恋したっていいじゃない、独身だもの。
次の日。リベルトには引き続き、椿姫の叔父であるアマルの消息を追って西大陸へ転移で飛んで貰った。
俺はティーちゃんとシーちゃん、フラムと共に、朝から指定された施設を周って行く事にした。まずは王都西地区にある施設からだ。
教会の隣に、ボロイ児童保護施設が併設されていた。ノックして、挨拶をしてから施設に入る。
「こんちは~。ボランティアに来ましたよ~」
俺達がドアを開けた瞬間、中にいた子供達が一斉にこっちを見た。長ーい机の両側に、子供達が座っている。その奥に、代表と思われるシスターと若いシスターがいた。
「はいはい。伺っておりますよ。お待ちしておりました」
奥の部屋に案内されて、俺達はそこで施設長のシスターと挨拶をする。
「アンソニー・ホワイトです。よろしくです~。で、三人はうちの子です~…」
そう言いつつ、ティーちゃん、シーちゃん、フラムの順番で紹介した。
「おやおや、まぁまぁ。可愛らしい子が三人もいらっしゃるんですねぇ」
「…えぇ、まぁ…そうですね」
曖昧に答えつつ、寄付金を渡す。
「これは教会への寄付です。お役立て下さい」
「…ハンターとお聞きしていますが…こんなにも頂いてよろしいのですか…?」
「…えぇ、わたしはハンターとは別に西大陸で交易もやっておりまして、お金は充分ありますのでご心配なさらず…」
「…そうですか。それではアナタと子供達に、神のご加護かありますよう…」
そう言って祈ってくれた。その後、改めて施設の子供達に挨拶をした。
「…こんちは。子供達と遊びに来たからよろしく。オジサンはホワイトっていうんだ…それから…」
ティーちゃんと、シーちゃん、フラムを紹介する。挨拶を終えた所で、持って来たおやつを三人と一緒に配っていく。
寄付金とは別に施設の運営資金を渡すのを忘れていたので、おやつ配りは三人と若いシスターに任せて、施設代表であるシスターの部屋にノックして入った。
「スイマセン、一番大事なことを忘れてました…」
そう言いつつ、俺は児童施設運営費としてお金を出した。
「少ないんですが、これも子供達の食費などにお役立て下さい…」
「…おやおや、よろしいんですか?聞いた所ですと王都中の施設を周られるとか…」
「ええ、良いんですよ。先程もお話ししましたが、交易もやっておりますのでご心配なく…」
話していると突然、フラムが部屋の外で大きな声を上げた。
「あぅーっ!!」
そして部屋の外で、子供達が騒いでいるのが聞こえた。俺は慌てて部屋から出ると、フラムの前で尻餅を付いて涙目になっている男児がいた。
◇
「…フラム、どうした!?大丈夫か!?」
俺が部屋から出て来ると、テテテッと走り寄ってきたのでフラムを抱っこしてやる。
≪そこの子供が突然、フラムの頭を叩こうとしたんじゃ≫
ティーちゃんとシーちゃんが密談で何があったか教えてくれた。どうやら男児に正面から突然、頭を叩かれそうになって驚いたようだ。
≪フラムがびっくりして電撃出したんでしゅ!!≫
驚いたフラムは反射的にサンダークラップを出してしまったらしい。俺は直接見ていないが、ティーちゃん、シーちゃんと若いシスター、他の子供達もしっかりと見ていたようだ。
返り討ちに会った男児は、慌ててその場から逃げようとしたが、若いシスターに掴まってしまった。
…全く、ク〇ガキが…余計な問題起こすんじゃねぇ…。
さて、こういう時はどう解決するかな~…。
寄付金や支援金を取り下げられると思ったのか、若いシスターが理由を聞かず子供を叱っている。まぁ、どんな理由であれいきなり人の頭叩くようなヤツは叱られて当然なんだがw
「…まぁ、叱るのは後にして下さい。ちょっとこの子と話をしてきますので…」
ガキの性根を叩き直…いや、理由を聞く為に、俺はフラムを抱っこしたまま神幻門でガキを外に連れ出した。
一応、言い訳くらいは聞いてやろうw
「どうしてうちの子、叩こうとした?正直に話せば許す。と言うか派手に反撃されてるから怒る事はせんよ。理由だけ効かせてくれ」
すぐに逃げようとしたので、また捕まえて言い聞かせた。
