また…。
俺達が問題の物件を視ていると、超が付く馬鹿共が現れた。
「オウッ、オメーらッ!!揃いも揃って何やってやがんだッ!?」
如何にもなチンピラだ。俺は若頭を見る。
「…アレはピットブルファミリーのヤツだ。死んだ幹部の後釜に座ったヤツでフレン・チーブルってヤツだ…」
名は体を表す、と良く言うが正にそんな感じのヤツだ。ゴツイ身体に角ばった顎、鼻ベチャで目付きが悪い。
…まるでデカいフレンチブ〇ドッグだなw
そんなフレンが手下を引き連れてゾロゾロと現れた。
「オゥ、これはこれは、カネコルソのトコのブラドさんじゃねーか。こんなトコで何やってんだァ?」
「…オイッ、コラッ!!テメェッ!!この前まで三下だったくせにブラドさんに気安く話し掛けんじゃねぇッ!!」
若頭ブラドの護衛が前に出る。俺はすぐに護衛を止める。
「…おい、バカは放っておけ。マジでそれ以上前に出るな…」
俺が護衛を後ろに下げると、フレンが俺を睨んで声を荒げた。
「オイコラッ!!俺をバカって言ったオメーはどこの誰だァ、アァッ…!?」
「状況を解ってねーのに叫んでるからバカって言ったんだよ。死にたくなかったらお前もそこからすぐに離れろ!!」
フレン達が現れたのは問題の土地の向こう側、恐らくピットブルのシマの方からだ。そして今、おバカさん達は激しい怨念が渦巻く、その問題の土地にかなり接近して叫んでいた。
ティーちゃんとシーちゃんが思わず呟く。
「…あの人間、バカじゃな…」
「…そーでしゅね。あんな近くで叫んだら怨霊を刺激するでしゅ…」
俺は慌てて若頭と護衛にもっと後ろに下るように言う。椿姫にも後ろに離れて貰った。
「…死にたくなかったら下れだとッ!?オイッ、テメェッ!!どこの組のモンだァッ!?俺達ピットブルを知らねぇのかァッ!!」
…あ、あのバカ…。また叫びやがった…。
怒りを露に今にも俺に飛び掛かって来そうなフレンの背後で突然、恐怖の叫び声が上がった。
「…ギャァァァァァッ!!ァ、アァァァ…た、助けて…く、れ…」
フレンの手下、二、三人が恐怖に顔を引き攣らせたまま、怨霊の実体に頭を掴まれて魂を引き抜かれていた。
魂を引き抜かれたその瞬間、ようやくあの凄まじい怨霊が視えたのだろう。恐怖に顔を歪めながら手下の魂は、デカく禍々しい赤い怨霊に喰われてしまった…。
手下の叫びに、慌てて振り返るフレン。そのフレンの頭を掴んだ巨大な赤い怨霊がパックリと大きな口を開けて笑う。
その時、ようやく巨大な怨霊が見えたのだろう。恐怖にフレンの声が震えていた。
「…ぉ、オイ…て、テメェ…な、何だよ?お、おぉ、俺が、だ、誰だか知ってんのか…!?お、俺は、ピットブルの…」
フレンの言葉はそこで消えた。魂を引き抜かれたフレンはおぞましい巨大怨霊に頭からガブリと魂を喰われた。
…俺はそれを見てゾッとした。だって幽霊苦手なんだもんw
「…ようやく本体が現れましたね。正直、わたしでもこれはかなり危険かと思います。ホワイトさん、どうしますか?命令とあらばわたしが…」
俺の横でそう話すエイムをチラッと見た後、俺は首を横に振る。
「…巧く行くか判らんけど…あの怨霊の本体を見て思い付いた事がある。俺に任せてくれ…」
そう言って俺は頭上にあるアイテムボックスを開いて手を伸ばした。
◇
超お馬鹿さん共のお陰で、激しい怨霊の本体が姿を現した。それは良いんだが、あのバカ共が怨霊に魂を喰われたせいで怨霊が更にパワーアップしてしまった。
しかしそれによって、俺はある事を思い出す事が出来た。そして怨霊の中で苦しむ娘を助け出す方法を思い付いた。
俺はすぐにアイテムボックスを開くと、手を伸ばす。そして妖刀『鬼椿』を取り出した。
「…エイム、アレは俺が何とかするから後ろで皆を護ってくれ…」
そう言ってフラムを預ける。
「フラム、絶対にエイムから離れたらダメだぞ?良いな?」
俺の真面目な注意に、フラムはうんと頷く。
「…心配するな。すぐに終わらせて戻るからな…」
そう言いつつ、エイム、フラムと一緒にティーちゃんとシーちゃんにも後ろに下って貰う。
その直後、エイムが皆を囲む様に電磁防御フィールドを張る。それを確認した俺は鬼椿を鞘から抜いた。
俺はすぐに刀に向かって語り掛ける。
「オイ、鬼椿…いや、元々いる呪いの主。『鬼哭』と呼ばせてもらう。お前がいるのは解ってる。良く聞け。俺にはお前の存在を消す事が出来る能力がある。消されたくなかったらあの怨霊から娘の魂だけ引き抜け…」
俺の言葉に、刀は何も反応しない。
「…何だ?お前、もしかしてあの怨霊より弱いのか…?」
