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一難去ってまた一難。

 …この記憶はっ!!


 …なんだw?


 俺の顔が大きく見える。あぅあぅ言いながら、俺を起こそうと小さな手で頬をぺちぺちしていた。周辺はまだ薄暗い。


 これはフラムの毎朝の行動だ。いつも俺より早く起きて、俺を起こしてくれる。という事は早朝だな。


 そのとき不意に、フラムの視点が高くなり俺から離れる。


「…そなたも早起きなのですね?」


 そう優しく声を掛けたのはクローナだ。フラムはクローナに抱き上げられていた。


「…あぅ~?(なぁに?) 」


「…ふむ。ただの人族の子かと思いましたが…。身体は人族だが魂は花の精か…。婿殿が花の精霊フローレンスがどうとか言っていたが…どうやら嘘ではない様ですね…」


 クローナはフラムを抱っこして観察している。どうやらこの記憶は、クローナと一緒に皆でスラティゴに宿泊した時のフラムの記憶のようだ。


 フラムを抱っこしてじっと見ていたクローナが突然、フラムに言葉を教え始めた。


「…さぁ、『ばぁちゃん』と言ってみなさい…」

「…あぁーぅぁ?(ばぁーちゃん?) 」


 クローナがフラムに『ばぁちゃん』というワードを仕込んでいる。あの時は人間を敵視しているような話し方だったがフラムを抱っこして満更でもなさそうだ。


 クローナはフラムを抱っこしたまま、真剣な顔で話を始めた。


「我が娘、クレアは若くしてわたしと父上に反発し里を飛び出した。頑固で人の話を聞かず、思い込みが激しい。そして考えて行動しない…」


 クローナはクレアの事をフラムに聞かせる。


「あの性格だからいつか、婿殿と喧嘩になる時が来ます。その時、そなたが止めて欲しい…」


 そうフラムに言い聞かせるクローナ。フラムはクローナの言う事をじっと大人しく聞いていた。


「…良いですか?二人が喧嘩をしたらそなたが間に入るのです。そしてただ一言、『ばぁちゃん』そう言えばいい。さぁ、もう一度、言ってみるのです…」


「あぁーぅぁ(ばぁーちゃん)」

「…そうです。さぁもう一度言ってみなさい。ばぁちゃん!!」

「あぁーぅぁ!!(ばぁーちゃん!!) 」

「…うむ。それで良い。二人が喧嘩になった時は頼みますよ?」


 そう言ってリフトアップをした後、そっとフラムを抱きしめる。


「龍の加護を与えます。そなたがいつ何時も安全である様に…」


 そして俺の傍にフラムを戻した。その後もフラムはじっとクローナを見ていた。その後、クローナは里へ帰る為の支度を始めていた。



 …そうか。クローナはクレアの性格からこういう事態を予測してたんだな…。


 目の前ではクレアが焦った様にリーちゃんに確認を取っている。


「リーよ、まさか母上が来ているのではあるまいな…?」

「…来てないけど…何でそんな事聞くのよ?」

「…フラムが…フラムが『ばぁちゃん』と言ったのだ…」

「…う~ん、たまたまクレアの殲滅拳打を見て思い出しただけじゃない?」


 俺は話している二人に近づいていく。


「…クレア、決闘はもう終わりだ。敵の始末も終わったし戻るぞ?」

「…くッ、主。母上が来ていると思って臆しましたか…?」

「…違う…そうじゃない。ほら、フラムに記憶を見せて貰えば解る…」


 そう言いつつ俺はフラムをクレアに抱っこさせる。フラムはすぐにクレアの頬にぺちっと触れて記憶を流した。


「…こッ、これはッ…!!」


 声を上げたクレアはその後、記憶を見ているのか、黙ってしまった。暫くして搾り出す様に声を出す。


「…くッ…母上…なぜこのような事を…。とんだ恥を掻いたではないか…」

「それは俺とお前の事を思っての事だろ?娘であるお前が相手を見つけた事を必ずしも手放しで喜んでいる訳じゃない。でも、こうなる可能性を読んでフラムに言葉を仕込んだ。認めてはいないが娘が自らの勝手で関係を壊してしまう事がないようにって考えたんだろ…」


 俺の言葉に、沈黙するクレア。暫くしてフンッ、と鼻を鳴らすと踵を返す。


「…もう良い。リーよ、戻るぞ。興が覚めた…」


 それだけ言い放つと、リーちゃんと共に転移で戻ってしまった。


 …しかし興が覚めたって…遊び半分で殺し合いしてたのかよ、アイツはっ!!

