知らん人?来た。
王立図書館での騒ぎの後、無事セーナさんとお母さんを家に迎え入れた。妥協したと言っていたクレアは色々吹っ切れたのか平常モードに戻っている。
早く『神気』を教えろとうるさかったのだが、そもそも俺自身が神気を発現していない。しかも一度地球に戻って仕事に行かないといけない。
という事でその辺りの事情をセーナさんとお母さんに話した後、王都にある館は、クレア、融真達三人とセーナさんに任せて一度、地球の山の上の自宅に戻った。
久しぶりに仕事に出る。三日程地球に滞在し、向こうの星へ戻る予定だ。仕事が早く終わったので昼過ぎにはさっさと帰った。残業するとうるさいヤツがいるからねw
オメーだって残業しまくってるくせに十五分程、勤務時間を超えたくらいでいちいち言うなよな。管理職のヤツが言うのは解かるが、同じ立場のしかもガッツリ残業してるヤツがそれ言うのはおかしいだろう?
更におかしいのは若手の社員だ。自分は掃除すらしない癖に監査が入るってなったら掃除してくれとかどうなんだよw?
俺はお前が掃除しているとこ、一度も見た事ないけどなw?
それは置いといて、こっちの世界でも何とかお金を増やせないか考えた。地球でも金が増えれば仕事辞めてあっちの世界での活動に集中出来る。
…まぁ、どっちにしてもこき使われる現実は変わらないんですがw
そこで盗賊達を退治した時に巻き上げた貴金属や宝石類を地球に持ち込んだ。
一応、全宇宙ナントカ協定に引っ掛らないかティーちゃんに確認している。それを貴金属、宝飾品買取店へ持って行くつもりだ。ティーちゃんやシーちゃん、フラムにちゃんとご飯食べさせたいからね。
家に帰ると、丁度お昼ご飯を食べ終わったティーちゃん、シーちゃんフラムが歯磨きをしていた。
「…今日は帰ってくるのがえらい早いのぅ?」
「あぁ、仕事が早く終わったからね。無駄に職場に残っても良い事ないから…」
そう言いつつ、俺は手洗いうがい、片付けをしてから外着から部屋着に着替えてパソコンを二台、立ち上げる。
それを見たティーちゃんが早速、部屋に戻って来て座布団を三枚重ねて一台のパソコンの前に陣取る。
ティーちゃんは完全にパソコンの操作を覚えているので、オンラインになった後、すぐにゲームを起動させた。
俺も隣に座ってゲームを起動させる。シーちゃんとフラムも歯磨きを終えた後、部屋に戻ってきた。
二人は余りゲームに興味がないようで、世界の動物図鑑を持ってくると俺の傍で本を開いて見ていた。
最近、フラムは周りの人の会話を聞いて少しづつだがその響きを真似ている?ようだ。
ゲームを放置にした後、俺が横になって休んでいると、傍でシーちゃんがフラムに動物の名前を教えていた。
「フラム、これは『いぬ』でしゅ」
「いう?(いぬ?) 」
「そうでしゅ。次は…」
そう言いつつシーちゃんがページを捲る。
「これは『ねこ』でしゅ」
「えぉ?(ねこ?) 」
「そうでしゅ!!フラムはえらいでしゅ!!」
寝ころんだままチラッと二人を見る。シーちゃんに頭をなでなでして貰ってキャッキャッと喜ぶフラム。
シーちゃんの後に続いて動物達を覚えていくフラム。
「『いのしし』でしゅ」
「いのいぃえぅ?(いのししでしゅ?) 」
「『でしゅ』、は真似せんでいいでしゅ」
「『うま』」
「うぁ(うま)」
「『うさぎ』」
「うあぃ(うさぎ)」
俺には鵜飼いに聞こえたw
「『くま』」
「うぁ!!(くま!!) 」
「馬と熊がおなじじゃな…」
ゲームをしながらティーちゃんが突っ込む。
「…ティーちゃん、そこは突っ込まないで上げてw」
うまとくまは響きが似ているので同じような感じになってしまうんだと思う。しかしフラムは熊だけはよく覚えているのでその言葉に確信があった。
フラムは単純にクマキャラが好きなのだ。
幼児服を買い物に行った時に、クマがプリントされたTシャツ、帽子、アウターにやたら反応していたからね。だからあれはくまさんだよと教えた所、すぐに覚えたのだ。
引き続きシーちゃんが動物の名前を教えていた所、玄関のチャイムが鳴った。
はて、誰かいな…?
