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ドラゴンブレス。

 巨大ガーゴイルをサマーソルトキックで仰け反らせた後、その首を掴んで空に投げたクレアが、真下で口を開けて大きく息を吸い込んだ。


 その口の前に高圧縮された黒い球体のエネルギーが現れる。慌てて皆を退避させようとした俺の前に、突然フィーちゃんが現れた。


「ほわいとっ!!やっぱりおんしらが来とったんか!?さっき一瞬時間が止まったでな?おかしいと思うたんじゃ…」

「…あぁっ!!フィーちゃんっ!!クレアが『ブレス』やるからそこから下ってッ!!」


 俺の言葉に、慌てて振り返ったフィーちゃんが叫ぶ。


「んんっ!?クレアのヤツっ!!なんでここで『ブレス』やるんじゃっ…」

 

 そう言うと、フィーちゃんはすぐに前面に魔障壁を張った。突然現れたフィーちゃんに驚いたキースが声を上げる。


「…なんだ!?あのちびっこは?どこから来た!?」


 ジョニーも突然現れた幼児に驚き、俺に呼び掛ける。 


「…旦那ッ、ヤバいぞ!?あの子供は大丈夫なのか!?」

「あぁ、あの子は俺より強いから大丈夫だ!!」

「「「「「…はッ!?」」」」」


 俺の返しに一瞬、ジョニー達の眼が点になる。皆、驚いて動きが止まってしまった。


「それより早く出来るだけここから離れてくれ!!あの攻撃はヤバい!!」


 エネルギーの強さが、以前見たブレスの時より格段に高い。下手をするとこの辺り一帯を巻き込むかもしれない。


 俺の叫びに、我に返った皆はすぐにその場から離れていく。しかしその瞬間にクレアが滞空したまま、上空に向かってブレスを放った。


「極大ッ!!『黒閃咆ッ!!』」


 クレアの叫びと同時に、その黒い球から強い波状のエネルギーが一気に拡がったかと思うと、超極大の黒閃咆が放たれた。


 …ゴゴゴゴッという凄まじい音と共に大地に衝撃波が走る。大地が振動する中、極大のドラゴンブレスが、巨大ガーゴイルを呑み込んで一気に消し去った。


 フィーちゃんが広く魔障壁を張ってくれていたおかげで皆、衝撃波を喰らう事はなかったが、ティーちゃん、シーちゃん以外のメンツは、クレアの『ドラゴンブレス』に顔を蒼褪めさせていた…。



