サンダーライオット。
サンダーライオットの超高圧エネルギーは王国内でも観測された。帝国からの刺客を悉く退けたエイムが、ブレーリン城門に戻る途中に、一早く気付いた。
振り返り、東の空に見た事のある強い光と、超高圧エネルギーを感じたエイムが呟く。
「…ふむ。それ程の相手がいたのか…。いや、恐らくは周辺に対する警告でしょうか…。いずれにせよ、これで戦争は終結ですね…」
ブレーリン城壁上にいたロメリックとテンダー卿、そしてエミルも同じく『それ』を見た。エミルの手が震えている。
「…何よ…アレは…あんなエネルギー、アルギス様の高圧縮光線以来…いや、アルギス様のより遥かにあのエネルギーは強い…」
「…あんな強いエネルギーを出す者がいたのか?帝国の者か?…王都は大丈夫なのか!?ま、まさか…壊滅…したのか…?」
呟く二人の後ろで腕を組み、難しそうな顔で唸るテンダー卿。そこへ、ブースターを使って飛んで来たエイムが戻ってくる。
「皆さん、安心して下さい。アレはホワイトさんのスキルですよ。恐らく攻め込んで来た帝国及び、周辺国への強い警告として発したものと思われます」
それを聞いた三人は驚愕の表情を見せた。
「…あ、アレを…ホワイト殿がやった、と言うのか…?」
「…そうか。ホワイトさんだったんですね…。確かにあの人なら…あり得る話です…」
「…マジでシャレになってないよ…アレ…。あの人、あれだけの力を持っていて何で今まで出さなかったのよ…?」
三人の驚きに、さも当たり前のようにエイムが話す。
「ホワイトさんは…あの方は、戦闘を重ねる度に強くなっています。神罰を受け、シニスターに来た時から、それがより顕著になったものと思われます。あの方のスキルは成長し変化し、更に進化していると言って良いでしょう」
「…スキルが成長?ですか?そんな話など聞いた事がありません…」
ロメリックの言葉に、エイムは笑みを浮かべる。
「その辺りの話は長くなりますので。一度ギルドに戻り話しましょう」
その言葉に三人は顔を見合わせて頷く。そしてエイムの話を聞くべく、三人はギルドへと戻った。
◇
東の上空に強く光るエネルギー体を見たクレア以外の、エルカート、融真、キャサリン、クライの四人は余りにも強いエネルギー体に呆然としていた。
「…あれは…王都方面か…。王都で…何かあったのか?あんな強いエネルギー今まで見た事がないぞ…?」
スラティゴのハンターギルドマスターのエルカートが顔を強張らせて呟く。
その心配に、クレアが冷静に答えた。
「…安心するのだ。あの超高圧エネルギー体から主の闘気を感じる…。しかしあんなスキルを隠し持っていたとは…。フフフ、流石我が主よ…」
その言葉を聞いていた融真、キャサリン、クライはこの時、全く同じ事を考えていた。
(…この夫婦、異常過ぎる…。道理でアルギス様が敗ける訳だよ…)
そしてクライは、喜びに打ち震えていた。
この二人に付いて行けば、確実に自分に打ち勝つ強さを手に入れる事が出来ると…。
◇
同時刻、王国内の都市ルアンブールとクロナシェルでも『サンダーライオット』を確認していた。
比較的王都に近い、ルアンブールではオランデール伯爵と代官オルゼが共にそれを見て不安を隠し切れずにいた。
しかし、『影』の報告により、それが帝国の能力者の者ではなく、ホワイトであるとの報告に安心したものの、余りに強いエネルギーを発生させる事が出来る存在に脅威と恐れを感じていた。
同じく、クロナシェルでもウォール、グレンPTのボルドとフィルがそれを観測して驚愕していた。
「…あれはッ…王都の方角か…何があったのか…」
不安そうなウォールを安心させるように、その強いエネルギー体が二人の知るモノだと説明した。
「…あれはおそらくホワイトだな…。王都であんな危険なスキルを使うとは…」
「あぁ、ワシもすぐに判ったわい。初めてアイツにあった頃、同じ様な雷撃を使っていたからな。最も、あの頃とは比較にもならん強さだが…」
