意外と根に持つ男。
騒然とする会議場の中、ジード博士が叫んだ。
「なんじゃとッ!!研究所が…。警備は…警備兵は何をやっておったのじゃッ!!」
「…そ、それが突然現れた者に全員、無力化された様で…」
会議場で各将が無言で視線を合わせる中、玄星老将クロゥが声を上げる。
「どうなっている!?この帝都には転移防止の二段障壁が張ってあるのだ。どうやって侵入した!?」
「恐らく上位転移スキルを持っておるヤツの仕業であろう。でなければこの帝都には入っては来れぬ」
碧星老将トウガの言葉にスジャークも頷く。突然の報告にショックを隠せないジード博士は何も言えず顔を強張らせたまま、力なく座った。
「とにかく、被害状況を把握し早急に報告せよ。それから博士はすぐに宿舎に戻り休息を取るが良かろう。会議は一時中断とする」
皇帝の言葉に、各将は話しながら会議場から出て行った。ジード博士も立ち上がるとすぐに会議場から出て行く。そして先程の警備兵を見つけて声を掛けた。
「そこのお主、ちょっと待ってくれんか?」
「…博士、今回は残念です。まさかこのような事が起きるとは…」
「そんな事はもう良い。それより聞きたい事がある。研究員は無事か?」
「はい。全員、無事であります」
「そうか、それなら良い。最悪は研究員が失われる事じゃ。資料も設備も作り直せるが頭脳と記憶だけはどうにもならんからな。所でお主はこれから現場検証に行くのか?」
「はい。これから被害状況の確認と、現場にいた警備兵と研究員の方から話を聞く予定です」
「そうか。ワシも行くぞ。何か分かるやもしれんからの」
話しつつ、ジード博士は警備兵と共に破壊された研究所に向かった。
◇
俺がシニスターに戻ると、スロウ、エイム、三人娘が待っていた。小屋の奥のお座敷を見ると、フィーちゃんはスッキリした顔でフラムと一緒に昼寝していた。
「…結局、どこへ何をしに行ってきたんですか?」
瑠以に問われて話そうとした時、要が、俺の転移スキルの残滓を視て小さく唸った。
「…帝国?に行ってきたんですか!?あともう一か所…ここは…どこなんだろ?」
要は俺のスキルの残滓を追跡したようだ。要には転移追跡能力もあると確か瑠以が言ってたな…。
「フィーちゃんは何も言わなかったのか?」
そう聞くと、煉が答えてくれた。
「フィーアちゃん様は戻ってくるなり『あーッ、スッキリしたでな?わっち疲れたから寝る』って言ってすぐそこでお昼寝始めましたよ?」
スロウとエイムにも問われたので破壊工作について簡単に話した。
「…戦争が始まる前にちょっと牽制しておこうと思ってさ、帝国と教皇領に行ってきたんだよ…」
「ふむ。戦争前の仕込みをしておくのは良い事かと思います。少しでも勝つ確率が上がりますからね」
エイムの言葉に俺も頷く。
「離間策も使って、少し混乱させようと思ってね。まぁ、実際どこまで効果があるかは疑問だけどね。それとは別に、個人的な仕返しもして来たって感じだなw」
「…個人的な仕返し…ですか?」
スロウが俺を見る。
「あぁ、帝国にいるジード博士の事なんだ。あのジジイが俺の事を喋りやがったせいで帝国のヤツらが来て混乱したからな…」
その言葉に、瑠以が俺を見る。
「それでもわたし達にとっては良い方に転がったので良かったですよ。あんな国にずっといるのはごめんですからね」
要と煉の二人もうんうんと頷く。
「巧く帝国から抜ける事が出来たし、結果オーライですよ。やっとまともな食事にありつけたし…」
「そうね。いくら勇者PTって煽てられても、食事はお粗末だし自由は制限されるし。今回の鋭斗くんの暴走がわたし達を助けたっていうのが皮肉な話だけどね(笑)」
煉と要が笑いながら話す。瑠以の記憶を見たから俺も解ったけど、相当抑圧されてたみたいだからな…。
皆で話しているとフィーちゃんが大きく伸びをしながら起きて来た。
