病気。
明けましておめでとうございます。昨年は多くのアクセスありがとうございました。本年もよろしくお願いします。
俺達がボランティアついでにギャングの事務所に向かってていると、少し離れた先の道をセーナさんが歩いているのが見えた。
憂鬱そうで何か考え込んでいる感じだ。俺はそんなセーナさんに声を掛ける。
「こんにちは。セーナさん」
「…あ、ホワイトさん…」
「元気なさそうですけど、何かありましたか?」
「…はい、その…母の容体が悪くなってしまって…」
「あぁ、そうでしたか。これからどこかへ行かれるんですか?」
「これから母のお薬を貰いに、街のお医者様の所に行こうかと…」
「…そうですか。俺も同じ方向に行くんでご一緒しても良いですか?」
これから向かう場所と完全に逆方向だったが、口から出まかせで付いて行く事にした。お母さんの病気とやらが気になるからだ。
「…ぇ、えぇ。どうぞ…」
俺はフラムを抱っこして、セーナさんと並んで歩く。いつもならすぐに突っ込んで来そうなティーちゃんとリーちゃんが何も言わない。
エイムも何か言いそうな気がしていたが皆、俺に気を使っているのか何も言わず、俺の後ろを付いて歩いている。
「突然で失礼なんですが、お母様のご病気はどんな症状なのですか?良ければ聞かせて貰えませんか?」
「ホワイトさんはご病気にも詳しいんですか?」
「えぇ、まぁ。病院で働いていた事もありまして…」
これは嘘ではない。街で働いている時に確かに中央材料室で事務でバイトしてたことがあるからだ。
どうやら咳が止まらず、胸の辺りの苦さと痛み。時々、熱も出す事があるそうだ。咳、胸の苦しみと痛み、それと熱か…。
俺はティーちゃんとエイムを見る。
「お薬を貰った後、お家に伺っても良いですか?部屋に入るのはわたしと鑑定を持ってるティーちゃん、それからエイムに生体機能を確認して貰えば何か分かるかもしれません」
「…え、えぇ、良いですよ?しかし長屋で部屋が狭いのでホワイトさん達が感染する恐れもありますが…よろしいのでしょうか?」
「えぇ、良いですよ?うちの家族は、免疫が強いので…まぁ、油断は出来ませんが…。恐らく大丈夫です…」
「はい、どうかよろしくお願いします!!」
俺の方に向いて頭を下げるセーナさん。
「いえいえ、そんな畏まらないで下さい。ちょっと気になったもので。俺で役に立てればいいかな~なんて、あははっ…」
照れる俺に、ようやく笑顔を見せるセーナさん。うん、やっぱりこの人は笑ってるのが一番いいね。 そんな事を考えていると俺の傍をリーちゃんが笑いながら飛ぶ。
≪…フフ、アンソニー、必死だねー≫
≪そりゃ勿論だよ。ていうかコレ浮気じゃないからね?クレアには何も言わないでよ?≫
≪え~、どうしよっかな~?≫
そんな事を言いながら俺の周りを、意味深に笑いながら飛び回るリーちゃん。俺はすぐに抱っこしていたフラムをリーちゃんにさっと近づけた。
フラムはすぐ目の前にリーちゃんが来たので、すぐに抱っこしてやろうと小さな両腕を伸ばす。
≪…うおっとぉ、あぶなっ…≫
≪…あっ、惜しかったなー、フラム≫
「あぁ、うぅ~」
急接近したフラムの両腕から、間一髪で逃れたリーちゃんは、慌ててティーちゃんの方に退避した。リーちゃんを抱っこし損ねたフラムは残念そうだ。
そんな遣り取りを見たセーナさんが笑っていた。
「…ふふっ、楽しそうですね?」
「…アレっw?セーナさん、リーちゃんが視えてます?」
「えぇ、最初にお会いした時から視えてましたよ(笑)?わたし魔力適性が結構高いんですよ。若い頃は魔導学校にも通っていましたから…」
「へぇ、そうなんですか。ってセーナさんは今でも若いでしょうw?」
俺が笑って聞くとセーナさんは笑いながらもう若くないですよと言う。失礼だったが思わず年齢を聞いてしまった。
「もう34歳になりまして、ふふっ…」
「ええぇぇーっ、全然そんな風に見えませんよっ!?てっきり20代後半かと…。ぁ、そう言うつもりで近づいてる訳じゃないですよ?ただ、本当にそんな風に見えなかったもので…」
「フフっ、ありがとうございます。そう言って頂けると嬉しいですね」
焦って弁解する俺を見て、セーナさんは穏やかに笑っていた。
◇
薬を貰って帰途に就く俺達。その道すがらお医者さんから貰った薬を見せて貰う。
「失礼なんですがそのお薬、見せて貰っても良いですか?」
「はい、良いですけど、何か気になる事があるのですか?」
「えぇ、お薬によっては症状と成分が合っていないと効かないというのもありますからね…」
そう言いつつ、俺は『鑑定』を持っていないのでティーちゃんに視て貰う。ついでにエイムにも確認して貰った。
「…特に変わった成分はないがのぅ…。まずは症状を診んと薬が合うか解らんじゃろ?」
あぁ、確かにそうだな…順番、逆だったわw
「これは煎じ薬ですね。症状が軽いと効くのですが、別の症状を併発していると効かない場合もあります」
エイムの説明に俺はふと漢方を思い出した。煎じ薬か。漢方に近いのかな…?確かに症状が強いと優しい薬では効かない場合があるな…。