たぶんトメ婆だと思うが…。
◇
「…子供達や、おるかいの?」
その声に、フラムとシーちゃんが土間に降りて玄関の鍵を開ける。
「ばぁちゃん、こんにちはでしゅ」
「あぁーぅぁ、あぅあぁ(ばぁーちゃん、こんちわ)」
「はい、こんにちは。今日は二人だけかい?」
そう言いつつ、入って来るトメ婆。
「ばぁちゃん、こんにちはじゃ」
部屋の中のパソコンの前から、ティーちゃんが挨拶する。
「おお、ちゃんと三人おったのか。よかったわぃ。今日はお菓子のついでに人を連れて来たからのぅ…」
「だれでしゅか?」
「三人の婆ちゃんじゃ…」
トメ婆の説明の後、その後ろからもう一人、入って来た。フラムがトメ婆を見る。そして後ろから入って来たもう一人を見上げた。
「…うー…あーぅ…あぅ? (うーん…こっち、だれ?) 」
語尾が疑問形になってる。フラムの知らん人が来たな…。不思議そうに二人を見るフラム。
「この人はの、フラムちゃんの婆ちゃんじゃ」
もう一度、トメ婆を見て、もう一人の人物を見上げるフラム。
「あーぅぉ、あぁーぅぁ?(こっちも、ばぁーちゃん?) 」
「こんにちは、初めまして。フラムちゃんって言うの?パパはいる?」
そう聞かれてフラムは慌てて居間の上がり掛けまで戻ると、靴を脱いで部屋まで走ってくる。
「あぅぁ、ぃあぅいぉぃあ(パパ、しらんひときた)」
寝転んでいた俺の所まで戻って玄関を指さすフラム。俺は寝ころんだまま、脚を使ってズルズルと移動すると、部屋の扉の下から顔を出す。
「…こんにちは、トメさん…それと…あぁ、母さんか…」
「あぅぁぉー、あぁあぅ?(パパの、ぉかーさん?) 」
そう言うと再び玄関に行って母さんを見上げるフラム。じーっと見上げた後、小さな両手を上げた。
「抱っこしようか?」
「うぅー(うん)」
母さんに抱っこして貰ったフラムは、にこにこ笑って上機嫌だ。
「こんにちは、ばぁちゃん。はじめましてでしゅ」
「はじめましてじゃの。こんにちは、ばぁちゃん」
ゲームを放置にしたティーちゃんも玄関に出る。
「…おやまぁ、本当に三人も子供がおったんか…」
「だから言うたじゃろ?わたしゃまだボケとらんて…」
話しつつ、二人はティーちゃん達の案内でキッチンへと入って行く。既にリーちゃんがお茶とお菓子を用意していたので座って話し始めた。
◇
「…あき(俺の本名)、何でお前は子供がおる(いる)事を言わんかった?」
俺は、母さんに問われて茶菓子を食べながら答える。
「…うちの嫁はんが忙しくてねぇ。仕事で海外飛び回ってるから忙しい時だけ面倒見てるんだよ…」
「…海外?嫁は外国人なんか?」
「…まぁ、そうだね…。子供達も時々しか来れないし、教えても会えないからね…。なら言わん方が良いと思ったんだよ…」
いつかはこうなると思っていたので、事前に作っていた適当な話をした。
「…父さんが心配しとるで?時間のある時に子供達を会わせてやって…」
「あぁ、分かってるよ。そのうち連れて行くよ…」
とは言ったものの、フラムは大丈夫だがティーちゃんとシーちゃんは俺が育った地元の街に行くまでの魔力がまだ足りない…。
山の中から、かなりの魔力を集めているものの、まだ俺の実家に行けるまでではなかった。
