必殺技じゃないのに時々出るアレ。
サンダーチェインズを避けたリブラとクラストが、膝を付いて俺を睨んでいた。そのままクラストは持っていた武器、十三節棍を分解させて空中から俺を狙う。
十三ある鉄筒の中から、毒針?が射出され俺に襲い掛かる。同時に塹壕を駆け上がって来た射人馬アーチェルが巨大ランスで俺の背後に襲い掛かる。
アーチェルの能力は巨大ケンタウロス化のようだ。
しかしクラストもアーチェルも、前後から俺を攻撃しようとしたまま『ゾーン・エクストリーム』によって動きを止めていた。
攻撃中に突然、動きを止めた二人を見て驚くリブラ。
「…これはッ!?どうなってる…?」
俺はすぐに後ろのアーチェルのランスを掴むとパラライズボルトを流す。動きを止めたまま気絶したアーチェルから遠隔抽出でスキルを抜き取ると、すぐに神速三段でクラストの背後に周り込む。
クラストの首を掴んで気絶させると、クラストのスキルも抜き取った。
最後は総大将のリブラだけだ。しかし、神速を使ってリブラの範囲に踏み込んだ瞬間、リブラは俺の目の前から消えた。
「…逃げたか…」
周りに『音波感知センサー』を流して隠れていない事を確認した俺は、大きく口を開けた塹壕を飛び越えてバギーまで戻る。
そこへルアンブール兵を従えた領主が来ていた。
…あれ!?この人、どこかで会ったことがあるような顔だが…。
「よく来てくれた。ホワイトよ、感謝する」
馬を降りた領主を見た俺はそれが誰だったか思い出した。伯爵だ。晩餐会の時にいたオランデール伯爵だった。
「…伯爵?何故ここに…?」
俺の疑問に伯爵が答えてくれた。伯爵はここ、ルアンブールを含む地域一帯の領主だそうだ。
「来て貰ってすぐに頼むのも気が引けるのだが、すぐに王都に向かってくれぬか?帝国兵十二万が迫っておるのだ…」
「えぇ、どっちにしても王都に呼ばれてますから、すぐに向かいますよ」
「済まぬ、今回の防衛に付いては後日、礼をする故、王都を頼む…」
伯爵の表情はかなり深刻だ。
俺は、すぐに皆と話し合う。妖精達の報告で帝国軍が既に戦場に到着し、両軍対峙している事を聞いた。その後、リベルトに中央戦線の戦場地形を確認した。
王国の都市の中でも、王都エニルドは山を背にした平野にあるそうだ。帝国までの国境線はそのまま平野が続き、防衛に向かない地形だった。
妖精達から戦場近くの南に小高い丘があると聞いて、俺達はそこに転移する事にした。
他の皆には先に戦場へ行って戦況確認をして貰う。俺とリーちゃんで世界樹の工房にバギーを戻すと、妖精達に整備を頼んだ。
俺は王都に行った事がないので、リーちゃんに頼んで王都東の戦場まで転移して貰った。
◇
小高い丘の上で皆と合流する。戦場を見ると王国軍は軍を引いて籠城しているようだ。出ているのは血塗れの能力者?ただ一人だ。対する帝国軍は先頭集団が大きく壊滅していた。
その中で、血塗れ能力者と、ガタイのデカい男が闘っていた。
「…あれは…ジョニーだな…」
血塗れの男はジョニーと言うそうだ。話を聞くとどうやらリベルトとジョニーは知り合いらしい…。
俺は話を聞きながら、『バードアイ』を使ってジョニーと大男の闘いを見る。
他の星騎将が見当たらない所を見ると、もう既にジョニーが倒したようだ。後は大将格のあの大男だけか…。
俺はすぐに『タイガ』の遠隔鑑定をティーちゃんに頼んだ。人物伝は後に回して能力だけ確認する。
『白虎闘気』『スピンエフェクト』の二つだ。
鑑定文を呼んだ後、戦場を確認する。前衛が壊滅した帝国軍は星騎将の副官三人が、何とか軍を立て直そうと必死に纏めていた。
再編成されると厄介な事になりそうだな…。
