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税金の闇は根深い。

 俺はアイテムボックスから妖刀を取り出してアマル達に見せた。


「これがその妖刀です」

「…ふむ。一度キヒダが持っているのを見た事がある。それでその妖刀がどうしたのだ?親戚の話にどうつながる?貴殿はわたしに一体何をさせたいのだ?」


 一気に捲し立てるように俺に問うアマル。


「…信じて頂けるか解りませんが…この妖刀にはアナタの姪御(めいご)さんに当たる椿姫の魂が囚われています」


 俺の話に、顔を顰めるアマル。周りの側近達も顔を見合わせている。


 まぁそりゃそうだろう。いきなりそんな事を言われて信じる方がどうかしてるからな…。


 顔を顰めたままのアマルの前で、俺は話を続ける。


「わたしは能力者ですのでその椿姫の霊体と言うか魂が視えるんですよ。で、その椿姫にキヒダの暗殺を依頼されましてね…」


 俺の話に鼻を鳴らして笑うアマル。


「…フッ、わたしと話したいというから来たが…。何を言うかと思えば殺された椿の名前を出し、その魂に暗殺を依頼されたなどと…荒唐無稽も良い所だな…」


 今にも立ち上がり、帰ろうとするアマルを引き留める。


「信じるかどうかは別として、最後まで話を聞いて頂きたい。依頼を受けてキヒダを暗殺してハイ終わり、ならわたしはアナタに話をしに来てませんよ」


 俺の言葉に、席を立とうとしたアマルは、一度考えた後、座り直した。その前で話を続ける。


「わたしの能力ならキヒダの暗殺は簡単です。しかし政治に携わっていたアナタならそれがどんな結果を招くか良く解るはずです。そこでわたしは暗殺ではなく他の方法でキヒダを打倒する事を考えたんですよ」


 そこまで話した俺を鋭い眼で見据えるアマル。


「貴殿が言いたい事、当てて見せよう…」

「どうぞ…」

「わたしに正統な王位継承を掲げて東鳳に戻り、キヒダと戦えと言うのであろう?違うか…?」

「正解です。椿姫からの依頼を遂行する為には正統な王の血統が必要です。その他の誰を担ぎ上げても、東鳳は混乱するでしょう。だからわたしはアナタに会いに来たんです。それは東鳳の為じゃない。アナタの姪御さんに頼まれたからなんですよ」


 俺の話を聞いたアマルは腕組みをしたまま瞳を閉じている。


「わたしに付いて来ているこの者達も、わたしに同じ事を言うのだ。今は権力を失くし、国を出たがいつかわたしが戻り東鳳を纏めて王位に就けとな…」


 そして一呼吸置いた後、話を続けるアマル。


「しかしわたしはもう東鳳に戻るつもりはないのだ。王である兄を殺された。姪である椿も信頼していた太淵に斬り殺された。その太淵は気が狂ったとキヒダに幽閉されて獄死したと聞いた。もううんざりなんだよ、そう言うのはな…」


 心の底から吐き出す様なアマルの言葉に、場が静まり返る。側近達も暗い顔で俯いている。そんな中、リベルトが口を開いた。


「わたしは椿姫からの依頼を受けたホワイトさんに頼まれて現在の東鳳を調査中です。わたしもホワイトさんも、今の東鳳が平和で国民が穏やかに暮らしているなら手を出す事をしたくない。しかし…」


 一呼吸置いて、リベルトが話を続ける。


「今の東鳳は一見、表向きは平和に見えます。しかし各部族の代表だった者達はアナタが『逃げた』が故に、それぞれでキヒダに対抗しようとしてその勢力を削がれています。そして東鳳の国民はキヒダの雑な政策の煽りを受けて飢えていますよ?アナタが逃げたばかりにね…」


