表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/209

都市防衛戦。

 その頃、ブレーリン東門では巨大な熊獣人襲来の急報を受けて、ブレーリン庁舎で緊急会議が召集されていた。


 門を叩く大きな鈍い不穏な音が街中に響く。エイムと戦闘訓練をしていたエミル、チャビー、未依里。


 S、Aランクのハンターがいない中、エミルが出ると息巻くがまだ亡命申請中で動いてはなりませんとギルド職員に止められた。


「エミル、あなたはここにいて下さい。何かあった時にお母さんと未依里を護るのです。ここはわたしが行きましょう」


 エイムは三人にここで待つように言うと、庁舎での会議に出ているテンダー卿とロメリックにわたしが対処する旨伝えて下さいとギルド職員に頼む。


 そしてギルド宿舎から出たエイムはブースターを使って東城壁の上から門を壊そうと暴れている熊獣人を確認した。


「…ふむ。体長三メートル、装甲を身に付けていて特殊なエネルギーを検知。生体エネルギーも一般的な獣人と比べて非情に強い。中々面白そうな個体ですね…」


 そう呟くと、再びブースターで宙に跳び、その後ろに降り立った。


「こんにちは。熊の方。わたしはエイム。エイム・ヒトリゲンです」


 突然の自己紹介に門をガンガン叩く手を止めた熊獣人がゆっくりと振り返る。


「なんだテメェは!!邪魔するんじゃねぇッ!!先に殺すぞッ!!」

「どうぞ。わたしはアナタの相手をしに参りましたので望む所です」


 そう言うと腕から仕込み剣を出すエイム。


「では熊の方…お名前を聞かせて頂いてもよろしいですか?」


 その問いにグオォォォォォッ!!と大きな咆哮を上げた熊獣人が名乗る。


「俺は熊人族(デミヒューマン)を捨てた最強のグリズリーナイト、帝国生物兵器開発研究所所属!!ベン・バルワロフ!!そんな仕込み剣程度じゃ俺の装甲は斬れねぇッ!!」


 その瞬間にベンが体から特殊なエネルギーを発し、同時に素早い動きで一気に間合いを詰めて来る。


「お前じゃ小さすぎて相手にもならねぇんだよォォッ!!」


 襲い掛かるベアクローを仕込み剣で捌くエイム。スッとカラダを相手の後ろに入れると背後から電磁フィールドを放つ。


「何だそれはぁッ!!そんな弱すぎるエネルギーじゃ俺の体にダメージなんか入らねぇぞッ!!」


 咆えるベンに対し、エイムは淡々と攻撃を捌いては電磁フィールドを浴びせて行く。そして何回目かの攻撃の後、ベンの背後から仕込み剣で切り付けた。


 瞬間、ズバッとベンの脇腹が斬れる。


「…何だとッ!!クソッ…テメェッ!!何しやがったッ!!」


 激昂するベンに、薄っすらと笑いを浮かべたエイムが忠告する。


「闘いの勝敗は個体の大きさで決まるモノではありません。アナタは装甲から特殊なエネルギーを出し、本来であれば攻撃を受け付けない様にしてある…。しかしそのエネルギーを乱し、無効化すれば攻撃する事など容易いのです」


「グオオォォォォォッ!!ゴチャゴチャ説明が長いんだよォォッ!!」


 咆哮を上げて口を大きく開くベン。


「戦闘中に熱くなり過ぎるのは良くありませんね。咆哮を上げて威嚇効果を出してもわたしには何ら影響はありませんよ?」


 その目の前で、口を拡げたベンの口腔内からエネルギー出力を感じたエイムは体内のコアからプラズマを生成して身体に纏う。


「うるせぇッ!!これでも喰らえッ!!イレイザーバーストォォッ!!」

   

 大きく拡げられたベンの口腔内から瞬間、エネルギー砲が放たれる。その高出力のエネルギー砲がエイムに直撃した。


「…エイムさんッ!!」


 城壁の上まで登って来たエミルが、その瞬間を見ていた。それを止めに来たロメリックとギルド職員達が遅れて城壁に集まってくる。


 濛々(もうもう)と上がる土埃と、その威力を現しているような大地の削られた痕が残っていた。城壁の上に人の気配を感じたベンは振り返ると、上を見て再び口を大きく拡げる。


