妖精達の野望。
ブレーリンのテンダー卿から本部ギルドからの呼び出しと罰がある、との伝書を受け取った俺は困っていた。一度地球に戻って仕事に出なければならないからだ。
仕事行かないと地球で無職になってしまうw
考えた俺は取り敢えず王都に向かう事にした。俺が不在の間にクレアにスラティゴの防衛を頼んだ。クレアが一人だと退屈だと言うので、亡命の許可が下りた融真、キャサリン、クライにも同行して貰う。
クレアには三人の戦闘訓練をしつつ、スラティゴの防衛を頼んだ。エミル、未依里、チャビーは瑠以、要と同じくまだ亡命申請段階なのでギルド宿泊所で亡命の許可が下りるまで、エイムに戦闘訓練をして貰う事にした。
俺とフラム、妖精族三体はブレーリンから出て王都へと向かう。今回はウェルフォード村を経由してそこから山越えで王都エニルドへと行く予定だ。ブレーリンから出た俺は妖精ネットワークを使ってまずリベルトを呼び戻して貰った。
『影武者』をやって貰う為だ。東鳳の調査は今の所、椿姫の叔父である天流の消息を追っている所だ。俺はリベルトにエイムが新しくファミリーに入ったので後日、紹介すると伝えて俺が不在の間だけ、スキル『二十二面相』を使って俺に化けて貰い、影武者として王都に向かって貰った。
全ての準備が終わった俺は『神幻門』で地球に戻った。
◇
今回は急いでいたので世界樹を経由せず、そのまま直で戻った。地球に戻ってからすぐに準備に掛り、翌日仕事へ行く。
向こうで使っているアバターそのままで帰ってきたので、いつにも増して仕事の進行速度が速かったw
あっという間に仕事を終えた俺は午後一時半には退勤した。そして家に帰り付くと、待っていたティーちゃんとシーちゃん、フラムにお出掛けの準備をして貰った。
今日は午後から皆で買い物に行く約束をしていたのだ。
ちなみに家に集めていた魔力フィールドが動物達の助けもあり、かなり安定して来たそうだ。今では家から離れてもティーちゃんとシーちゃんの二人は実体化を維持出来る。
妖精族三体には『野望』があった。
俺が向こうの世界に行くようになってからも、せっせと魔力集めに励んでいたのは、全てこの為だったのだ。
『スーパーでお菓子をいっぱい買う』
その為に三体はずっと動物達を魔力集めに協力させていたのだ。俺は知り合いから貰っていたチャイルドシートを三つ設置する。助手席と後部座席に二つだ。
俺がフラムを抱っこして助手席に乗せようとした所、ティーちゃんとシーちゃんが助手席側のドアで押し合いをしていた。一旦、フラムを下ろして揉めている二人を見る。
「わたしが前に乗るんじゃからシーは後ろに乗るんじゃ!!」
「いーや、あねさまが後ろでフラムと一緒に乗った方が良いでしゅ!!」
どっちが前に乗るかで揉めていたようだwこのままだと埒が明かないので、俺は二人に提案した。
「じゃんけんして助手席に乗る順番決めておけばいいんじゃないの?」
「…うぅむ、仕方ないのぅ…」
「それではじゃんけんで決めるでしゅ」
話し合う二人を横目に、フラムが既に助手席に上がり込み、うんしょうんしょと座席に乗り込んでいた。チャイルドシートにスッポリと収まったフラムが、「あぅ~っ」と嬉しそうに両手を上げる。
じゃんけんをしようとしていた二人は、それを見て『はわわっ!!やられた!!』という顔をしていたw
二人はがっくりしたまま、後部座席の方に乗り込んだ…。
…という事で今回はフラムを助手席に乗せて俺達はスーパーへ買い物に向かった。
◇
シニスターでの生活の為に根こそぎ物資を持って行ったので、新たに食料品や諸々の買い出しだ。ちびっこ三人を大きいカートに乗せて移動する。
俺はまだお酒禁止令が解けていないので、代わりのノンアルと炭酸、必要な食料品を籠に入れていく。
その後、妖精族待望のお菓子コーナーとスイーツを見に行く。俺が子供達を連れて買い物をしていると、スイーツコーナーのおばちゃんに早速突っ込まれた。
