妥協。
いつもアクセスありがとうございます。今回で『魔界と東鳳と~編』は終わりです。次回は番外編を二回挟んで『東鳳編』に入ります。よろしくです~。
館の地下二階で鬼哭を懲らしめたティーアとシーアは、フィーアが呼んでいるという事で、門を入ってすぐの雑草だらけの庭に転移した。
「フィーよ、何かあったんかの?」
「すまんが『魔障気』の説明を頼むでな?クライは簡単に体得したんじゃが融真とギャル子の二人は上手くいかんのじゃ…」
「…上手くイメージが掴めないんだよ。説明を聞けば少しは解かるかなって思ってさ…」
融真の言葉にティーアがクライを見る。
「クライよ、ちと魔障気を使って見せてくれんかのぅ?」
ティーアに言われたクライは、今しがた体得したばかりの『魔障気』を使ってみせる。
「『魔障サイコブレード!!』」
その瞬間、黒い霧のような粒子がクライの手刀を覆い刀のような形状になった。
「…何でクライだけ出来るかね~?アタシらには向いてないのかな~…」
「…ギャル、クライの腕をよーく見るでしゅ。少し黒くなってるのが魔障気でしゅ」
「…ギャルって…まぁ良いけど…」
呟きつつシーアに言われたキャサリンがクライの腕を見る。
「アタシらもあの黒いのをイメージすれば出来んの?」
「いや、ギャルよ。アレはクライ固有の魔障気なんじゃ。本来、魔障気はそれぞれの特性に合ったものがある…」
その言葉に、融真とキャサリンが真剣な眼差しでティーアを見る。
「実践しながら説明するからの。まずはこれが普通の『火炎魔法』じゃ…」
そう言いつつ、指先に拳大の炎を灯す。
「そこに『障り』を呼び込むんじゃ。障りとは本来悪い意味で使われる事が多いんじゃが、この世界では自らの魔法やスキルに呼び込む事によってその威力を上げる…」
ティーアが炎に障りを呼び込むとその瞬間、小さな炎の中に竜巻が起こり一気に炎が巨大化して激しく回転した。
「…おおッ!!凄いな!!」
「やるじゃん!!ちびっこ!!」
「これが魔障気が込められた炎じゃ。しかし魔障気はその個人のスキル、魔法の特性によって違うんじゃ。つまり自分に合った魔障気を呼び込めなければ使う事は出来んからの。まずは自分に合った魔障気を探す事からじゃな…」
ティーアの説明の後、キャサリンがスキルでパンサー化した後、両手の爪を見る。
「…アタシに合った障り、魔障気…か~…」
呟いた後、派手なアイメイクとマスカラの付いた目を閉じる。その様子を全員が見ていると暫くして、パンサー化したキャサリンの鋭く長い爪に金銀の障りが粒子となって徐々に集まってくる。
「…お、おいッ、キャサリンッ…それって…」
融真の声にキャサリンが目を開く。
「…これ、これがアタシの魔障気…障りによってアタシの『爪』は超強力に硬質化する…」
「よくやった!!ギャルよ!!それが魔障気じゃ!!」
「なんじゃ、おんしやるのぅ?バカっぽいからおんしはぜったい出来んと思うておったでな?」
「…いや、バカっぽいって…それヒドくね…?」
「さぁ、つぎはゆうまの番でしゅ!!早くやってみるでしゅ!!」
シーアの言葉にその場にいる全員が融真を見る。
「…え(笑)?ぁ、あぁ…やってみるよ…」
同じ様に目を閉じて見たものの、融真にはいまいち自分のスキルにあったイメージが沸いて来なかった…。
◇
俺達は屋又、備戎、天登を周った後、太蘇にも向かった。今回は偵察兼、観光だ。アマルには変装して貰い、キヒダのいるヒスイ城と城下街を見て周る。
この辺りは四部族が領地を接する場所であり、紛争が無い分、活気があり行商人の姿もちらほら見える。城の構造は四層天守、櫓と曲輪が段階的に設置されている。
城の周辺は配下の屋敷で固めているようだ。
城の周囲を確認した後、フラムが興味ある方へ連れて行ってやる。髪飾りなどの小物店で、あうあう言い出したので足を止めて見せてやる。
小さく綺麗な水晶と小さな鈴が付いた飾りを欲しがったので、フラムが言うままに五個買った。お金を払って、フラムに渡してやると一つ鞄に付けた。
次にフラムは、宙に向かってあぅあぅと呼び掛ける。リーちゃんを呼び出すと、さっき買った飾りをリーちゃんの小さな鞄にも付けて上げた。
