検証。
俺が蹴鞠を掴み上げて、アストラル体を『天獄』に吸い込み、捕えようとした正にその瞬間、魔王フェンが蹴鞠を掴んで宙に投げた。
俺はすっかり忘れていたが大体の魔族は人の心が読めるんだったな…。
逸鉄にエネルギーを吸い取られ、瀕死の蹴鞠は上空でフェンのラッシュ攻撃を喰らいボロボロになって落下する。
そしてその下には、魔皇フィーアが目を光らせて待っていた。
「魔族に仇なす者、全て滅びよッ!!『魔轟炎誅拳!!』魔族の力、思い知るでなッ!!」
そう言うとフィーちゃんは深く深く呼吸を吐き出す。そして目の前で逆様のまま滞空させた蹴鞠に、猛烈な拳打のラッシュを浴びせた。
「オォォォォッ!!わちゃッ!!わーちゃッ!!わちゃッ!!わちゃァーッ!!わちゃァァッ!!」
そしてくるりと背を向けたフィーちゃんが小さな拳をグッと握りしめる。
「魔界の轟炎で滅びるでな!?」
その瞬間、地獄の業火かと思われる程の魔力を纏った炎が、蹴鞠を火だるまにした。
「…そ、そんなッ、バカなッ!?このッ、この蹴鞠…御前がッ!!こんな下らぬ者共にッ…アァァァァァッ…」
蹴鞠は断末魔の叫びを上げながら、炎に呑み込まれて魔界の大地に還った…。
フィーちゃんが俺をギロッと睨み付ける。
「今度だし抜こうとしたら先におんしを消すからの。よく覚えておくんじゃ…」
「…はい、スミマセンでした…」
魔王フェンも俺を睨み付けながら、不敵な笑いを見せていた。
しかし、問題はここからだ。俺の考えだとヤツらはもう一段階、何かを持っている気がするのだ。
アルギスは俺を旧人類と言っていた。まるで現代の地球にいる俺達より遥かに発展した者達の様な口ぶりだった。
そしてキルシさんがアルギスを見て、人間を少し越えただけの存在だと、そんな事を言っていたような気がする。
つまりだ、コイツらは人間を超えた何かを持っているんだろう。例えば復活出来るスキルとかね…。
いや、正確には死んだ後に発動するスキルではないかと俺は読んでいる。実際シニスターで爆発大好きウーマン、ボナシスが持っていたのを確認している。
俺はフィーちゃんを見る。
≪…うむ。ここから検証するでな?その為には一度殺す必要があるじゃろ?だからこれで良いんじゃ。『天獄』でいきなり吸い込んだら何も解らんままじゃからの≫
≪…ま、まぁそうですね。じゃあ、皆でこれから検証しますか…?≫
俺達が密談で話していると突然、天から光が差し込んできた。
「…よくやった。魔皇フィーア、そしてよくぞ同胞を開放してくれた。礼を言うぞ?ホワイト…」
姿は見えなかったがその声は天使カイロシエル様の声だった。光が差すと同時に、気絶したままの天使エクスぺリエル様を天へと連れて行く。
「…まだ囚われている天使がいるのだ。これからも頼む…」
その言葉を残して光が消えてエクスぺリエル様も消えた。突然の天からの声に、驚き辺りをキョロキョロと見回す逸鉄。
「…な、何だ?さっきの声は何だったのだ?」
「…あぁ、それは後から説明するよ。取り敢えず今は検証しよう…」
俺の言葉に、逸鉄を除く全ての者が頷いて姿を消す。それを見た逸鉄は、消えた皆を見て慌てた様子で声を上げた。
「んっ?皆どうしたのだ?なぜ消えた?検証って敵であるおばさんはやっつけたんだ。何を検証するんだ?」
…そういえばコイツは隠れるスキルはなかったな…。と言うか密談も持ってないよな…。どう説明するかな…。
慌てた逸鉄の様子に、姿を現した俺が質問で返す。
「…アンタ、『遮蔽』スキル持ってないよな?」
「…あぁ、持ってないッ!!…しかしそれがどうした…?」
「…これからある事を検証するんだが…」
俺はそう言いつつ、蹴鞠が燃え尽きて黒くなった地面を見る。俺の視線の先を見た逸鉄は暫く考えた後に、深く頷いた。
