね。しかしこっちに帰ってくる時に神幻門使えないのはキツイな~…」

「別に使っても良いんじゃないでしゅか?」

「えっ?何でw?」

「強い宇宙人、どんどん引き寄せて倒して行けばもっと強くなれるでしゅよ?」

「おっ、それはいい考えじゃのぅ!!」

「…全宇宙の凶悪宇宙人から狙われるんだよ?良い訳ないじゃんw!!」


 その時、リーちゃんがクッキーのホワイトチョコの部分だけを齧りながら面白い事を提案してくれた。


「『神幻門』と『(ホロウ)』を同時併用してみれば?潜行転移スキルになるかもよ?」


 フラムがクッキーを齧ってぽろぽろ欠片が零れるのを器で受けながら、俺は考えた。時空警備隊の検知システムに掛からず、宇宙人達にも気付かれなければそれに越した事はない。


 向こうに戻ったら早速、試してみるか…。

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