「…ふ~ん。ガーゴイル倒すのにこんな所まで来たんか。しかしあんなのは送り主の元に返してやるのが一番いいでな?ほわいと、おんしならそれができるじゃろ?」


 …あぁっ、そうかっ!!その手があったか…。気張って倒す必要なかったな…。全然気付かんかったわ…。


 フィーちゃんの言葉に、俺はがっくりした…。


 皆がフィーちゃんを囲んで話す中、ガーゴイルの処理を終えたクレアが近づいてくる。


「…なんだ?フィーも来ていたのか…」

「…クレア。ここは魔族の更生地と避暑地を兼ねておるでな?ここで暴れるのは止めて欲しいんじゃ…」


 フィーちゃんの苦情に、クレアは俺の方を見て言う。


「ここにガーゴイルを連れて来たのは主でしょう?わらわは流れでガーゴイルを倒したまでだ。そんな事より…」


 そう言いつつ話を続けるクレア。


「『浮気』についてきちんと話して貰いますぞ?主。正直に話せばわらわとて怒りはしません。まぁ今回は初犯ですからな…」


 もう既に、俺が浮気をしていたという前提で話すクレア。しかし、ジョニー達はそんな事よりも俺達とフィーちゃんについて知りたいようだ。


 俺の後ろから、そっとジョニーが聞いてくる。


「…旦那、その人は誰なんだ?さっきの攻撃は何なんだ?しかも旦那の子供達と言い、さっき来たそこの子供と言い…謎が多すぎるぞ?」


 俺の後ろからひそひそと聞いてくるジョニーに対して、クレアがギロッと睨みを利かせる。


「…オイッ!!今はわらわが主と話しているのだ。お前は黙っていろ!!」


 そう言われて、ジョニーはさっと俺の後ろに隠れる。それを後ろから見ていたレイザが、ジョニー以下PTメンバーにクレアについて説明を始めた。


「…今は擬人化されていますが、この方は偉大なる黒龍であるクレア様です」


 『黒龍』という言葉に、信じられない面持ちでジョニー、キース、アマナが顔を見合わせる。


「…俺は匂いでなんとなく気付いてたけどね…。下界に降りてるって噂もあったし…」


 そう言ったのは犬獣人のルドルフだ。犬獣人だけに嗅覚が人間よりも優れているのだろう。レイザとルドルフの話を聞いたジョニー達は顔を強張らせていた。


「…レイザの言った事、ホントなのか…?」


 俺は話すべきか考えていたが、もう既に精霊魔法も魔導格闘、更にクレアのドラゴンブレスも見てるし、そのブレスを防いだフィーちゃんの魔障壁も皆が見てる。


 誤魔化しようがないので、俺達の事についてざっくり話す事にした。



 俺は、ティーちゃんとシーちゃんが、妖精族である事は伏せたまま、それぞれ精霊魔法と無属性魔法が使える事を話した。


 フィーちゃんは自分で『魔皇』だと自己紹介していたので、俺からの説明は省いておいた。


 『魔皇』についても皆、半信半疑だったが、クレアのドラゴンブレスの衝撃波を完全に防いだ魔障壁を思い出し、信じざるをえないようだ。


 続けてフィーちゃんは『魔皇』は魔界大陸を統べる『五大魔王』の頂点に立つ者でとても偉いんじゃと説明していた。


 クレアについては、レイザがその正体に気付いたので、黒龍である事を肯定しておいた。


「…という事はさっきの攻撃はやっぱり…」


 そう言いつつキースがジョニーを見る。


「…ドラゴンブレスだな…」


 俺の説明に、納得するジョニー達。しかし、そこで思い出した様に浮気の事について説明を求めるクレア。


「…主、我々の正体などどうでも良いでしょう?早く浮気の説明をして頂きたいものですな」

「…あぁ、仕方ないな。それも説明するよ…」


 しかしそうは言ったものの、説明してクレアが納得してくれるかどうか…。話の前にまず、俺とクレアの『浮気』に対する考え方の違いについて話しておかないとだよな。


 …じゃないとたぶん話が全然進んでいかないだろうからな…。


「これから説明するけど先に俺とお前の『浮気』に対する考え方の違いを話しておく。クレアは俺が女と話しただけでダメなんだろ?」

「そうですな。当然です!!」


 力強く言い放つクレアに、俺は俺の考えを話す。


「まず浮気に対する俺の考えとしては、話をするくらいはセーフだと思ってる。例えば相手に好感を持っていて話をしてもそれだけじゃ『浮気』にはならないと思うね。ここまでは俺個人の考えね…」


 一旦、呼吸を置いて、俺は話を続ける。


「ギルドからの『罰』で孤児院とか児童施設を周ってたんだ。そこにたまたま同じ様にボランティアに来てた女性がいて話をしたんだよ。本に詳しいみたいで、俺も小さい頃から本をよく読んでたし、それで少し話した程度だよ?」

「…むむむッ!!その女は書籍に詳しいのか…。主は何故書籍が好きなのですか?」

「それは俺のオヤジがかなりの本を買い揃えてくれてたからだよ。だから小さい頃から本をよく読んでたんだ。まぁ、それは良いとして…」


 そう言いつつ、説明を続ける。


「先に話した事を踏まえて、今回の件については『浮気』とは思っていない。そもそもの話、俺とお前は付き合ってもいないし結婚もしていない。だからこの事について浮気だと騒いで追及されるいわれもない…」

「うぬぬぬッ!!よくもぬけぬけとッ!!まだそんな事を言うのですかッ!!」


 俺の言葉に両拳を握って怒りを露にするクレア。


 …いや、だからいい加減理解しろよ?一体、コイツの脳内はどうなってんだか…。俺達の関係こそ、あくまでも皆の前での『フリ』のはずだろう?


