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レイソル・ウィルザー。

 東鳳について話し合っていると、三人がお前も何か案を出せと言わんばかりに俺を見た。俺の中で覚えている事前工作と言えばあの武将の策だな。


 人物伝の本も持っているから印象に残ってたのだ。


「それなら俺にも案があるよ。日本の昔の武将が使ってた策だけどね」

「…ほぅ、期待して良いんだろうな(笑)?」


 ウィルザーに言われて頷く。


「あぁ、俺はそれを読んだ時に鳥肌が立ったからねw」


 因みに俺は、日本の戦国期のみならず、歴史が好きなのでそういう印象に残る策は結構覚えている。


 古代〇国の趙奢とかね。


 まぁ、それは置いといて、俺が思い出したのは黒田官〇衛が鳥〇城攻めの前にやったあの策だ。大河ドラマを見ていなかったのでこのシーンが描かれていたかは俺は知りませんがw


「その武将は城攻めの前に商人に扮してその領地に紛れ込んだ後、城下町で大量の米を高額で買い取ったんだよ。その後、面白い事が起こったんだ」

「…で、どう面白くなったんだ?」

「城下町でその話を聞いた城内の兵士が高く買ってくれるって聞いてその商人に扮した武将に城内のほとんどの米を売ったんだよ。その後、暫くしてその武将は当時の主君であった大将とその城に攻め込んだ」


 ここまでの話で流石に三人とも、気付いたようだ。


「…で、そこに守将として赴任した敵将は城の中の惨状を見て嘆いたらしい。そりゃそうだ。これから戦、しかも籠城戦だよ?米がほとんどない状態だからね。その後、理由を聞いたその敵将は激怒したとかしなかったとか…w」

「それは事前に巧妙に仕掛けられた罠ですね。かなり面白い策ですよ」


 リベルトは元軍人だけあって、この策に興味がある様だ。しかしウィルザーが難色を示した。


「その策は事前工作としては良いが誰が高価な値で米を買い取るんだ?金がなければ成立しない策だぞ?」

「あぁ、そこはご心配なく。俺が仕掛けるよ。こっちの世界に飛ばされた時に金が無尽蔵に付いて来たからねw」


 付いて来たというか、ゲーム内の全ての金を神様がこっちに移してくれたんだよねwしかもレートの関係でこの世界じゃ超大富豪ですよw


「…それは本当か!?お前かなり恵まれてるな!!俺はかなり悲惨だったぞ?」


 まぁ、そこは神様が関わってるからねwこの世界に飛ばされたって言ったけど正確には『神様の招聘を受けて転移して来た』だからw


「取り敢えず、エイムの案と俺のは一緒にやって来るよ。良い酒を安く大量に、そして城下町から米の買い取りを始めて城内の兵士が乗ってくれば根こそぎ買い取って来るわw」


 まぁ、そこまで上手く行くか分からんけど、やってみる価値はあるよな。という事で、東鳳での作戦と事前工作の話が終わった所で丁度、子供達が戻ってきた。



「魔皇城程ではないんじゃが広かったでな~」

「そうじゃ、三階から上だけでかなりの部屋があったんじゃっ!!」

「広すぎる上に部屋いっぱいでしゅ!!」

「あぅあぅ~っ」


 子供達は広い屋敷の部屋を見て周って興奮していた。三人と一緒に屋敷の中を見て周ってきたフラムが、てててっと走り寄ってきたので抱っこする。


「フラム、どうだった?これからこの家はパパとフラムと皆の家になるからな」


 俺がフラムに話しているとウィルザーが上の部屋について教えてくれた。


「二階から上は全て居住部屋だ。中央の階段で西側と東側に別れていて、北と南に三部屋づつあるんだ。だから一フロアで十二部屋、だから三階と四階だけで二十四部屋だな(笑)」

「さすが元公爵の屋敷ともなると部屋数が桁違いですね」


 リベルトの言葉にエイムも頷く。


「取り敢えず夕食はまだかの?わっちお腹減ったでな?」

「そうじゃ、屋敷を見て周っておったらお腹が減ったのぅ…」

「お腹空いたでしゅ」

「えっw?パラゴニアで鮨食べたじゃんw?まだ食べる気なのw?」

「アレは三時のおやつ的な軽食でな?夕食ではないじゃろ?」


 フィーちゃんはそう言うけどキミ達、魔界で俺を置き去りにしておやつ食べに行ってたよねw?


