人型の流動体。
魔界の方はエイムに任せて、俺達は西大陸南東に飛んだ。まずは少し離れた小高い丘から様子を見る。
門を破壊して街に乱入した黒いフードに黒マントの怪しいヤツらが剣や槍、ハンマーを振り回して暴れていた。その後ろで黒フード達を指揮しているヤツがいる。細身で肌の色が黒く、頭に黒いターバン?を巻いた黒い法衣を纏った男だ。
ターバン男は指差した場所を爆発させ、腕を伸ばして住民を殴り飛ばし、掴んで壁に叩き付けている。
脚の次は腕か…。
「まずはヤツらを止めるか。リベルト、フラムを頼む」
「解りました。充分に気を付けて下さい」
「フラム、ここでリベルトと待っててくれな?」
「あ~ぅ(は~い)」
次に俺はウィルザーと逸鉄に頼む。
「俺があのターバン男をやるからウィルザーと逸鉄はザコの両側から横槍入れてくれ」
俺達はヤツらを止めるべく動いた。俺はウィルザーと逸鉄を連れて暴れているザコの両側に転移で移動する。
その際、俺が転移で消えたら二人も動いてくれと頼んでおく。
いつもだとファントムランナーで接近した後、タガーで攻撃して様子を見るんだが今回は少し趣向を変えてみる事にした。
俺が転移で消えたのを確認した二人が動く。
ウィルザーと逸鉄が、両側から飛び出る。逸鉄は素早い動きで黒フードの急所を確実に殴り、蹴り倒していく。
ウィルザーは前面に直線で帯の様に範囲を伸ばすと、スキルを発動しその範囲内の敵の動きを止める。その瞬間、腰に差していた剣を抜いて一気に駆け抜け斬り倒した。
突然、二人の横槍が入り、神の使徒ザコ構成員が混乱しているのが見える。それを見届けた俺は、『神幻門』で敵幹部の背後にいきなり転移した。
破壊に夢中になっていた幹部のターバンは全く気付いていない。俺は思わず笑ってしまった。
さて、いっちょ驚かせてやるかw
俺は闘気を両腕に纏わせると激しく回転させた。
「喰らえッ!!い・き・な・りッ!!神〇嵐ッw!!」
俺の声に反応したターバンが振り向いたが遅かった。回転する闘気に巻き込まれたターバン男は、俺のなんちゃって神〇嵐で吹っ飛んだ。
「…ウオォォッ!!」
しかし、ターバンは吹っ飛んだ空中で上手く体勢を変えてひらりと着地した。
「…キサマは何者かッ!?」
「そんな事はどうでもいい!!いきなりで悪いがスキルを貰ってアンタには消えて貰う!!」
「…ほぅッ!!キサマがスキルを抜き取る男か!!こんなに早く現れるとはなッ!!アルギスをやったのはキサマだな!?」
「トドメ刺したのは俺じゃないけどな!!」
「そうか!?それでもキサマを消さぬと我々の脅威になりかねん!!ここで死んでもらうぞッ!!」
「いいや、死ぬのはアンタの方だよっ!!」
俺は神速で後ろに周り込む。地面に手を付けて『プラズマバインド』を仕掛けようとしたその瞬間、男が叫ぶ。
「知っているぞ!!その異常なまでのスピード!!アルギスの眼を通して俺達幹部はキサマの事を知っている!!」
振り向いた男の両腕から強烈な炎が噴き出し、俺は炎に巻かれた。
≪あぅぁーっ!!(パパーっ!!) ≫
突然、フラムから密談が飛んで来た。
俺はフラムが遠距離密談を使った事に驚いたが、ある程度は俺とスキルがリンクしているから出来るんだろう。
「お待ちください、お嬢様。お父様は大丈夫ですよ」
チラッと見ると、こっちに転移しようとしているフラムをリベルトが止めているようだ。
炎に巻かれていた俺はスキル『すり抜け』を使っていたので、全くダメージはない。離れていると完全に燃えている様に見えたのかもしれない。
≪フラム、パパは大丈夫だ。そこで少し待っててくれな?≫
俺が密談を飛ばして無事を知らせたのでフラムはすぐに落ち着いたようだ。俺はすぐに『ディセーブルスフィア』を使い、炎の効果を消した。
「…ほぅ!!おもしろいヤツだッ!!完全に炎に包まれた様に見えたがノーダメージな上にわたしの『神炎』を打ち消したか!!」
「何が神炎だよ。この程度の炎で『神』を付けるなよッ!!」
そう言いつつも、俺は少し驚いていた。
炎が襲い掛かってきた瞬間、『ゾーン・エクストリーム』が発動したのだが、少しづつ動いていたのだ。
そしてゾーン・エクストリームに干渉されているはずの目の前の男は普通に喋っていた。
「わたしはアルム・イスル・ラハナージャである。名前を聞かせて貰おうか」
「俺はアンソニー・ホワイト。じゃあ始めようか?」
俺の言葉と同時に飛んで来たアルムの右拳を闘気ハンドで弾いた。
◇
その頃、エイムは蹴鞠の残滓から出現した深緑の人型の攻撃を背後から受けて、首を飛ばされた。
≪ミドモの、ジッタイは…ニンゲンにバけていたトキよりハヤイ…ナニモノであろうトモ、オイつけヌ…≫
深緑の流動体になった蹴鞠は、赤い眼をギョロギョロと動かし念波で話す。
≪…サテ、マゾクとやらを根絶ヤシにしてヤルか…≫
そう言って身を翻し、その場所を離れようとした深緑の人型の背後から声が聞こえた。
