ムカデくん、さよなら。
皆の牽制攻撃で怒りを露にした巨大センチピードが、目を真っ赤に光らせて、大きな顎で襲い掛かって来た。
ティーちゃん、シーちゃん、アイちゃんが俺の後ろに退避してセンチピードを俺の方に誘導する。
「…今だッ!!完全粉砕してやるッ!!喰らえッッ!!」
俺は叫ぶと、接近してくるカイザーセンチピードにトルネードアローを放った。電柱程の太さになっていたトルネードがそのまま、
―ゴウゥッ!!
と凄まじい音を上げて、極太レーザーの様に飛んでいった。もう既に、弓攻撃の概念を越しちゃってる気がするけど、まぁいいか…。
「行けェェッッッ!!トルネードォォッッ!!」
俺は力の限り叫んだ。トルネードがセンチピードの腹部の甲殻に当たり、ガリガリと削り始めた。その瞬間、メキメキッッ…!!という音と共に、甲殻にひびが入っていく。
「…行けるッ!!粉砕しろォォッ!!」
そのタイミングで、俺はすぐに鉄の矢を放つ。鉄の矢が甲殻のひびに突き刺さり亀裂が入った。そこを更に闘気トルネードが押し拡げて削っていく。
…バキッ!!バキッバキィッッ!!バキャッッ…!!
凄まじい音と共に、トルネードアローがセンチピードの甲殻をバキバキと破壊していく。そしてついに、『闘気版トルネードアロー』がセンチピードの腹部を貫通した。
俺は思わずガッツポーズする。
「うぉっしゃぁあぁぁっ!!退治完了ォォッ…!!」
粉砕出来た喜びで叫んだ俺の後ろから、シーちゃんが飛び出して来る。
「アンソニーっ、下がるでしゅっ!!」
その時、俺はセンチピードを倒したと思って完全に油断していた…。俺の頭の上に、千切れて飛んできたセンチピードの頭が、そのままの勢いで襲い掛かってくる。センチピードの目は怪しく光っていた…。
…アレ?まだ死んでいない…?
「…げっ、まだ生きてるのかよぉぉぉっ!!」
シーちゃんがセンチピードの頭部をドロップキックで蹴り、飛んでくるセンチピードの頭の軌道をずらしてくれた。俺は慌ててバックステップで後退する。
ズウウゥゥゥンッ…!!
轟音と共に、センチピードの頭が地面に落ちた。土埃が舞上がる中、空中に飛んで高速回転していたシーちゃんが回転の勢いを使って、そのまま猛スピードで上空から砲弾のように降ってくる。
シーちゃんがセンチピードの頭にフットスタンプを喰らわせた。
メキメキメキメキメキッ…!!と頭部甲殻が軋む音と共に、シーちゃんのフットスタンプがセンチピードの頭を、バキャッッッッ!!と完全に潰した。
…す、すごい威力だな…。
しかしその瞬間に、脳やら内蔵やらのミンチが飛び散って俺の方に飛んできた。俺は反射的に旋風掌を起こして臓物を向こうに飛ばす。
…グロいからね…。
千切れた腹から尻尾の方は、ガイアスがハンマーパンチで粉砕していた。暫くぴくぴくと痙攣していたが、すぐに力尽きてついにセンチピードは動かなくなった。
…ふぅっ…最後まで油断できんな、これは今回の反省点だな…。シーちゃんがいなかったら、俺の頭が飛んで今頃デュラハンになってたかもしれん…。
…笑えんわ…。
…しかし、しかし本当に逃げなくて良かった。ティーちゃんのあの一言が無ければ、俺は逃げていたかもしれない。
この世界に来てまで人を裏切りたくないし、信用を無くしたくはない。しつこい様だけど、本当に逃げなくて良かった…。
ん?どこかで聞いたことあるセリフだな…w?
◇
俺達は何とか、センチピードを撃破して退治依頼を完了した。それは良かったんだけど、今度は別の問題が発生した。
俺が放ったトルネードアローが…センチピードの甲殻を粉砕して貫通した後も、ずーっと宙に漂い、回転し続けていた。
闘気を纏ってフル回転のままで、だ…。
普通、漫画とかゲームとかだと、倒した後はこういうのって大体消えてるよね?それが俺のトルネードアローは消えないまま、ずーっっとフル回転のまんま滞空していた…。
「…コレどうしよう…?」
「…ふーむ、困ったのぅ。大体、魔法にしろスキルにしろ放った後は、大気中に霧散して魔素に還元されるんじゃが…全然、消えんのぅ…」
「…なんかコレ、触ったら腕がミンチになりそうね…」
高速回転するトルネードを見て、アイちゃんが恐ろしい事を言う。
「…このままにするのはまずい気がするけど…マジでどうすればいいんだろ?」
「アンソニーが出したんだから、アンソニーがコントロールするんじゃないでしゅか?」
シーちゃんの言葉に、一同うんうんと頷きいて俺を見る。
「…念じれば何とかなるんじゃない…?」
目が覚めたのかリーちゃんがティーちゃんのポケットの中で、眠そうに目を擦りながら言う。念じるって…。
皆で、俺のトルネードアローをどうするか話し合っていると、トルネードが少しづつ下がり始めた。軽自動車と同じくらいの大きさの回転するコマを想像して欲しい。
それが横向きで高速回転している感じだ。そんなヤツが、徐々に徐々に下がっているのだ。
「…マズイマズイマズイマズイィッッッ…!!」
このままだと…大地を削ってしまう!!そうなった場合どうなるか…。あの堅い甲殻を粉砕した位だ。どうなるか考えると冷汗が出て来た…。
≪…オイッ、人間よッ、早く何とかせんかッ!!≫
大地の精霊ガイアスが叫ぶ。
「何とかしろって言っても…」
そんな事を言っていると、ついにトルネードが地面を削り始めた。
―チュィンッ!!という音と共に、ガガガガガガガガガガガガガガッッッッ!!と大地を削っていく。同時に一帯が激しく揺れ始めた。
「うわわわっ、マジでやばいッ!!、どうすりゃいいんだっ…!!」
既にもう半分ほど沈んでいる。は、早いっ…!!このままだとこの星の中心核まで掘っていくい勢いだ…。
≪お主が出したんじゃから、お主がコントロールするんじャッ!!≫
激しい揺れと大地を削り取る轟音で、精霊ガイアスの叫ぶ声が辛うじて聞こえる有様だ。俺がやるしかないっ!!そう決断した時、脳内に声が響いた。
≪ホワイト、良く聞けッ!!シーアとガイアスの言う通りじゃッ!!お主の闘気で放ったものはお主しかコントロールは出来ん。闘気はお主に繋がっておる!!お主の強い意志を通し、伝えるんじゃッ!!≫
…これは…神様の声だ!!