 …とは口が裂けても言えないwしかしこの屋敷にはまた来たばかりで料理道具はおろか食料すら用意していない。


 その時、抱っこしていたフラムのお腹がぐぅ~っと鳴った。


「フラムもお腹空いたのかw?」

「うーっ(うん)」


 …そうか、仕方ないな…。


「皆で料理屋にでも行こうか?」


 俺がそう言うと、ウィルザーが待ったを掛けた。


「待て。その辺りは大丈夫だ。ちゃんと王宮のシェフを呼んで厨房で用意させてるからな」

「えっw?マジで!?」

「あぁ、魔界に行く前に手配をしておいたんだよ。お前が魔界に転移する前に俺が話していた事を覚えているか?」

「…えーと、何だっけw?」

「俺も能力者で『神の使徒』を知っているって話だよ!!それを後で話すって言っただろう?」

「…あ、あぁ、そうだったな。じゃあ皆で食事しながら話を聞こうか?」

「それはいい案でな?王宮の料理か…ふふふっ、楽しみじゃのぅ…」


 ウィルザーが夕食の準備を手配していてくれたのでそれに甘える事にしたw



 屋敷に入って右側、応接室の向かいに食事の為の部屋があり、ここも西洋と同じで縦に長ーい部屋だ。


 そこに長ーい豪奢なテーブルと椅子があった。既に料理は準備されていてテーブルに所狭しと並べられていた。部屋の北側に厨房があり、そこでシェフと見習いと思われる人達が料理を作り終わり、片付けに入っていた。


 テーブルを見るとちゃんとワインも冷やして置いてある。上座にウィルザーに座って貰い、俺、リベルト、エイムと席次順に座った。


「酒も用意したが飲み過ぎるなよ(笑)?また懲罰が増えるからな(笑)?」


 ウィルザーの忠告に俺は苦笑いだ。それを見たリベルトとエイムも笑っていた。


 子供達の方はシェフがきちんと気を利かせて、子供達用の夕食も作ってくれていた。フィーちゃんが匂いに釣られて目を輝かせ、一番に駆けていく。


「肉じゃっ、肉じゃっ!!うほほ~っ」


 椅子に座った子供達は召使いに前掛けを付けて貰うと、ナイフとフォークで料理を食べ始めた。


 俺はそれを見て慌てて注意する。


「皆、ちゃんとウィルザーにお礼言って、『頂きます』をしてから食べてよ!!お行儀が悪いでしょw!!」

「まぁ、そう言ってやるな。まだ子供だろう?」


 俺の注意に、一旦食べるのを止めたティーちゃん、シーちゃん、フィーちゃんがウィルザーを見てお礼を言う。そして再び、もしゃもしゃと凄い勢いで食べ始めた。


「肉じゃ肉じゃ!!旨いでな~」

「…フィーよ、ちゃんと魚も食べんといかんじゃろ?」


 そんな子供達の遣り取りを見て召使い達が笑っている。俺とフラムもウィルザーにお礼を言ってから、食事を始めた。


 俺はフラムを横に座らせて子供用の料理を食べさせる。リベルト、エイムもお礼を言った後、食事をしながらウィルザーの話を聞く事にした。



 召喚によってこの世界に来たウィルザーは最初、帝国に降り立ったそうだ。


 その時、帝国の魔導師と話す『神の使徒』教皇代理アルギスを知ったそうだ。帝国に滞在し、能力者の選別をしていたアルギスは『器』として使えそうな者を探していたようだ。


 召喚された直後に、複数のスキルを発現したウィルザーは、スキルを隠すスキル『コンシール』で見られては困るスキルをすぐに隠した。


 その一つが『ロード・オブ・キング』だ。


 このスキルは本人の意思に関わらず、その個人を最高権力者まで導くという、ウィルザー本人も疑っていた眉唾(まゆつば)スキルだったそうだ。


 しかし、見られてしまうと真っ先に殺されるだろうと考えた。


 しかし能力の全くない者は奴隷として強制労働に送られてしまうと聞いたウィルザーは、無難な『剣技+5』のみを表示して最初の難を逃れた。


 閉塞感の漂う帝国での社会に不満はあったが、当時召喚されたばかりで、能力を発現していたウィルザーは帝国軍の特殊兵として軍の編成に組み込まれていた為に亡命が容易ではなかった。


