会談。
俺は火炎体アルムの背後から首を掴むと、全出力で『プラズマ生成』を発動した。これで完全消滅出来なければ、『天獄』で捕えるつもりだ。
しかし、ここで予想外の事が起きた。
火炎体の右腕が光を放ち、スキルを発動したのだ。強く光を放つ右腕が俺を襲う。
これがエイムが言っていた執念ってヤツか…。
しかし、かなり弱っていたのか『ゾーン・エクストリーム』の影響を受けて動きがゆっくりになっていた。
俺はすぐに、プラズマ闘気ハンドで対抗する。闘気ハンドを開いて掌で火炎体の右拳を掴んで全力で潰す。火炎の右腕は少しづつ鎮火した。
そして首を掴んでいた火炎体アルムに全出力『プラズマ生成』を発動する。その瞬間、揺らめくプラズマと共に火炎体が消えて、黒焦げの元の人間の姿に戻った。
インフォが頭の中に響く。
≪新たに『ヴァイオレットプラズマ』獲得しました≫
どうやらプラズマ生成の段階が上がって新たなスキルになったようだ。
その時、天から光が差してくる。
≪ホワイト、よくやった!!これでまた一体、天使が開放された。礼を言うぞ!!≫
天使カイさんの声だ!!
天使エクスぺリエル様の時と同様に、天使パメルシエル様も光に乗って天へと戻って行った。
さて、黒焦げのコイツはどうするか…。
スキルは首を掴んだ時に抜き取ったし、この状態での死だと復活する事はないと思うが念には念を入れて完全消滅させておきたい。俺は黒焦げアルムを掴んだまま跳躍した。
コイツは黒焦げになってしまったのでスキル体ではない。だから『天獄』は使えない。
俺は上空で『ビッグバンエンド』を発動した。
一気に拡散したカマイタチが黒焦げアルムを粉々にする。そして一瞬、止まった後、一気に俺の掌の前の一点に収束していくと消えた。
使っている俺自身がこのスキルによって粉砕したヤツが一点に収束してどこに行くのかは解らない。ただ、この状況でアルムの存在自体を消すにはこれしか思い付かなかった。
俺が半壊した街に降り立つと、隠れていた人達が壊れた建物の陰から恐る恐る出て来ている。
色々と説明するのも面倒なので俺はすぐに転移で皆がいる丘の上に戻った。
◇
俺が戻るとエイムだけでなく、ティーちゃん、シーちゃん、フィーちゃんも来ていた。
「あぅぁーっ!!(パパーっ!!)」
フラムがテテテッと俺の足元に走ってくる。俺を見上げて両手を上げて来たのでフラムを抱っこして上げた。
「アンソニーよ、よくやった!!これで『神の使徒』幹部を二人撃破じゃ!!」
ティーちゃんは幹部を撃破した事を喜んでいたが、残念な事もある。
「今回の蹴鞠の復活でアルギスが生きている、という事も確定したからね…。この先が思いやられるよ…」
「…アルギス!?教皇代理アルギスの事か!?そいつはホワイト、お前が倒したんだろう?その時、復活を確認しなかったのか?」
いきなりウィルザーに問われて答える。
「細かい説明は省くけど、あの時は魔障気で完全に消滅したと思っていたからね。その時には復活するかもって言う考えは出て来なかったんだよ…。次は確実に消滅させないとな…」
「アンソニーなら大丈夫でしゅ!!もう人間超えてましゅからね!!」
シーちゃんはそう言うが、ああいうヤツらは、次に会った時にはこっちの上を行ってきたりするからなぁ…。
俺はエイムに蹴鞠の事を確認する。
「蹴鞠おばさんの方はエイムがやってくれたのか?」
俺の問いにエイムが頷く。
「先程、ホワイトさんと闘っていた火炎体と同じく、あちらの方は水の性質を持った流動体でした。どうやらアストラル体の他に特殊体に変化するスキルもあるようです」
エイムの説明を聞いていると、今度はフィーちゃんに突っ込まれた。
「ほわいと、おんしまた時間を止めたな?」
フィーちゃんによると、あんまり何度も時間を止めると、全宇宙時空警備隊が事情確認に一々来るそうだ…。ゼルクのオッサン…いや、爺さんとこのアイツらか来るのか…。
めんどくせぇな…。
「俺の持つスキルの中で完全消滅させる事が出来るのがアレしかないんだよ…。今後は使用を控えます…」
