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怪しい二人。

 俺は王国に戻る前にやっておく事を思い出して、三人娘の膝の上で順番にパスタをちゅるちゅると食べさせて貰っているフラムに話をする。


「フラム。パパは午後からちょっと出かけて来るから皆とお留守番しててくれるか?」


 その言葉にあぅ~?と言いつつ、俺を見上げるフラム。


「ちょっと出かけるってどこ行くんですか?」


 瑠以(るい)に聞かれて、王国に戻る前にやっておく事があるから、と答えた。


「だから皆にフラムを見てて欲しいんだよ。この後、おやつ食べたらたぶんお昼寝タイムに入るから…」


 その前に、フラムに瑠以の記憶を読んでもらう。


「…記憶を読むんですか?この子、ホントにスキルいっぱい持ってますね…」

「俺とリンクしてるからね。それとは別に自分で発現してるスキルもあるし…」


 そう言いつつ、フラムが瑠以の記憶を読んで俺の額にぺちっと小さな手を当てる。その瞬間、これまでの瑠以の記憶が一気に流れ込んで来た。


 …確かに、瑠以が言っていた様に帝国では碌な食べ物が無いようだな…。国の土台である国民を飢えさせてどうするんだか…。


 続けて頭の中で記憶を読んでいく。

…あった!!瑠以のヤツ、隠れる能力を持ってるだけあってやっぱり帝都のあちこちに行ってるな…。


 しかし記憶を読んでいくうちに変なシーンが次々と見えて来た…。


「…瑠以、お前…」

「何ですか?」

「何ですか?じゃねーw!!お前覗きしてたのかよっw!!」

「ホントに記憶読む事が出来るんですねー(笑)」

「お前、王国に行ったら絶対やるなよ?亡命の斡旋してる俺の立場もあるんだからな?」


 俺達の会話に(れん)(かなめ)は視線を合わせて笑っていた。


「…ふぅ、仕方ないですね。わたしの大事な趣味(いきがい)なんですが…」

「何が生きがいだよっ!!すぐに他の趣味を見つけろッw!!」


 パスタを食べながら、その遣り取りを見ていたスロウとエイムは苦笑いを見せていた。


「…ほわいと。面白そうじゃの。わっちも付いていくでな?いいじゃろ?」

「…え?あぁ、良いけど…」


 フィーちゃん、俺の考えを読んだなw?


 まぁ良いか。さっきの騒ぎで不完全燃焼だったろうし…。憂さ晴らしに存分に暴れて貰うか。


 お昼ご飯の後、お茶を飲みつつおやつタイムにする。その後、フラムがお昼寝を始めたのを確認してから、俺とフィーちゃんは準備を始めた。


 俺は家から持って来ていた黒いニットキャップを被りサングラスをして口元を赤いロングマフラーで隠す。フィーちゃんはひょっとこのお面を被ってブルーのマフラーを巻いて準備が完了したようだ。


 しかし、何でひょっとこのお面なんだろうw?


 そんな事を考えていると、瑠以が俺達を見て若干引いていた…。

 

「怪しいですね~。メチャクチャ怪しいですよ?」

「ホント、二人とも怪し過ぎますよ(笑)どこに何しに行くんですか(笑)?」


 笑いながら言う要の横で、煉は笑いを必死に抑えているのかそっぽを向いてプルプル震えていた。


「…戻ってきたら話すよ」


 そう言って俺とフィーちゃんは、ある場所へと転移で向かった。



 イシュニア帝国宮廷内議会場では各方面軍の将が来たるべき戦争に備え話を進めていた。集まったのは星老将(せいろうしょう)(大将格)四人、星騎将十一人、そして特別に生物兵器開発研究所所長のジード博士だ。


 帝国軍は大きく四つに分けられている。各星老将に東軍、西軍、南軍、北軍を統率させ、その下に星騎将三人とその副官を付けている。


 東軍は東の騎馬大国『噴奴(フンド)』と境界線を争い、南は『レバロニア海洋王国』と南軍が紛争、更に北軍は北方の魔法帝国『アルファベル』と、西軍は『エニルディン王国』と争い、現在は停戦中である。