「…ぁ、フラムありがと…」
続けてフラムはあぅあぅ言いつつ、リーちゃんにもう三つ渡す。
「…ん?何…?姉さん達にも渡してくれ?うーん、それはフラムがティー様とシー様、フィー様に渡した方が良いよ?」
そう言われたフラムは、あーぅ(はーい)と言って鞄の中にしまい込んだ。その後、皆で出店や屋台など周り、アマルをパラゴニアに送った後、リベルトには引き続き東鳳での活動を頼んで俺達は館に戻った。
◇
俺達が館に戻ると、融真達三人が魔障気訓練を終えた所だった。どうやら昼食の後も続けていたらしい。フラムが三人にお土産を渡した後、融真の話を聞いた。
「俺だけ上手くいかないんだよ…」
融真が疲れた様子で話す。どうやら上手くイメージ出来ないようだ。
「取り敢えず夕食にしよう。考えるのを止めた方がイメージが沸いて来ることがあるし…」
俺の言葉に皆、賛成した。融真は納得がいかないようだが、二人が先に習得したので焦りもあるんだろう。こういう時は気持ちを切り替えた方が良い。…と思うw
フィーちゃんが魔界からシェフを呼んだタイミングで、ウィルザーとブラントが来たので、今夜も家で夕食になった。
前菜、スープと来てメインは極厚の牛肉ステーキだw
皆でステーキを食べつつ、俺はセーナさんとお母さんに家に引っ越して貰おうかと考えている事を話す。
「…ダンナ、それ奥さんにどう説明するんだ?」
「だよね~。奥様、浮気だけでもうお怒りでしたけど~(笑)」
「何だ?お前、もう女を連れ込む気か(笑)?」
「いや、そう言うんじゃなくてその人のお母さんが病気なんだよ。環境が問題みたいだからここが最適なんじゃないかなって思ってさ…」
「そうじゃの。王都ではここ以外、条件に合った所はないじゃろ」
ティーちゃんが口周りをステーキソース塗れにして言う。それをクライが綺麗に拭き拭きして上げていた。
「その方はどちらの方ですか?」
ブラントに問われたので答える。
「王立図書館の司書をやってる人なんだ」
俺の説明に、ウィルザーとブラントが目を合わせた。
「あぁ、その方なら知ってますよ。魔法適正が高く、王宮魔導師として将来を嘱望されていた方ですね…」
「ブラントはセーナさんを知ってるの?」
「えぇ、かなり魔法適正が高かったので覚えてますよ」
「確か、母親が病気で王宮魔導師試験を辞退したんだったな。しかし何故お前と王立図書館の司書が知り合いなんだ?」
ウィルザーに聞かれたので、出会いの経緯をざっくり話した。
「何だ!!お前は罰のボランティアの最中に色気付いてやがったのか(笑)!!」
「いや、たまたまそこで会って話が合ったってだけだよw」
この件に関しては誰からも反対が無かったのでその方向で進める事にした。後はお母さんとセーナさんが了承してくれるかどうかだな…。
◇
翌日、エイムはエミル達の戦闘訓練の為にブレーリンに戻った。俺達はセーナさんに家の事を話しに行く事にした。お母さんの病気の事があるのでセーナさんがいつも定時で帰る事を知っている。
その前に商業ギルドへ向かう。ウィルザーによると料理人や使用人は商業ギルドに登録しておけば募集を掛けてくれるらしい。
商業ギルドで料理人、使用人の募集を登録した後、王立図書館へ向かった。子供達と図書館で本を読みつつ、本を借りる時に家の事で話があるとセーナさんに伝えた。
俺達は仕事終わりのセーナさんを家へ送りつつ、話しをする。
「この前の新しい住居の話しなんですが…」
そう言いつつ、正直に現状を話す。
「少し忙しくなりまして、まだ探せていないんですよ」
「…そうですか。無理はしないで下さいね。充分して貰ってますから…」
恐縮するセーナさんに続きがあると話す。
「それがですね、条件に適合する場所が一つだけあるんですよ。いきなりなんですが…家に来ませんか?」
「えぇっ!?ホワイトさんの家ですか…!?」
「えぇ、先の防衛戦で褒賞として貰ったんですが、小高い丘の上で日当たりは良いし(嘘ではない)、風通しも良いし(嘘ではない)恐らくお母さんの病気には環境として最適だと思うんですよ。子供達もいますし、どうでしょう?今度時間のある時に一度どんな所か見に来ませんか?」