「ホワイトさん、どうでしょう?そのお薬では母の病気には効かないのでしょうか…?」
「…スイマセン、順番が逆でした。一度、お母様の症状を診させて頂いてから、お薬の効果があるか見てみましょう」
「…えぇ、是非、お願いします」
セーナさんの言葉に俺達は頷いた。
セーナさんとお母さんが住んでいるという集合住宅?的な家へ戻る。大きさ的には2LDK程で、リビングとダイニングキッチン、お母さんの部屋とセーナさんの部屋といった感じだ。
セーナさんは狭いと言っていたが、日本人の俺にはそんなに狭く感じない。
「ただいま。お母さん、お薬貰って来たよ」
セーナさんに続いて、俺達も入る。
「お邪魔します~」
取り敢えずシーちゃんとフラムにはリビングで待って貰う。セーナさんにソファを勧められた二人はソファに上がり、出して貰ったお菓子を食べながら、お茶を飲む。
セーナさんがドアをノックしてお母さんの部屋に入る。続いて俺とティーちゃん、エイムも入った。
「お母さん、調子どう?この前話したご飯とスープ作って頂いた方が病気にも詳しいって事で来て頂いたの?症状を一度見たいって…」
セーナさんの言葉にお母さんがベッドの上で身体を起こす。
「こんにちは。失礼します。わたしはアンソニー・ホワイトという者です。セーナさんとはボランティアで会いまして…」
俺の自己紹介に続き、ティーちゃんとエイムも紹介する。
「いらっしゃい。この前はご飯とスープを美味しく頂きました。ありがとう…」
時折、咳をしながら苦しそうに話すお母さん。かなりやつれて顔色が悪い。
「…ぁ、無理なさらないで下さい。今日はうちの子の鑑定で症状の確認とうちの護衛が生体機能で健康チェックしますので…」
そう言ってから、セーナさんに用意して貰った椅子にティーちゃんを座らせる。しばらくじっとお母さんを見ていたティーちゃんがふむ、と唸った。
そして部屋をぐるりと見渡すと、再びお母さんを見た。
「…どう?ティーアちゃん。何か分かった?」
「…臓器が一部、炎症を起こしておる様じゃの…それで熱を併発しておるんじゃな。お医者さんで貰ってきた薬は有効ではあるんじゃが、炎症の方が強いんじゃ。だから一進一退を繰り返して病気が長引いているという感じじゃな…」
そこで一旦、お母さんの症状への負担を考えて、皆で部屋の外に出る。リビングで待っていたシーちゃんとフラムがソファから降りて駆け寄ってきた。
「あねさま、どうだったでしゅか?」
「うむ、症状は解かった。しかし環境なども絡んでお薬の効き目が弱まっている状態なんじゃ…」
「…という事はもっと強い薬でないと効かないって事かしら?」
セーナさんに問われたティーちゃんが答える。
「確かに、薬の効果が強ければ治るんじゃがお母さんの体力の問題もあるからの。余り強い薬はお勧めできんのぅ…」
その言葉に俯くセーナさん。
「しかし解決方法が無い訳ではないんじゃ」
「どうすれば解決出来るの?」
ティーちゃんの言葉に顔を上げるセーナさん。どう説明するか考えているティーちゃんに代わってエイムが説明を始めた。
「…先程、ティーアお嬢様が部屋と窓の外を見ていたのはお母さんの症状に、恐らく環境の問題も関連するからなのです。薬は効いているが臓器の炎症を抑え切れていないのは、この家の立地、住居周辺の環境などが関連しています」
エイムの言葉に頷くティーちゃん。
「そうなんじゃ。だから環境を変えるのが一番良いんじゃが、だからと言って急に引っ越しは無理じゃろ?」
ティーちゃんの説明に頷くセーナさん。
「じゃからそのお薬の効果を少しだけ上げる補助的な薬草を調合してみる。今度からそれと一緒にお薬を飲むと良いじゃろう…」
「ティーアちゃん、ありがとう!!でもその補助の薬草、高いんじゃ…」
「いや、高くはないんじゃ。結構、森で育っておるヤツじゃからの。ただし、あくまでも対症療法じゃから、環境の事も追々考えた方が良いじゃろう…」
ティーちゃんの言葉に、セーナさんはホッとした表情だ。その足元でティーちゃんがシーちゃんに指示を出す。
「咳を抑えて、喉、肺の炎症を鎮めるやつじゃ」
「その薬草ならAの裏側の棚、三段目の奥から二つ目にあるやつでしゅ」
「そうじゃ。それを一束、ざっと一週間分、持ってくるんじゃ」
「あい、わかったでしゅ!!」
そう言うとシーちゃんはすぐに転移で消えた。恐らく世界樹の保管部屋に目的の薬草を取りに戻ったんだろう。
その間に、セーナさんに環境の事について聞かれたので答える。
「恐らくですがその症状だと日当たりと風通しが良い、静かな場所が良いのかな?」
そう言いつつ、俺はティーちゃんとエイムを見る。
「そうじゃな。空気が少しでも綺麗な所が良いじゃろう」
「静養出来るような場所があればそこが一番いいかと思いますよ?」
ふむふむと頷くセーナさん。しかしその表情は暗い。
「王都にそんな場所があれば良いんですが…」
「問題はそこなんじゃ。この大きな都市でそんな条件に適合する場所があるかどうかじゃな…」
俺達は話をしていて、ふとフラムがいない事に気が付いた。
「あれっ?フラム、どこ行った?」