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神脚。

 

 魔王フェンは、魔界の一領地を治める人狼の王であり魔王の一人である。


 この世界では、白肌(ハクキ)族、吸血(ヴァンパイア)族、牛頭(ミノタウロス)族、魔小人(マコビト)族、人狼(ワーウルフ)族からなる、魔力の高い五種族を纏めて『魔族』と呼ぶ。


 白肌族は現魔皇フィーアを代表とする、死人の様に肌の色が白く、他の種族に比べて魔法適正と魔力量がずば抜けて高い種族である。


 魔力量の多い順で行くと基本、白肌、魔小人、吸血、人狼、牛頭となり、人狼は魔法適正と魔力量は低い方である。


 この五種族は、互いの弱点を相互研修によって克服し、バランスを保っていた。しかし、稀にその種族の適性を超える者が現れる事がある。


 それが人狼の魔王フェンだ。


 魔界最高位である先代魔皇が引退を表明し、次期魔皇決定戦が開催された際、各種族から代表が選出され、それぞれ魔力、知力、体力、時の運を競った。


 そこで最後まで残ったのが、フィーアとフェンだった。


 最終的にフィーアの魔力量がフェンの魔力量を上回り、フィーアに軍配が上がったが、下馬評を覆しての第二位は魔界の各種族にその名を知らしめる事となった。


 これは転生前のフィーア全盛期の頃の事である。実質、魔界においてフィーアに次ぐ戦闘能力を持っていると言っても過言ではない。


 その魔王フェンが、神の使徒幹部『神脚』の蹴鞠と隠れていたもう一人の蹴りによる同時攻撃を受けて頭部が粉砕された。


「…フフフ、手応えありじゃ…!!魔王と言えど只の獣に過ぎぬ…」


 半分潰れた魔王フェンの首が捥げて、地面に落ちて転がる。首と離れた身体はドサリとその場に倒れた。


「…どれ、この潰れた頭を手土産に魔皇とやらに会いに行くかのぅ…」


 無残にも半壊し、転がり落ちた首を掴み上げようとしたその時、死んだはずのフェン眼がカッと開き、その口がニヤッと笑う。


「…これで勝ったつもりか?我はまだ死んでおらんぞ…?」


 首が捥げ、半分潰れたフェンの頭がドロリと解けてていく。慌ててその首から手を離した蹴鞠は後退さりした。


「…どういう事じゃ…何が起こっておるのかえ…?」

「…魔族の力、見るが良い!!『暴風魔戦刃(ぼうふうませんじん)』!!」


 瞬間、溶けたフェンの頭が爆裂して巨大な円形ノコギリが出現し高速回転する。危険を察知してすぐに飛び退く蹴鞠。


「…くッ、何故首が飛んで死んでおらんのじゃ…確かに身共はお主の頭を蹴り抜いて完全に潰したはず…」


 その巨大ノコギリ状の攻撃よって、蹴鞠は着物を切り裂かれ腹部を斬られていた。その腹部から血が流れて滴る。


「…どこに隠れておる…?魔障気は身共の『真煙(しんえん)』で使えぬはず…」

「お前は我の話を聞いてなかったのか?魔族の真価は『魔障気』に非ず…。お前も闘うなら、真の力を見せよ。『天使』の力が使えるのだろう?」

「身共と同じ様に、お主らも情報を持っているという事か…。しかしそれをやるとお主らはこの地で生きてはおれなくなるが良いのかえ?」


 蹴鞠の忠告に鼻を鳴らして笑うフェン。


「…そうなるかどうか。試してみるが良い。我は魔王。我も真の力で応戦するとしよう…」

「…ふむ。ならば遠慮なく力を開放させて貰うとするかのぅ…。天使の力、見るが良い!!天使エクスぺリエル、顕現ッ!!」