俺の言葉に、セーナさんが足下をちょこちょこ付てくるティーちゃんとシーちゃん、そして俺が抱っこしてるフラムを見る。
三人ともセーナさんを見てにこにこしている。それを見たセーナさんが決断した様に俺を見て頷いた。
「解りました。では一度、お伺いしてもよろしいですか?」
「えぇ、良いですよ」
「では、明後日が休みの日ですので、その日にお伺いしますね」
「はい、是非お母さんと一緒にご検討下さいw」
俺の言葉に笑いながら頭を下げると、ではまた後日お伺いしますと言ってセーナさんは家の中へと入った。
それを離れた物陰から歯噛みしながら見ている者がいた。
翌日。朝から魔障気訓練をする三人を見る。やはり、融真だけどうも上手くイメージ出来ないようだ。
『熱』のイメージという事で、オレンジや、赤をイメージするのはどうかとアドバイスをする。
お昼前にフィーちゃんが来て、三人の訓練の進捗を見る。
お昼は外で肉の鉄板焼きをするという事で、魔族のシェフが来て庭に鉄板など諸々、準備を始めた。肉が焼ける香りが辺りに漂う。
それを館の物陰から、ヨダレを垂らして見ている者がいた。
◇
お昼に鉄板焼きを食べた後、ティーちゃんが図書館で本を読みたいというので留守をフィーちゃんと融真達三人に任せて、午後から王立図書館へと向かう。
受付で本を借りて読む。俺はセーナさんが気になってどうもチラチラ見てしまう。その時突然、ティーちゃんが受付にトコトコ歩いて行った。
ティーちゃんはぴょんっと飛んで受付カウンターを掴むと、にこにこしながら顔を出す。
「セーナ、ちょっとセーナに話す事があるんじゃ」
「…ん?なぁにティーアちゃん?」
「あのな、うちのアンソニーがな、セーナのこと好きなんじゃ」
「「「「はっ!?」」」」
その瞬間、図書館の中にいる全ての人が固まる。
「ちょっ…うおぉぉぉい!!ティーちゃん、いきなり何言ってんのっ!!ぁ、いや、大きくは間違ってはいないんですけどね…あははっ、うちの子がスミマセン…」
セーナさんは受付で顔を真っ赤にしている。それを見た俺も恥ずかしくなって顔が赤くなるのを感じた。
「…うちの子はいきなり何言ってんだか…はははっ…」
「アンソニーが中々言わんから代りに言ってやったんじゃ、別におかしくはないじゃろ?」
「いや、まぁ確かにそうだけど…」
その時突然、図書館の正面ドアが勢い良く開く。
「頼もうッ!!」
そこにクレアが立っていた。
皆が固まったままの中、ツカツカと歩いて受付まで来ると、クレアが言い放つ。
「そなたがセーナか…」
「…ぇ、えぇ…」
「うむ。そなたに先に言っておく事がある!!」
「…はい、何でしょう…?」
一呼吸置いたクレアが、俺もびっくりの一言を言い放った。
「わらわが第一夫人!!そなたは第二夫人だからな!!」
「…ぁ、は、はい…」
戸惑うセーナさんの前で、俺はクレアに掴み掛かる。
「うおぉぉぉいぃぃッ!!しばらく顔見せねえと思ったらいきなり来ておかしな事言うんじゃねえェェェッ!!」
「あっははっ!!主、何をそんなに焦っておるのですかな(笑)?これでもわらわは妥協したのですぞ?」
「妥協したとかそう言う事聞いてんじゃねぇッ!!全く皆、俺を何だと思ってんだよ!!」
そう言いつつ俺は赤くなった顔のままセーナさんに謝る。
「…いや、ホントうちのヤツらがスイマセン…明日、家の案内でお迎えに行きますので…」
一旦、撤収しようとしたその時、足元から鋭く注意が飛んで来た。
「うるさいでしゅっ!!図書館では静かにするんでしゅっ!!」
その瞬間、周囲から拍手が巻き起こった。シーちゃんは受付に飛びついてモンスター図鑑を返却する。
「はいセーナ、これ返すでしゅ。今日はごめんなさいでしゅ」
「…いぇいぇ。シーアちゃんまた来てね」
続いて、済まんのうと言いつつ、ティーちゃんとフラムが本を返した。
「ティーアちゃんもフラムちゃんもまた来てね」
俺はクレアを引き摺って皆と図書館を出た…。
翌日、皆でセーナさんとお母さんに迎えに行く。館を見学して貰った後、引っ越しを決めて貰った。