ジョニーを見るとスキルを駆使してタイガと渡り合っているのが見えた。しかし、徐々に押され始めている。
「ジョニーの能力ではハク・タイガの能力には対抗しえません。すぐに救援した方が良いかと…」
リベルトに言われた俺は、帝国の残りの兵を混乱させつつ、ジョニーを助ける為に横槍を入れる事にした。
「先に残った帝国軍の再編を阻止してからジョニーの助けに入るよ。俺とタイガが交戦に入ったら皆はジョニーを連れて王都に避難してくれ…」
続けて俺はフラムに言い聞かせる。
「フラム、パパはちょっと本気出してくるから姉さん達と一緒に行動するんだ。良いな?」
「あーぅ!!(はーい!!) 」
元気よく答えたフラムをリベルトに預ける。
「…じゃ、先に行ってくる!!」
そう言うと俺は丘の上から帝国軍の背後に向かって跳躍した。
着地した瞬間、俺はアイテムボックスから、鞘が付いたままのプラチナタガーを両手に持ち、帝国兵に向かって『ストームライダー』を発動させ突撃した。
斬撃を当てるタイミングで『粘糸』も繋げていく。ジグザグと嵐の様に移動をしながら帝国軍の中を攪乱して周った。
帝国軍は混乱を極めていた。突然の乱入者、嵐のように去った後には、斬撃で打ちのめされて呻き声を上げて悶絶する兵士達。
何とか残りの兵を再編しようとしていた三人の副官が必死に指示を叫ぶものの兵士達のパニックを抑え切れなかった。
そして軍の中を抜けた後、『サンダーチェインズ』を発動させた。広範囲に渡り、電撃がスパークする。粘糸を繋げていない者達も、電撃の余波に当てられ動けなくなった。
俺はそれを確認した後、ジョニーとタイガを見る。ジョニーはタイガに、かなり押されて防戦一方だった。
(今行くぞ!!もう少し踏ん張ってくれッ!!)
俺は全力で『ファントムランナー』を発動した。ジョニーもタイガも、ファントムランナーを使っている俺が見えていなかった。
隙が出来たジョニーに、タイガの回転する拳が迫る。
させるかッ!!こっちが先に殴り飛ばしてやるッ!!
しかしその瞬間、俺は地面のちょっとした段差に足を引っ掛けてしまった…。
体勢を崩した俺はそのまま頭から高速で突進。更にタイガの身体の周りのスピンエフェクトも手伝って、俺は頭からスパイラルしたまま、タイガの脇腹に突っ込んだ。
タイガの脇腹をスピンする俺の頭が捻じっていく。同時にタイガの口から吐瀉物が吐き出された。
「…ぐッ!!グオォォッ!!なッ、何ッ…」
…はぁ、また頭から突っ込んでしまった…w
俺は回転しながら、驚きで目を見開くジョニーを見ていた…。
◇
「…くゥゥッ!!…イッテェェェッ…!!」
俺は脳天に残る摩擦の痛みで頭を抱えていた。軽く闘気を纏っていたので押し切れると考えていたが、まさかスピンエフェクトに影響を受けるとは思っていなかった。
…頭がハゲるかと思うくらい痛かった…。
「…ぁ、アンタは…一体…」
「…あぁ、俺の事は良い。交代だ、この闘いは俺が引き受けるよ。それより下がって怪我の手当てをしてくれ…」
俺は蹲ったまま頭を擦って痛みを誤魔化していた。
「…オイッ!!アンタッ!!後ろッ…!!」
「…あぁ、大丈夫。後ろからデカい兄さんが襲って来てるんだろ?解ってるよ。すぐに俺のスキルで動きが止まるよ…」
俺は後ろを振り向く事無く、答える。後ろから俺を襲って来たタイガは、俺の『ゾーン・エクストリーム』で動きを止めていた。
「…そんなッ…アンタ、相手の動きを止める事が出来るのか…?」
「いや、正確には違うんだが、まぁ、止めてるようなもんだな…」
俺達が話しているとフラムを抱っこしたリベルトとティーちゃんシーちゃんが現れた。
「…久しぶりだな、ジョニー…」
