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侵攻。

 今回から『魔界と東鳳と時々、図書館』編を始めます。よろしゅうです~。

 ―魔界。それは最後のフロンティア。


 そこには人間の想像を超える文明があり、魔族が多く住んでいる。この世界における魔界とは、別次元にあるモノではなく、きちんとこの星に存在する。


 西大陸と東大陸のある北半球に対し、南半球。その南半球にドーナツ状に広がる地続きの大陸がある。


 この星では赤道を越える南の海域を『魔海域』と呼ぶ。強く巨大な波と、魔力を持った海獣類などが多く生息し、南半球の謎を解明しようとした多くの調査船団を吞み込んできた。


 そしてその魔海域の先にあるのが『魔界大陸』である。ドーナツ状に広がる大陸の中心、氷の世界に覆われた南極に当たる場所に、魔皇の住まう『魔皇城』があった。


 この物語は、異世界に召喚されたアンソニー・ホワイトが目にした、驚異に満ちた魔界での体験記である…。



 赤道を少し越えた魔海域の荒波の中、クロールで泳ぐ一人の男がいた。その男は全身タイツにカラフルなフルフェイスを被っていた。


「出会いは~♪億〇万の胸騒ぎぃ~♪命の煌きエキゾ〇ックジャパァァン♪」


 男は、荒波に揉まれながらも、陽気に歌いつつ南に向かって泳いでいた。


 男が魔海域に侵入してから泳いで来た経路を見ると、巨大な海獣が数体、力を失って、ぷかぷかと浮かんでいる。


「アーッハッハ―ッ!!こんな事ではわたしは諦めんぞっ!!海獣くん達よ!!」


 そう叫ぶと、今度は元気良くバタフライで波の上を飛ぶ。男は何も知らず飛んだ所、巨大な何かに当たって弾かれた。


「…ぁイタァっ!!アーッハッハ―ッ!!今度は誰かなーっ…!?この正義のお兄さんと遊んで欲しいのはっ!!」


 波に揺られ、楽し気に荒波の中、目の前の障害物を見る男。その目の前には巨大なイカの怪物がいた。


「ハッハーッ!!デカいな!!今度はイカくんかっ!!」


 いきなり巨大な吸盤の付いた足で攻撃される男。それを寸で見切りスッと掌で撫でるように捌く。しかし別の脚で吹っ飛ばされて飛んでいく男。


「アーッハッハ―ッ!!元気が良いなっ!!イカくんよっ!!」


 叩かれ吹っ飛ばされながら陽気に笑う男。激しいイカ足での攻撃を、笑いながら喰らい続ける男。しかし、暫くして攻撃していたはずのクラーケンが徐々に力を失い、弱くなっていた。


 数十分後、ついに巨大イカは力を失って動かなくなり、海上にぷかぷかと静かに浮かんでいた。


「…フフフ、イカくん。キミのお陰でまたわたしは体力を補充出来たよ!!ありがとうっ!!」


 そう言うと、男はクラーケンの足の先を手刀で斬り落とすと、齧り付いて食べながら、再び南を目指して今度は平泳ぎで進み始めた。



 王都北区、北東。


 先の防衛戦で褒章として『家』を貰った俺は、皆と指定された場所にいた。しかし、俺はそれを見た瞬間、叫んだ。


「…なっ、なっ、なんじゃこれはあァァーッ!!」


 俺が見たその先にあったのは、小高い丘の上に建設されていた大きな『館』だった。館のある上から、下に降りて行くと幾つかの小さな建物があり、中世日本の山城を思わせる作りになっていた。


「…ア、ァ、コ、コレ、『イエ』チガウ~ッ!!コレ、『オシロ』アルヨ~ッ!!」


 俺が叫ぶと、抱っこしていたフラムがケラケラ笑う。


「確かにこれは『家』ではありませんね。館と呼んだ方が良いでしょう(笑)」


 エイムもそれを見て笑っていた。


「これはちょっとした貴族屋敷じゃな」

「大きいでしゅね~。ほんとにここで合ってるでしゅか?」


 シーちゃんに言われて俺は商業ギルドで貰った紙を再度開く。ざっくりではあるが、矢印で『ココ』と書いてあるので間違いないだろう…。


「…取り敢えず入ってみようか?」

「そうですね。まずは入って中を確認してみましょう」


 皆で『館』に入ろうとした時、突然後から声を掛けられた。


「どうだ?立派な『家』だろう(笑)?」


 振り返って見ると、そこにウィルザーが笑いながら立っていた。


 …コイツ、しれっと現れやがったw


「…案内がてら、この建物について説明をしておこうと思ってな」


 そう言いつつ、ウィルザーが先に門を開けて入って行く。俺達はウィルザーに続いて門を潜り、敷地内へと入った。


◇ 

 

 その頃、魔界大陸の人狼族(ワーウルフ)の街に、一人の女が降り立っていた。その女は長く黒い髪を、数本の(かんざし)で留め、顔は白く細面。黒く丸いまろ眉に切れ長の眼、赤いアイシャドウを眼の周りにあしらっていた。


 カラフルな着物に身を包み、深紅の唇でキセルを吹かすその女は、辺りの人狼族を見渡し呟く。


「…ふむ。魔獣の手合いの割に身共が思うより中々発展しておるのぅ…」


 突然、天空から降り立ったその女に驚き、戸惑う人狼達。その中の一人が、街の警備隊を呼びに走った。


 女は周囲を見渡すと声を上げる。


「身共は神の使徒、『神脚』の蹴鞠御前(けまりごぜん)と申す。よろしゅうに…獣の皆さん。ではさっそくなのじゃが『殺戮』を始めさせて貰いますえ…」


 そう言い放つと、近くにいた人狼に接近する蹴鞠御前。


「蹴鞠闘戯・紅蜘蛛八衝脚(べにぐもはっしょうきゃく)!!」


 言うが早いか着物の裾を持ち上げた蹴鞠は下駄を履いた右脚を上げ、高速の連続蹴りを見舞う。連続で蹴られ続け、倒れる事も許されず、人狼は頭を潰され、首を折られて心臓を抉られていた。