「アンタ、独身って聞いとったけど子供三人もおったんかい(笑)!!」
「…えぇ、まぁ…」
俺は苦笑いしつつ、曖昧に返事をする。
三人をカートから下ろしてやると、ティーちゃんとシーちゃんがお菓子コーナーの棚を見て喜んでいた。
「お菓子いっぱいじゃっ!!」
「お菓子いっぱいでしゅっ!!」
二人とも両手を上に拡げてキュー〇ーちゃんの様に喜びを表現している。さすが双子、動きが完全にリンクしていたw
「皆、今日は五個までね」
俺の言葉に、再びおばちゃんが突っ込んだ。
「…五個づつって、アンタ子供甘やかし過ぎじゃないんか(笑)?」
その突っ込みに俺は、普段あんまりお店に連れて来れないからだ、と言い訳したw各々、好きなものを探して歩く。フラムは迷子になると困るので俺が一緒に付いて歩いた。
子供のオマケ付きお菓子コーナーを見上げるフラム。目をキラキラさせてどれが良いかなと探している。リーちゃんは何度もお店に来ては俺の仕事を見た後、フラフラ飛んで各売り場を見ているので、お菓子コーナーとスイーツコーナーの商品はほぼ覚えていた。
ティーちゃんとシーちゃんはリーちゃんの案内を頼りに、それぞれ目的のものを探して小さな子供用の籠に放り込んでいく。フラムにも籠を持たせて欲しいモノを入れてやった。
皆の好きなお菓子やスイーツとは別に、おかき、黒豆せんべい、幸せターン、ぱりんちょ、チョコチップクッキーなどをまとめ買いしておく。
その後、食料品を買ってから二階の衣料のコーナーに向かった。
俺が働いているお店は二階のテナントに子供服メーカーが(幼児~六歳くらいまで)入っているので便利だ。いつだったかトメ婆から毎回子供達に会うと同じ服を着せている、と指摘されたので、三人分の上下二着づつとアウター一枚づつ、帽子もそれぞれ買っておいた。
買い物を終えて店から出ようとした時、男が大きな声で叫んでいるのが聞こえた。
◇
俺達は男が叫んでいる方へ行ってみる。男がナイフを持ってお客の一人を人質にしていた。
「オラッ、早くしろよッ!!金持って来いって言ってんだよッ!!」
…強盗かよ…。全く、強盗する前にまず働けよ…。俺は溜息を吐きつつ、人混みを掻き分けて前に出る。
「…何やってんだ、おっさん。止めとけ止めとけ。そんな事したってはした金手に入るだけで根本的に解決にならないだろ?」
俺は喋りつつ近づいていく。
「オイッ、テメェ!!これが見えねぇのかッ!?」
男は人質の首にナイフを当てる。見た感じ俺より年代が上か…。手が震えている。強盗は初めての様だな…。
「…偉そうに説教しやがって!!俺がどんなに苦労して来たか分かんのかよッ!?」
「いや、全然。アンタの苦労なんてどうでもいい」
俺はトコトコ近づいていく。
「こっ、コイツッ!!俺をバカにしやがってッ…!!」
そう叫んで俺にナイフを突き付けたその瞬間、間合いに入った俺は一気に接近する。右に体を入れて、左手でナイフを持つ男の手首を掴むと、引き込みながら人質のお客を右手で引き離し、駆け付けた警備員に引き渡す。
俺は引き込んだ男の胸倉を掴むと、右脚を引っかけてそのまま倒した。背中から落ちた衝撃でナイフを取り落す男。向こうのアバターのままこっちに戻って来てるので強盗なんか全然怖くなかった。
一瞬の沈黙の後、拍手が沸き起こった。
…ハッw!?しまった。ついやっちまったw
警備員に取り押さえられて連れていかれる男。ざわつく周りに紛れるように、俺は買い物カートの方へ戻る。皆、俺を見て拍手してくれてた…。
「アンソニーよ、よくやった!!」
「お見事でしゅ!!」
「あぅぁ~、あーぅぁ(パパ、すーごい)」
俺はなんだか急に恥ずかしくなって、カートを押して足早に店から出た。大量の買い物を車のトランクに乗せて、俺達は山の上の家に戻った。