 …リベルト、言葉が辛辣だな…。しかしアマルの気持ちはどうあれ『逃げた』と見られても仕方がないからな…。


 リベルトの逃げた発言に色めき立つアマルの側近達。しかし、側近達もリベルトが言わんとしている事が解かるだけに苦渋の表情だ。


 アマルは腕を組んで眼を閉じて黙ったままだ。そんなアマルにリベルトが更に話す。


「もう少し、詳しくお話しをしましょうか。今、キヒダとその側近達は色々な税金を考え出しては国民に課していますよ。例えば馬車の走行税や、火を起こす為の燃料にまで課税しています。二重課税だと解らない様に巧妙に庶民から金を搾り取っているんですよ…」


 静かにではあるが強く話すリベルト。


「わたしは元軍人であり政務を執っていた事もあります。次はその視点から東鳳の行く先をお話ししましょう」


 リベルトは地球でも職業軍人をしていたから、俺とは違った見方が出来る。これは俺にはない視点だ。


「先程もお話ししましたが今の東鳳はキヒダが部族を統一し、一見落ち着いているように見えますが水面下ではかなり荒れています。正統でない王の武力による無理な他部族との統一が一つ、かなりの重課税が一つ、そしてキヒダによる太蘇から他部族への迫害の扇動などです。この状態は正常な国家のあり方とは言えません。他部族の代表とその側近は既に地下に潜伏して立ち上がる時機を計っています。それは抑圧された国民感情と共にいつか爆発し、内乱になるでしょう。悲しい事に各部族の代表達は単独で動こうとしています。それでは今までと同じで、各個撃破されて力を弱めるだけなんですよ。国のその先を考えるなら今、アナタが立ち上がり皆を纏めなければ東鳳はどうにもならないと思います」


 リベルトに続いて俺も気になっている事を話す。


「わたしも一つ、懸念を持っている事があります。内乱までは行かずとも、国内の混乱が続けば他国に狙われる要因になるかと思います」


 俺の懸念について、リベルトが詳しく説明する。


「東鳳の混乱が続けばそのうち、隣国の『噴奴』が混乱に乗じて戦争を仕掛けてくる可能性はありますよ?わたしの調査では噴奴は現在、イシュニア帝国との紛争で東鳳に目は向いてませんがレバロニア海洋王国と軍事相互協定を結んでいます。イシュニア帝国と噴奴が停戦になれば恐らく東鳳に目を向けるでしょう…」

「お待ち下さい!!噴奴は船舶と海軍を持たない騎馬民族の国です。東鳳に攻め込むのは難しいのでは?」


 アマルの側近の一人が率直な疑問を口にする。その事についてリベルトが説明した。


「先程も申しましたが噴奴とレバロニアは軍事において相互協定を結んでいます。それはお互いの軍事における弱点のカバーです。この二国がお互いをカバーして攻め込んでくれは混乱の東鳳は為す術無く蹂躙されるでしょう。そうなると噴奴とレバロニアで領土分割される可能性も十分ありますよ?」


 そして改めてアマルを見るリベルト。


「そうなってからでは遅いんですよ。それでもアナタは後悔を背負ったまま、一生逃げ続ける気ですか?それは祖国である東鳳とその国民に対する裏切りと言っても言い過ぎではないと思いますが…」


 強い口調のリベルトに、腕を組んだまま苦渋の表情のアマル。そんなアマルに代り、側近が話す。


「我々には軍がないのです。キヒダと太蘇によって部族統一がされた時、天登(あまと)の軍は一度解散させられて再編成されています。我々の言う事を聞くかどうか…。まずはそこから考えないとアマル様も動けないのです」


 側近の言葉に俺が答える。


「アマルさん。側近の方はこうおっしゃっていますが軍があれば立ち上がる気はありますか?軍なら俺とリベルトでどうとでも出来ますよ?」

「…なんと言われようとも…わたしは…戻る気はないのだ…」


 そんな苦渋のアマルに、側近が言い募る。


「アマル様!!今が立ち上がる好機です!!この方達の力をお借りして東鳳に戻り、キヒダに対抗しましょう!!それが死んだアマダ様と椿様の供養にもなります!!」


 アマルの表情に揺らぎが見える。リベルトの話によって国のその先の結果を憂いているのかもしれない…。

 