俺の挑発にも暫く何も反応しなかった刀が突然、その刀身から凄まじい妖気を放出する。その瞬間、椿姫が刀に呼び戻されそうになったが、エイムが張った電磁防御フィールドのお陰でその影響を遮断する事が出来た。
「…おぉっ、こりゃスゲーのが出て来たなw」
その妖気に、目の前の巨大な怨霊が反応する。その凄まじさに刀身そのものが妖気になって揺らいでいる様に見えた。俺の腕に鳥肌が起っている。
俺は再び、妖刀に語り掛ける。
「さっき言った通り、あの怨霊の中から商人の娘の魂を…」
俺が話していると急に、頭に声が響いた。
≪…人間如きがわたしに指図するでない!!お前などいつでも憑り殺す事が出来るのじゃ…≫
≪おぅ、そうか?さっき言ったが俺もお前を消す自信があるけどw?≫
密談で話している間にも、妖気が俺の腕を浸食しようとしているが、俺はそれをプラズマ闘気で止めていた。
≪…むぅ?お前…能力者か…?わたしの妖気を止めるとは…≫
≪さっき言っただろ?鬼哭、お前を消す能力があるってな…≫
鬼哭は、刀を掴んでいる俺の右腕に妖気をグイグイ押し込んでくるが、プラズマ闘気は全くそれを受け付けなかった。
≪…このッ…!!このわたしを舐めよってからにッ!!能力者とてわたしの本気には抗えぬッ!!支配せよ!!『鬼哭怨呪ッ!!』≫
鬼哭が叫ぶと、更に力を増した赤黒い妖気が迸り、俺を取り込もうと大きく拡がった。
…めんどくさいヤツだな…。
鬼哭が全く言う事を聞かないので、俺は仕方なく刀を掴んだままスキルを発動した。
「『ヴァイオレットプラズマッ!!』」
その瞬間、高電圧プラズマが一気に拡散し巨大な赤黒い妖気を打ち消した。
≪…グオォォッ!!こッ、このエネルギーはッ…!?わたしの…妖気がッ…霧散してしまうゥゥッ…!!≫
≪どうだ?俺の言う事聞く気になったか?≫
≪…なッ、なんのッ…これしきッ!!…そこの怨霊の塊を喰ってしまえばわたしの妖気は元に戻るッ…!!≫
叫んだ鬼哭が、土地に憑いている巨大怨霊に、妖気の塊となって飛んでいく。しかし、その動きはすぐに止められた。
≪これはどういう事じゃッ!?移動すら出来ぬ程、力を消されてしもうたのかッ…!?≫
飛んで行こうとして止まったままの鬼哭を視ると、水道のホースの様に黒いエネルギーが、鬼哭を捉えている。
俺が振り返ってその黒いエネルギーの元を見ると、エイムに抱っこされたフラムが、小さな左手を翳していた。
これはフィーちゃんに教えて貰った『闇の渦巻き』だ。フラムが、俺のプラズマで弱った鬼哭を闇の渦巻きで捕まえていたw
闇の渦巻きが鬼哭の妖気を、どんどん吸い取っていく。俺は笑いながら、フラムを見てグッと親指を立てた。
「フラムっ!!よくやった!!ナイスだっ!!」
「あうーっ!!」
俺が褒めたので、嬉しそうに左手をぶんぶんするフラム。ぶんぶんされて、その先で繋がっていた妖気の塊の鬼哭にも激しく揺れが伝わる。
≪…こ、コラッ!!そこなわっぱ!!ゆ、揺らすでないわッ!!うぉっ、うごぉっ、うげぇぇぇぇ…≫
…あ、なんか吐いた…w
フラムに激しくぶんぶんと揺らされるその度に、鬼哭から妖気が漏れ出し、霧散していく。
そしてついに、鬼哭が折れた。
◇
≪…わ、解かった…お前らが強いのは良く解った…≫
鬼哭は妖気が抜けてボーリング玉サイズの魂の様になっていた。
≪なら今すぐあの巨大怨霊から何とかして娘の魂だけ引き抜け!!≫
俺の命令に、暫く黙ったまま、刀の周りをフワフワと浮遊する鬼哭。そして苦々し気に声を搾り出した。
≪…ここまで妖気が漏れてはあの怨霊をどうにかするなど…無理なのじゃ…≫
≪怨霊をどうにかしろって言ってるんじゃない!!あの怨霊の中から娘の魂を引き抜けって言ってるんだよっ!!≫
俺の言葉に、暫く沈黙していた鬼哭が小さな声で呟く。
≪…お前らが…わたしをイジメるからじゃ…。妖気を失っては魂を引き抜く事すら出来ん…≫
≪それはお前が喧嘩売ってくるからだろ?アレ、何とかならないのか?≫
≪…無理じゃ…。出来んものは出来んのじゃッ!!その刀、貸してやるからお前がどうにかすればいいじゃろッ!?わたしの妖気を霧散させたエネルギーも使えば何とか出来るじゃろッ!!≫
≪お前はアホか?あのスキル使ったらプラズマが全方位に行くんだよ!!それやったらあの怨霊だけじゃなくて商人の娘まで消しちゃうだろうがっ!!しかも刀借りたって俺は剣道も剣術もやった事ねーんだよ!!全く、こんな刀でどうしろって…≫
そこまで言った俺は突然、閃いた。
そうだ、この刀にプラズマを纏わせて使ってみるか。あの巨大怨霊は商人一家の呪われた魂に引き寄せられた怨霊達の塊だ。
その怨霊を少しづつプラズマの刀で削り取って行くか!!
