三分…では終わらない錬金クッキング。
いつもアクセスありがとうございます。ちと早いですがお知らせです。年始からいきなり鼠経ヘルニアになりまして…。一月後半で入院し手術の予定です。一月第四週はお休みさせて頂くかもしれません。
予定が決まり次第、再度お知らせします。歳を取ると思い掛けず、色々出て来るもんですねw
ちなみに鼠経ヘルニアとは、腹膜が弱くなり、体内で腸が出て来る現象の様です。脚の付け根が大きく膨らんでいて、初めてなのでびっくりしましたw
そして軽く恐怖を感じました…。
俺はリビングをキョロキョロと見回す。
「あれっ?フラムどこ行った?もしかしてシーちゃんに着いて行ったのかな?」
「いえ、先程までホワイトさんの足元にいましたよ?」
セーナさんに言われて俺は足元を龍眼で視た。フラムが歩いた痕跡がある。俺はチラッとエイムを見た。
俺の視線に、エイムが笑いながら頷く。
「先程お嬢様が歩いて行かれるのを見ましたよ(笑)?」
「…いきなり居なくなったから焦っちゃったよw」
俺はフラムがどこに行ったか、すぐに解かった。お母さんの部屋に入っちゃったのか!!
俺は慌ててお母さんの部屋をノックする。ドアを開けて皆で中を見ると、ベッドの上で身体を起こしていたお母さんに抱っこして貰ったフラムが、楽しそうにお話ししていた。
「…す、すいません、お母さん。うちの子が勝手に入っちゃって…」
「いえいえ、良いのよ。こんなに可愛らしいお客さんならいつでも大歓迎よ」
そう言いつつ笑うお母さん。先程より、心なしが声に張りが出て、やつれていた顔に生気が戻ったような気がする。
「…お母さん、調子よくなったの…?顔色が良いけど…」
セーナさんも不思議そうだ。そんな俺達の前でお母さんが今しがたあった事を話してくれた。
俺達が話している間に、ドアが少し開いている事に気が付いたフラムは、部屋の中にそっと入ったようだ。ベッドによじ登ったフラムは、小さな手をお母さんの頬に当てた。
こんにちわと挨拶をして身体を起こしたお母さんの身体に触れたフラムは小さな手からボワッと柔らかい光を出した。
それからすぐに体調が良くなったそうだ。
「ホワイトさん、フラムちゃんはヒーリングが使えるんですか?」
「…いや、恐らく魔法ではなくスキルかと思います」
恐らく『無邪気』を使ったと思うが、柔らかい光を出したって言うのが気になるな…。俺はお母さんに抱っこして貰っているフラムのスキルを視た。
『ペインアブゾーブ』(苦痛吸収)。これか…。
スキル説明文を読むと、どうやらフィーちゃんに教えて貰った『闇の渦巻き』と『無邪気』の同時併用で、新しいスキルが発現したようだ…。
俺が独り言をつぶやいているとそれを聞いたセーナさんが驚く。
「こんなに小さな子がスキルを使って新しいスキルまで発現したんですか?…フラムちゃん、凄いですね…」
「…えぇ、まぁ、俺の子なんでね~wあははっ!!フラム、凄いな?」
そう言いつつ、俺はフラムの頭をナデナデしてやる。
少し元気になったとはいえ、余りお母さんの負担になってもいけないので、フラムにベッドから降りるように言う。
しかし、お母さんが大丈夫、というのでしばらくフラムを預ける事にした。
そうこうしている間に、シーちゃんが戻って来ていたので、俺達はキッチンを借りて補助の薬を作る事にした。
◇
ティーちゃんが作る薬草調合は一般の調合と違い、錬金術を使う事によってその効果を高めるそうだ。
俺は説明を聞きつつ、水を入れた鍋を火に掛ける。この世界では用途に合わせた魔石があり、魔力を込めると火を起こしたり、水を出したり出来る様になっている。
水が沸騰するまでに、シーちゃんに持って来て貰った薬草を流しで綺麗に洗う。沸騰した所で薬草をそのまま湯の中に入れて軽く茹でる。
茹で上がったら薬草を取り出して水に晒して熱を取った後、セーナさんに俎板の上で薬草をナイフで刻んで貰った。
次に刻んだ薬草を大きなすり鉢で俺がすり潰していく。そこに生姜?の様な根を刻んで入れた後、先程の薬草のゆで汁を蜂蜜と共に少しづつ加えて混ぜる。