 蹴鞠が叫んだ瞬間、その背中に大きな深紅の翼が現れ、蹴鞠の全身に赤い線が無数に浮かび上がる。


 その瞬間、周辺の空気が流れ晴れていく。流れる風の中から魔王フェンが現れた。


「…スキルも、ま、魔法も…隠れるだけの能力、など…さすが獣、じゃ…け、獣は…大人しく、こ、小屋にでも…入っておるが良い、ぞえ…」

「…リンクが完璧では無いようだな。そんな中途半端な力で魔王に勝つつもりとは。しかしこちらは容赦はせんぞ?」


 フェンの言葉の直後、蹴鞠の全身がブレる。その瞬間、フェンの目の前まで接近した蹴鞠が赤く光る脚で蹴りを放つ。


「『神鞭脚(しんべんきゃく)!!』」

「…遅いッ!!魔力開放二段階!!『風魔閃捷(ふうませんしょう)!!』」


 叫んだフェンは、高速で蹴鞠の背後を取る。


「貰ったッ!!『風魔戦刃(ふうませんじん)ッ!!』」


 右掌の先、銀色に光る魔力を込めた爪が蹴鞠の背後から襲い掛かる。それを振り向きざま体勢を下げて攻撃を躱した蹴鞠は、低い位置から右の後ろ廻し蹴りでフェンの脚を薙ぎる。


 しかし低い体勢の蹴鞠に、フェンは続けて左手の爪で斬り上げていた。互いの攻撃が激突し火花を散らす。力が拮抗し一瞬、お互いの動きが止まるが、フェンが蹴鞠の足を掴むと振り回して建物に激突させた。


 魔界に似つかわしくない鉄筋コンクリの壁を突き破り、蹴鞠は崩れたコンクリの塊の下敷きになる。


「まだまだ行くぞォ!!魔力開放三段階!!『風魔神憑依!!』オオオッ…!!」


 フェンの肉体に風の魔神が憑依する。


「さぁ、来いッ!!これで終わりではないだろうッ!?」


 フェンが叫んだ瞬間、瓦礫の中から赤い光線が無数に飛び出しフェンを襲う。しかし風の魔神と一体化したフェンは、その光線を掻い潜り蹴鞠が隠れる瓦礫へと高速接近する。


 瓦礫からゆっくりと浮き上がる蹴鞠の全身が強く赤く光を放つ。


「『フェザーブラスト!!』」


 叫ぶ蹴鞠の背中の赤い翼が大きく拡がったかと思うと、硬質化した羽が流星雨の様にフェンの頭上に降り注ぐ。


 その攻撃を自らが回転しサイクロンとなって弾き返すフェン。そしてそのまま宙で羽での攻撃を続ける蹴鞠に接近するフェン。


 今にも二人が激突する寸前、小さな影が二人の間に割り込んだ。



「おんしらっ!!ここで暴れるのは止めんかっ!!」


 二人の攻撃の間に割って入ったフィーアが叫ぶ。サマーソルトキックで蹴鞠の顎を蹴り抜いて吹っ飛ばし、更にフェンのサイクロン攻撃を右の小さな掌に『闇の渦巻き』を発動させて止めた。


「…フィーア様ッ!!何故止めるのですかッ!?」

「おんしらがこれ以上暴れるとせっかく創った街が全壊するじゃろっ!!」


 その言葉にギロッとフィーアを見るフェン。


「…同胞の住民、全てがそこの神の使徒なる者に虐殺されたのだ!!住まう者のいない街などなくとも良い!!」

「その同胞が創った街をおんしは簡単に壊すんか?それはわっちが許さんでなっ!!とにかく、ここで闘うのはダメじゃ!!」

「ならばどこで闘うと言うのか!!あれ程の者をどこに取れて行くと言うのだ!!」


 言い募るフェンに、得意気に言い放つフィーア。


「それが出来るヤツをこれから呼ぶでな?専門家と言ってもいいくらいなんじゃ…。そいつが、あやつを移動させて弱らせるからの。その後、わっちらでアレをボコボコにするんじゃ!!」