俺達の意図を汲み取っていてくれば良いが…。
「…このスキルを貸し出す。後は説明しなくても理解してくれるよな?」
そう言いつつ、俺は逸鉄の肩を掴むと『スキル付与』で『遮蔽』を貸し出した。
「…うおッ!!こっ、これはッ!?スキルを他人に渡す事が出来るのか!?」
「まぁ、そんなとこだ。そのスキルでこれから何をするかは…解ってるか?」
俺の言葉に頷いた後、蹴鞠が燃え尽きた後の黒い地面を見る逸鉄。
「…うん。解っているぞ?ではいつでも検証を始めてくれていい…」
逸鉄の言葉に、俺達は改めて全員姿を消した。
◇
俺達は隠れたまま、暫く地面を観察していたが別段、変わった様子はない。もしかしたらすぐには発動しないのかもしれない。
しかもここはヤツらにとって敵のまん真ん中だ。復活にしろ死んだ後、発動するスキルにしろこんな場所で再生するヤツ、たぶんいないだろう。
しかし別の場所で復活、というのも考えにくい。死んだ後はそこに思念が残ると聞いた事がある。
この検証でもし、蹴鞠が復活もしくは再生したならば確実にアルギスも生きている事になる。そうなるとここから離れるのはまずいだろう…。
…さて、どうするかな…。
その思念を呼んだフィーちゃんが俺を嗜める。
≪…ほわいと、おんしまだ五分も経っておらんでな?そんなすぐには復活せんじゃろ?≫
≪…まぁ、そうですが…≫
その時、美濃さんがとんでもない事を言い出した。
≪ホワイト。お主は確かアルギス戦で範囲攻撃を使っていたな?アレでアルギスの動きを止めていただろう?アレを使えば良いではないか!!≫
そんな美濃さんの提案にティーちゃんとシーちゃんも賛同する。
≪そうじゃ!!その手があったのぅ。さすがは美濃さんじゃ!!≫
≪それが良いでしゅね!!ちょうどお腹空いてたんでしゅ。後はアンソニーに任せておやつにするでしゅ!!≫
ティーちゃんとシーちゃんがそう言うのでフィーちゃんも賛同し、皆おやつを食べにどこかへ転移してしまった…。
…酷い話ですよ。全く…。
怠い事を俺に押し付けて皆でおやつとか酷すぎる。俺の範囲攻撃は一定の距離を離れると当然だが発動しない。
…という事は俺はここから動けないという事だ。
仕方ないので俺はすぐに蹴鞠が消滅して黒く染まった地面に『プラズマバインド』を配置して、動きがあれば発動する様に設定しておいた。
トラップを仕掛けたのでもう隠れる意味はない。俺はすぐに『大気光象』を解除した。
「ん?検証はどうしたのだ?皆はどこへ行った?」
スキルを解除して姿を現した俺を見た逸鉄も、遮蔽スキルを解除して姿を現す。
…そういえばコイツもいたな…。
俺はざっくりと説明する。
「俺が範囲設定でトラップを仕掛けたから皆おやつ食べにどこかに転移したよんだ。俺はトラップスキルを設定したからここから動けないし、もう隠れる意味もないからスキルは解除したんだよ…」
「ふーん。そうなのか。それならわたしもここで一緒に待機するぞ!!おばさんが復活したらまた闘いになるからな!!」
そう言って高らかに笑う逸鉄。
「しかし、腹が減って来たな…。この街の壊れた施設から食べ物でも探してくるか…」
そう言って壊れた街を探索しようとしていた逸鉄を止める。
「あ、正義の兄さん、その必要はないよ。俺も一応食べるもの持ってるから…」
「ん?そうなのか?用意が良いな」
俺はアイテムボックスからレジャーシートを取り出して地面に拡げる。そこにふかふか子供用座布団を置いてその上にフラムを座らせた。
「…ええぇぇぇッ!!ど、どこからそんなモノ…ぁ、アイテムボックスを持っているのか…?」
俺達用の座布団を二つ取り出して逸鉄に勧める。次に小さな卓袱台を出して真ん中い置いた。