その後、ティーちゃんが鞄から謎の小瓶を取り出すと三滴ほど垂らして混ぜたら完成した。ティーちゃんが完成した液体薬を七つの小さな小瓶に分けて入れていく。
「飲みやすい様に液状にしたからの。これを先程の煎じ薬と一緒に一日一本飲むと少し症状が改善するじゃろう」
「ティーアちゃん、ありがとう!!なんてお礼を言ったらいいか…」
「ん?これはかなり初級の錬金薬じゃからお礼を言われるほどではないんじゃ。気にせんでな?」
その後、俺はお母さんに抱っこして貰っているフラムを呼ぶ。
「それでは時々、様子を見に来ますよ。暫くボランティアで王都を周るので良い物件もチェックしてきますね」
「…本当にありがとうございます!!」
俺達は、セーナさんとお母さんに挨拶をして、家を後にした。ギャングの事務所に行く途中、ついでに施設にも顔を出す。
畑の作物の成長を確認する為だ。土壌改善とコマメな水やりでかなり育ちが良くなったようだ。シスターも嬉しそうだ。
その後、俺達はカネコルソファミリーの事務所に向かった。
◇
ギャングの事務所に到着。前回とは打って変わって対応が丁寧だ。表にいたヤツが案内してくれた。俺達はギャングのボスがいる部屋に入る。
前回派手に穴を空けた壁には板が張り付けられていた。
「…話をする前に、紹介しておく。前回はいなかったうちのファミリーだ。うちは子供達も尋常じゃないから行動には気を付けてくれ…」
子供達に続いてエイムの紹介もする。
「うちの護衛だ。家族に手を出すとエイムがお前らをこの世から抹殺するから覚えておけ」
俺の紹介に、ギャングの面々に目礼するエイム。その口元に薄笑いを浮かべていたせいか、ギャングの構成員達の顔が引き攣っていた。
「先日話をした立ち退き料と更の土地、建設費諸々の進捗を確認に来た。今どうなってる?」
俺達は勧められたソファに座り、若頭とその手下に確認を取る。
「…昨日の今日でそんなに物事は動かない。一応、代替地の候補と立ち退き料の金額は用意した。確認してくれ…」
俺は提示された新しい土地の候補のいくつかを見る。教会にしろ児童施設にしろ、裏路地も良くないが、繁華街過ぎても良くないような気がするよな…。
俺はいくつかの候補の中から、裏路地から外れて商業街から離れた静かで日当たりの良さそうな場所を選ぶ。
「出来ればこの後、案内してくれるヤツがいると助かる。一度この目で確かめておきたい…」
「…あぁ、それは良いんだが…」
男達は顔を見合わせて何か言いにくそうな表情を見せる。
「…何か土地に問題でもあるのか?」
「あぁ、ちょっとした問題がある。アンタが信じるかどうか解らないが…」
若頭を始め、男達が良い澱む。俺は冗談でカマを掛けてみた。
「…その土地、地縛霊でもいるのかw?」
俺の言葉に、男達の表情が強張る。冗談のつもりだったが、どうやら本当にユーレイさんが憑いていたようだ…。
「元々、そこは商人の店舗兼住居だったんだが、数年前にピットブルファミリーに嵌められてその家族は家と土地で死んだんだ…」
一旦、言葉を止める若頭。
「商人一家はどうしてその土地で死んだ?本当は死んだんじゃなくて嵌めたギャングに殺されたんじゃないのか…?」
「…いや、死んだんだよ。借金追わされてそのカタに娘を連れて行かれそうになった主人と嫁が準備していた呪いを発動させたんだ。それでギャングの構成員諸共、一家全員大爆発して死んだ…。それから数日して建物を撤去しようとした所、作業員が怪死、関わったピットブルの幹部以下構成員は全員、発狂して死んだ…」
「…そんな土地をどうしてここの組が持ってる?」
「あぁ、ピットブルが手に負えないって言うんで、格安でうちに周ってきたんだよ…」
話をする若頭の顔色が悪い。思ったよりも結構えぐい話だな…。
「…その怪死現象は死んだ幽霊の仕業なのか?呪いが原因って事もあり得そうだがな…」
「…良くは分かっていないんだが、とにかくその土地に関わった者は全員、もれなく怪死してる…」
若頭のその言葉に、俺は考えた。他の土地の候補も目を通したが、裏路地にあったり、繁華街にあったりといい条件の土地は他にない。
俺はチラッとティーちゃんを見る。
≪取り敢えず一度、見に行けば良いじゃろ?≫
