分裂。
巨大ガーゴイルを粉砕する為に、皆に牽制攻撃をして貰う。まずはジョニーが液化で攻撃、シーちゃんはガーゴイルの顔面にジェットパンチ、キースが背後から暗器を飛ばし小爆発させる。
ガーゴイルがそこから動かない様に、犬獣人ルドルフと蜥蜴人レイザはその足元で接近と退避を繰り返し、攻撃していた。
モンクの女性、アマナにはメンバーの負傷に備えて俺の後ろで待機して貰っている。
俺は龍神弓を構えて鉄の矢に闘気を纏わせていく。今回は巨大ガーゴイルを粉砕出来るように極大のレーザーをイメージした。
目の前のガーゴイルは、あちこちから来る攻撃に半狂乱で両腕と共に翼を振り回している。時折、直接攻撃をしている亜人二人が押し込まれ後退させられる場面もあったが、上手く攻撃を捌いて動き回り、その足元で暴れていた。
「よしッ!!全員、すぐに退避してくれッ!!撃つぞッ!!」
俺の合図と共に全員が、ガーゴイルの周りから退避して距離を取る。それを確認した俺は、『闘気版、トルネードアロー』を放った。
「行けッ!!粉砕しろォッ、トルネードォォッ!!」
瞬間、極大のエネルギーがガーゴイルの腹に突き刺さる。ガーゴイルの目が赤く強く光り、闘気トルネードアローを両手で受け止める。
物凄い力でトルネードアローを潰そうとしたガーゴイルだったが、続くその周りをスパイラルしてくるエネルギーがその両腕を削っていく。
「グオォォォォッ…」
ガーゴイルはトルネードアローを止める事が出来ず、断末魔の唸りと共に上半身を爆散させた。
「よっしゃぁッ!!粉砕完了ォォッ!!」
牽制を終えて戻ってきた皆を労う。
「皆、良くやってくれた、ありがとう。お陰で巨大ガーゴイルを粉砕出来…」
俺の言葉はそこで止まってしまった。俺の後ろで同じくそれを見ていたアマナが声を震わせる。
「…あ、アレ…冗談でしょ…!?上半身が完全に消し飛んだのに…」
その声に皆が振り返る。
ついさっき、上半身が消し飛んだはずのガーゴイルが膝を付いて立ち上がろうとしていた。俺は思わず呟いてしまう。
「さっきの今でもう再生したって事か?冗談キツイいぜ…」
「…旦那、他に方法は…?何かあるか?」
ジョニーに聞かれて俺は考える。その間にティーちゃんとシーちゃん、レイザとルドルフが再び牽制を始めた。
少しでも肉体の欠片が残っていれば再生出来る、と仮定しよう。あのデカいガーゴイルの全体を巻き込んで完全に消滅させる、となると『サンダーライオット』では全てをカバー出来ない…。
…どうするか…。それが出来るとしたら『ビッグバンエンド』しかないな…。
考えつつ、皆をこの場から退避させようとしたその時、リーちゃんがクレアを連れてガーゴイルの手前に現れた。
「…主、こんな所で何をやっておるのですか!!」
「…何やってるって、お前の後ろのデカいのをどう処分するか考えてるんだよ」
俺の言葉に、後ろを振り向いて一瞥したクレアがフンッと鼻を鳴らす。
「…ガーゴイルか。あの程度のヤツなど主なら一気に叩き潰せるでしょう?何を遊んでいるのですか…」
「…いや、お前アレ、上半身吹っ飛ばしたのに復活したんだよ!!俺だって真面目に戦闘やってるわ!!」
俺達のやり取りを見たジョニーが後ろからそっと聞いてくる。
「…旦那、あの超絶美人は誰なんだ?…奥さんか…?」
「…いや、アイツはただの連れだよ。それより皆を連れてここから離れてて欲しいんだ…」
ジョニーの後ろで話を聞いていたキースとアマナがレイザとルドルフに退避の合図を送る。
俺も密談でティーちゃんとシーちゃんに退避する様に伝えた。同時に、牽制攻撃をしていたティーちゃんとシーちゃんもクレアに気付いたようだ。
「…なんじゃ?クレア姉さまが来とったんか?」
「何で姉さまはここに来たんでしゅかねぇ…」
「…とにかく、今から俺がガーゴイルを一気に消し飛ばすから二人も、皆と退避して…」