「…問題から逃げるな。お前が起こした事だろう?なら自分で問題を解決しないとな…」
逃げられないと分かったのか、俯いたまま泣きそうな声で話し始めた。
「…へらへら笑いながらここに来て…良い服着せてもらってる金持ちの子供が…貧乏人に施しするってのが…気に入らないんだよ…」
どうやらうちの子達を見て裕福な一家だと勘違いしたようだ。いや、お金は有り余ってるから間違ってはいないんだがw
「…そうか。金持ちの施しが気に入らなかったか…」
確かに子供達の服を見ると結構ボロイ。しかしそんなつもりで来てる訳じゃないからな~。行けって言われたから来てるだけなんだがw
仕方ない。違う考え方もあるって教えるか…。
「…ここで突然なんだが俺の話をしよう。実は俺も生まれた時から両親がいなくて孤児院にいたんだ(嘘)。ある時、そこにハンターの人が来てね。今日みたいに寄付金やおやつを置いて行ってくれたんだ。その人は何度も来てくれてね。その時、俺がその人を見てどう思ったか解るか…?」
首を横に振る男児。
「俺は今のお前と全く反対の事を思ったよ。俺もこの人みたいに子供達を助ける事が出来る大人になろっうてね…」
子供に話を聞かせているとティーちゃんから密談が来た。
≪シスターの話じゃと、どうやらその子供は普段から他の子を叩いたり蹴ったりしとるようじゃの…≫
どうやらこの子供、七歳にしてかなりの問題児の様だ。この施設に来たのがここ最近で他の子達よりも年長なので虚勢を張ってたら孤立してしまったらしい。それで周りと上手くいかなくて八つ当たりしているようだ…。
「…お前は普段から力が有り余ってるみたいだな…」
そう言うと俺は、畑の傍にある小屋の中に大量の藁があるのを見つけた。
フラムと男児を連れて小屋の藁を少し貰うと俺は男児より少し大きいサンドバッグ藁人形を作った。
それを近くにあった大木に固定する。何だか巨大な呪いの藁人形のようになってしまったが、まぁ良いだろうw
「今度からイライラしたり、怒りそうになったらここに来て気が済むまでこれを殴ったり蹴ったりしろ。施設の仲間を叩いたり蹴ったりしたらダメだからな?良いな?」
続けて言い聞かせる。
「有り余る力は外に向けろ。先にお前が変われば皆も変わって来るよ。お前より小さい子の方が多いんだ。施設の仲間を護れるようになれ。解ったな?」
無言で頷く男児。
「じゃあ、まずはうちのフラムと仲直りだ」
そう言うと俺はフラムを下ろす。また電撃を出されると思ったのか、少しビビっていたが大丈夫だと諭して二人に仲直りの握手をさせた。
その後、男児を連れて帰って皆でおやつを食べながらティータイムにした。男児は隅っこで大人しくおやつを食べていた。
すぐには周りと打ち解けるのは難しいかもしれんが、アイツが変わればそのうち溶け込めるようになるだろう。
その後、施設の子供達の洋服の為のお金も渡して置いた。そして、時々様子を見にまた来ます、と伝えて施設を後にした。
◇
次に向かったのは同じく教会に併設されている児童保護施設だ。過去の戦争や紛争で親を亡くした子供達を預かっているそうだ。
「こんちは~。ボランティアに来ました~」
俺がノックしてドアを開けて挨拶をすると、子供達と話をしていた女性が振り返る。
「…はい、こんにちは」
黒い艶やかな髪をポニーテールにした、落ち着いた雰囲気の品の良い女性だ。メガネを掛けていて地味な感じだが整った顔立ちでとても雰囲気が良い。
俺はその女性を見た瞬間、思わず心の中で叫んだ。
≪キタァァァァァッ!!≫
≪…うわっ、急にどうしたんじゃ?アンソニー!!≫
俺の心の叫びを聞いたティーちゃんがビクッと驚いて反応した。
≪…あ、ごめん。何でもないよ。うん、ホントなんでもない…≫
そう言いつつ、俺は顔が赤くなるのを感じた。そしてもじもじしつつ、話し掛ける。
「…あの~、ボランティアに来たんですが…シスターさんですか?」
「いえ、わたしもボランティアて来ているんですよ。シスターさんは奥の部屋にいますよ?」
落ち着いた透き通るようなその声に、俺の身体が溶けそうだ。子供達がいたので、その場でうちの子らと一緒に挨拶をした。