「…ふわぁ…あぁ、スッキリしたでな…?」
それに続いてフラムも起きて来る。
「…ぁぅぁ~… (…パパ~…) 」
まだまだ眠いようでぽわぽわしている。俺は上半身を起こして座ったまま、眠そうに目を擦るフラムを抱き上げた。
「よし。やる事も終わったし、皆の所へ帰るか?」
フラムが目を擦りながらうんうんと頷く。その後、俺の服に顔をごしごしさせてまた眠り始めた。抱っこしてフラムを寝かせたまま、俺はフィーちゃんとスロウにお礼を言う。
「二人とも色々ありがとう。南西エリアのヤツらの事、頼むよ。ラスにもよろしく言っといて。戻って謝罪巡りした後、一度魔界にもお邪魔しにいくよ」
「うむ。魔界の場所はリーが知っておるからの。今度はティーとシーも連れて来てくれ…」
その言葉に頷いた後、俺は先にフラムとエイムを連れて王国に転移するから、その後を瑠以と一緒に追跡して来てくれと要に話した。
頷いた二人は、煉に暫くの別れの挨拶をする。
「わたし達もそのうちホワイトさん達と魔界に行くから、それまで元気でね」
要と瑠以、二人がそれぞれ煉と抱き合って別れの挨拶をする。
「…煉、また胸が大きくなったわね…」
そんな瑠以の言葉に、二人が笑う。
「相変わらずマイペースだね。まぁそこが瑠以の良い所かもね(笑)」
煉の言葉に俺は笑いながら、別れの挨拶を見届けた後、改めてフィーちゃんとスロウにお礼を言ってから転移で王国へと戻った。
◇
俺はブレーリンギルドの宿舎に転移した。この後すぐに瑠以と要の亡命を伝える為だ。俺の予想通り、ギルドの宿舎にティーちゃんとシーちゃん、クレアとロメリック、融真、キャサリン、クライがいた。
「皆、ただいま。帰って来たよ~…」
俺の声に丸いテーブル席に座って話していた皆が俺を見る。
「おかえりじゃ、フラムは大丈夫じっやたかの?」
「おかりでしゅ」
「主、待っておりましたぞ!!」
三人に続き、ロメリック、融真、キャサリン、クライも俺達の帰還に挨拶をしてくれた。エミルと憂子、未依里、チャビー、アイちゃんはブレーリン庁舎で聴取を受けているようだ。
別のテーブルにいたウィルザー、ブラント、禅爺は先にエイムと挨拶を交わした後、ベルファに戻るという事でブレーリンを発った。
エミル達には、三人の紹介は後でするとして、俺はまずエイムを紹介する。囚人服のままだとイメージが良くないので、エイムにはこっちに転移する前に、リーちゃんが世界樹から持って来てくれた科学者っぽい白シャツとスラックス、黒いシューズに白衣を着て貰っている。
「皆、紹介するよ。こちらはエイムだ。よろしく頼む」
「わたしはエイムです。エイム・ヒトリゲンと申します。皆さんよろしく…」
その挨拶に、皆がそれぞれ挨拶を返していく。続いて直後に転移して来た要と瑠以も紹介した。
「二人は帝国からの亡命希望者だ。要が転移のエキスパート、瑠以は鑑定と変態担当だ。皆よろしく…」
俺の紹介に要が思わず噴き出した。それを聞いたロメリックが早速突っ込んでくれたw
「…あの、ホワイトさん瑠以さんが変態担当ってどういう事なんですか!?」
「…おっと口が滑ったわ。変態じゃなくて…変質者だっけw?」
俺の言葉に動揺するでもなく、眼鏡をクィクィっと上げながら、瑠以がキリッとした顔で言う。
「事実なので否定はしませんよ(笑)?アレは擬態ではなく、どちらかと言うと光学迷彩ですかね(笑)」
俺と瑠以の遣り取りを知っているのは要とエイムだけなので他のメンツは意味が解らず理解が追い付いて居ないようだ。
「天樂 要です。皆さんよろしくお願いします」
「羽中 瑠以です。よろしく」
二人の挨拶に、皆がそれぞれ挨拶を返した後、要と瑠以は帝国からの亡命希望という事で、改めてロメリックに手続きを頼んでおいた。
「…所でダンナ、エイムはロボットなのか?」
