おばはんVSおっさん。
本日より再開します。よろしくです~。
フィーちゃんが呼んでいるという事で、俺達はリーちゃんに転移で魔界まで連れて来てもらった。神の使徒の幹部が襲撃して来たという事だったが…。
既に着物を着た遊女の様な女と、全身タイツにヘルメットを被ったヤツが激しく闘っていた。戸惑う俺達にフィーちゃんと美濃さん、狼男?が近づいてくる。
「…これは一体どうなっとるんじゃ…!?」
「俺達を呼んでるって聞いたから来たけど…。もう闘ってるヤツがいるね…。ていうかアレ、どっちが神の使徒の幹部なの?…いや、どっちなんですか?」
美濃さんがいるので、一応言い直した。牛の人、言葉遣いにウルサイからね…。俺が聞くとフィーちゃんが説明してくれた。
「神の使徒の幹部はあの着物を着たヤツの方じゃな」
「…で、それと闘ってるあのヘルメットの方は誰な…んですか?」
「それが突然現れたでな!?どうやら人間の様なんじゃが、魔界に来るにはその方法が限られておるんじゃ…一体どうやってここまで来たんかのぅ?」
俺とフィーちゃんが話していると後ろからシーちゃんが声を上げた。
「…あ、あああっ!!…アレは…!!」
「ん?どうしたんじゃ、シーよ?」
「シーちゃんはあのヘルメットマン、知ってるの?」
ティーちゃんと俺がシーちゃんを見ると小さな手でヘルメットマンを指差していた。
「…あああああっ!!、アレはっ!!…アレは『正義の変なお兄さん』でしゅっ!!」
叫ぶシーちゃんをフィーちゃんが見る。
「ああ、確かにだいぶ前にそんな事を言っておったでな?シーが知っとるヤツじゃな」
俺もシーちゃんの言った『正義の変なお兄さん』で思い出した。妖精の森でシーちゃんを助けた人間だ。
「シーよ、アレが妖精の森で会った人間か?」
「そーでしゅ!!変なお兄さんでしゅ!!」
その本人は激しい闘いの最中、シーちゃんの声が聞こえたのか、こっちを見て手を振って反応した。
「おおおおッ!!ちびっこよ!!久しぶりだな!!どうしてここに、いぃッ…!!」
…あ、よそ見して蹴られた…。大丈夫かな?あの男…。
正義の変なヘルメットマンは戦闘中にもかかわらず、シーちゃんに気付いて陽気に手を振っていた所、凄まじい蹴りを後頭部に喰らってその場にビターンッと激しく倒れた。
…何で戦闘中によそ見するんだよ…。
「…全く、あやつは戦闘中によそ見するとは。何をやっておるんじゃ…」
…みんな同じ事を思ったようだ…。呆れるフィーちゃんのその後ろにいた大きな狼男が笑みを浮かべる。
「…しかし、あの人間、中々おもしろいヤツですな(笑)!!」
「…あの人間、大丈夫なのか?後頭部を完全に蹴り抜かれておったが…」
美濃さんの心配に、フィーちゃんがティーちゃんを見て言う。
「…ティーよ、鑑定は終わっとるんじゃろ?わっちは『魔心眼』で見たでな?」
「…うむ。鑑定は終わっておる。あの人間、かなり凄いヤツじゃな…」
皆が話している中、俺も『スキル泥棒』で、正義の変なヘルメットマンのスキルを視ていた。ついでに遊女の様な蹴る女の方もスキルだけは視えた。その女が、倒れたヘルメットマンを見て笑う。
「…コイツはアホなのかぇ?戦闘中によそ見をするとは…。しかし人間の癖によくも身共を煩わせてくれたものじゃ…」
続けて蹴る女か俺達を見て言い放つ。
「…何かぇ?アホの相手をしている間にザコが増えたようじゃの。さて次に蹴り殺されたいヤツはどいつかぇ?」
その言葉を聞いた俺は、すぐにその女に忠告した。
「…アンタ、よく見ろよ?そこの変なメット兄さん、まだ死んでねーけど?」
「…お主、何を言うておるのじゃ…。コヤツは確かに身共が首を蹴って…」
その瞬間、蹴る女はヘルメットマンを見て驚愕する。そんな中、ティーちゃんが鑑定した変なメット兄さん?の人物伝が俺の脳内に送られて来た。
◇
皇 逸鉄。三十九歳。日本人、転生者。禅師の一番弟子。エニルディン王国のフリーSランクハンター。
幼少の頃より、特撮の正義のヒーローに憧れるあまり、ヒーローコスプレをしつつ、あらゆる武術、格闘技を習得する。覚えが早く、人の技を視ただけで真似してしまうと言う特技がある。
二十代半ばで禅師の弟子となり、武術、格闘センスで一番弟子になった。禅師に黙って『皇 逸鉄スペシャル』と言う独自拳術を考案する。
末端の兄弟弟子がギャングに関わった事により、ギャングの抗争に巻き込まれる。
その際、無数の銃弾を避けつつ、逸鉄スペシャルでギャング二十数人を倒したが、最後に銃弾を浴びて禅師と共に射殺され力尽きた。
兄弟弟子を助けられなかった強い後悔の念が異世界の天使の目に留まり転生を果たす。
…か。
…しかしコイツ、何が正義のお兄さんだよっ!!四十歳近いオッサンじゃねーかっw!!しかもコイツがフリーSランクのハンターの一人かよっ!!