 

 蹴鞠はそれを足技のみでやって見せた。


 元、人狼だったモノが、ドサリとその場に倒れ伏す。その瞬間、人狼の街はパニックに陥った。



 ―数十分後。街の中、人狼の死体の山の上で蹴鞠がキセルを吹かす。死体には人狼の男のみならず、女も子供も等しく蹴り殺されていた。


 その死体はいずれも原形を留めていない。


「…これはこれは、全く手応えがありませぬのぅ…。これが魔族の一角を形成している人狼族とは…所詮、獣は獣。ほんに、残念な…」


 そう言いつつキセルを吹かす蹴鞠は嬉しそうに口角を上げる。


「…しかしこれだけの肉と毛があれば中々良い毛毬が出来そうじゃ。のぅ…お主は身共を満足させてくれるのかのぅ…?」


 そう呟いた蹴鞠の背後には、怒りに震える軽装の鎧に法衣を纏った体長二メートル程の人狼がいた。


「…これはさっそくの強そうな獣のお出まし、身共は嬉しゅうございます…」


 そう言うと死体の山から一瞬にして飛び上がり、着地する。


「…身共、神の使徒、『神脚』の蹴鞠御前と申す。お主はどちら様かえ?」

「魔王の一角、『人狼の魔王』フェン・ルーガルである。神の使徒か…。フィーア様から聞いておる。この魔界大陸に降り立ち、生きて帰れると思われるな…」

「…フフフ、獣如きがよくも大層な口を利くものじゃ!!」


 そう叫んだ瞬間、蹴鞠が魔王フェンに片足を上げて高速接近する。しかし、フェンの側頭部にハイキックが決まったかと思いきや、あっという間に蹴鞠の目の前から消えた。


「…魔障気『隠遁の風』…」


 フェンは静かに風に同化すると、多方向から現れては、蹴鞠を爪で斬り付けていく。


「…これはこれは…『魔王』を名乗るものが隠れて闘うとは…笑止…」

「…なんとでも。我は魔界に侵攻して来た命知らずを抹殺するのみ…」

「…ふぅ、そうかえ…ではその実力まだまだ見せて貰うかのぅ…」


 そう言いつつキセルを吹かす蹴鞠。そして吐いた煙が動いた瞬間、瞬時に振り向くとハイキックを放つ。


「…ぐッ…!!」


 その蹴りはフェンの実体を捕らえていた。ここぞとばかりに高速で連続蹴りを放つ蹴鞠。


「蹴鞠闘戯『黒蜂穿孔脚(こくほうせんこうきゃく)』!!」


 脚を上げた蹴鞠の膝から先が、対象を穿つように激しく高速で動き、フェンに襲い掛かる。しかし、一撃加えただけで、すぐにフェンは風と同化して消えた。


「…これが魔族固有の能力『魔障気』かえ…?しかしもうすぐそれは使えぬようになる…お主らのおちび大将に同胞がやられておるからのぅ…。その情報が身共にはあるのじゃ…」

「…ふむ。どうやらその様だな。そのキセルの煙か?最初は煙の動きで我を見ていると思っていたが…この煙には魔障気を無効化する効果があるのか…?」


 そう言ったフェンの姿が徐々に露になっていく。


「フフフ、姿が見えてしまえばお主が身共に勝てる道理などない。覚悟するぞえ?」

「…笑わせてくれる。神の使徒が何者かは知らぬが…。これで我が敗けるとでも思うのか?」


 そう言ったフェンが叫ぶ。


「我は魔王なりッ!!魔族の真価は『魔障気』に非ずッ!!」


 そう言い放つと一気に魔力開放をするフェン。辺りに高濃度の魔力が一瞬にして波状に拡がっていく。


「…では今一度、参るッ!!」


 叫んだフェンが一気に間合いを詰めて蹴鞠の頭を掴むと地面に叩き付けた。


「…ぐふッ…な、何ぞえ…?は、速さが…?」


 蹴鞠の頭を掴んだフェンはそのまま、蹴鞠を宙に投げる。


「…我が同胞を殺戮した罪、償ってもらおうか!!」


 叫んだフェンが、口からエネルギー砲を放とうとした瞬間、フェンは自身の頭部に迫る足の甲に気付いた。


 …マズイッ!!もう一人、隠れていたのかッ!!


 すぐにその足を左腕で受け流し、振り向きざま右手の爪で切り裂く。しかし、ギリギリでフェンの爪を躱した男は、バク転をしつつ距離を取る。


 直後、上空から落下する勢いそのままに、蹴鞠が百八十度開脚からの踵落としをフェンの頭上に打ち下ろす。


 既にその動きを見切っていたフェンは、バックステップでそれを避けた。瞬間、蹴鞠の踵落としが激しい音と共に地面を抉る。


 濛々(もうもう)と上がる土埃の中、再び背後から襲い掛かる『もう一人』の蹴りを、フェンは蹴りで対抗し弾き飛ばす。


 しかし、その直後に土埃の中から飛び出して来た蹴鞠が、フェンの背後からその膝裏を狙い、ローキックを放つ。それを食らってバランスを崩したフェンに、続く蹴鞠の左ミドルキックが襲う。


 そして『もう一人』もフェンの背後から、その延髄を狙い、蹴鞠と同時に前後からのミドルキックでフェンの首を蹴り潰した。

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