 帝国で配給される少しの食糧と、何かあればすぐにでも戦闘に駆り出される、軍事にかまけて余りにも国民を顧みない帝政に、ウィルザーは早々に見切りを付けたようだ。


 そんな毎日に嫌気が差した頃、能力を使って帝国の食料倉庫に潜り込んでは密かに食料を持ち出し、居住区の住民に分け与えた。


 暫くして食料を持ち出したのが発覚したウィルザーは横領の罪で鞭打ち百回の刑と三ヵ月の牢獄生活を送った。


 街の住民はやせ細り、死んだような目で街を歩いているというのに、食糧を搾り上げては大量に貯め込んでいく。将兵以上の者達は自由に食べる癖に街の住民には決まった量しか出さない。


 どこの世界のヤツらも同じだ。


 当初から帝国に見切りを付けていたウィルザーは牢獄生活三ヵ月の間に、亡命計画を立てた。


 出獄後、ウィルザーは積極的に戦闘に参加し、十人長まで地位を上げた。配下に就く十人も、自らが面談し指名して組み込んだ。


 その頃、西のエニルディン王国と停戦していた帝国だったが、神の使徒とエレボロス教皇領の後援を受けた帝国が戦争の準備を始める。


 ウィルザーはその機会を逃さなかった。エニルディンとの戦争に十人長として志願し、従軍した。そしてエニルディン王国、ルアンブール領に侵入したウィルザーはそこで初めて十人の部下に亡命を伝える。


 驚き、戸惑う十人の配下達だったが、決断するとウィルザーと共にルアンブール兵に投降して亡命を願い出た。その時、遭遇したルアンブール守備兵が、同じく召喚者だったテンダー卿だったそうだ。


 その話を聞いて、巡り合わせって面白いもんだなと思った。


 ちなみに帝国からウィルザーに付き従って来たその十人の配下が、王国の『影』、つまりエージェント組織を構成してるらしい。


 話を聞き終えた俺達は、何と言って良いのか解らない微妙な空気に沈黙していた。


「…暗い話でスマンな。まぁ、そこからは禅師のジジイと逸鉄に会ったりして中々面白かったぞ(笑)?しかしスキルに誘導されて王になれたのか、それとも俺自身の実力でここまでこれたのか、それは今でも解らんな(笑)」


 そう言ってワインを煽り、笑うウィルザー。


 しかしスキルを持つ個人を王に導くってそんなスキルあるんだな…。でもまぁ、漫画とか小説とかに出てきそうではあるよなw


「人の巡り合わせは面白いもんだ。最初こそは帝国にいて(しすぶ)っていたがな。結果良ければすべて良し、だな」


 ウィルザーがワインを飲みつつ、俺を見て話を続ける。


「しかし、あの時見た教皇代理アルギスをお前が一度死に追いやるとはな。ホワイト、お前は俺以上に恐ろしいヤツだよ(笑)」

「いや、正確には止めを刺したのはそこのちびっこなんだよw」


 そう言って俺はフィーちゃんを見る。


「あ、言うの忘れておったでな?わっち、魔皇なんじゃ。よろしく頼む」


 そんなフィーちゃんを見て笑うウィルザー。


「既にスキルで視えているから知ってたよ(笑)。世の中、恐ろしいヤツが結構いるもんだな(笑)」


 そう言って笑いながら、俺達は夕食を楽しんだ。



 翌朝、再びボランティアを再開する。今回はエイムも加わって五人で王都を周っている。フィーちゃんは夕食の後、デザートを食べてからすぐに魔界へ戻った。戻らないと美濃さんがうるさいらしいw


 リベルトには引き続き、東鳳に向かって貰った。


 俺達はボランティアついでに地上げに遭っていた教会と児童施設にも顔を出して、新しい代替地などが決まっているか確認する。


 ギャング稼業のカネコルソファミリーの事務所で一度、俺とシーちゃんが暴れたのでちゃんと準備はしているようだ。


 次の施設に向かう途中に、カネコルソファミリーの事務所にも寄っていくか…。そんな事を考えていると、暗く浮かない顔をしたセーナさんが歩いているのが見えた。

 今年も多くのアクセスありがとうございました。来年もよろしくです~。皆さんよいお年を。

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