俺が心の中で突っ込んでいると、驚く蹴る女の前でムクッと起き上がる逸鉄。
「…いてててッ、いや~さっきのは結構痛かったぞ!!おばさんッ!!」
そう言って普通に首を擦っている。
「…こやつッ!!身共の蹴りをまともに喰らって起き上がれるとは…というか貴様また身共をおばさんなどと呼びおって!!身共はまだ三十八歳じゃッ!!」
その瞬間、闘う二人以外の全員が顔を見合わせた。
「「「…いや、どっちも変わらねーよッ!!」」」
見事に全員の突っ込みが重なった。それを見たフラムがケラケラと笑う。どっちもどっち、四十近いオバハンとオッサンだった。
俺達の目の前で、再び激しい蹴りの応酬をする蹴る女と逸鉄。逸鉄は相手の蹴りに全く同じ様に返している。
「…ティーちゃん。逸鉄の方は良いとして、相手のおばさんの方はどう?鑑定出来た?」
「…うむ。天使の方はエクスぺリエルさまと解かっておるんじゃが、とり憑いている中身のおばさんの方は視えんのぅ…。アンソニーはスキルだけは視えるじゃろ?」
「…あぁ、天使様とオバハーンの両方、確認出来たよ。天使様は基本、スキルも魔法もカイロシエル様とほぼ同じだね。ただ固有スキルと魔法だけは視えんね~…。オバハーンの方は蹴り技スキルが多いね…」
俺達は顔を見合わせる。
「取り敢えず逸鉄が蹴鞠を弱らせるのを待つでな?その後はほわいと、おんしの出番じゃ」
「…え?何で…ですかw?」
「天使の身体から、中身のおばさん引き抜くのはおんししか出来んじゃろ?」
「…あぁ、確かに。じゃあ逸鉄がオバハ…蹴鞠?を弱らせるのを待ちますか…」
待っている間、フィーちゃんが人狼の魔王フェンを紹介してくれた。
「我は魔王フェン・ルーガルだ。よろしくな、人間!!」
そう言うと俺の手を思いっきり握るフェン。
「…いてテテテッ!!痛い痛い!!」
…そんな俺を見て笑うフェン。魔界の人って何でこう力加減が解からんのかね…。
「…ふむ。可愛い子供だな?」
フェンがフラムの小さな頭をナデナデする。フラムはキャッキャッ喜んで愛嬌を振り撒いていた。
…なんか差別がひどくねーかw?
気を取り直して俺は逸鉄と蹴鞠の闘いに視線を戻す。逸鉄は蹴鞠の激しい蹴り攻撃に、一々カッコつけて受け流している。時折、ヒーローの様なポーズで受けてみたりとフザケているとしか思えないような受けも見せる。
…これが『逸鉄スペシャル』とか言う独自拳術かなw?
