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師匠と弟子。

 ハク・タイガ、二十九歳。東欧出身の格闘家で召喚者。本名ハクセイ・.エルタイガ・パブロスク。世界を巡り格闘技を体得した。東洋の武術にも魅了され中華圏に渡り、各地で修練。若くして数々の武術流派を修めた。


 高山に住む孤高の武術家トウガ・セイリョウに戦いを挑み、ボコボコにされて敗北。もっと強くなりたいとの強い思いがトウガを巻き込んで召喚エネルギーに掛かり、共にこの星に来た。


 教皇領に召喚されたものの、余りにも窮屈でトウガと共に帝国に渡る。その後、トウガの弟子となり修練を積み一番弟子へ。子弟共に帝国軍の将官となる。


 しかし生来の気質から、すぐにトウガの元を離れる。各地の戦争で武功を上げ、軍を率いるまでになった。現在は白星老将としてトウガと同じ地位に就いている。


 スキル『白虎闘気』『スピンエフェクト』。


 俺は適当にタイガの攻撃を躱しつつ、その人物伝を読んだ。召喚者か…。来歴が禅爺に近いな…。


 あらゆる格闘技と武術を修めた…か。『スピンエフェクト』は格闘技でよくある飛び付いて回転する動きや、回転しつつ蹴り技を出すカポエイラから発現したようだ。


 スキルも中々のもんだし、来歴も面白いヤツなんだが、どうも中途半端感が拭えない印象だ。本人は『極めた』と言っていたが、短気な性格なのかそこに行き着くあともう少しの所で、昇り詰めたと自ら勘違いしてる様な気が…。


 まぁ、俺もそこら辺りは他人の事が言えないんだが…。


「…しかしアンタの攻撃、全く当たらんねぇ…」

「…チッ!!テメェが異常に速過ぎるんだよッ!!」


 格闘技とは別に武術も修めたとなっていたが、格闘技の動きが強い。決まった型を繰り出すというより、ランダムで攻撃してくる感じだ。クレアの攻撃に近い気がするが一連の技の繋がりがなく、明らかに動きが悪い。


 そこらのAやBランクのヤツと闘うなら圧倒出来そうだがそれ以上に動きが速い相手となると格段に攻撃の効率が悪くなっている。


 単純に一発の攻撃が凄く強いとかそういうレベルだ。元格闘家ならもうちょっと相手の動きを見て戦略的に攻撃を連続させても良い気がするが…。


 タイガの攻撃を避けつつ、俺はプラズマで白虎闘気を乱せるか試してみる。タイガの脇腹にごく小さい範囲でプラズマバインドを設定、発動する。すぐに闘気が乱れたのが視えた。


「アタックチャーンスw!!」


 俺はタイガの脇腹に思いっ切り右リバーブローを叩き込んだ。瞬間、タイガの身体が九の字に折れる。


「…ぐおぉぉッ!!…クッ、クソッ…なんでテメェはオレの闘気を簡単に突破して来るんだよッ…!?」


 吹っ飛びながら叫ぶタイガ。しかし俺はタイガが変に器用なヤツだなと思った。インパクトの瞬間に身体を捻じって少しずらしたのだ。


 格闘技や武術で回転する動きを習得していたからなのか、あの瞬間にあの動きは中々出来ないだろう…。


 タイガという男は体格はデカいし、迫力もある。個人戦闘力も技の繋がりが悪いのを除けば一撃の力もある。しかし将官として軍を統率するのは合ってない気がした。


 個人武力と勢いでのし上がって来たんだろうな…。



 リベルトは城門内で、ジョニーを治療に向かわせると、ティーちゃん、シーちゃん、フラムを連れて、身分証明と入場許可申請をする為に、衛兵の待機所に向かった。


 ジョニーは東門広場で待機していたアレクス・レーゼン侯爵率いる正規軍本隊の中ですぐに治療を受けた。陣幕の中で治療を受けるジョニーの元に、体長二メートルの黒いあご髭と黒い短髪の厳つい顔付の初老の男が訪れる。


