妖精達の野望2
翌日、仕事を終えて家に戻って玄関を開けると、土間に皆が集まっていた。
「おかえりじゃの」
「おかりでしゅ」
「あぅぁぅ~(おかり~) 」
「おかえりでな?」
んっw?…あれっw?
…ちびっこが一匹増えとるーw
「…フィーちゃんも来てたのか。シニスターは放っといて大丈夫なのw?」
「うむ。スロウとラスに任せているでな?大丈夫じゃ」
四人は土間に集まって一台の三輪車を囲んでいた。キッチンを見ると、近所に住む勇爺さんがテーブルに座ってお茶を啜っていた。
「おぅ、あき。帰って来たか」
「勇さん、急にどうしたの?」
話を聞くと勇爺さんが三人の為に三輪車を持って来てくれたらしい。
「三人のお友達も居ったから丁度良かったのぅ。もう孫が大きくなって使っておらんから持って来たんじゃよ」
「かなり綺麗なヤツだけど…これ貰っても良いの?」
「あぁ、良いんじゃ。ガレージで埃被るより使って貰った方が良いからの」
どうやら勇さんとこの孫が使っていたモノらしい。そういや勇爺さんとこの孫はもう小学生だったな…。
見た感じ綺麗で余り使っていないように見える。綺麗だし捨てるのは勿体ないのでありがたく貰う事にした。
「ありがとう。遠慮なく貰いますよw」
その言葉に勇爺さんはうんうんと頷いてお茶を啜る。
早速、ティーちゃん、シーちゃん、フラムとフィーちゃんが三輪車を囲んでじゃんけんをしていた。シーちゃんが勝って一番に乗ってみる事になった。
うちは土間が十二畳以上あるので子供が三輪車に乗って遊んでも全く問題ない。シーちゃんが、キコキコキコキコと楽しそうに三輪車を漕いでいる。次にフィーちゃんが乗る。
「ほほぅ、これは面白いでな?魔界でも作ってみるかのぅ」
その後ティーちゃんに交代してキコキコキコと三輪車を漕ぐ。
「おおっ、確かにこれはいいのぅ!!」
フラムは、ティーちゃんが三輪車に乗っているのを見て、早く乗りたいのかソワソワしていた。ティーちゃんが土間を一周したので、今度はフラムが乗る。
しかし三人より少し、小さいので足は届くものの、しっかりとペダルを踏む事が出来なかった。俺は一度、フラムに三輪車から降りて貰って、座席とハンドルを少し下げて調整した。
フラムがもう一度、三輪車に乗ってみる。今度は大丈夫そうだ。一生懸命足を踏み込んで三輪車を漕いでいる。
「あぅぁ~」
楽しそうな四人を見て、勇爺さんも満足そうだった。しかしこの時、乗って遊んだ三輪車を気に入ったティーちゃん、シーちゃん、フィーちゃんが後に、それぞれ世界樹と魔界でとんでもないモノを作ってしまうなど俺は思いもしなかった。
爺さんが帰った後、皆でおやつタイムにする。フラムは三輪車が気に入ったのかひたすら漕いでいたw
おやつの準備が終わった頃に、フラムを呼ぶと三輪車に乗ったままキッチンに来た。
俺はフラムの靴を脱がせて、座敷の方に座らせる。リーちゃんは、フィーちゃんを転移させて来たので疲れて部屋で寝ているようだ。
今日はフィーちゃんもいるので赤ちゃん椅子が足りない。だから座敷に上がって皆で卓袱台を囲んだ。
おやつは今日買ってきたプリンだ。
「…これは甘い匂いがするのぅ…」
そう言いつつ、フィーちゃんはカップの中のプリンを揺らしている。四つしか買ってこなかったのでフィーちゃんには俺の分を上げた。
四人とも美味しそうにプリンをスプーンですくって食べている。その後、俺はお酒の代わりのノンアルを飲みつつ、夕食の準備を始めた。
◇
フィーちゃんは今日この家に一泊してから明日の朝早くに帰るようだ。
「魔皇は忙しいでな?スケジュールが結構、詰まっておるんじゃ。明日はワーウルフ一族の領地で講演会があるんじゃ」
「…講演会?ワーウルフが講演するの?」
「違うでな?わっちが講演するんじゃ」
そう言うとフィーちゃんがいつも背負っているリュックからごそごそと本を取り出す。
「今回、わっち二冊目の本を刊行したでな?ほれっ、見るんじゃ…」
そう言われて手に取ると『素敵な魔皇になる為に出来る十のコト』『地方で魔王を目指すあなたへ』という魔皇と魔王を目指す魔族の為の指南書w?の様だ。
「読みたかったら貸してやるでな?」
「じゃあ一冊目の方、借りようかな」
俺がそう言うと、『素敵な魔皇に~』の方を貸してくれた。後でちゃんと読んでおくか…。まぁ、俺は魔皇は目指していませんがw
◇
うちの夕食は肉と魚で毎日ローテーションしている。今日の夕食は『魚』だ。毎回ちびっこ達にも食べやすい魚を選んでいる。選んでいると言っても大体、サバかサケなんですけどw