「…あ。アンタはッ!!…リベルトさんッ…!?どうしてここに…!?」
「話は後だ。ここからはホワイトさんが闘うから俺達は一度、王都に戻るぞ」
「…ホワイト…?ホワイト…」
何か言いたげなジョニーを連れたリベルト達はすぐに王都東門前へと転移した。俺は振り返って、タイガを見る。
デカい男だ。しかも身体の各部位の筋肉がかなり太い。虎を模した黄色と白のゴツイ鎧を身に纏っている。よくこんなの着てあんな動きが出来たもんだ…。
俺は感心しつつ、右腕に闘気を纏って動けないタイガに近づいていく。
「お前ら『戦争屋』には何言っても解らねぇだろうが一つだけ、警告するから良く聞け…」
俺は『イミテーション・ミラー』でタイガのスピンエフェクトを観察して右腕に纏った闘気を回転させる。それを見たタイガの目が驚きで血走った。
「俺を巻き込むんじゃねぇッ!!」
俺は叫んだ後、スピンエフェクト付き闘気で思いっ切りタイガの鳩尾を正面から殴り飛ばした。
瞬間、タイガは暴風に巻き込まれたかのように回転しつつ、混乱の収まらない帝国兵を巻き込んで薙ぎ倒しながら激しく吹っ飛んだ。
俺はすぐにファントムランナーで接近する。咄嗟に反応したタイガが俺の右側面に周り込む。
「遅いッ!!」
俺はすぐに右拳の回転闘気で裏拳を喰らわせた。
「ぐはッ…!!」
俺の拳が速すぎてタイガは反応出来ず、再び兵士達を薙ぎ倒して吹っ飛ぶ。すぐに立ち上がったものの、脳震盪を起こしたのか、タイガはふらついて足元がおぼつかなかった。
俺はゆっくりとタイガに接近しつつ話を続ける。
「お前らに一度だけ、チャンスをやる。すぐに帰れ。そして皇帝に、無用な戦争を起こすのは止めろと伝えろっ!!」
何とか立ち上がるタイガ。重鎧は半壊し、頭部を護っていた兜は完全に壊れていた。
「…お、お前ら…下がってろ…。…て、テメェ…何モンだ…!!俺の闘気を真似するとは…」
一般兵達を下がらせると大きく息を吐き、何とか体勢を立て直すタイガ。
「確かに俺の闘気は特別だけどな。今はそんな事はどうでもいい。俺の言った事が聞こえたよな?次にお前らがこの地に足を踏み入れた瞬間、俺がお前ら全員を地獄に送るからな?」
俺の強い警告に、タイガが激しく肩で息をしつつ、笑う。
「…俺は…まだ敗けてねぇぞ?撤退して欲しけりゃ俺を殺してから言えよ?」
その言葉に、各星騎将の副官が慌ててタイガを止めに入った。
「…タイガ様。それはなりませぬ!!星騎将三名が戦死しているのです!!軍を纏める大将がこの状況で一騎打ちなど…」
その瞬間、タイガの全身から白虎闘気が一気に放出した。必死の副官の言葉が途切れる。圧に当てられた副官達はそれ以上、何も言えなかった。
「…これは命令だ。お前らはすぐに軍を纏めて下がって待機していろ…」
俺はタイガの言葉に溜息を吐いた。
「…バカばっかりだな。戦争したって良い事なんか一つだってねぇよ。死なないと解らないってヤツか?いや、お前を見てると死んでも理解しそうにないな…」
「…あぁ、理解出来んね。俺達は戦争をしに来たんだ。命令が下れば敵を殺し、城塞を奪い領土を征服する。それが俺達の仕事なんだよ…」
「…解った。タイガ…だったか?俺も本気で行くからな?死んでも文句言うなよ?」
「…フッ、俺を殺せる気でいるのが気に喰わねぇな…。まぁ良い。このタイガ様と一騎打ち出来るなんてそうそうないんだ。名前くらい名乗れよ?」
「…イヤだね。美女ならともかく野郎になんか名前を教えたくない。どうしても知りたきゃ、生きて帰って頭おかしい博士にでも聞けよ…」
「…頭のおかしい…博士…?ジードのジジイの事か…」
一瞬、戦場に静寂が流れる。
次の瞬間、俺とタイガが動いた。