…はぁっ、マジで溜息出るわ…。


 俺はフラムを抱っこして皆の所へと戻る。


「ほわいと、おんしクレアの事はどうするんじゃ?」

「ああいうのは放っといた方が良い。何言っても今は聞かないだろうし…」

「そうじゃの。あのタイプは変に構うより放っておいた方がいいんじゃ…」

「そーでしゅ、ほっとけばそのうち機嫌直すでしゅ。単純でしゅからね…」


 何気にシーちゃんがクレアをディスってたw


 疲れているであろう皆を(ねぎら)いつつ、王都が心配な俺達はすぐに戻る事にした。



 王都東門の現場では、既に事件が収束していた。多くの人が原状復帰に奔走している。


 戻った俺達は、取り敢えずギルドへと向かう。報告はジョニー達に任せて、小腹の空いた俺とフラム、ティーちゃんとシーちゃんはギルドの料理屋のカウンターでおやつを食べる事にした。


 俺はパフェを注文。ティーちゃんは紅茶、シーちゃんはミルクを注文して、フラムにはオレンジジュースを、そして三人のおやつにバタークッキーをカウンターのおやっさんに頼んだ。


 皆とカウンターでおやつといつものドリンクを吞んでいると、上のギルマスの部屋から、数人のPTらしき男女が降りて来た。


 その中の一人が、俺達に目を付けて難癖を付けて来た。


「…オイッ、そこのお前!!ギルドに子供連れて来るんじゃねぇッ!!」


 …うるせえヤツだな。さすが大都市、めんどくせぇのがいるわ…。


 そう思いながら無視していると、男が近づいてくる。


「…オイッ!!止めろッ、ランディ!!」


 ランディと呼ばれた男は、止められたにもかかわらず、俺達の傍まで来ると大きな声で喚き始めた。


「…オイッ、コラッ!!テメェッ!!聞いてんのかッ!?ガキ連れて来るんじゃねぇッて言ってんだろうがッ!!」


 カウンターの中のおやっさんは苦々しい顔でランディを見ている。


「…はぁ、一々うるせぇなぁ?オマエはチンピラかよ?まだ明るいんだから別に子供連れて来ても良いだろ?この子らはうちの戦闘要員なんだよ…」


 俺は注文した特大パフェを食べつつ、チラッと男を見る。スキルは『光陰流天』という剣技か。剣技と体技一体の高速で動くスキルね…。しかし剣技のスキル持ってるのに、コイツ剣持ってねぇな…。


 考えている俺に喰って掛かる男。


「…テメェ、俺を舐めてんのかッ!?酒場でパフェなんか喰いやがってッ!!そんなガキくせぇモン喰ってんじゃ…」

「オマエ、トテモウルサイ。オラ、ハラヘッテリキデネェ。オマエノアイテ、シマセン、ムコウ、イクアルヨ…」


 俺がカタコトで喋ると、男は怒り出した。


「…ッ、テメェッ!!俺をバカにしてんのかッ、フザケんじゃ…」


 俺はプチッときて思わず大きな声を上げた。


「さっきからうるせぇんだよッ!!バーカ!!お前は何様だよッ!!こっちは好きな酒飲めなくてイラついてんだよッ!!だからパフェ喰ってんだろうがッ!!このボケがッ!!死にたくなかったらさっさとあっちいけッ!!しっしっ…!!」