 フィーアの説明に、半信半疑のフェンは顔を顰めたままだ。


「…フェンよ。まずはお嬢様の言う事を聞くのだ!!」


 後ろから現れた大きな牛頭の男が、フェンの肩を強く掴む。


「…美濃殿か…その専門家とやらは本当に来るのか?それに我が止まっても相手の方は止まらぬぞ?」


 フェンが言った通り、蹴鞠は『フェザーブラスト』を止められて吹っ飛び、後退していたが、すぐにフィーアに向かって突進する。


「…ぉ、おちび、お前…が、魔皇だ、な…?さ、探す手間が…省けたぞぇ!!覚醒、紅蜘蛛八衝脚!!」


 片足から繰り出される連続蹴りを難なく躱すフィーア。


「…いいからおんしもわっちの話を聞け!!おんしの相手はわっちらではないじゃろうがっ!!」

「いや、アルギ、スに止めを…刺したのは、おちび、お主…であろぅ?その借りを身共、が…返しに来た、だけじゃ!!…出でよレフティ!!」


 蹴鞠が叫ぶと、再び男が現れる。


「あれは確かにわっちがとどめを刺したが、その前に弱らせたヤツがおるんじゃ!!そいつを連れて来るからちょっと待つんじゃ!!」


 しかしそんな話に聞く耳持たない蹴鞠はレフティと共に、フィーアに向かって同時に蹴りを放つ。


「…し、神鞭二連脚ッ!!」


 一回目の蹴りを躱したものの、続く回転からの後ろ廻し蹴りをまともに喰らうフィーア。吹っ飛ばされたフィーアの腹を膝で蹴り上げるレフティ。


 上に蹴り上げられたフィーアは、上空で待機していた蹴鞠の百八十度開脚踵落としを喰らって地面に激突した。


 しかしフィーアはさして何もなかったかのように土埃の中、地面に立っていた。良い様に蹴られ、吹っ飛ばされていたが、気付かれない様に上手く相手の力を読んで流して蹴られたフリをしていた。


 フィーアはポケットから黒い小さな箱を取り出すと突然、その小さな黒い箱に向かって喋り始めた。


「…もしもしでな?リーや、おるかの?」

≪…はいはーい、いますよ~何か御用ですか~?≫

「緊急事態じゃ。『神の使徒』の幹部が来たとほわいとに伝えて連れて来てくれんかの?魔界の最北にある人狼の街じゃ…」

≪はーい、すぐに連絡して向かいまーす!!≫


 通信を切って、すぐに向かうと言う妖精リーアに、追加で注文を付けるフィーア。


「クレアは呼ばんでな?あやつがくると魔界がめちゃめちゃになるからの…」

≪…はーい。じゃ、アンソニーとティー様とシー様を連れて行きまーす!!≫


 それを聞いてすぐに通信を切るフィーア。そんなフィーアに向かって突進する蹴鞠とレフティ。


「…ふ、フザケた…おちび、じゃッ!!戦闘、中に…で、電話するなど…」

「おんし、今アルギスをギッタギタにした張本人を呼んだでな?いいからもう少し待つんじゃ。ちなみにこれは電話ではないんじゃ。発信専用魔界通信機じゃ!!頭の角カチューシャが受信機になっておる…」

「…そ、そんな事はどうでも、良い…。その者が現れる前に、おちび、お主を…け、蹴り殺して、おいてやろう、かのぅ…」

「…ほんに解からんヤツじゃのぅ…。今、アルギスをギッタギタにしたヤツを呼んだと言うたじゃろ?ちょっとくらい待てんのか?」


 しかしそんなフィーアの言葉を無視したまま、高速接近する蹴鞠。蹴鞠の放つ蹴りを悉く、小さな体を捻って避けるフィーア。


 まるで体操し、くるくると踊るかのように激しい蹴鞠の蹴りを軽く避けていく。蹴鞠のミドルキックを伏せて避けた直後、うつ伏せになったままのフィーアに踵落としを見舞う蹴鞠。


「…ひらひら、か、躱しよって!!…だが、こ、これで、終わりじゃ!!この、大陸制覇も、時間は…か、掛かるまい!!」


 しかし蹴鞠が右脚を上げたその瞬間、おかしな掛け声と共に割って入る男がいた。


「…ンンッ!!トゥッ!!」

「…おっ、もう来たんか!?ほわいとっ…そいつが『神の使徒』幹部…んっ?おんし誰じゃ…?」


 飛び出したその男をうつ伏せのまま見上げるフィーア。男は百八十度上げた蹴鞠の右脚を、同じく右脚で蹴り上げて完全に止めた。

 魔族の一種族、魔小人(マコビト)は魔力の高い小人ですwイメージは白〇姫の七人の小人w

天使エクスぺリエルの名前は創作。

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