二人の言葉に安心するものの、それがつい先ほどまでいた男が放ったモノだと聞いたウォールは恐怖を感じていた。
更に山が隔てた北のラチェスタ、ランディPTとスパルタ―ク軍も『それ』を見ていた。
「…なんだあれは…?王都で誰か殲滅魔法でもぶっ放したのか…?」
PTリーダーのランディ・ストラットの呟きに氷結魔導師の男が答える。
「ランディ、あれは魔法じゃない。恐らくスキルだ…」
その隣で回復魔導師の女が頷く。
「…それでアレはどっちがやったんだ?帝国側のヤツだとかなりまずいぞ?」
頭から顔半分を黒い布で隠し、眼だけ出しているアサシンの男が問う。
「どっちにしろ、早く王都に戻った方が良いと思う。敵なら早く叩き潰さないと…」
巨体の剛腕格闘家の言葉にランディが頷く。
「コンシュアーさんに挨拶して転移装置を使わせて貰おう。それですぐに王都に戻れるはずだ。もう一仕事して、王国一のPTになってやろうぜ!!」
リーダーの強い言葉に、皆頷いていた。
そこへ話を聞いていたスパルタ―クの指揮官が来る。
「帝国軍が完全撤退するまで、ラチェスタ軍と我々で見張りますので先にお戻りになって下さい。先程の強力なエネルギー体が帝国の者が出したとなれば一大事ですからな…」
その言葉にチラッと撤退する帝国軍を見るランディ。
「…助かる。俺達は王都に戻るので後の事は頼みます…」
そう言ってランディPTはすぐにラチェスタの領主、コンシュアー家の館に戻った。
◇
領地で戦況報告を受けた玄星老将クロゥは、同時に各方面軍の戦況情報も確認していた。
サウスサウザンド軍の早過ぎる壊滅と撤退。ルアンブールでの帝国軍消失とエニルドでの戦況悪化。そしてラチェスタでの情報の齟齬と帝国北軍の半壊、帝国西軍上空での巨大雷撃炸裂の急報を受けたクロゥは、すぐに撤退を決断し早馬を出した。
撤退命令を受けた帝国北軍は、ランディPTに帝国所属の能力者をぶつけている間に、軍を纏めて速やかに撤退した。
これで王国北部の戦闘も終結し、戦争は終わった。
一方で、今回の二国の戦争に日和見を決め込んでいた北方のアルファベル、南方の海洋国レバロニアも、エニルディン王都の上空での強烈な超高圧エネルギー体を、暗黙のメッセージと捉え、二国に対する今後の対応を再考する事となった。
この日から、その男は各国から要注意危険人物として指定される事になる。
クロナシェルで従魔と悪魔を喚び出し、ルアンブールに巨大鉄騎兵に騎乗して現れ、地形を変える程の長大な塹壕を一瞬で掘った後、帝国兵を消し去る。
そして王都の戦場にも現れ、帝国軍大将タイガの脇腹に頭突きで突っ込み、果てには自然現象を遥かに上回る巨大雷撃を出して見せた。
国内外に大きな衝撃を残した『サンダーライオット』は恐怖の象徴として、その男と共に語られる事となった。
◇
「…あれ程離れても、影響は避けられぬのか…」
タイガを肩に担いだまま、帝国軍に撤退指示を出したトウガは、全身に重度の火傷を負っていた。トウガはタイガを回収すると、自身のスキルを使って素早く退避行動を取った。
トウガのスキルの範囲は最大で百メートル程ある。トウガはこの程度の雷撃ならば逃げ切れると考えていた。
しかし、退避五十メートルを過ぎた辺りで突然、雷撃が暴発する様に強烈なエネルギー上昇を見せ、一気にスキルを押し切られた。
そしてタイガと共に、背後からの強烈な雷撃を喰らう。スキルによって何とか、帝国西軍内に戻ったトウガは、生き残った副官三人に指令を出し軍を纏め上げると撤退に入った。
王都エニルドの城壁、物見櫓から、王、レーゼン侯爵、ジョニーが帝国西軍が撤退していくのを確認したが、余りにも強烈過ぎる雷撃の余波に、追撃指令を出せなかった…。
こうして第二次帝国対王国の戦争は、たった一人のおっさんによって帝国側が大惨敗を喫して幕を閉じた。
◇
「逃がしちまったか…」