「皆、下がってッ!!」


 それを見たロメリックは、皆を下がらせた後、槍を取り出し回転させる。しかし、再びエネルギー砲を放とうとした瞬間、ベンの背後にエイムが接近していた。


「…アナタ、わたしが機能停止したか確認せず、背後を見せましたね?」


 背後からの言葉に、慌てて振り返るベン。


「…そッ、そんなッ…バカな…イレイザーバースト直撃だぞッ!?どうして生きてるッ!?」

「確かに、アナタは只の熊獣人(デミヒューマン)ではありませんね?特殊な重鎧、高純度の鉱石で造られたベアクロー。そして口からエネルギー砲を放った…」


 そう言いつつ腕から飛び出した仕込み剣に電磁エネルギーを纏わせると瞬間、ベンのゴツイ鎧に斬り掛かっていく。


「…チッ、そんな細い剣じゃこの鎧は…」


 ベンの言葉を無視したまま、ひたすら接近と退避を繰り返し、多方向から斬り込みを入れていくエイム。


「…このッ!!ちょこまか動きやがってッ!!うざいんだよォォッ!!」


 速過ぎるエイムの動きに、半狂乱になってベアクローを振り回すベン。


「…しかしながら、それだけの能力と装備を持っていてもホワイトさんの比ではありませんね…エネルギー出力などは子供に等しい…」


 瞬間、ベンのゴツイ装甲が一気に分解し外れた。エイムの言葉を聞いたベンは激昂した。


「只のデミヒューマン如きが俺の装甲を外した位で良い気になってんじゃねぇぞッ!!俺の本領はここからなんだよォォ!!」


 そう叫んだ瞬間、ベンの体毛が硬質化し全方位に一気に飛び出して来た。しかし迫りくる無数の硬い棘を、エイムは冷静に電磁ソードで斬り、削っていく。


 そして左の電磁ソードがベンの心臓を貫いた。


「…グッ、テメェ…マジで…何モンだよ…」

「わたしはエイム。エイム・ヒトリゲン。ホワイトファミリーの守護者(ガーディアン)。そしてわたしはデミヒューマンではなく、人間を目指す者、アンドロイドです…」


 その言葉の直後、エイムの右の電磁ソードがベンの首を斬り落した。


 それを見ていたロメリックの手が震えていた。報告を受けて駆け付けたテンダー卿も同じくそれを見て驚愕していた。


「…ぁ、あれは…何らかの形で相手のスキルを完全無効化したのか…?」

「そのようだな。しかしホワイト殿はとんでもない者を連れて来たようだ。この事は王都にも報告した方が良いだろう…」


 二人が見下ろす東門の下では、ベンと共に強襲を仕掛けて来た帝国の者達が隠れる森の中へと突入するエイムがいた。


 数分後、無数の絶叫と共に隠れていた者達はエイムによって掃討された。



 同時刻、スラティゴ東の平野ではクレア、融真、キャサリン、クライが怪物の波状攻撃を迎撃していた。


 大型犬サイズの巨大毒鼠の群れの中を、スキルでパンサー化したキャサリンが飛び回っていた。跳び上がる直前に回転して両手の爪で数体を斬り刻み、着地しては更に集まって来た鼠達を輪切りにしていく。