それかもしくはスキルを組み合わせてみて新しいスキルを創り出すか…。しかしそれで目的にあったスキルが出来るとは限らないしな…。
まぁ、追々考えていくか…。
「ここは終わったから次はパラゴニアだな?これから行ってアマルとの話は出来そうか?」
「予定時間は過ぎていませんので大丈夫です。会談の準備は済んでおりますのでご心配なく…」
俺はリベルトの言葉に頷く。
「じゃあわたしらもついて行くかの」
「パラゴニアに行くでしゅ!!」
「わっちも行くでな?」
ティーちゃん、シーちゃん、フィーちゃんも一緒に来る事になった。
「エイムも来てくれ。話をしている間、子供達を見てて欲しいんだ」
「解りました。ではわたしも参りましょう」
続いてウィルザーも付いて来ることになった。
「パラゴニアには一度行ってみたいからな。九坂の店もあるだろう?」
「あぁ、源さんのお店もあるよ…」
そこまで話した俺は、アッと声を上げた。
「どうした?何かあったのか?」
突然、思い出したのだが、泥酔事件のゴタゴタで源さんをパラゴニアに送るのをすっかり忘れていたのだ。
「それならうちのエージェントが送り届けたぞ?」
「あぁ、そうか。良かった、ありがとう!!危うく王国に置き去りにする所だったよw」
俺達の話を聞いていた逸鉄も、俺達に付いて来ることになった。
「しかし西大陸の端にそんな島あったかな?」
逸鉄の疑問に、ウィルザーが答える。
「俺達が禅師とこの世界を周ってた頃にはなかったらしい。その後に島が出来たそうだ。お前の好きな鮨屋もあるぞ?」
「えっ?そうなのか!?じゃあ、わたしも行ってみたいな(笑)」
二人の話を聞いて気付いたが、この二人は禅爺と一緒に旅をしていたのか。何かの縁があってPTを組んでいたのかもしれない。
俺がそんな事を考えていると、ウィルザーが教えてくれた。
「俺と逸鉄、禅師とテンダーとその嫁でこの世界を周ってたんだよ」
あぁ、そういう事か。それでコイツら仲が良いんだなw俺は漸くこの二人の関係が判った。
◇
パラゴニアに到着。まずは、巫女様とバリー隊長に挨拶をする。今回の訪問については一応、リベルトから二人に話を通してある。
二人は、エイムが初顔なので、ファミリーの護衛だと紹介した。次に源さんに会いに行く。
先の泥酔事件でここに送り届けるのを忘れていたからだ。丁度、アマルとの話もゲンさんの店の奥座敷を予定しているという事で皆で店に向かった。
店に入ってから、厨房に顔を出して源さんに謝罪した。
「あぁ、その事は良いよ。王国の人に送って貰ったからな。それより、アンタ泥酔して暴れたらしいな(笑)?酒は程々にしとけよ?」
なんとか水に流して貰ったw
「久しぶりだな。九坂くん!!」
「ウィルザー卿も来ていたのか。今回は新顔もいるんだな?」
俺は、巫女様と隊長の時と同じく、エイムを護衛だと紹介した。
「わたしは正義の…」
「コイツはスメラギ・イッテツだ。あっちこっち放浪してるからこの前はいなかったんだよ」
逸鉄がいつもの紹介をしようとした所、それに被せるようにウィルザーが本名で逸鉄を紹介した。今回はクレアがいないので、子供達はエイムに任せて奥座敷へと向かう。
「先方も先程、来たから案内しておいたぞ?まぁ、ゆっくりして行ってくれ…」
源さんに案内されて、リベルトと共に奥座敷へと向かった。
◇
部屋に入ると、長い机の向かいに東洋の道士の様な法衣を纏った五人の男が座っていた。挨拶をしてから入る。
取り敢えず上座にアマルらしき人物?が座っていたのでその向かいに座った。
「わざわざ時間を取って頂いて申し訳ない。わたしはアンソニー・ホワイトという者です。少しお話したい事がありましてね…」
自己紹介をした俺は、五人の男に違和感を覚えた。龍眼で視ていたのだが五人とも飛び抜けた人物らしきオーラが感じられないのだ。
アマルは確か兄であるアマダ王の宰相をしていたと聞いていたが…。一角の人物ならそれなりの雰囲気を持っていたりするものなんだが…。
…この五人は…アマルの部下なのか…?