俺は何とかトウガのスキルを押し切り、サンダーライオットを発動させたが、その時点でタイガを担いだトウガはかなりの距離を取っていた。
しかし、サンダーライオットの余波を背後から浴びた二人を見た。あれだけ傷を負わせれば、当分は動けないだろう。
俺はすぐに王都へ戻り、皆と合流する事にした。リーちゃんに皆が今、どこにいるのか確認する。
≪今はここの通りを真直ぐ言った商業区の料理屋にいるよ?≫
という事なので、俺もその料理屋に向かった。
皆がいると言う料理屋はすぐに見つかった。かなり綺麗でデカい。料理屋と言うか洋風レストランといった感じだ。
オープンテラスもあり、かなりの客がいた。ついさっきまで戦争していたとは思えない程の活気だ。
店内に入ると、奥の隅の方に皆がいるのが見えた。
「戦闘お疲れ様でした」
リベルトに続き、ティーちゃん達も労ってくれた。
「おつかれじゃの」
「おつかれでしゅ」
フラムを見るとトロピカルジュースの様なドリンクをストローで飲んでいた。
「あぅぁ、あぅぁぅ~(パパ、おかり~) 」
「おっ!!フラム、良いの飲んでるな~。パパもなんか注文しようかな…」
俺はドリンクメニュー表を見る。酒はまだ呑めないので一番目に付いたパフェの様なヤツを店員さんに注文した。
「それで、報告はして来たんかの?」
「いや、してないよ?取り敢えず追い返しといたから報告とか別に良いんじゃない?帝国軍の撤退は軍関係の人とかが見てただろうし…」
「…いえ、それでも一応、報告には行った方が良いかと。ホワイトさんはここでは初なのでまずはハンターギルドで報告をした方が良いでしょう」
リベルトにそう言われたので、泥酔事件の罰もあるしパフェを食べた後に行く事にした。
「…報告には後で行ってくるよ。取り敢えず疲れたから甘いモノ食べさせて…」
俺が、届けられた大きなパフェを食べようとした所、例によってリーちゃんが、ちょっと食べさせて、というので先に食べさせて上げた。
それを見たフラムが、俺を見て手をパタパタさせる。
「あぅぁ~、あぅあぅ、あぅ、あぅあぃ~(パパ~、フラム、それ、たべたい~) 」
見ると既にフラムはトロピカルジュースを飲み切っていた…。リーちゃんが上のクリームを舐めてフルーツを齧った後、フラムの前に持って行ってやる。
フラムは手にスプーンを持ってクリームをすくっては嬉しそうに食べていた。
今度は、それを隣で見ていたティーちゃんが、美味しそうじゃのぅ、わたしも少し欲しいんじゃ、というので次にティーちゃんにもパフェを上げた。
「おぉっ、これは凄く美味しいのぅ!!」
と、絶賛したので、その隣にいたシーちゃんもパフェを見て反応した。
「そんなに美味しいんでしゅか…それじゃシーにもくだしゃい」
というのでシーちゃんにも食べさせて上げた…。
…あぁ、俺のパフェが…。
俺の目の前には、一口も食べる事無く空になったパフェの容器だけが戻ってきた…。
俺はその後、報告してくると行って皆と別れて、王都のギルド本部へと向かった。
◇
本部に到着後、マスターに連絡を取って貰うと、部屋に案内された。
ノックをしてから中に入る。中にいたのは丁寧な物腰の、四十代前半?とみられるバーテンダーの様な格好のスラリとした黒髪オールパックのメガネの男がいた。
「ようこそ、おいで下さいました。こちらにお座り下さい…」
男が名刺を差し出す。『ウィット・ランディッシュ』というそうだ。早速俺は、マスターに先の帝国軍撃退の報告をした。
その後、問題の泥酔事件の話をする事になった。
「…色々と聞きたい事はあるのですが…」
と言いつつ、マスターウィットがメガネをクィッと上げる。
「…取り敢えず、まずは王国ギルド本部から、罰として孤児院でのボランティアをして頂きますので…」
「…はw?ボランティア…ですか?」
それを聞いた俺はちょっと拍子抜けした。労働鉱山とか行かされるかと思ってたからね…。




