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迎撃。

 俺達は巨大な三輪バギーに乗り込んで、山の南側の街道を爆走していた。俺はティーちゃんにバギーの最高速度がどれくらい出るのか聞いてみた。


「一応、時速百六十キロくらいまでは出る様にしてあるんじゃ。それ以上になると車体が持たんからの…」


 うちにあるバイクと大体同じか…。これだけスピードが出れば十分だろう。音もかなりの重低音で相当なものだった。


 俺は巧くギアを調整をしつつ、東へとバギーを走らせる。かなりサスペンションが良く、ガタガタの街道もスムーズに走破していく。乗っていて下半身が痛くなる事もなかった。


「乗りやすい様にアンソニーのバイクを参考にしておるんじゃ。サスペンションには一番拘っておる。乗っていて体が痛くなるのは嫌じゃからの…」


 という事だそうだ。俺は改めて妖精達の凄さを感じた。



 その頃、帝国軍一万二千を待ち構えるルアンブール軍は八千の兵を五つに分けていた。騎馬隊千人、弓兵千人、魔導兵千人、長槍兵を含む歩兵五千人、そして能力者を含むハンター二十数人という構成で、まずは能力者を先頭にして後ろに長槍隊を、その後ろに騎馬隊を置いた。


 騎馬隊の後ろに弓兵が控え、残りの歩兵は騎馬隊の両側で突撃に備え、その歩兵の後ろに魔導兵を分けて置いた。


 そして最後尾に、領主代官のオルゼ・ココニールが近衛兵と共に迎撃の為に、鋒矢陣形の様な形で帝国軍を待ち構えていた。


 そこへ領主であるオランデール伯爵が、領都であるルアンブールに急いで入場した。危急の事態に領主が戻ってきた事で、領民が一気に沸いた。


 領民達の歓声に答えつつ、伯爵はすぐに戦場を見渡せる石壁の上の物見台に登る。


「…どうだ?帝国軍はどこまで来ている?」

「…ハッ!!伯爵!!帝国軍は現在、国境を越えて真直ぐこちらに向かっているようです!!」


 物見兵の報告に戦場の彼方を見つめる伯爵。そこへ太守代行である代官オルゼが慌てて来た。


「…ルイス様ッ!!何故お戻りになったのですか!?ここは間もなく戦場になります!!危険ですぞッ!!」

「領民が危険だと言うのに、領主が王都から帰って来ぬでは士気も上がるまい。それより迎撃の準備は出来ておるか?」


 代官オルゼの訴えを穏やかに躱したオランデール伯爵が戦闘準備の確認をする。


「…迎撃準備は出来ております。戦場に出る事の出来る八千の兵を五つに分け最前列に能力者とハンターを配備しました」

「うむ。それでよい。しかしギリギリまでこちらからは仕掛けるな。緊急伝書を飛ばし、クロナシェルから強力な援軍を呼んである」

「…クロナシェルから…ですか?クロナシェルはサウスサウザンドから侵攻を受けていると聞きましたぞ!?ウォール殿とて必死のはず。援軍などこちらに寄越す余裕などありますまい!!」


 オルゼの剣幕に、落ち着いて答える伯爵。


「…大丈夫だ。クロナシェルの方は早々にカタが付いておる。そして呼んでいるのは速攻でカタを付けたその本人一人だけだ」

「…はッ!?もうクロナシェルの戦闘は終わっているのですか!?しかし、ただ一人呼んだ所で帝国兵一万二千はひっくり返せませんぞッ!?」

「…まぁ、落ち着け。それが出来る男を呼んでおるのだ。すぐに解かる。問題はいつここに到着するか…だけなのだ…」


 そう言うと伯爵は戦場の彼方を見つめる。平野の奥から砂ほこりが舞い上がっているのが見えた。


(…ついに帝国軍が来たか…。ホワイトよ、早く来るのだ!!)

「…ルイス様。わたしは騎士であり軍人です。ただ一人の能力者などに頼るよりも現実的に行動し、帝国軍を何とか押し戻すつもりです。…ルイス様は何があってもルアンブールから出られませぬよう。わたしが防衛に失敗したら…後は頼みます…」