 王国正規軍本隊を率いるアレクス・レーゼン侯爵である。


「…ジョニーよ、治療中済まぬが現状の報告を頼む…」


 陣幕の中、侯爵は用意された椅子にドカッと座ると、髭を触りながらジョニーに問う。


「…帝国の前衛、数万と星騎将は倒しましたが大将ハク・タイガ戦で不利になり撤退しました。今は代りの者が闘っています…」

「…代りの者とは?ギルドの正規Sランクハンターは温存するという事で各城門での待機指示が出ているはずだが…?」

「…いえ、突然現れたので王都所属のハンターではありません。わたしも先程、(ようや)くラチェスタでコンシュアー家の若君に聞いたのを思い出しましてね…」


 回復士からの治療を受けつつ、話を続けるジョニー。


「…侯爵。最近、王国で良く耳にする『ホワイト』という名をご存じで…?」

「…ホワイト…。あぁ、知っておる。確かに最近良く聞く名だな…。何でもカイザーセンチピード退治でフリーSランクに認定されたという者であろう?」

「そうです。その男が、今城門の向こうでタイガと闘っています。城門から入る前に少し闘いを見ましたが、とても人間の動きとは思えぬ程の異常な速さでした…」

「…ふむ。そうか…。帝国の残りの兵はどうした?」

「先に話したホワイトが残りの兵を攪乱(かくらん)し、残りを一気に戦闘不能にしています…」


 そう報告をしつつ、苦笑いを見せるジョニー。


「…俺も闘いには自信を持っていた方なんですがね(笑)。俺の目から見てもアレは異常ですよ。俺が喧嘩屋だとしたらタイガは格闘家、そしてあの男はその格闘家を軽くあしらう怪物と言った所ですか…」

「…ふむ。しかし王の話だと『抜けているヤツ』と聞いたが…?」

「…あぁ、確かに(笑)。いきなりタイガの脇腹に頭から突っ込んできた時は目を疑いましたよ(笑)」

「頭からだと?…いきなり頭突きで割って入るとは思い切ったヤツだな…」

 

 レーゼン侯爵が立ち上がる。


「…どちらにせよお主の話だと我々の出番はなさそうだな。どれ、ワシらも観戦させてもらうか…」


 そう言うと軍に待機を命じた後、その場を副官に任せて侯爵はジョニーと共に闘いの観戦をする為に、城壁の内側にある階段を登った。



 タイガの力、スピード、動きを把握した俺は攻撃を躱すのを止めて、こちらも闘気で対抗しタイガの攻撃を弾いた。


 拳には拳で、蹴りには蹴りで対抗する。


 タイガと俺ではかなりの体格差があったが全く問題にならなかった。寧ろこっちが少し本気を出すと、拳も蹴りも完全に押し込める。


 まぁ、そもそも地力(じりき)からして違うからなぁ。相手はそのまま召喚された人間、対して俺は神様が創ったアバターで、更に振り切れたステータスがある。


「…さて。そろそろ終わりで良いよな?」


 完全に一方的な闘いだった。余裕の俺に対して、タイガは全身ボロボロで呼吸は乱れ、肩で息をしていた。そんな大将タイガの姿に、その後ろで待機している兵士達の表情も暗く悲壮だ。


 しかしこればっかりは手を抜く訳にはいかないからな…。


 攻めて来たヤツは完膚なきまでに叩きのめし、二度と来ないようにして置かないと。何度も巻き込まれるのはごめんだからな…。


「…まだ負けてねぇ…。俺の…最終奥義…見せてやるからよ…」

「…ほほぅ。じゃ見せて貰おうかな…」


 そう言うとタイガは、丹田に気合を込める。再び白虎闘気がタイガの全身から放出された。


「…行くぜェッ!!喰らってみろォッ!!奥義『猛虎爪連撃』!!」


 瞬間、俺の目の前に立っていたタイガの両腕が俺に対して猛連撃を放ってくる。俺は思わず溜息が出た。


「…はぁ、なんだコレw奥義ってこの程度か…」


 クローナの超高速殲滅拳打を見た事のある俺には、タイガの猛連撃は猫パンチレベルにしか見えなかった。


 しかしこのままだとゾーン・エクストリームでまたタイガが止まってしまうので、その前に俺もストームラッシュで対抗し全ての拳打を弾き飛ばす。


「…なんだとッ!?そんなバカなッ…!!」


 これがそこらの能力者なら大層、驚いたろうね。さて、終わりにするかw


 一度、神速で飛び退いて距離を取った俺は、右腕に大きな電柱サイズの槍をイメージする。俺がイメージしているのはクローナの『一撃滅殺拳打』だ。


 俺が『闘気版・一撃滅殺拳打』を放った瞬間、突然辺りが白く眩しい光で包まれた。


 …なんだ?何が起こった…?