「先程、側近の方がおっしゃられた様にホワイトさんが加勢する今がチャンスかと思います。返事はすぐでなくとも構いません。しかし時機を逃すわけにはいかないのでアナタが動かなくても、こちらは東鳳に行きますよ。では失礼…」


 そう言って立ち上がるリベルト。俺は苦渋のアマルに声を掛ける。


「わたしは国とか大きい視点からはどうとも言えませんが、エニルディン王国のハンターとして、椿姫から受けた依頼は確実に遂行するつもりです。良い返事を待ってますよ…」


 そう言って立ち上がり、側近の人達にも軽く会釈をした後、奥座敷から退出した。



「長かったな。話は終わったのか?どうだった?」


 皆の所に戻るなり、ウィルザーに会談について聞かれた。俺はまず、店員さんが持って来てくれたお茶を啜る。ついでに手鞠寿司を注文した。


 皆も鮨を注文して食べていたようだ。ティーちゃんも、シーちゃん、フィーちゃんはそれぞれ握り一人前を、フラムにはお子様用すしランチを注文してエイムが食べさせていた。


 目の前のウィルザーも握り一人前の鮨を食べていた。その横にいる逸鉄をチラッと見ると四人前の桶の鮨を喰っていた…。コイツ、マジかw?


 お茶を飲んだ後、俺はうーんと唸る。


「…ありゃ、難しいね。かなり微妙だよ。動いてくれるかどうかは何とも言えんかな…」


 そう言いつつ、目の前に置かれた手鞠寿司を食べる。東鳳の事についてはパラゴニアに来てからウィルザーにも軽く話しておいた。


 フリーで動いてるけど一応、エニルディン王国のハンターだからね。そこに王がいるんだから直接、話しておいたのだ。


 リベルトは話を終えた後、調査をしている仲間に会いに行ったそうだ。色々動いて貰ってるから、俺も後から顔を見せに行くつもりだ。


「…で、お前はどうするつもりなんだ?」

「うん、アマルが動くかどうかに関わらず、依頼の遂行に行くつもりだけど…」

「…そうか。だが状況を聞いた限りだとその者が動いてくれるに越した事はないだろう?」

「まぁ、そうだけど…。無理に引っ張り出しても本人がその気じゃないと周りが付いて来ないと思うんだよな…。迷ってるうちに側近も離れていくかもしれんな…」


 俺の言葉に突然、ウィルザーが立ち上がる。


「そいつはこの奥にいるのか?」

「…えっ!?まぁ、そうだけど…。まだ側近と話し合ってんじゃないかな?」


 俺は手鞠寿司を食べる手を止めてウィルザーを見上げる。


「少し話してくる。ここで待っててくれ」

「…はっ!?いや、ちょっ、ちょっと待ってくれ!!…話してくるって…何をw?」

「まぁ、待ってろ」


 そう言うと奥へと入って行くウィルザー。入る前に厨房にいる源さんに奥座敷に入らせて貰うと一声掛けて入って行く。


 源さんも厨房から出て来て奥へ入っていくのが見えた。いきなり知らないヤツが入って行ったら大騒ぎだからな。


 俺も慌てて奥座敷へ向かおうと立ち上がる。その俺の腕を逸鉄が掴んで止めた。


「…ホワイトくん。こういう時はウィルザー卿に任せた方が良い。一応、彼も王様やってるからね」


 そう言われて俺は座る。逸鉄がそう言うならウィルザーに任せるか。


 再び、手鞠寿司を食べながら待っていると、すぐにウィルザーと源さん、アマルと側近達が奥から出て来た。

 いつもアクセスありがとうございます。ここ最近意外とスラスラ話が進むので、年末年始も続けて投稿して行こうかと考えています。来年も災害が来るとか聞くと憂欝になりますが、皆さん備えと避難経路の確認だけでもしておくと良いかもですよ。


 心構えがあるだけでも、その結果が変わって来るかもですので。まぁ、災害は来ないに越した事はないですが…。


 ちと早いですが来年もよろしくです。



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