 いきなり俺に怒鳴られた男は、驚いて言葉を止めるも、顔を真っ赤にして更に怒り始めた。


「…テメェッ、上等だッ!!表出ろッ、コラッ!!」

「オイッ、ランディ!!いい加減にしろッ!!行くぞ!!」


 ランディはアサシン風の男に肩を掴まれ止められるものの、それを振り払ってパフェを頬張る俺に今にも飛び掛かって来そうだ。俺はすぐに立つと応戦した。


「おうッ!!やってやるよ!!このチンピラ風情がッ!!パフェ喰うから先に外行って待ってろッ!!」

「…テメェ、いい度胸してんな!!早く出て来いッ!!待ってるからなッ!!」


 そう言い放った男はプンスカ怒りながらギルドの外へと出て行った。


 他のPTメンバーは溜息を吐いたり(魔導師?) 、肩を竦めて呆れたり(回復士?) 、ごめんねごめんね、とうちのちびっこ達に謝ったり(格闘家?)と色々だ。


 俺は男が外に出て行くのを見届けた後、椅子に座り直してゆっくりパフェを堪能する。


 「…んーっ、やっぱり疲れた時には甘いものが一番だな!!」


 俺がゆっくりゆっくりパフェを楽しんでいると、ティーちゃんに突っ込まれた。


「…アンソニーよ。何をゆっくりしておるんじゃ?さっきの男と闘わんのか?」

「…え!?あんなバカの相手にする訳ないじゃん。疲れるだけだし…」


 そんな事を言っていると痺れを切らしたランディが、ドカドカと戻ってきた。


「オイッ、テメェッ!!いつまで待たせんだ、コラァッ!!」


 戻ってくるなり喚き散らすランディ。俺はそんなヤツを見てプッと笑う。


「アレw?…お前、誰だっけw?」


 瞬間、ランディの顔が怒りマックスで阿修羅のように真っ赤になった。そんな中、ミルクを飲み干したシーちゃんが背の高い椅子からスルスルと降りるとランディを見上げる。


「…ぉっ?シーちゃん!!やるなら優しく叩きのめして上げてw」

「…なんだッ、チビッ!!やんのかッ!!」

「さっきからうるさいでしゅっ!!ミルクがまずくなるでしゅっ!!」


 息巻くランディにシーちゃんがいきなりジェットを掛けて、その脛を蹴り上げる。


「…痛てぇッ…こッ、コイツッ…!!」


 脛を蹴られて前屈みになったランディに、そのままサマーソルトキックを喰らわせるシーちゃん。


「…グワッ!!このガキッ!!」


 仰け反り、悪態を吐くランディ。しかしすぐにシーちゃんが空中で回転し、ランディの胸部に後ろ廻し蹴りを喰らわせた。


 その瞬間、ランディはギルドの外へと吹っ飛んだ。すぐにシーちゃんも追って行く。


 暫くして外から、うわぁッ!!グワッ!!うおッ、グハッ…と声が聞こえた後、急に静かになった。


 ドアが開いて、テテテっと戻って来たシーちゃんは、すぐに椅子にスルスルと上がるとカウンターのおやっさんにもう一杯ミルクを頼んだ。


「…シーちゃん、どうだった?さっきの難癖チンピラ男、強かったw?」

「ぜんぜんでしゅっ!!じゅんびうんどうにもならんでしゅっ!!」


 シーちゃんの言葉に、ランディのPTメンバーは顔を引き攣らせてドン引きしていた。


 その時、階上から更に数人が降りて来た。


「…やはり、ホワイトさん達でしたか。何かありましたか?」

「…んんっ!?エイムか!?どうしてここに居るんだ…!?」

「数日前にホワイトさんの『サンダーライオット』を確認しましてね。危険がないか念の為にこちらに飛んで来たのですよ」


 エイムに続いてジョニー、キース達も降りて来る。


「…旦那?何かあったのか?大きな声が聞こえて来たけど…」

「あぁ、俺がパフェ喰ってんのに、変なヤツが難癖付けて絡んで来てなぁ。さっきシーちゃんが叩きのめしたw」


 俺の言葉に、ジョニー、キース達が残されたPTを見る。


「…霍延(かくえん)。今の話、マジか…?」


 キースに聞かれた霍延と呼ばれたアサシン風の男が頷く。キースの隣にいたジョニーが思わず呟いた。


「…うわッ、知らねぇってコワいな…」


 ジョニーの呟きに、頷くキース達。一方、残されたPTは強張った表情で顔を見合わせた。


 そして霍延がエイムに確認を取る。


「…エイム、確認したいんだが…。そこに座ってるのがさっきアンタが上で言ってた人か?」

「はい。そうです。そこにいるのがホワイトさんとお子様達です。わたしの雇い主ですね」


 エイムの言葉に、チラッとお互い、視線だけを合わせるPTメンバー。


「…という事は…あの数日前の『巨大雷撃』の…?」


 霍延の言葉に、エイムが頷く。


「…うわっ!!ランディ、やっちゃったね…」


 格闘家の男が顔を手で覆う。魔導師の男は溜息を吐いて肩を竦め、回復魔導師の女は眉間に手をやって目を閉じていた。


「まぁ、立ち話もなんだからアンタらもそこに座れば?なんか飲む?」


 俺が席を勧めると、霍延がすぐに宿舎に戻ると言う。この後、今回の戦争での動きなどについて反省会をするそうだ。続けて魔導師の男が話す。


「先程はリーダーが失礼した。俺はフィン、そこのアサシンが霍延、デカいのがシグルス、赤髪釣り目がカシスだ。今回の事はランディによくよく反省させるので許して貰いたい…」


 えぇっ!!アイツがリーダなのかよッ!!


 …って激しく突っ込みたい所だったが、気にしないでくれ、とだけ伝えておいた。


 ランディPTの面々と挨拶をして、ギルドを出て行くのを見届ける。


 改めてジョニー、キース達にエイムを紹介しようとしたその時、ランディPTと入れ違いで、リベルトが足早に入って来た。

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