俺は右手にある刀にプラズマを纏わせると、左手を前に出し、人差し指と親指の間に刀の切っ先を乗せて平行に構えた。
「このア〇ウがッ!!」
刀を構えたまま、俺は巨大怨霊に向かって『神速』を使って接近すると『龍眼』で怨霊を視ながら、そのまま刀を突き出す。
「牙〇w!!」
まず一突きで怨霊一体を成敗。パクリはここまでしておいて、続いて跳躍し左から右へと刀を横に薙ぎって一体。
落下に合わせて右袈裟切りと左の袈裟切りで二体。神速で側面に周って右からの斬り上げ、左上から更に袈裟切りでどんどん怨霊を削ぎ落していく。
全周囲から、計三十八体の怨霊を削り取った所で、二体の怨霊に囚われている娘の魂を発見した。
どうやら娘を渡すまいとした両親の霊が怨霊化しているようだ。話の経緯を聞いているだけに、俺は悪霊化した両親を斬る事に躊躇した。
その時、俺の周囲を飛んでいた鬼哭が、笑いながら叫ぶ。
≪あははははッ!!早くそいつらも斬ってしまえッ!!お前のお陰でわたしも怨霊のエネルギーを少しだが吸収出来たぞ!!あははははッ!!≫
…あぁ、そう言う事か!!俺にこの刀を使わせたのはこれを狙っていたからなのか!!斬った直後の魂の残滓を吸収したって訳ね。しかし、そうは問屋が下ろしませんw
俺はすぐに浮遊する鬼哭を真っ二つに斬った。真っ二つになった片方の魂が霧散して消える。その傍で喚きながら浮遊する鬼哭。
≪…こッ、コラッ!!何故わたしを斬るのじゃッ!!あぁ…せっかく集めた魂が霧散したじゃろッ!!≫
≪…あぁ、スマン手が滑ったわw≫
…さて、両親の怨霊はどうするか…。
俺が土地に憑いている両親二人の怨霊に視線を戻すと、いつの間にやらエイムに抱っこされたフラムが来ていた。フラムが小さな左手を怨霊に翳している。俺が龍眼で視ると、どうやら『無邪気』を使っているようだ。
暗く染まった魂から悪いモノを吸い取り、小さな右掌から魔素に変換して還元していた。そして両親の魂も正常化して娘の魂も解放された。
「フラム、よくやったぞ!!」
俺が頭をなでなでしてやると、フラムが両手を上げて喜ぶ。
「お手柄じゃの、フラム」
「よくやったでしゅよ」
「フラムちゃん、凄いですね」
ティーちゃん、シーちゃん、椿姫も集まり、怨霊を沈静化させたフラムを褒める。そんな中、鬼哭だけはブツブツ言いながら浮遊していた。
(…魂が霧散したがまぁ良いわ。そのうち東鳳で戦が始まる。そうなれば死人の魂をいくらでも吸収出来るじゃろ…)
≪オイ、なんか言ったか?≫
俺の問いを無視したまま、鬼哭はスーッと刀に戻った。
良し、後は商人一家を、別の場所に移動してくれるように説得するだけだな。そう思いつつ、納刀した俺の右手に突然、鉄製の手錠が嵌められた。
「白昼堂々、刀を振り回した罪で貴殿を現行犯逮捕しますッ!!」
「…えっw?」




