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警告。

 俺が起こしてしまった巨大幼虫モンスターを止める為に対岸へ転移しようとした所、フラムに止められた。


「あぅぁ~、あぅっ、あぅぁ、あぅぁぁ、ぃう~(パパ、まつ、フラムいっしょ、いく)」


 リベルトに抱っこされていたフラムが、窓の外の巨大モンスターを指差して俺と一緒に行くと言う。


「あぅぁ~、あぅ、あいうぅ~?(パパ、あれ、かいじぅ?) 」

「…フラム。あれは海獣じゃなくて大きな幼虫さんだぞ?」

「ぁうあぅ?(ようちぅ?) 」

「そーでしゅ。あれは河の中に住んでる大きいモンスターの幼虫でしゅよ?」


 シーちゃんにも、あれは大きい幼虫だと言われたフラムは『ようちぅってなんだ?』といった疑問の表情だ。フラムが何気に『い』も覚えた事に俺は驚いた。少しづつだが言葉を覚えているようだ。


 しかし子供から見ると、あの幼虫は大きいから海獣に見えるのか…。


「あぅ~っ、あぅああっ、ぃうっ(みたい~、いっしょ、いくっ)」


 フラムはどうしてもあの巨大幼虫が見たいようだ。俺が考えているとリベルトが難しい顔で話す。


「…わたしはフラムちゃんを連れて行くのはどうかと思いますが…」

「…同感ですな。あれだけ巨大でしかもあの破壊の力を見ると小さな子供達を連れて行くべきではないかと…」


 リベルトに続き、ウォールさん以下、作戦室幹部達にも止められた俺はフラムを見て考える。しかし考えるまでもなく、置いて行ってもすぐに付いて来ることが予想されたので、その事を話した。


「…フラムちゃんがよもや転移スキルを持っていたとは…」

「…まさかッ!?そんなに小さなお子様が…ホワイト殿と同等の転移スキルを持っていると…?」


 フラムが俺と同じ転移スキルを持っている事を説明した後、置いて行っても付いて来るだろうと話す。リベルトとウォールさん、作戦室患部が驚いていた。


「…ですのでフラムも一緒に連れて行きます」


 フラムが行くならと、ティーちゃんとシーちゃんも付いて来ることになった。

ティーちゃんとシーちゃんについては、その正体と力を知っているリベルトが、上手く誤魔化しつつウォールさん達に大丈夫だと説明してくれた。


 その流れから、この世界の都市を護る転移防止障壁に付いての説明と、それを超えて来る俺達の転移能力についての話になった。


 ここクロナシェルには三段障壁が張ってあるにも係わらず、俺達が簡単に転移で入って来たので驚いたという。


 聞くと敵国からのテロを防ぐ為の転移防止障壁がこの王国のみならず、各国、各都市に張ってあるという。段階が上がる毎に、障壁は強くなり高位の転移魔法、転移スキルをも弾くそうだ。


 ここ、クロナシェルに入って来れたのはリーちゃんの転移魔法だ。リーちゃんの高位次元転移魔法なので、障壁が何段であろうと超える事が出来るとティーちゃんに『密談』で教えて貰った。


 まさか妖精に転移して貰ったなどと説明しても信じてはもらえないので、代わりに俺の転移スキル『神幻門』についての説明をした。


 素粒子レベルまで身体を分解出来る事、そしてそのまま光速で時間と空間を飛び越す事を説明した。ちなみにティーちゃんによると俺の神幻門も高位次元転移に分類されるとの事だった。


 まぁ、泥酔していたとはいえ、一度ならず何度も地球とこっちの世界を往復してるからねw


 俺の話に、ウォールさん以下、クロナシェルの作戦室の参謀達も口を開けたまま呆然としていた。


「…そのような高度転移スキルがあるとは…。他にも聞きたい事があるのですが、今はあの怪物をどうするかが先ですな…」


 その言葉に俺達は頷いた。


 河の中に別に危険な水生獣がいるので、こちらの兵士やハンター達には河に接近しない様に指令を出して下さいと頼んだ俺は、ティーちゃんとシーちゃん、フラムと一緒に、対岸の敵本陣に跳んだ。