 あちこちを飛び回りつつ、鼠達が村の方に行かぬように誘導していた。そして集まって来た鼠達を片っ端から細切れにする。


「わらわ程ではないにしろ、ギャル子にしては中々やるではないか」

「…流石に奥さんには誰も勝てないって…。ただアイツは俺達三人の中で体力と瞬発力はスバ抜けて高いからね…」


 話すクレアと融真の隣で、腕を組んだままうんうんと頷くクライ。巨大毒鼠二百体を準備運動するかのように軽く殲滅したキャサリンが戻って来る。


「待て、ギャル子よ。一旦そこで止まるのだ」

「はーい、奥様」


 止まって立ったまま待つキャサリンに、ハンターギルドのマスター、エルカートが魔法を掛ける。


「…戦闘、お疲れ様でした。滅菌、毒消しを含む浄化魔法を掛けますので暫らくそのままでお待ち下さい…」


 立っているキャサリンの下に、蒼く光る魔法陣が浮かび上がる。キャサリンが光の浄化を受けている間に早くも次の敵が現れた。


 体長五メートル越えの巨大な鎧モンスターだ。


「おぉ、あれはリビングアーマーというヤツか?かなり巨大だが…わらわだとすぐに粉砕出来そうだな…」


 そう言いつつクレアは、融真とクライを見る。


「奥さん、俺が行ってくるよ。俺ならすぐ復活出来るし…」

「…うむ。それは良いが余りスキルを過信せぬようにするのだ。スキルを無効化するようなヤツもいるからな…」


 そう言いつつ、クレアはスラティゴに来る前に、エイムと闘った事を思い出していた。実力を計る為に対戦したが面白い事に、ごく弱いスキルだったがエイムがそのスキルを無効化して見せたのだ。


(…この宇宙にはまだまだ面白い存在がいるものだ。アレが人間の創った機械の進化した姿か…。闘い足らぬが主の手前もあるし、フラムにも母としての威厳と余裕を見せねばならんからな、フフフ…)


 考えに耽るクレアの傍で、エルカートが融真に注意喚起する。


「まだキャサリン殿の浄化が終わっておりませぬ。アレがこちらに近づかぬようお願いします」

「あぁ、解ってるって!!クライ、熱遮断シールド張っといてくれ!!かなり熱くなるからな!!」

「えぇ、解りました。お気を付けて…」


 その言葉を受けて走って行こうとする融真にクレアが注意を促す。


「融真よッ!!倒れる方向を考えて溶かすのだ!!そうすれば最小限の範囲でヤツは溶かせるッ!!良いなッ!!」

「ラジャ―ッ!!任せといてくれッ!!」


 そう言いつつ走って行った融真はまず後ろに周り込むと、巨大リビングアーマーの右膝裏にスキル『メルトフィーバー』を叩き込んだ。


 瞬間、リビングアーマーが後ろに倒れ込む。アーマーはそれを何とか右手で支え、接近してたし来た融真に左手にある巨大な剣で薙ぎる。


「この程度の威力じゃ俺は真っ二つに出来ねぇって!!よッ!!」


 そう言うと剣を掻い潜り、リビングアーマーの剣を持つ左手首にメルトフィーバーを叩き込む。数秒でアーマーの手首は溶解し、大きな音と共に剣が地面に転がった。


 両手を失ったリビングアーマーが仰向けに倒れる。チャンスと見た融真はアーマーの頭の部分を粉砕すべく、ジャンプして飛び掛かる。


「これで終わりだッ!!喰らえッ…」


 飛び掛かりリビングアーマーに止めを刺そうと叫んだ融真の顔が一瞬、強張った。その瞬間、リビングアーマーの目の部分が赤く強く光る。


「…やべぇッ…避けられねぇッ…」


 リビングアーマーの赤く円い眼から、いまにも高圧力の極大レーザーが飛び出そうとした瞬間、アーマーの首が強制的に捻られて向きを変えた。


 寸前でレーザー攻撃から何とか逃れた融真はそのまま、拳をアーマーの頭に叩き込む。


 融真が、チラッと視線を動かした先に、手を翳していたクライが見えた。



「…クライ、助かったぜ…。さっきのはマジでヤバかったよ…」

「言っとくけど、助けるようにクライに言ったのわたしだからね?」

「…あ、あぁ、キャサリンもスマンな…」


 その隣で、クライが小さく呟いていた。


「…いや、キャシーに言われなくても僕は助けてたけど…」

「…融真よ。最後のトドメはまずかったな。『勝った』そう思った瞬間、負ける事もあるのだ。ああ言う時は飛び上がるより周り込んで殴った方が良いだろう」

「…うん、今度から気を付けるよ…」


 クレアに注意されて苦笑いの融真。そんな四人を見て、エルカートが顔を引き攣らせていた。


(…俺も元はAランク魔導師なんだけど…。今の戦闘見てたらなんか自信失くすわ…)


 思いに耽るエルカート。その目の前に、小柄で極彩色のフードを被りとマント、を羽織る者が遮蔽を解いて現れた。


「…皆さん、もう一体、出てきました。用心して下さい!!」


 エルカートの言葉に、四人は気を引き締めて新たに現れた敵を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