 ていうかコイツにとってはこの事を変に追及しない方が良いと思うけどな…。その方が周りが勘違いしたままでいてくれるだろうし…。


 しかし、俺の主張に、両拳を握りしめたまま無言で怒りが収まらないクレア。俺達のやり取りに恐怖を覚えたのか、全員少しづつ少しづつ離れている…。


 そんな中、クレアが俺に向かって言い放つ。


「…解りました。話は平行線ですな。ではどちらが正しいか、勝負によって決めましょうか!!」

「いや、何でそうなるんだよっ!!どっちが正しいかは既に分かり切ってるだろ!?何でお前はすぐに八十年代の少年漫画のバトル展開に持って行こうとするんだよっ!!」

「そんなことはわらわは知りませんなッ!!いざッ、勝負ですッ!!」


 そう言ったクレアが俺に向かって来た。闘いで決着とか苦し紛れも良いトコだよ…。やっぱり理解してくれなかったな…仕方ない。気が済むまで適当に相手をしてやるか…。



 付き合ってもいないし結婚もしていない事を断固として認めない…と言うか結婚している体で話すクレアとそもそも論の俺の話は当然だが平行線に終わった。


 苦し紛れに決闘で勝負を付けようとするクレアが俺に向かって突進してくる。俺はすぐに転移でフラムを皆の所に預けた。


「…皆、フラムを連れて暫く離れていてくれ…」

「ほわいと、おんしどうするつもりじゃ?」

「…適当に相手して疲れさせてくるよ。フラムを頼む…」

「…はぁ、姉さまにも困ったもんじゃ…」

「…そーでしゅね…」


 俺はフラムを預けた後、クレアの側面にファントムランナーで接近する。


 すぐに反応したクレアが『殲滅拳打』を放ってきた。俺はそのままの勢いで『ストームラッシュ』で対抗する。


 同時にスキル『イミテーションミラー』を併用し、クレアの攻撃を観察して最適化していく。流石にかなりの攻撃強度だがクローナ程の厳しさではない。


 イミテーションミラーによってあっという間にクレアを押し込んだ。


「…くッ、まさか主がここまで強くなっているとは…」

「お前の攻撃は荒すぎるんだよ!!もうちょっと攻撃の精度を上げろよ!!」


 俺の突っ込みに、ムキになって攻撃してくるクレア。


「そんな戯言はわらわの本気を受けてからにして欲しいモノですなッ!!」


 そう叫ぶとクレアは右手から赤黒い闘気に、真覚醒薬アローゼルの効果を混ぜ合わせる。


「オオオッ、行きますぞッ!!『真・覚醒殲滅拳打!!』ウラウラウラウラァッ…!!」


 その瞬間、俺はすぐに左の掌にパプラズマバインドを中範囲で設定しプラズマを放出させる。同時にクレアの拳打の勢いを削ぐ為に左掌の上で『暴風雷塵』を発動させた。


 暴風雷塵がクレアのラッシュ攻撃の勢いを抑え、その間にプラズマがクレアの赤黒い闘気を少しづつ無効化していく。


 プラズマと暴風雷塵の範囲の中で、クレアの攻撃を防御する事により突然、俺の身体が光を放つ。同時に脳内にインフォメーションが流れた。


≪新スキル『ディセーブルスフィア(無効化する球体)』発現しました。≫


 俺が発現した新スキルによって、完全に勢いを止められたクレアは、すぐに飛び退いて後退すると瞬間、大きく息を吸い込んだ。


 …オイオイ!!まさかまたブレスやるつもりかよっ!?俺を殺す気かっ!!


 その時、フラムが転移を使って突然、俺の前に現れた。俺は慌ててフラムを抱っこする。すぐにフラムは俺の肩をポンポンと叩いて声を上げた。


「あぅぁー、あぁーぅぁ!!(パパ、ばぁちゃん!!) 」

「…ん?ばぁちゃん?フラム、ばぁちゃんがどうしたんだ?」


 『ばぁちゃん』というワードに、俺に向かってブレスを放とうとしていたクレアの動きが止まる。


「フラム、ばぁちゃんてどこのばぁちゃんの話をしてるんだ?」


 俺がフラムに確認していると、その目の前で焦った様に、周りを確認し始めるクレア。フラムの言う『ばぁちゃん』が誰なのか考えている俺の前で、クレアがブツブツと呟いている。


「…まさか…!?まさか母上がッ…!?」


 その呟きに、フラムが言うばぁちゃんの正体が誰なのか、なんとなく見当が付いた。その時、フラムが俺に記憶を流してくる。俺の頭の中で、記憶が再生された。


 …この記憶はっ…!!

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