完了報告と王国の事情。
驚く、俺とアイちゃんの前で輝く光の中、今までクレアが着ていた服が消えていく。そして魔力エネルギーによって服が再構成され始めたのだが…。
眩い光の中、俺とアイちゃんはクレアの全裸に衝撃を受けた…。白くスラリとした体型に、形の良い爆乳と括れ、そして長く綺麗な脚があった。
そしてスター〇レックの転送先での、再構成を見ているように服が再構成されて行く。輝きが収まると、服が変わっていた。
「おおっ!!なんか凄いな!!」
「何々?クレアさん、それ魔法なの?」
驚く俺達に、ドヤ顔を見せながら説明してくれた。
「龍族は基本、裸でな。擬人化する時だけ魔力で服や装備を構成するのだ。まぁ、服を構成すると言っても魔力でそう見せているだけだがな!!」
そう言いつつ、高らかに笑う。まぁ、取り敢えずはこれで安心して村に入れるな…。前の服のイメージだと、露出狂を連れてるとか思われそうでコワいからなw
俺達は再び、話しながら村に向かって歩いていく。センチピード退治の後、色々あったがなんとかスラティゴに戻る事が出来た。
まずは依頼の完了報告からだな。
俺達はハンターギルドに向かう。すぐにエルカートさんが出迎えてくれた。
「…どうなった?倒したか?さっき地鳴りと激しい揺れがあったが、何か関係してるのか…?」
「…センチピードは退治出来ました…」
俺は退治の経緯を簡単に話した。
「おおっ!!やってくれたか、ありがとう!!」
両手を握られて感謝されたが、地震については黙っておいた。思い出すと冷汗が出るからな…。
エルカートさん曰く、何年も平和だった村に、突然降りかかってきた災厄を未然に防げたので、ほっとしたそうだ。凄く感謝されて、なんかくすぐったい。
「アイリス・オオヤマルとは退治途中で合流し、共闘で依頼を終わらせました」
俺の説明に、ふむふむと書類に記録していくエルカートさん。記録を書き込みつつ、エルカートさんは俺の後ろにいたアイちゃんを見て顔を曇らせた。
「…アイリス、本部ギルドから召還命令が来てるぞ?それからベルファの禅師先生からも、顔を出す様にと伝書が来ている」
「アハハッ…アイちゃん、本部から召還命令って何やらかしたのw?」
俺は軽い感じで聞いてみたが、それをスルーしたアイちゃんはスーッとその場を離れようとした。
「…アイちゃん?どこ行くんだよっ!?」
その場から逃げようとしたアイちゃんの腕を、ティーちゃんとシーちゃんがガシッッと捕まえる。
「…こらっ、どこに行く気じゃ?」
「…アイ、そこのおじさんの言う事聞かないと依頼達成記録も報酬も入らんでしゅよ?」
その通りだ。せっかく共闘して倒したのに、なぜ黙って離れようとするのか分らない。二人に腕を掴まれて、逃げられないアイちゃんは何も言わず、そっぽ向いていた。
仕方ない。話は後で聞くとして、今は報酬を受け取る事にした。報酬のお金を受け取る際に、エルカートさんから俺に話があるので残って欲しいと言う。
取り敢えず皆には、先にオープンテラスのある宿屋兼料理屋に行って食事をしてもらう事にした。
さて、エルカートさんは俺に何の話があるのか…。
◇
「すまん、待たせたな」
依頼完了報告書類を優先した事を謝りつつ、その理由を話してくれた。一刻も早く退治完了を知らせないと、討伐隊と行き違いになるからだそうだ。
討伐隊が組まれて出撃していた場合、無駄な出費になるから避けたいらしい。
エルカートさんは、依頼完了の書類を伝書鳩に取り付けて、各地に飛ばす。そして俺に奥の部屋に来るように言う。聞かれるとまずい話なのか…?