 戦場になるであろう平野を見つめる伯爵にそう告げたオルゼはすぐにルアンブール東門から馬で駆けて軍に合流した。


 それを見届けた伯爵は、ルアンブール防衛の為に、予備兵に召集を掛ける様に伝令に伝える。東西南北の門に巨大な(かんぬき)を掛けて、固く閉ざした。


 その後、食料の備蓄倉庫を確認した後、指令を出す為に再び物見台へと登った。



 俺達は三輪バギーで東へと爆進しつつ、戦場について確認していた。シーちゃんがバギー全体を無属性魔法サイレントで囲み、走行中の爆音を遮断している。


 妖精達の情報によると帝国軍は現在、国境線を超えて進軍し、ルアンブールに迫っているとの事だった。


 戦場は平野で、このまま行くと俺達は小さな山を迂回して南側から戦場に突入する事になるようだ。


「このまま進み、帝国軍より早く到着出来れば間に入り我々で追い返し、もし既に戦闘に突入していたなら南から突撃して横槍を入れて混乱させましょう」


 状況を確認した後、リベルトの進言を受けて、俺は更にギアを上げてバギーを爆進させる。


 小高い山を迂回した俺達は程なくして戦場が見える場所まで到達した。俺達の右手、東側からから土埃を上げて帝国軍が迫っているのが見えた。


 俺は一気にアクセルを捻り、戦場へと最高速度で突入した。



 帝国側星騎将はスジャーク配下の筆頭星騎将、天秤のリブラ・スケイルが軍を率いていた。参軍として二人の星騎将、天蠍(てんかつ)のクラスト・スコルピオ、射人馬(しゃじんば)アーチェル・シュートリスが従軍。


 戦場が平野になる為、総兵力一万二千のうち、四千を馬に鉄鎧を纏わせた『鉄騎兵』を前面に出し、その両側に歩兵を二千づつ配備、両側の歩兵の前に槍兵を二千、置いた。


 今回の戦争でリブラが敷いたのは包囲殲滅を狙った鶴翼の陣だ。


 軍を率いるリブラは本国の諜報部に頼らず、自軍で諜報活動を行っていた。その為にルアンブールに駐屯する兵力八千を上回る兵力一万二千で出陣した。


 事前調査でルアンブールに、強力な能力者がいない事も確認済みだ。そして早々に決着を付けるべく籠城される前に、相手が出て来ざるを得ない状況を作った。


 ルアンブールへの救援を断つ為に、王国領土南部を分割譲渡する条件で、サウスサウザンドに南からクロナシェルへの侵攻を取り付けた。


 ウェルフォードには援軍を送る程の兵力を置いていない事も確認してある。


 王都エニルドには白星老将タイガが十二万の兵を率いて進軍している。エニルドからの救援など到底出せないとリブラは踏んでいた。


 リブラの読み通り、ルアンブール兵は出て来ざるを得なくなった。一か八かの平野戦で迎え撃つしかない。ルアンブール代官のオルゼが防衛特化の軍事に長けた人物である事も調査済みだったが、平野戦では確実に騎馬兵の多い帝国軍が有利だった。


 確実に『勝利』する状況に持ち込んだリブラだったが、ただ一つの不確定要素によって作戦が崩れ始めているなど、思いもしなかった。


 サウスサウザンドの早すぎる本陣壊滅と撤退である。しかしその情報はリブラ以下帝国南軍には伝わっていなかった…。



「…伯爵、間もなくオルゼ様と帝国軍が交戦に入ります…」


 伝令から聞いた伯爵は、濛々(もうもう)と土埃を上げながら迫る帝国軍を見ていた。しかし、まだ動かぬように物見台から信号を送らせる。


 伯爵は、一人の救援も待っていたが、オルゼが言うようにそれだけには頼っていなかった。


 帝国軍が鶴翼の陣を敷いているのを見て、ギリギリまで敵を引き付け、初撃で魔導兵の魔法攻撃によって鶴翼の両側を潰し、帝国主力の鉄騎兵が出て来た所で重装の長槍(ランス)兵とハンター達で主力を一気に叩くつもりだった。