 敵本陣に到着した俺達が見たのは、悲惨な光景だった…。


 怪物相手に、敵総大将と思われる人物を筆頭に側近達と一般兵達が怪物に群がり戦っていたが、端から怪物の脚に弾き飛ばされ、頑強な顎で身体を噛みちぎられ尻尾で薙ぎ飛ばされる。


 既に本陣は完全崩壊、辺りには血の臭いが漂っていた…。正に地獄絵図だ。


 俺は急いで『マルチプルゲート』を発動させた。敵総大将と側近、生き残った兵士達をスキルで本陣から離れた森の外に転移で飛ばした。


 突然、目の前から消えた兵士達を探して、目を赤く光らせるヘビトンボの巨大幼虫。巨大幼虫は俺達を視認すると襲い掛かって来た。


 俺はフラムをおんぶしたまま、神速を使って巨大幼虫の攻撃をタガーで捌きつつ、後退する。その間に、ティーちゃんとシーちゃんに、突然起こして済まなかった事、俺が謝っている事を通訳して話をして貰った。


 二体の妖精女王の説得も、巨大幼虫は聞く耳持たずバーサーク状態が収まらないようだ。俺は仕方なく、攻撃を捌く事を止めて、その場で止まった。


 瞬間、『ゾーン・エクストリーム』が発動する。


 そして動きの止まった巨大幼虫に、改めてティーちゃんとシーちゃんに謝罪の意を通訳して貰う。


「…ダメじゃ。全く聞いてくれん…」

「…はんぱなく怒ってるでしゅ…」


 …困ったな…。今まで河の中で静かに生息していたのに、俺が勝手に起こしてしまった手前、コイツを殺すのは避けたい…。


 どうするか迷っている俺の後ろから、フラムが小さな手で俺の肩をポンポンと叩く。どうやら下ろして欲しい様だ…。


 俺はすぐにフラムを下ろしてやる。何かあっても困るのでテテテッと巨大幼虫に近づくフラムに付いていく。


「…あぅぁ、ぁー、あぅあ~、ぁー、あぅあ~…ぁぅ(パパ、ごめんなさい、フラム、いっしょ、ごめんなさい、する)」


 そう言って巨大幼虫の眉間に、小さな手でそっと触れるフラム。フラムの手がボワッと柔らかい光を放ち、黒い霧の様なものを吸い取っていく。


 …これは『無邪気』だな…。スキルで巨大幼虫の怒気を吸い取っているのか…?


 しばらく、怒気を吸い取っていたフラムがそっと巨大幼虫から手を離す。そしてもう一度、ゴメンナサイと小さな頭を下げた。俺も慌てて、巨大幼虫にごめんなさいと頭を下げる。


 それをティーちゃんとシーちゃんが通訳してくれた。二人によると、フラムの無邪気によって身体全体が赤く強く光っていた巨大幼虫は、バーサーク状態から通常モードに戻ったようだ。


 ちゃんと謝ったのも、巨大幼虫に通じたらしい。安心した俺はフラムを抱っこして、幼虫からそっと離れる。


 体が動くようになった幼虫はゆっくりと向きを変えると河の方へと戻って行った。


「ありがとう!!フラム、良くやってくれた!!お手柄だぞっ!!」


 俺は感謝しつつ、フラムを褒めると、嬉しそうににこにこ笑う。


「フラム、お手柄じゃ!!」

「フラムすごいでしゅ!!」


 ティーちゃんとシーちゃんにも褒めて貰ったフラムは、キャッキャッと喜んでいた。


 親の不始末を何とか子供に収めてもらったw



 フラムのスキルで巨大幼虫を河に帰す事に成功した後、ティーちゃんとシーちゃんにフラムを連れて先にクロナシェルに戻って貰った。


 その場に一人残った俺は、森の外側から兵を再編して戻って来る敵総大将を待ち受ける。頭にターバン?を巻いた砂漠の戦士達が騎馬で戻って来るのが見えた。


 敵総大将は法衣の様な黒い布を纏うその下に、黄色い軽鎧を装備していた。鼻の下から顎まで黒いひげを生やし、彫りの深い鋭い眼付きの浅黒い肌をした屈強な男だ。


 想定外の事が起こって混乱したが、ここからは当初の予定通り敵兵が二度とクロナシェルに攻め込んで来れないようにハッタリついでに脅しておくつもりだ。


 ヤツらは騎馬隊であっという間に戻って来ると、四方から俺を囲んで槍を突き付けて来た。


「…サウスサウザンド王国北部領総督、ナゼル・ビン・マドゥーラである。そちは何者か…?」


 馬上で手綱を引きつつ、総督を名乗る男が俺に問う。俺は視線だけを上に向けて答えた。


「エニルディン王国所属、フリーSランクハンターのアンソニー・ホワイトです。この度の国境侵犯、誠に遺憾で御座います。わたしも忙しいモノでして、この度の件に関しまして王国を代弁し、必要な事だけお伝えいたします」