「率直に聞く。だからアンタも正直に答えて欲しい…」
「はい。何でしょうか?」
「…アイリスの事だ。アイツは本当にアンタと共闘したのか?」
…あぁ、その事か。まぁ、そこは正直に話した方が良いだろう。
「確かに、共闘してますよ」
俺は、退治の際のアイちゃんについて正直に話す。
「…うーむ。それならギリギリ共闘と言えなくもないか…。まぁ良いだろう…」
何か、奥歯にものが挟まったような言い方だ。そこで俺はエルカートさんに聞いてみた。
「さっき、あの子がギルド本部からの召還と、ベルファの禅師さんに呼ばれてるって言ってましたけど何かやらかしたんですか…?」
渋い顔をしたエルカートさんが、話をしてくれた。
昨日の時点で、目撃情報を得たエルカートさんは、すぐに王都や各街に伝書鳩を飛ばしたそうだ。それが昨日の夕方。そして今朝になって、各拠点のハンターギルドに、センチピード退治の依頼が貼り出された。
今回、SランクもAランクも退治に来れなかったのは、帝国との国境線防衛で動けなかったからだそうだ。国境線任務に呼ばれなかったのはS、Aランク中では、アイちゃんだけ…。
「…アイツが国境防衛任務に呼ばれなかったのは、いろいろ事情があるからなんだが、それは後で話すとして…」
エルカートさんが経緯を説明してくれた。
「今回、アイツがやらかしたのは本部ギルドのマスターの許可を貰う事無く、赤色依頼の紙を持ち出した事だ」
その話を聞いて、俺も耳が痛くなった。俺も正式には禅爺から許可を貰ってないからな…。
「…で、王都本部ギルドとベルファのギルド支部から伝書が届いてな。先にフリーのアンタがもう受けているから、アイリスが来たらここに留まるように伝えろ、との指示が来てたんだが…」
溜息を吐くと、エルカートさんは話を続けた。
「アイツはここに顔を出した後、アンタが向かったのを知って、ロクに俺の話も聞かずに飛び出して行ったんだ…。この時点で、もうギルド規範に二回、違反している…」
この話だと禅爺が後から正式に許可を出してくれてたらしい…。今度、謝りに行くか…。
話の続きを聞く前に、アイちゃんの事を聞いてみた。
総合的に見て、あの子は能力が偏り過ぎている。確かに、火炎魔法は凄いんだろうけど、それだけでAランクに上がれるとは思えなかった。
「ちょっと話を切って悪いんですが、アイちゃんはAランク魔導師だとか。しかし能力はかなり偏っているように感じます。どうしてあの子がAランクに上がれたのか、どうも腑に落ちないんですよ…」
俺の質問に、うんうんと頷きながらエルカートさんが答えてくれた。
「…後で話す、といった内容がまさにそれなんだ。アイツがAランクに昇格した時に、色々事情があってな…」
再び、溜息を吐きながら、エルカートさんが話してくれた。
◇
「アイリスがAランクに上がったのは、一年程前の事なんだ。当時は国境線で、かなり激しい戦いがあってな…。少しでも戦力を増やす為に積極的に各ギルドで能力者の昇級試験をやってたんだ。王からの直接の通達でもあったしな…」
エルカートさんが、お茶を啜りながら話を続ける。
「王都から北に行くと『ラチェスタ』という町があるんだが、アイリスは当時そこのギルドで活動してたんだ…。アンタも共闘したならわかるだろうが、アイツは周りの状況を見極めようとしない。そして考えなしで行動する…」
俺もお茶を啜りながら話を聞く。
「火炎魔法しか使えない魔導師でPTの連携を乱すような勝手な行動するヤツだ。当然だが、段々と周りのヤツらに相手にされなくなった…。それでアイツは、ソロで依頼を受け始めたんだが、依頼の見極めをせずに受けて、何度も失敗して救助隊を出した事もあったんだ…。それで、どんどん信用が無くなっていってな。ハンターにしろ冒険者にしろ、信用度が低いと依頼を廻してもらえないからな…」
俺は頷きながら話を聞く。
「当時、ラチェスタの町のギルドマスターが禅師先生だったから、あの人はアイリスの事を良く知ってるんだ。その後、アイリスはラチェスタを離れて各地のギルドに行っては、同じ様な事をやってな…」
…うわぁ、一番やっちゃいけないやつじゃん…。
「…暫くして、アイツはスラティゴに来たんだよ。当時のスラティゴのハンターギルドのマスターが俺の前任者なんだが、コイツがいい加減なヤツでな。アイリスについての通達文書を、ほったらかしで読んでなくて昇級試験をやっちまったんだ。アイリスは火炎魔法だけは凄い。俺も元魔導師だからわかるが、アイツは火炎系の中でも、上位魔法の『ヘルフレイム・エクスプロージョン』を使えるんだ。しかし、それを見た前任者が、諸々の条件を無視したまま、威力が凄いと言うだけでAに昇級させちまったんだよ…。…前任者はその失態ですぐに飛ばされたがな…」
エルカートさんは一旦、一呼吸置いて話を続ける。
「まぁ、当時は国境の激戦で国を挙げての能力者の発掘を奨励していたのもあるから仕方ない部分もある。しかし、通達を見ていなかったのは問題だから当然の結果だ…。しかし、アイリスはAランクに昇級はしたが、依頼の内容の見極めが出来ない。だから結局、今までと同じことの繰り返しだ…。アイツが国境任務に呼ばれなかったのは、王もアイリスの事をご存じだったし、他のSランクやAランクのヤツらも良く知ってるからな…。それでアイリスだけ外される事になった。あとは先に話した、アイリスが無許可で飛び出した話の所に繋がる…と、言う訳だ…」
…何とも言えない空気になった…。エルカートさんは渋い顔のままだ。
「ランクの取り消しとかはあるんですか?」
「どのランクであっても、規定違反や非常識な行動がみられる場合、例外なく資格剥奪になる」
ちなみに、今回の退治依頼達成を加味しても、アイちゃんの規定違反はもうギリギリらしい。あと一回、違反したらランク剥奪で三年間、ギルドでの活動が停止になるんだとか…。
あの子、その辺り知ってんのかな…。それとは別にもう一つ、エルカートさんからの話があった。
禅爺からの伝書だそうで、退治依頼が終わったら俺も早くベルファに来るように伝えてくれ、との事だった…。
まぁ、また謝りに行くつもりだけどね。俺はエルカートさんにお礼を言ってからギルドを後にした。