既にフラムはふかふか座布団の上で幸せターンを取り出して齧っていた。
驚きつつ、逸鉄はブーツを脱いで上がると座布団の上に正座で座った。逸鉄はフラムが食べているお菓子を見てさらに驚く。
「…それは幸せターン…どこからそんなモノを…」
ブツブツ呟く逸鉄に、フラムが幸せターンを一つ、鞄から取り出して上げる。
「おおッ!!ちびっこ、くれるのか。ありがとぅぅ…」
そう言いつつ手に取ると早速、食べようとして困っていた。俺達に素顔を見られるのがイヤなのかヘルメットを脱ぐのを躊躇っているようだ。
「…いや、別に食べる時くらいはメット脱いだ方が良いんじゃないか?」
俺の言葉にそうだなと言いつつ、俺達に背を向けてメットを脱ぐと、背を向けたそのままで幸せターンを齧り始めた。
後ろから見る逸鉄の髪にはちらほら、白いものが混じっている。
…別に名前も年齢も判ってるんだから素顔見せても良いと思うが…。
そんな事を考えつつ、俺は卓袱台に黒豆せんべい、マヨネーズおかき、ぱりんちょなどを出して広げる。
フラムがフルーツ牛乳を取り出して飲んでいたので、俺は木製水筒に入れたお茶を出す。木製水筒のお茶と幾つかのせんべいをチョイスすると、背を向けたままの逸鉄の傍に置いてやった。
「おおッ、これはかたじけない!!飲み物まで持っているとは…」
そう言いつつ、せんべいを齧る逸鉄。
「…普段はメット被ってるんだし、別にこう言う時くらいは顔が見えても良いんじゃないか?」
俺の問いに逸鉄は背を向けたまま、顔を見せない理由を話した。
「正義のヒーローってのはイメージってものがあるからさ。わたしの素顔を見てがっくりする子がいたら可哀そうだろう?だから極力、素顔は見せないんだ」
それを聞いた俺は徹底してるなと思いつつ、確かにヒーローに限らず、そう言うのってあるよな、と納得した。
俺は忘れていたエージェント達も呼び出して、皆でせんべいを食べつつ、蹴鞠の消えた黒く染まった地面を監視した。
◇
俺とフラム、逸鉄とエージェント5、エージェント11でお菓子とドリンクを飲みながら観察する。お菓子とお茶と食べたエージェント二人は、俺にお礼を言った後、再びその姿を隠した。
暫く、黒い染みを観察していると不思議な現象に気付いた。地面を染めていた黒い染みが徐々にではあるが拡がっているのだ。
俺はメットを被り直した逸鉄を見る。
「…黒い染みが拡がっているな。これはおそらくこの大地に流れている『魔素』を吸収しているのだろう」
逸鉄が続けて話す。
「ここの大地は『妖精の森』と同じくらい、魔素が強いんだ。加速度的にその浸食範囲が拡がっているな。どうする?」
逸鉄に問われた俺は考える。このエネルギー吸収する黒い染みがどこまで拡がるか、今の所解らない。
手に負えない程大きくなるとまずい気がするが、これがもし、『神の使徒』幹部が持つ『復活スキル』だとしたら、形にはならなくてもある程度の段階で『天獄』で吸い込めるはずだ…。
「…もう少し様子を見よう。鬼が出るか蛇が出るか…。どっちにしろ対処は出来るよ。出来ればコイツらが確実にそういうスキルを持っているというのを確認したい…」
俺の言葉に頷く逸鉄。俺は何が起きても良い様に、すぐにお菓子とお茶、卓袱台とレジャーシートをアイテムボックスに戻す。
フラムを抱っこした俺は、逸鉄と共に監視を続ける事にした。
その直後、再びリーちゃんが現れた。
引き続き、各エピソードの繋がりや、順番を変更、修正しています。話が増えたり減ったりしていますが、新しいエピソードの投降ではないのでご了承下され。
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