≪うん。そのつもりだけど…。呪いだと浄化すれば何とか行けるかな?地縛霊だとどうする?動いてくれるかな~?≫
≪土地に憑いている地縛霊は執着を失くして上げればいいんでしゅ!!納得すれば別の場所に行ってくれましゅよ?≫
≪えっw?そんなに簡単にどっか行ってくれるのw?≫
≪…納得すれば、じゃからの。これがなかなか難しいんじゃ。土地や家に憑いている霊は執着が強いからのぅ…≫
まぁ取り敢えず行って地縛霊の話を聞いてみるか…。
俺は立ち退き料の金額を確認した後、これから呪われた土地を見に行く為に、案内人を付けてくれるように頼む。
「これからその土地を見に行きたい。怨念か呪いが知らんが飛んで来たら俺達が何とかするから一人、案内を付けてくれ…」
俺がそう言うと、無言のまま若頭が構成員を見回す。全員、下を向いたり視線を逸らしている。
「…仕方ない。お前らが行きたくないってんなら俺が案内する」
若頭がそう言った途端、構成員が騒めき始めた。
「…若ッ!!あそこはヤバいですって…最近入ったメーゲルを行かせましょう!!」
「その通りですぜ?ピットブルのヤツらが死んだのを見たでしょう?若が死んだらこの組は終わりです!!」
騒ぐヤツらを手で制する若頭。
「…お前ら騒ぐな!!この人達がヤバいのを承知で見に行くって言ってんだ!!俺が男見せないでどうすんだ!!」
その一言で暫く考えるチンピラ共。しかしあれだけ尻込みしていたのに、今度は若頭の『男気』に感化されたのか、俺も行きます!!と全員が名乗りを上げ始めた。
…コイツら人間として軸がブレブレだなw!!
「…まぁ落ち着けよ。お前らの男気は解った。けどな、あんまり多いと護り切れない可能性が出て来る。だから若頭とその護衛で二人だけにしてくれ」
俺の言葉に話し合ったチンピラ達は散々、揉めた挙句に何とか一人を選出した。そして俺達は、ようやく問題の呪われた土地を見に行く事になった。
◇
「…うわっ、こりゃかなりヤバいヤツだな…」
それを見た俺は思わず呟いた。案内の為に前を歩いていた若頭と護衛をすぐに止める。
「…そこで止まった方が良い。それ以上前に行くなよ?それからゆっくり後ろに下がるんだ…」
俺の言葉に顔を緊張で強張らせて頷いた若頭と護衛がゆっくりと俺の後ろに下る。
「…かなりヤバいってアンタは視えてるのか?」
若頭の問いに俺は静かに頷く。あまり大きな声を出したり、激しい動きはしない方が良いだろう。刺激するとすぐにでも怨霊がこっちに飛んできそうだ。
俺達が視ていたのは、完全に怨霊の塊になっていた元商人の家族の姿だった。
「これはかなりヤバいでしゅね。聞く耳持たんでしゅよ…」
「…じゃな。恐らく強い恨みが怨霊となって数々の悪い霊を呼び寄せて更に恨みの念が強くなっておるのぅ…」
ティーちゃんとシーちゃんの見解に、若頭と護衛も顔を蒼褪めさせている。その時、怨霊の状態を確認していたエイムが口を開く。
「…これは呪いも絡んでいますよ。呪いと念が絡み合い、かなり厄介な事になってますよ。ホワイトさん、どうしますか?」
考える俺を全員がじっと見ている。
「…ここまで来たら…もう消滅させるしかないか…?」
俺が呟くようにそう言ったその時、突然椿姫が出て来た。
≪待って下さい!!あの怨念の中に、若い娘さんの霊が囚われています!!何とかなりませんか!?≫
突然現れて、娘の霊を何とか助けるように言う椿姫に、ティーちゃんとシーちゃんが難色を見せる。
≪…姫よ、アレはもう無理じゃ…≫
≪そーでしゅね、あそこまで来るともう手が出せんのでしゅよ…≫
二人の言葉に項垂れる椿姫。椿姫がゆっくりと顔を上げて俺を見る。…俺に何とかしろって事ですか…w?
しかし目の前の凄まじい怨霊を見るとどうして良いのか全く分からない。なんせその土地から怨念が真っ赤になって十メートル程上昇しているのだ。
しかも普通の人間には聞こえないが、恨みや妬み呪いの念が渦巻き、地獄の底から響くような絶叫を上げている。
こんなのどうにもならんよ…。椿姫には悪いが消滅させるしか…。そう言いかけた時、超が付くおバカさん達がゾロゾロと現れた。