融真に聞かれて俺はアンドロイドだと説明した。しかし個人的にはサイボーグって言っても通るような気がしたw
「エイムの戦闘技術はかなりの達人レベルだからな。フラムの護衛と、皆の戦闘訓練指南にも良いと思って雇ったんだ」
俺の言葉に、早速絡んでくるクレア。
「…主。わらわがいるのですぞ?フラムの護衛など雇わなくても…しかもアンドロイドとは…」
俺は、予想通りの反応を見せるクレアに説明する。
「クレア、良く聞いてくれ。これから王国と帝国の間で近い内に戦争が始まる可能性が高い。先日のマッドジジイも絡んでるからな。俺達も既にマークされていると見て良い…」
俺は一旦間を置いて説明を続ける。
「恐らく能力者に狙われる。その時に何かの事情でフラムの傍に居てやれない事があるかもしれない。その時の為に雇ったんだよ。クレアも常にフラムの傍に居てやれる保証はないだろ?」
俺の説明に、ムムムッと顔を顰めて沈黙するクレア。そしてチラッとエイムを見る。
「…エイム、といったな?後で実力を見せて貰おうか?」
「えぇ、よろしいですよ。皆さんへのわたしの強さの証明として受けて立ちましょう」
その言葉に、うむと頷くクレア。そんなちょっとした緊張感の流れる中、俺は急にある事を思い出した。
「…おッ!!そうだッ!!融真、お前にスキル返すの忘れてたわ!!」
そして俺は融真の肩に手を置く。
「ありがとう。『メルトフィーバー』かなり役に立ったよ。おかげで今ここに立って生きてる…」
戦闘以外、シニスターでの生活でもかなり役に立ったが(風呂水沸かすとか食べ物温めとかw)、その事は秘密にしておいた。
「ダンナ、大袈裟だな。アンタだったら大体の事は一人で何とかなるだろ?」
そう言う融真に、スキル付与で『メルトフィーバー』を返しつつ、農場で俺より上手のヤツに会った事を話した。
「マジかッ!?ダンナより強いヤツがいるのかよッ!?」
「あぁ、この世界は…と言うか宇宙は広い。まだまだ強いヤツがいる事を知ったよ…」
俺の言葉に、融真、キャサリン、クライが顔を引き攣らせてドン引きしていた。そんな中、フラムも融真の腕にぺちっと手を当てる。何をするのか見ていると、『F・リヴァイヴァー』を返していた。
「…あれ?フラム、そのスキルなくて良いのか?」
「…ダンナ、このスキルはその子に持たせてた方が良い。俺なら何とでもなるし…」
そんな融真の言葉に、フラムが笑いながら俺を指さす。
「あぅぁ~、あうぁ、あぅ。あぅぁ~、あぅ。(フラム、パパ、いる。エイムもいる。) 」
続けてフラムが話す。
「あぅぁぅ~、あぅぁ。(ねえさんたちもいる。) 」
その様子を見ていたクレアが、何かを期待するような目でじっとフラムを見ていた。
すぐにクレアの思いを読んだ俺は、慌ててフラムに、ママもいるだろ?とクレアの方を見せる。その言葉に、目をキラキラさせて期待するクレア。
暫くの沈黙後、フラムが、
「あぅぁ~、あう。(ははもいる。) 」
そう言って小さな手でクレアを指差した。その瞬間、クレアが感動して泣き始めた。
「…おぉぉぉッ、フラムよ。ようやくわらわを母と認めてくれたかッ!!」
皆が苦笑いを見せる中、俺は咽び泣くクレアを見て大袈裟なヤツだなと思ったw
そんな和気藹々(わきあいあい)?の中、俺がシニスターから戻ってきたと報告を受けたテンダー卿が現れた。俺はまず最初に謝っておく。
「…先程は大変すいませんでした。酒を飲み過ぎて暴れた事を謝罪します…」
「…うむ。今後はこの様な事が無い様に努めて下され。ホワイト殿はこの王国のハンターなのですからね?」
続いてテンダー卿から、王都本部ギルドより伝書が届いてている、と知らされた。
「王国ハンターギルドより、今回のブレーリンでの件について本部ギルドへと出頭し、罰を受けよ…との事です」
「…はっw?『罰っ!?』」
俺は思わず、声を上げて固まってしまった…。