 黙ったまま睨み付けるように俺を見下ろすナゼル。俺は一呼吸置いてから続けた。


「二度とこのような事をされませぬよう、強く警告を申し上げます。先程、わたしの従魔がどれほど危険か、その身をもって強く感じて頂けたかと思います。わたしの能力は使い魔、従魔を呼び出し、使役する事が出来ます。次に国境侵犯が確認された場合、わたしの使い魔、従魔がお相手致します。ナゼル総督、お気を付けなされませ。わたしの能力はアナタの周りを囲む兵の力を軽く凌駕する事が可能です」


 そして俺は指を鳴らして合図を送る。


 俺の合図と同時に妖精達が幻影魔法で悪魔を作り出し、サウスサウザンド兵を囲んだ。更に妖精達が精神操作魔法を使い不安を煽る。


「わたしは悪魔を使役する事が出来ます。そういう能力を持ち、そしてその力をこの身に宿し、使う事も可能なのです」


 無言のままのナゼル総督と不安でざわつく兵士達。


「今後は兵を出しても決して動かれませぬよう願っております。では、失礼させて頂きます…」


 その忠告を最後に、俺は姿を消した。姿は消したが、戻らなかった。このまま隠れてサウスサウザンド側がどうするかを見ていた…。



「…ナゼル様…先程の者はかなり危険かと思われます。どうされますか?王にはどうお伝えされます…?」

「…うむ。帝国からの能力者はどうした…?」

「未だ戻っておりませぬ…。捕らえられたか、敗北し、逃走したか…先程の騒ぎで全く判りませぬ…」

「…ふむ。今回はあの者が暴走した。王にはわたしから直接そう報告する…」

「…では撤退されますか?」


 暫く考えるナゼル。


「先程の王国のハンターは兵を出す事は構わぬと言っておった。こちらの事情を汲んで、兵は出しても良いが手は出すなという事であろう?」


 一旦、周囲の兵を見回して再び話を続けるナゼル。


「一度、兵を引き再編成の後、砦を建造し駐屯する。名目はエニルディン王国からの国境侵犯、及び巨大モンスターへの警戒とする。では一旦、北部領要塞へと撤退せよ!!」


 生き残った兵達がナゼルの前で膝を付き、頭を下げる。兵を手早く纏めたナゼル総督は、そのまま北部領へと撤退した。


 気配を消し、隠れてその一部始終を見ていた俺は、喰えねぇおっさんだなと思った。


 帝国からの能力者が暴走したとか良く言うぜ。あの言い方だと今回の侵攻はナゼルも承知の事だっただろう。


 敗戦の責任はいないヤツに押し付ける、ってトコか…。サウスサウザンドの兵が完全撤退したのを確認した俺は、報告の為にクロナシェルに戻った。



「…どうでしたか?」


 リベルトに聞かれて、俺はウォールさんと作戦室の面々に報告をする。今回の件について強く警告をした事、隠れてサウスサウザンド側の動向を確認して来た事を話した。


「ナゼルという総督の話しぶりから、侵攻する事は確定事項だったようです。本陣が破壊されていたので、一度撤退し兵の再編後にまたそこに来て兵を駐屯させるようです…」

「ご苦労様でした。今後もサウスサウザンドの動向には注意を払っておきます」

「かなり強めに警告をしておいたので暫くはこちらに攻め込んでくる事はないと思います。何かありましたら、また参りますので。もしわたしが不在の時はファミリーの誰かが参ります」

「ありがたい。その時はよろしくお願いいたします」


 そこへ、戦後処理の終わった兵士達と共にグレンさんPTと他のハンター達も報告に来た。共に報告を終えた俺達は、グレンさん達に誘われてクロナシェルの料理屋で昼食を摂る事にした。

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