「こんちは~。うちの子供達と遊びに来たよ~。オジサンはホワイトって言うんだ、よろしく。それから…」
と言いつつ、うちのちびっこ三人を紹介しつつ挨拶をする。そのタイミングで年長のシスターが出て来てくれた。
「話は聞いておりますよ。中へどうぞ…」
部屋に入ってから改めて、俺とちびっこ達三人でシスターに挨拶をする。普段の活動等を聞いてから、寄付金を渡しておいた。
「それからこれは…」
と、俺は先に行ってきた施設での事を話して、施設運営費と子供達の洋服代等を別に渡した。その後、シスターの部屋を出て先程の女性と改めて挨拶をした。
「改めて、アンソニー・ホワイトです。どぞ、よろしくです~」
「はい、セーナ・クラウディアと申します。よろしくお願いします」
その笑顔での挨拶に、俺は昇天しそうだった…。そして三人のちびっこも挨拶をする。
「こんにちはじゃの、ティーアじゃ。よろしく」
「シーアでしゅ、こんちは。よろしくでしゅ」
「あぅぁ~、あぅあぅぁ~(フラム、よよしぅ~) 」
「はい。こんにちは。三人ともよろしくお願いしますね」
その後、セーナさんと三人と共におやつを配っていく。ここの施設には比較的、年齢が高い子から小さい子までいた。
施設で育った子供が大きくなってから、新しく入って来た子の面倒を見るようだ。それは良いシステムだと思う。
おやつを配り終えた後、炊事場を借りて紅茶を作り皆に配ってから、おやつタイムにした。アイスティーを飲みつつ、俺はセーナさんとお話しする。
「ボランティアで来られてるって事でしたけど、普段はどこで働かれてるんですか?」
「わたしは王立図書館で司書をしているんですよ。それで休みの日に時々、ボランティアに来ているんです」
ほほう、王立図書館で司書さんだったのか…。確かにぴったりの雰囲気だなw
「司書さんと言う事は本がお好きなんですか?」
「はい。小説が好きでよく読んでいるんですよ。古典文学なども読みますね」
「ふむふむ。実は自分も昔からよく本を読んでましてね。いろんなジャンルの小説読んでますよ」
お互い共通の話題があって良かったw相手との共通点を探るのは中々難しいからねw
「ホワイトさんは普段は何をされている方なんですか?」
「ハンター業を中心に、交易をちょこっとやってましてね…」
「そうだったんですね。お子さん達の為にも気を付けて下さいね」
「はい。お気遣いありがとうです。暫くはボランティアで王都を周るつもりなので大丈夫ですよ」
その後も、色々とセーナさんと話した。王都育ちで長く病気療養している母親と二人暮らしの様だ。
俺は、異世界人である事、普段スラティゴ辺りで活動していたが緊急招集で、王都には昨日来たばかりである事、ファミリーについても話した。
自分の話ばかりですみませんと謝りつつ、良ければ今度セーナさんの事もお話聞かせて下さいと言っておいた。
おやつを食べ終わった頃、シスターから畑の作物の育ちが悪いと相談されたので、皆で畑の様子を見に行く。
ティーちゃんとシーちゃんにも視て貰って、コマメな草取りと適度な水やり、少しづつ土壌改善をする事を伝えた。
施設に戻って子供達を遊ばせている間に、炊事場を借りてお昼の準備をする事にした。お米を出して炊きつつ、セーナさんと一緒に野菜と肉の入ったスープを作る。
普段料理をしているのか、セーナさんは手際よく素材をカットしている。俺も肉を小切れに切りつつ、ダシの出たスープに塩を溶かし優しい薄塩味にする。
ハムエッグを人数分作り、セーナさんとシスター、子供達と一緒にお昼を食べた。
食後のティータイムの後、家でお母さんが待っている、と言うセーナさんに、ご飯とスープを容器に入れて渡した。
「お母さんにも食べさせて上げて下さい」
「…ここまでして貰って…ありがとうございます。次の機会があればお礼を…」
「いえいえ、多く作り過ぎから良いんですよ。遠慮なく持って帰って下さい」
頭を下げて帰っていくセーナさんを見送りつつ、俺達もシスターと子供達に挨拶をして、また来ますと言って施設を後にした。