俺は再び、龍神弓を取り出すとティーちゃんとシーちゃんに代わってガーゴイルに向かってエネルギーショットで攻撃を始めた。
「オイっ、クレアもそこ退いてくれ!!今から俺がガーゴイル消し飛ばすから…」
俺がこれからガーゴイルを『消す』と説明しているのに、全く聞く耳持たず、スタスタと俺の方に向かって歩いてくる。
「…主、あの程度のガーゴイルなど後でどうとでも出来ます。それより大事な話があるのです!!」
そう言いつつ、真後ろの巨大ガーゴイルを無視したまま、俺の手前三メートル程で立ち止まった。
「…クレア!!話は後からでも出来るだろ?まずはアレを俺が消し飛ばすから…オイッ、クレア後ろッ…!!」
俺と話すクレアの背後からガーゴイルの巨大で鋭い爪が背後からクレアを襲う。クレアはチラッと後ろを見たかと思うとガーゴイルの指を右手指で掴み、捻り上げると、そのまま引き込みつつ裏拳を放った。
瞬間、ガーゴイルの右腕から右半身が消し飛んだ。そのまま真後ろに倒れる巨大ガーゴイル。
「…いや、主。話が先です!!リーのやつに聞きましたぞ?わらわと離れている間に、ボランティアをするフリをして『浮気』をしていた様ですなッ!!」
「…はっw?お前、何言ってんだ?ボランティアはフリじゃなくてギルド本部からの罰でホントに周ってるんだよっ!!しかも浮気って何だよ!?そんなの身に覚えが…って言うかまだ俺達は付き合ってすらないだろっ!!」
「…うぬぬぬッ、まだしらばっくれる気ですな?」
「…いや、お前俺の話聞けよw?『まだ付き合ってすらない』ってとこちゃんと聞いてたかw?」
話している間にも再び復活したガーゴイルが背後からクレアを襲う。
瞬時に反応したクレアが、振り返りつつ、ハイキックを放つ。一気にソニックブームが飛んでガーゴイルの上半身と下半身を真っ二つに切り離した。
大きな轟音と共に、土埃を上げて倒れる巨大ガーゴイル。
「…貴様は暫く大人しくしていろッ!!先に消されたいのかッ!?」
…いや、だからさっきから俺が消すって言ってるのにお前が邪魔してるんじゃねーかw!!
「…とにかく、浮気など許しませんからなッ!!」
「だからお前は一体何の事を言ってるんだよ!!て言うか先にガーゴイルやるからそこ退いてくれよ!!」
「…フッ、また話を逸らそうとしても無駄ですぞッ!!」
…ハァ、全く。コイツはどう言ったら理解してくれるんだよ、溜息出るわ。その時、俺の背中からフラムがヒョイと顔を出した。
「あぅぁ!!(はは!!) 」
「…ん?フラムよ、元気だったか?」
「あぅっ!!(うんっ!!) 」
元気なフラムの姿に、一瞬顔を綻ばせるクレア。しかし、すぐに表情を曇らせた。
「…子供がいると言うのにその目の前で堂々と浮気をするとは。全く持ってフラムの教育に良くない…」
ブツブツと一人呟くクレア。俺はチラッとクレアの後ろで倒れているガーゴイルを見る。クレアが何回か攻撃した事により、徐々にではあるが、ガーゴイルの再生のスピードが遅くなってる気がした。
よく見ると真っ二つになったガーゴイルの傷口に赤黒い炎が纏わり付いている。
…アレは確か…対象を浸食していくスキルだった…かな?アレが細胞の再生を遅らせているのか…?考えつつ、クレアを見るとまだ浮気がどうとかブツブツ言っている。その時ふと思い出した。
…あっ!!あの時の…セーナさんと話した時の事を言ってんのか!?アレを浮気だとか…コイツは何言ってんだ…。
「…やっと思い出したわ!!あのなぁクレア。お前が言ってるのってまだ『浮気』ってレベルじゃねーぞw?」
「むむッ!!しかし親しげに話し、二人で料理まで作っていたと聞きましたぞッ!?」
「それはたまたま流れでそうなっただけだよ。お前の『浮気』の定義ってどうなってんだよ!?」
「どうもこうも他の女と話したらもう『アウト』ですな!!」
クレアのその答えに俺は真顔で沈黙した。
これからこの先、残りの人生で俺はコイツ以外の女性とは誰とも話が出来んのかっ!!