今日はサバの日だ。サバの塩焼き、豆腐と納豆、ほうれん草のスープと白いホカホカご飯だ。ほうれん草のスープは白だしとほうれん草を入れてお湯を注いだだけなのだがこれが意外といけるのだ。
俺は、ちびっこ四人分のご飯をよそってそれぞれの前に置いていく。
戴きますをしてから、早速食べ始めるちびっこ達。ティーちゃんもシーちゃんも美味しそうにもしゃもしゃ食べている。フラムも負けず一生懸命もぐもぐ食べていた。
そんな中、豆腐、納豆、ほうれん草のスープと白いご飯を食べたフィーちゃんがサバだけを残してじっと見ていた。
「…ん?どうしたの?サバ食べないの?」
俺が聞くと、じっとサバを見ていたフィーちゃんが、スッとお皿を前に押す。
「…わっち、お魚嫌いなんじゃ…」
「このサバの塩焼きはおいしいでしゅよ?」
「そうなんじゃ、ほんのり塩気がきいておって食べやすいしおいしいんじゃ」
二人の勧めに顔をしかめたままサバを見つめるフィーちゃん。
「…お魚は骨がいっぱいあるし臭うでな?じゃから嫌なんじゃ…」
「フィーよ、好き嫌いはいかんじゃろ?美濃さんに言うても良いんかの?」
「このお魚は骨が取れやすいんでしゅよ?身もきれいに取れるんでしゅ。一度食べたらやみつきになるでしゅよ?」
二人に続いて、躊躇うフィーちゃんにフラムがサバを食べて見せる。
「あぅぁ~、もぐ…あぅ、あぅ~ぁぅ…(ねえさん、もぐ、これ、おい~しぃ)」
三人の勧めに、箸を器用に使ってサバの乗ったお皿を引き寄せるフィーちゃん。暫くサバを見つめていたが、再びお皿を押し出して遠ざけた。
「…やっぱりだめじゃ。わっち、肉の方が好きなんじゃ…肉のおかずはないんかの?」
…この子も肉好きなのか。仕方ないな…。俺は冷蔵庫からチャウエッシェンを出す。
「これ、ウィンナーって言うんだけど焼くと美味しいんだ。これを焼いて上げるから頑張ってサバも食べてみて」
俺が出したウィンナーに一瞬、目をキラキラさせたフィーちゃんだったが交換条件が付いた事で急速にテンションか下がった。
俺は新しい箸を取り出すと、フラムにしてやった様にサバの皮と骨を綺麗に取って上げた。
「…これで食べやすいでしょ?皮も骨も取ったし頑張って食べて。その間にウィンナー焼いとくからね?」
俺の言葉に仕方なく頷くフィーちゃん。箸で皿を引き寄せて綺麗に取れた身を齧る。苦い顔で、もぐもぐと食べていたフィーちゃんだったが、暫くして表情が明るくなった。
「…これ、魚臭いが塩気がきいておってうまいでな?」
そう言いながら、残りのサバも白いご飯と一緒に食べ切った。
「お、よく食べたね。ウィンナー、もう少しで焼けるから待ってて…」
「これは確かに食べやすいの。うまい魚もあるんじゃな」
「普段、魔皇城で出て来るお魚ってどんなヤツ?」
俺はフィーちゃんに聞いてみた。魚の種類や料理法によってはちびっこは魚を嫌うだろうね。実際、俺も小さい頃に小骨が多い煮魚が夕食に出て来た時は、臭いと小骨が凄く嫌だったからね…。
詳しく聞くと、やはり丸物(頭がそのまま付いた状態)の魚を煮たモノだったようだ…。どっちかと言うと煮魚は大人向けの様な気がせんでもないけど…。
まぁ、大人でも嫌いな人は嫌いだろう。俺も嫌いだしw
ウィンナーが焼けたので、それぞれのお皿に乗せて上げる。ティーちゃん、シーちゃん、フラムに一本づつと、頑張って食べたフィーちゃんには二本乗せて上げた。
「…フフフ、良い匂いがするでな?これはすごく美味しそうじゃな?」
「フィーよ、よく頑張って食べたの。このうぃんなーすごく美味しいんじゃ」
「そうでしゅ。凄くおいしいんでしゅ」
「焼いたばっかりで熱いから気を付けて食べて…」
俺の言葉に、皆フーフーして美味しそうに食べていた。
「ほわいと、おんし魔皇城のシェフにも食べやすい魚とおいしい料理法を教えてやってくれんかの」
「そうだね。せっかくだから美味しく食べたいしね。今度魔界に行った時にシェフと話してみるよ」
美味しい魚もいると知り、更に焼いた美味しいウィンナーを食べたフィーちゃんは上機嫌だった。
リーちゃんが起きて来たので、夕食を出してあげつつ。皆でそれぞれ食後のドリンクを飲みながらまったりした。
さて、俺はあと一日仕事に出てから、また向こうの星へ戻る事になっている。早く王都に行って罰とやらを受けて来るか…。
暫くまったりした後、朝早いので皆すぐに寝た。