俺は右手を、沈んでいくトルネードに翳す。全員、その場に立っていられない程の揺れの中、俺は闘気に意識を集中した。
レーダーマップを見るとこの辺り一帯を、赤い範囲が覆って点滅していた。カーナビとかでよく表示される豪雨危険地域を表わしてるやつに似てるな…。赤色で点滅してるから危険という事だろう…。
その範囲にはスラティゴが入っていた。俺は強い意志をトルネードに伝える。
≪回転を止めろっ!!回転を止めて早く上がってこいッ…!!≫
暫くして、ゆっくりとトルネードの回転が弱まっていく。そしてスウゥーッ…と上がってきた。
≪よしよしよしっ、戻ってこいっ、トルネードッ!!≫
俺が念じたと同時に、トルネードアローのスパイラルしている部分が、スルッと解けるように、俺の右手の中に戻ってきた。
そして中心の、槍のようになった闘気が続いて戻ってくる。その瞬間、トルネードアローの中にあった鉄の矢が、カランッと音を立てて落ちた。鉄の矢を拾って何とかトルネードアローの回収が終わった…。
…マジで焦ったわ…。変な汗は出て来るし、疲れ過ぎて言葉が出なかった。
「よくやった、アンソニーよ」
「よかったでしゅ」
…みんなが安堵している中、アイちゃんは顔を蒼褪めさせたまま無言だった。揺れは完全に収まっていた。レーダーマップも通常に戻っている。
俺は何とか、闘気のコントロールに成功した。削れて深い穴になってしまった大地は、ガイアスがブツブツ言いながら埋めてくれた。
…俺の心臓の動悸が収まらない。一時はどうなるかと思ったよ…。その時、神様の言葉を思い出した…。
「お主が星を壊すような事はしてくれるなよ?」
…そうだ。俺は、脳のリミットが外れているんだった…。その事を踏まえて、何とか早く自分の力をコントロールしないと恐ろしい事になりそうだ…。
その時、俺は自分のステータス欄、が光っている事に気が付いた。突然、インフォメーションが脳内に響く。
≪新たな称号を獲得しました≫
…俺は…気になって開いてみた。
―!!―
…恐ろしい!!俺は恐ろしかったッ!!何が恐ろしいかってェェッッ?新たにヘンな称号が付いてしまったんだよォォォォッ!!
『スターデストラクション』
…何だよコレ?…点灯はしてないから良いものの、マジでコワい称号だな…。
…はぁっ、凄く疲れたわ…。早く村に戻って風呂に入りたい。
俺は心の底から強くそう思った。
皆はバラバラになったセンチピードの解体を始めていた。皆が解体している間、俺は休憩させて貰う事にした。近くにあった切株に座る。
ティーちゃん、シーちゃん、アイちゃんが三人で解体とドロップ品の回収をしているその傍で、俺はリングの隅で項垂れるあの人の様に真っ白になっていた…。
◇
俺は切り株に座り、休憩させて貰っていたが、粉砕して爆散したセンチピードの甲殻の破片や内臓が、辺りに飛び散っているのを見て、俺は気持ち悪くなって吐き戻しそうになった。
俺はすぐに視線を晒し、風で臭いを海岸の方へ流していく。
シーちゃんは、ティーちゃんの指示で内蔵を調べて解体して回収する。アイちゃんはセンチピードの顎、牙、足の爪、甲殻の破片を拾っていた。
「よく内蔵なんか解体して拾う気になるわね…」
アイちゃんがブツブツ呟きながら、ドロップ品を拾い集めている。その呟きにシーちゃんが、答えた。
「内蔵調べると良いんでしゅよ、毒とか入ってると研究に役立つんでしゅ」
「…ふーん、結構ちびっこなのにしっかりしてるのね」
「まぁ、研究の方はわたしがやるんじゃがのぅ…」
三人はそんな事を話しながら、手早く解体と収拾を終わらせる。俺は解体とかは専門外、というかグロくてやりたくない。ゲロ吐きそうだから三人にお任せした。
アイちゃんに、二人をきちんと紹介していなかった事を思い出して紹介しといた。
「ちびっこ二人の紹介まだしてなかったよね?ライトピンクの髪がティーちゃん、ライトグリーンの髪がシーちゃんね。可愛いふたごちゃんです!!」
リーちゃんについては、見えていないだろうから紹介は省いといた。またポケットの中でうとうとしてるし…。
あの轟音が響く中で、よくうつらうつらしてられたよな…感心するわw