俺が視えている逸鉄のスキルは、『皇 逸鉄スペシャル』(ヒーロー拳術)、『真眼』、『強化闘気』、『オールドレイン』だ。
『逸鉄スペシャル』は我流拳術、『真眼』は相手の動きを視たまま、そっくり真似出来るスキルの様だ。ふざけたヤツだがさすが禅爺の一番弟子だ。闘気も持っている。『強化闘気』は防御特化の闘気のようだ。
最後に『オールドレイン』。このスキルは相手の攻撃を受ける事で、体力、気力、魔力等を徐々に吸い取って弱体化させていくスキルだな。受けるだけでなく自らドレインする事も可能な様だ。
…地味にイヤなスキルだな…。
対して『神の使徒』幹部、蹴鞠は『紅蜘蛛八衝脚』、『黒蜂穿孔脚』など蹴り技が多い。
…『蹴る』のが好きな様だ…。ドSかな…w?
しかし、蹴鞠は天使化していないようだが…?何故、天使の力を使わないんだ?
俺の思考を読み取ったフィーちゃんが答えてくれた。
「…あの蹴鞠と言うおばさん、さっきまで天使の力を使っておったでな?しかし逸鉄に力を吸われたせいか解除されておるんじゃ」
という事はそろそろ蹴鞠自身も気付くんじゃねーかな…。じゃなきゃよっぽど鈍いヤツだよな…。
(…どういう事じゃ…身共の天使化がいつの間にか解除されておる。この男、ただ身共の攻撃を受けているというだけではないのか…?)
蹴鞠の蹴りの威力も、徐々に下っているようだ。それが蹴鞠自身にも解かって来たのか、不利になる前にスキルを発動させる。
「…レフティッ!!攻撃じゃッ!!」
その瞬間、突然男が現れ、その蹴りが背後から逸鉄を襲う。このスキルは『アルタイゴ』という自身の分身を生み出す蹴鞠の固有スキルのようだ。
しかしその攻撃も、逸鉄が両腕を拡げてカッコよく受け止めると、その脚を掴んで引き込み、蹴鞠にぶつける。
「…くッ!!人間如きが何故身共の攻撃を簡単に受け止める事が出来るのじゃッ!?」
躍起になり、猛烈な勢いで逸鉄に連続蹴りを喰らわせる蹴鞠。しかし、逸鉄はただひたすら、蹴りを手で受けては巻き込んで流し、体を入れ替えて避ける。
剣術にある、刃先を使って巻き落とす様な感じだ。
「アッハッハーッ!!おばさんッ!!わたしはまだまだ行けるぞッ!!どんどん掛かって来るんだッ!!」
「…じゃから身共はおばさんではないぞぇッ!!」
逸鉄に挑発された蹴鞠が怒りの表情で逸鉄を蹴る。上段蹴り、そこから中段後ろ廻し蹴りで更に下段足払い。更に回転したまま左上段廻し蹴りを放つ蹴鞠。
しかし、そのすべてを軽く止めていく逸鉄。既に蹴りを受けてから流す、ではなく完全に受けていた。左手で受けた蹴鞠の右足を掴むと、逸鉄は素早くその懐に入り込み右の手刀を蹴鞠の首を狙って放つ。
その逸鉄の手刀を頭を下げつつ避けると、蹴鞠はそのまま身体を捻って回転し、掴まれていた脚を逸鉄の手から振り解く。
すぐに逸鉄から距離を取った蹴鞠はすぐに懐から、小袋を取り出すとその中から小さな丸薬を取り出し飲み込んだ。
(…これで少しは体力が回復するかの…。しかしおかしいぞぇ?身体から力が抜けておる。あの人間…よもやとは思うが身共の力を奪っておるのか…?)
思考を巡らせる蹴鞠に逸鉄が急速接近する。
「…ょッ!!と、紅芋ハッスル脚ッ!!」
逸鉄は蹴鞠のスキルを真似て上段蹴りの状態から膝から先だけで高速連続蹴りを放つ。
「紅蜘蛛八衝脚じゃッ!!」
蹴鞠が咄嗟に同じ技で対抗する。脚と脚が激しくぶつかり合う応酬となったが、この段階でもう既に逸鉄は蹴鞠の技を上回っていた。
相手の技を真似た上に、それを上回る威力とスピードで蹴鞠を押し込んでいく。そして逸鉄の蹴りに押し切られた蹴鞠がついに、脚を弾かれその場に膝を付いた。