 俺はすぐに空間の流れがおかしくなっている事に気が付いた。何かの気配は感じるが霧や(もや)が掛かった様にゆっくりと流れている。


 …新手の敵か…?まぁ良い。時間操作スキルか空間操作スキルか分からんけど、この不思議スキル破ってやるかw


 俺はゆっくり空間の中で、一撃滅殺拳打を全力で突き出す。


「ウオォォォォッ…!!突き抜けろオォォォッ…!!」


 俺が声を上げて全力を込めたその時、身体から『龍神闘気』が波状に放出され、空間に漂う霧、靄を全てを消し去った。


 瞬間、時空が元に戻り俺の一撃滅殺拳打がタイガの連打を全て弾いて鳩尾に突き刺さる。タイガは後ろに控えていた帝国兵を派手に巻き込んで吹っ飛んだ。


 俺のいた場所に、そのまま連打を放っていたタイガには、俺が後退してからの一連の動きが全く見えて居ないようだった。


 しかしタイガは良いとして、さっきの一瞬の光は何だったんだ?靄の向こうに何者かの気配を感じた。それがタイガではない事はハッキリ判っている。


 …まぁ、誰が隠れていたとしても俺のやる事は変わらない。コイツらが二度とこの地に踏み込めないように強烈な警告を発してやろう。


 俺はファントムランナーでタイガに接近する。吹っ飛んで仰向けに倒れたままのタイガの胸倉を右手で掴むと、俺はいつもより高く跳躍する。


 これくらい高ければ、周囲のどの国からもこの『警告』が見えるだろう。


 俺はそのまま、上空で『サンダーライオット』を『全力』で発動させようとした。その瞬間、またも俺とタイガの周囲の空間が強い光と共に霧と靄に包まれた。


 …チッ、やっぱ誰かが邪魔してるな…。


 サンダーライオットが、稲妻を発する直前でゆっくりと揺らめいている。

俺は突然、背後に気配を感じてタイガから手を離すと旋風掌を使って振り向きつつ、そのまま裏拳を放った。


 霧と靄が交差する妙な空間のその奥に、青白く面長のカイゼル髭の爺さんがいた。


 ……コイツはッ!!……誰だw?


 顔色の悪い爺さんは俺の裏拳を浴びると霧散したように消える。霧とか靄に隠れているのか…?それとも霧その物に変化する能力者なのか…?


 …それか…幽霊じゃないよねw?


 俺が考えているとまたもや背後から気配がした。振り向くと、そこにさっき消えた爺さんがいた。


「…よもや王国にこんな能力者がいたとはな…。お主がアンソニー・ホワイトじゃな?」

「…さぁw?そんな事よりアンタ誰よw?爺さん、アンタこそ中々の能力持ってるね。コレ、どういう能力よw?」

「…それこそどうでも良い事じゃ。スマンが邪魔させてもらうぞ?生意気で気に入らんが一応、弟子なんでな…」


 タイガが弟子…?という事はこの爺さんがトウガか…。まぁ良い。このままタイガとこの爺さんも纏めてやっちまうか…。


 俺が振り返って再び、タイガを掴もうとしたその時、既にタイガは霧の中に消えかけていた。


 …しまった!!このままだと逃げられてしまう…!!


 再び俺は右手から『サンダーライオット』を全力で発動した。再び軋むような音と共に全方位に稲妻が伸びて揺らめく。


 その瞬間、超高圧エネルギーが球状に広がり激しくスパークした。



 その瞬間を、エニルディン王、レーゼン侯爵、ジョニーが城壁の櫓から見ていた。


「…オイオイ、何なんだあれは…?」


 王はホワイトがタイガを掴んで跳躍した所までは見ていた。その後、空中に違和感を感じたのも束の間、瞬間に雷撃の球体が激しく明滅して光を放ち衝撃波と共に弾けた。


 その隣でレーゼン侯爵がジョニーを見る。


「…あれは…ヤツは雷を操っているのか?」


 レーゼン侯爵の問いにジョニーは顔を蒼褪めさせて、その質問に首を横に振って答えた。


「…俺には…解りません…どうやったらあんな高圧エネルギーを人間が出せるんだよ…」


 戦場では帝国兵達が絶句していた。


 そして同時刻。近隣の国でもその巨大なエネルギーが観測され、その瞬間、驚きを持って各国が反応した。


 帝国の都イシュタリア、南東のエレボロス教皇領、南方の海洋王国レバロニア、北方の魔法帝国アルファベル、そして遠くは帝国の東の境界線、噴奴(フンド)


 帝国、教皇領を除く他の国は一様にそれを『神』の御業だと畏怖した。

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