「…で。ホワイト殿、どういったお話で…?」
俺はじっと目の前の人物を見る。
「…ん?どうかされましたか…?」
「…失礼ですが…この話は直接、アマルさんにお話ししたいのです。親族の話もありますので…。ご本人を呼んで頂きたいのです」
俺の言葉に、目の前の人物が焦ったように声を話す。
「…ははっ、貴殿は何をおっしゃられているのか?わたしが…」
男がそこまで話した時、入り口の引き戸が開いて一人の男が立っていた。厳めしい角ばった顔付の短いあご髭を生やした男だ。
一見して他の男とは違うと判った。
「…そこまでだ。もうよい…」
そう言うと部屋に入って俺の目の前に座った。
「…悪いが少し試させて頂いたのだ。大変失礼した。この者がわたしではないと良くお判りになりましたな?貴殿は能力者ですかな?」
「えぇ、そうです。ではあなたがアマルさんでよろしいですか?」
俺の問いに、静かに頷くアマル。
「貴殿の事は先の黒装束の件で知っています。東鳳出身の『草』を蹴散らし、操っていた者を倒したとか…」
「ええ、成り行きでそうなったんですがね。それでその黒装束の一人が持っていた『物』でお話しがあるんです」
「…東鳳の『草』が持っていた物ですか。しかし貴殿は先程、わたしの親族についての話だと言われていたが…」
「えぇ、その事も絡んでくるのです。まずはどこから話せばいいか、考えているんですが…」
俺はどこから話を進めるか考えていると、横にいたリベルトが口を開く。
「…ホワイトさん。まずは『妖刀』の事からお話ししてはどうでしょう?」
リベルトの提言を受けた俺はまず、妖刀『鬼椿』の話から始める事にした。
◇
「…アマルさん、東鳳の混乱の全ての元凶であるキヒダが持っていた妖刀をご存じですよね?」
俺の言葉に視線を落とし、瞳を閉じて頷くアマル。
「その『妖刀』なんですが、先の黒装束の騒動の時、その中の一人が持っていたんです…」
俺の話に顔を見合わせ、ざわつく男達。
「…このパラゴニアにキヒダの手の者がいたと?貴殿はそう言いたいのか?」
「いえ、キヒダの手先ではないと思います。アマルさんは『ドウゲン』と言う草の名をご存じですか?」
「…『道玄』か…。天登の『草』の筆頭だった男だ。わたしは良く知っている。情報では太淵が狂乱した頃に姿を消したと聞いたが…道玄がどうかしたのか?」
…そうか道玄は天登の忍だったのか…。しかし何故キヒダの『妖刀』を持っていて、どういう経緯でアルギスの手先になったのか…。
混乱して来たが取り敢えず話を戻す。
「…実は先の黒装束の中にその道玄がいましてね。わたしと戦闘になったんですよ…」
「…なんとッ…道玄がパラゴニアに来ていたのか!!しかし何故、黒装束など纏って貴殿と戦闘になったのだ?」
「その経緯についてはキヒダの件とはおそらく関係はないと思います。ただ、何故か道玄がキヒダの持っていたはずの『コレ』を持っていたんです」
俺はアイテムボックスから取り出した妖刀『鬼椿』をアマル達に見せた。
『東鳳』とアマル、椿姫って誰だったっけw?という方は、エピソード65「夢で会いましょう」をご参照くださいw