「…まだわたしは機能停止していませんよ?」
その声に振り向き驚く人型流動体。
≪…ナゼ、キサマはイキているノダッ!?≫
「先に言うのを忘れていましたが、わたしは人間ではないので首を飛ばされても何ら問題はないのですよ」
エイムは自らの両腕を飛ばして頭部を回収すると、首の上に接続する。
「…キサマ!!キカイだっタのかぇ!?」
「正に。しかし、より精密な存在ではありますが(笑)」
そう言いながら笑うエイム。
「しかしアナタは、『人間を超えた者』とホワイトさんから聞きましたが…。その姿ですと『超えた』というより、人間を『辞めた』という感じですね(笑)。ミュータントと言った方がしっくりきそうです」
≪なんとでも言うが良い。ミドモらは確かに、人間をコえた存在なノじゃ!!≫
叫ぶと同時にエイムの目の前まで迫る人型。
「頭ブをハカイしてしまえば復旧デキヌであろッ!!」
人型の流動体の脚が、液体の高水圧カッターの様に変化してエイムに襲い掛かる。
「…残念ですがそのままのアナタではわたしに勝つ事は出来ません」
言い切ったエイムの顔面の前で、人型流動体の脚が止まる。既にエイムの全身にプラズマが放出されていた。
「アナタのその全身の状態がスキル。そしてその蹴りもスキル。それではわたしには勝てないのですよ」
突然、脚を止められ、プラズマに捕らえられた人型は必死に足を引こうとするが全く動かなかった。
エイムがプラズマを解除するとその瞬間、人型は飛び退いた。
≪どういう事かぇ、何故攻撃が通らぬッ!?≫
そう言うと一瞬にして、背後に現れ蹴りを放つ人型。その脚は棘付きの金棒の様に変化していた。しかしまたも、エイムの後頭部に当たる寸前で動きを止められ、脚を捕らえられた。
振り向いたエイムが、動きの止まった人型の足に向けて掌を翳す。瞬間、その掌から火炎が放出されて人型の足を蒸発させた。
「…ふむ。水の様な特性を持った能力ですか。面白い能力ですが…やはりわたしに勝つ事は出来ませんね」
そう言いつつ、プラズマで捕らえた深緑の流動体の一部を解析する。
「このDNA配列、中々面白いものがありますね。この操作された配列を戻すと…ふむ。アナタ方の正体がなんとなく、判ってきましたよ…」
≪そういうキサマの正体ハ何者ナノかぇ?ナゼ、ミドモがキサマにカテヌと言い切レルノじゃ!!≫
離れた先で蒸気になっていた人型が集合し、元の流動体に戻る。直後に、人型は、高圧縮した水の棘を全身から発射させた。
しかし全ての高圧の水の槍はエイムの目の前で阻まれ、蒸気となって消えた。
「…わたしの正体、ですか。わたしは何者でもない。只のアンドロイド。しかし、アナタ方がいた星の文明を遥かに超越した星で、最高の科学者ケム博士によって生み出されたアンドロイドなのです」
≪だから何だとイウノじゃ!!キカイ如きが大層な口をキクものではナイぞぇ!!≫
深緑の流動体だった人型が、冷静に話すエイムの周囲を瞬間移動し、全方位から水圧のブレードを飛ばす。
しかし、全ての攻撃はエイムに触れる事すらなく、蒸発して消えた。
「アナタの攻撃はわたしには効きませんよ?攻撃するだけ無駄というモノです。それより力は完全に回復しましたか?」
「ミドモの魔法をケシタくらいでチョウシに乗りおッテ…。チカラが戻ったかジャと?モウスデに戻ってオルわッ!!」
人型がエイムの周囲を高速で動く。
「カクセイしたミドモの最高の隠しスキルで蹴ってハカイしてやるぞぇッ!!コノスピードにツイて来レルかぇッ!?」
叫んだ人型がエイムの周囲を走り、一人二人と分身していく。最終的に十三人まで増えた人型流動体が一気にエイムに襲い掛かった。
「コレで終ワリじゃッ!!神境無間脚!!」
「…ふむ。確かにアナタの動きはわたしより格段に速い。しかしわたしはアナタより速く動く必要などないのです」
静かにそう言うとエイムは全身から高電圧のプラズマを放出する。
「『スキルキラー!!』」
エイムの高電圧プラズマが、一気に襲い掛かって来る人型流動体十三人の動きを一瞬だけ止めた。
「…ぐッ…グフッ…そ、そんな…バカ、な…」
エイムの仕込み剣が、人型流動体のうちの一体の鳩尾を刺し貫いていた。
「…実体を捕らえましたよ?そして自由に移動出来るアナタの『核』は今、わたしが剣で貫いた…」
「…こ、コンナ、事ガ…か、ミノし…ト、コノ…蹴鞠、が…敗北ナド…」
「…では、さようなら。完全に消滅させて頂きます!!」
そう言うとエイムは全身のプラズマを右腕の仕込み剣に流した。
「最大出力『超高電圧プラズマスパーク!!』」
瞬間、仕込み剣を中心に高電圧のプラズマがスパークした。
「グワアァァァァァッ!!アァァァッ!!こっ、このままではッ…ミドモはッ…コノママデハ、しッ、死なヌッ…!!」
苦しみ藻掻きながらも最後の力を振り絞った人型流動体の右脚が光る。
「…『神滅脚!!』」
その瞬間、人型流動体の右脚の蹴りが、エイムの左腕の肘から先を斬って吹っ飛ばした。