魔力が足りないとティーちゃんとシーちゃんは実体化が解除されて姿が見えなくなる。それだと会いに連れて行く意味がない…。
連れて行けるのはもう少し先だろうな…。どっちにしても地球に滞在するこの三日の間では無理だ。
「…ていうか父さんも連れて来れば良かったじゃん。何で連れて来ないの?」
「…父さん、少し体調が悪いから今入院しとるんよ…」
「えぇぇっ!!何で!?病気してたのか?」
「…いや、ちょっと貧血気味で歩けんから病院に連れて行ったら入院になってなぁ…原因はよう解からんでな…」
「…そうか…近いうちにフラムだけでも連れて行くよ…」
「何でフラムちゃんだけなんよ?ティーちゃんとシーちゃんは?」
そう問われた俺は咄嗟に誤魔化した。
「…あぁ、二人は嫁はんが海外で保育園に通わせてるからね。どっちにしても明後日には子供らは帰るし…」
俺の説明にトメ婆が突っ込んできた。
「そう言えばあき、アンタも最近家におらんな(いないな)?なんでじゃ?」
「ぁ、あぁ…そ、それは…アレだよ、子供達を送るついでに俺も一緒に行ってるからだよ…」
母さんとトメ婆が疑わしそうな目で俺を見る。
「…海外ってどこの国なんよ?そんなしょっちゅう行ったり来たり出来る国なんか?」
…しまった!!母さんに問われて今、気付いた。そこ考えてなかったわw
…近すぎても遠すぎてもダメだ。どう誤魔化すか俺は考えた。
「…し、シンガポールだったかなw?そう、確かそうだったな…」
いまだ疑わしい目で俺を見る母さんとトメ婆。そこからはもう適当な嘘で誤魔化したw
「…嫁が東欧の人なんだよね。世界を飛び回ってるんだけど、本社がベルギーにあるらしくてね。将来的に子供を転校させるのは可哀そうでしょ?で、中間地点としてシンガポールが良いだろうって事で嫁が家を借りてるんだよ。日本からも行き来しやすいしね…」
何故、嫁の出身地設定を東欧にしたかって?そりゃ美人が多いからですwその後は適当に話を変えて何とか乗り切った…。と、思う…。
◇
その後、フラムが母さんを連れて家の中を案内する。キッチンから座敷に上がり、卓袱台を指さしてここでも時々、ご飯食べる。と説明する。
続いて座敷から奥に入り俺の部屋を見せる。ここはパパと姉さん達とフラムの部屋だと話す。
元々ここは母方の死んだばあちゃんの家なので母さんの実家でもあり、その昔住んでいたのだが、そんな事は言わずフラムの案内について行く。
母さんはフラムの一生懸命な説明に、うんうんと頷いて上げている。
その後、本棚が並ぶ小部屋、ミニのコタツとテレビのあるリビング、縁側、日向ぼっこ出来るテラス、縁側の奥にあるトイレ、洗面所と大きい風呂場を見せるフラム。
その後は、居間に戻って俺が買って上げたくまさんの顔と耳が付いた冬用の帽子や、クマの柄が入った小さな鞄、内側にモフモフファーが付いた幼児用アウターの洋服などを見せる。
色々と見せて説明したフラムが母さんを連れて戻ってきた。俺はフラムを抱っこして赤ちゃん椅子に座らせてやる。
「あぅぁ、あぁーぅぁぅ、いぇえぅいぁ(パパ、ばぁーちゃんに、みせてきた)」
椅子に座ったフラムは満足そうに、母さんに色々説明して来たと報告してくれたw 俺はお疲れ様と言いつつ、フラムにフルーツ牛乳を出して上げた。