「…お前、それいくらなんでも厳し過ぎだろう…?」
俺が異議申し立てをしていた所、ガーゴイル退治が進まないので一度離れた皆が戻ってきた。
「…旦那…夫婦喧嘩はそれくらいにしてくれ…まずいことになってるぞ!?」
ジョニーに言われて、クレアの後ろにいたガーゴイルを見た俺はギョッとした…。
◇
クレアの向こう側にいたガーゴイルは、元の大きさより少しだけ小さくなっていたが、分裂して二体になっていた。恐らくクレアが真っ二つにしてしまったからだろう…。
「…旦那、どうする?アレが二体となるとかなりきついぞ?」
改めて二体に増えてしまった巨大ガーゴイルを見る。一体をティーちゃんと大地の精霊ガイアス、キースと犬獣人ルドルフが、もう一体をシーちゃんと蜥蜴人レイザがそれぞれ攻撃している。
サポートでアマナが回復魔法をスタックして待機していた。
「…俺がやるよ。アレを消し飛ばせるスキルがあるんだ。まずは二体を出来るだけ離してくれ!!」
すぐにジョニーが動いてキースに一体を誘導して離れさせるように指示する。二体が離れた所で、俺はシーちゃんとレイザに呼び掛けた。
「…シーちゃんっ!!レイザっ!!俺と入れ替わりで退避だッ!!出来るだけ離れててくれッ!!」
まずはレイザがガーゴイルの足元から退避。同時に俺はガーゴイルに接近する。
「シーちゃんっ!!退避だッ!!」
シーちゃんがガーゴイルの顔を蹴ってその勢いで退避するのを確認した俺は闘気ハンドを出してガーゴイルの脇腹を掴む。俺はクレアが接近してくるのを確認したが距離があったので、そのままスキルを発動した。
「『ビッグバンエンド』!!」
発動ワードと共に、ガーゴイルの脇腹を掴んだ闘気ハンドを中心に、全方位に向けて雷撃と共に無数のカマイタチが一気にガーゴイルを爆散させミンチにする。
そして全てをミンチに変えた瞬間、時が止まる。そして全てを巻き込んだビッグバンエンドは一気に中心点に向かって収束し、ミンチになった巨大ガーゴイルをあっという間に消した。
一体の巨大ガーゴイルがいきなり消えた事でシーちゃん、レイザ、アマナが驚く。俺はすぐに『ファントムランナー』を発動させ、二体目の処分に向かう。
しかしファントムランナーで移動していた俺の前をクレアが塞ぐ。
「主ッ!!い、今のはッ!?強烈な雷撃とは別のスキルですなッ!?一瞬、時間が止まったように感じましたぞ?さっきのはどうやったのですッ!?」
「おっ、オイィッ!!邪魔するなよッ!!後から説明してやるから早く退いてくれってッ!!」
「いいやッ!!ダメですぞッ!?まだ浮気の話の決着も付いておらんのですぞッ!!まずはそこから説明…」
「めんどくせぇヤツだなッ!!何で邪魔するんだよッ!!今はそれどころじゃ…」
俺がそこまで行った時、サッと近づいて来たレイザがクレアに向かって膝を付き頭を下げた。
「…クレア様!!お噂はかねがね聞いております。聡明な黒龍様ですから正しく、現状の把握をして頂けるかと思います。今はガーゴイル退治が先かと…」
その言葉に、キッとレイザを睨み付けるクレア。
「…貴様は何者…!!」
そう問い質そうとしたクレアは、レイザが蜥蜴人と解ると少し落ち着きを取り戻す。
「…ふむ。蜥蜴人族の者か。良くわらわの正体に気付いたな?」
「…はい。先程の『怨蝕』での攻撃を見てすぐに解りました。まずは偉大なる黒龍様のお力で残り一体のガーゴイルの処分をお願いしたいのです…」
そう言って頭を下げるレイザ。
「…ふむ。確かにわらわの力であればあの程度のガーゴイル、一気に滅殺する事など容易い…」
レイザが恭しくお願いをするのでクレアも満更ではなさそうだ。
…全く。コイツは煽てられるとすぐ態度が変わるよな…。まぁ、解りやすくて良いんだが…。
俺をチラッと見たクレアは一つ、咳払いをするとぶっきらぼうに言い放つ。
「…ガーゴイルを消した後、主には諸々話して貰いますからなッ!!」
そう言うとガーゴイルを攻撃をしていたティーちゃん、ガイアス、キース、ルドルフに近づいていく。
「…お主ら、下がっていろッ!!今からわらわがこの惰弱なガーゴイルを滅殺するからな…」
クレアの言葉に皆、順次退避していく。最後にガイアスが大地の中に戻った直後、クレアはジャンプをしてガーゴイルの顎をサマーソルトキックで蹴り上げる。
擬人化を解いて腕だけ龍に戻すと、ガーゴイルの首を掴んで跳躍する。
そしてそのまま空にガーゴイルを放り投げると、その真下で大きく息を吸い込むクレア。
クレアのヤツ、『黒閃咆』を放つ気だな!?
それを見た俺は慌てて皆にもっと下がる様に指示する。そこに突然、フィーちゃんが現れた。