 間もなく両軍が激突するというその時、物見の兵から突然声が上がった。


「…伯爵!!南から何者かが迫っています!!」

「…何者だ!?帝国の別動隊か…!?」


 突然の事態に驚き、すぐにどうするかを再考する伯爵。そこへ物見台に突然、王国の『影』が現れた。


 影は膝を付くと伯爵に報告をする。


「…伯爵。間に合いましたぞ。南から家族(ファミリー)を連れて『例の男』が急速接近しています…」

「そうか!!間に合ったか!!」


 影からの報告に。望遠鏡でそれを見た伯爵は喜んだのも束の間、戸惑いを見せた。


「…しかし、ヤツは何に乗っておるのだ!?見た事もない…巨大な鉄の馬か…?」

「…それはわたしにも判りかねます…」


 苦笑いを隠さず、答える影。


「…それではわたしは任務に戻ります故。健闘をお祈りしております」

「…うむ。ご苦労だった。後はヤツに任せればよい…」


 その言葉を聞いた影は、一礼すると一瞬でその場から消えた。


 南から正体不明の者が何かに乗って戦場に接近しているのを対峙する両軍が確認していた。王国側のオルゼには、伯爵と同じく『影』がその存在を報告する。


「オルゼ様、救援が来ましたぞ。あの者は危険です故、少し軍を退いていた方がよろしいでしょう…」

「…あの者は…味方なのか?あんな得体の知れぬものに騎乗してくるとは…」


 領主代官オルゼもまた、土埃を上げて爆走してくるそれを見て戸惑っていた。

そしてそれは帝国側もまた、同じであった。


 総指揮官リブラ以下、クラスト、アーチェルもまたそれを確認して驚きを隠せないでいた。リブラはすぐに進軍を止めさせる。


「…あれは何者だ!?…一体何なのだ!?巨大な鉄騎兵か…?」


 戸惑うリブラに、馬で接近して来たクラストが答える。


「いや、王国側に巨大鉄騎兵がいるという情報はない。こちらで援軍を頼んだ覚えもない。つまりあれは敵と見做して良いだろう…」

「そうか。なら遠慮する必要なんてねぇな!!俺がいっちょ先陣切ってアレを叩き潰してくるわッ!!」


 そう言い放つと、射人馬のアーチェルが先頭に立ち、鉄騎兵を進軍させる。


「…おいッ、アーチェッ、待てッ!!正体不明の者に突っ込むのは止めろッ!!罠かもしれんぞッ!!」


 しかし、アーチェにはリブラの忠告が届かなかった。



 両軍激突するその直前に、俺達は戦場に到着した。俺は戦場のど真ん中にバギーを止めると叫んだ。


「ホワイトファミリー!!ただいま参上ォォッ!!」


 そしてすぐに跳躍で上空に跳んだ。帝国軍の展開を見る為だ。敵は鶴翼の陣を敷いていたが、俺達が現れてから突如、陣形を崩して突進して来た。


「…あ、バカが突進して来た…。ありゃ、鉄騎兵だな…」


 それを見た俺は、突然ある事を閃いた。すぐに着地するとバギーを背にして龍神弓を構える。闘気を纏わせて右腕に『闘気版狂襲乱射』をセットした。


 そして突撃してくる帝国鉄騎兵の手前の大地を、狂襲乱射でラインを引くように斜めに掘削していく。大きな轟音と共に浅く奥に、そして横長に塹壕を掘った。


 先頭を走る狂気に満ちた男の顔が見える。俺は思わず笑ってしまった。その瞬間、斜めに掘られた塹壕の上を猛烈な勢いで突進して来た鉄騎兵が崩れて陥没する大地に先頭から飲み込まれて行った。


「アッハハーッ!!バカみたいに突進してくるからこうなるんだよォッ!!」


 俺は深く大きい巨大塹壕を跳躍で飛んで渡ると、トコトコ帝国軍へと近づいていく。


「オイッ!!お前らッ!!戦争なんか起こすんじゃねぇッ!!お前らのせいで俺まで召集されただろうがッ!!さっきの見たろ?今すぐ兵を引けッ!!」


 そんな俺に馬に乗った鎖の様な鉄鞭を持った男が接近してくる。


「…突然現れて何を言うかと思えば…アーチェの鉄騎兵を潰しただけでいい気になるなよ?」


 俺に接近する男をその後ろにいた別の男が諫める。


「…待て、クラスト。まだ相手の力が不明なのだ。むやみに接近するな…」


 どうやら立ち位置的に後ろのヤツが総大将の様だな…。その言葉にクラストと呼ばれた男が馬を止める。


 コイツはさっきの突撃くんと違って自制は効くようだな…。


「…突然、戦場に現れたそなたは何者か?名乗って戴きたい…」

「いや、そんな事はどうでもいい。先に警告した通り、兵を引かなければ強制退去させる。聞こえたな?二度は言わない…」

「一方的にそう言われても困りますな。我々は皇帝より使命を預かっており…」


 そこまで聞いた俺はこりゃダメだなと思った。痛い目見ないと解からんらしいな…。


 俺はすぐに、幹部三人を除くレーダーマップの中の全ての兵士にマルチプルゲートをマーキング、発動した。


 瞬間、一万二千の兵士が(ことごと)く、その場から消した。


「…何だとッ!?どうなってる!?リブラッ!!」


 クラストは驚き、後ろにいた男、リブラを振り返る。驚きで一瞬、思考停止したリブラとクラストに、俺は範囲でサンダーチェインズを喰らわせた。


 …つもりだったが、二人とも馬上から素早く跳んで範囲から逃げたようだ。俺から距離を取った二人は膝を付いて、俺を睨んでいた。

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