 イシュニア帝国がここまで強気で各方面に進出しているのは、エレボロス教皇領と同盟関係にある事が大きい。エレボロス教皇領は謎の異能集団『神の使徒』と繋がっており、教皇領からの能力者の斡旋も受けていた。


 しかし何年にも渡って各地で紛争を起こし、軍事ばかりにかまけていた帝国は他国より発展が極端に遅れていた。兵器革新や情報戦でも後れを取っていたが、他国を圧倒出来る総兵力と異能力者によってカバーしていた。


「まずは東軍、(へき)星老将トウガ・セイリョウ、星騎将ジュウドとその副官マショリカについて問う。何故、負傷したのか?報告せよ」


 皇帝イシュタリア十三世から問われたトウガは青白い厳つい顔を崩す事なく淡々と報告する。


「どこに行き、何故負傷したのかはまだ判っておりませぬ。二人が意識を回復次第、確認を取ります」


 面長でカイゼル髭のトウガをチラリと見た皇帝は冷たく言い放つ。


「では報告次第では管理監督責任を問う。覚悟せよ」


 その言葉に軽く眼を伏せるトウガ。次に皇帝は南軍、(しゅ)星老将スジャーク・ナムロック、北軍の(げん)星老将クロゥ・ゲンブリッツの報告を促す。


「最後に西軍、(はく)星老将ハク・タイガ報告せよ」

 

 二メートルを超える肉体とゴツイ筋肉、逆立つ金髪と釣り目の碧眼を持つタイガは既に戦争準備を終えていると報告する。


「既に準備は終わっております。いつでも出撃可能です。今度こそ王国兵を打ち破って見せましょうぞ!!」


 その言葉に満足そうに頷く皇帝。続けてタイガの後ろに控えていたジード博士が報告の為に資料を手に取り立ち上がった。



 俺はエミルの記憶を辿り、エレボロス教皇領の大聖堂裏にある山の頂上に降り立つ。俺達の目の前には召喚・転生儀式魔法を行う神殿があった。


 突然現れた俺達二人に警備修道兵が警戒して槍を向ける。


「お前達は何者だッ!!どこから侵入したッ!?」


 俺は無言のまま、向けられた槍を掴んで二人にパラライズボルトを流した。


 瞬間、修道兵が麻痺を起こして気絶する。俺はすぐに修道兵が持つ教皇領の印章を剥ぎ取るとアイテムボックスに入れた。


 下を見ると、大聖堂周辺の居住区と見られる数か所が、何かに押し潰された様に破壊されている。その修理で、慌ただしく人が行き交っていた。


≪それじゃあフィーちゃん、打ち合わせた通り人的被害は出さないように召喚・転生に関する設備のみ破壊していくからね?≫

≪わかっておるでな?会話は全て密談で、じゃろ?≫

≪うん、よろしく≫


 そして俺達は召喚儀式の間の大きな門を蹴破って殴り込んだ。大理石の床に、特別な効果の付いた赤いナイフで魔法陣を刻んでいた司祭達が驚く。


「侵入者だッ!!警備の者を呼べッ!!警備の者はどうしたのだ!?」


 俺は、驚く司祭達の中をファントムランナーで通り抜ける。粘糸で司祭全員を繋いだ後、すぐにサンダーチェインズを発動させた。


「…ぐわぁっ!!」

「…ぐっ…だ、誰ぞ…ぉらぬのか…」


 俺は気絶させた司祭を『神幻門』で纏めて、神殿の外に放り出す。その間にフィーちゃんに巨大な召喚魔法石とその周りにある五つの補助魔法石を破壊して貰う。


 魔障気を使うと魔族だとバレるので、今回はフィーちゃんが持参した黒い棘の付いた毒々しいメリケンサックで直接破壊して貰った。


 俺は龍神弓を取り出し、大理石の床に刻まれている魔法陣を『闘気版、狂襲乱射』で破壊する。


 その後、俺はすぐに外に出た。下を見ると山の上の大きな音に気付いた修道兵達が上を指さして登って来るのが見えた。俺はすぐに、ヤツらが簡単に登って来れないように、狂襲乱射で山の中腹の道を派手に破壊しておいた。


 その後、中央の巨大な召喚魔法石とその周りにある補助魔法石を破壊し終えたフィーちゃんと合流してすぐに別の場所へと跳んだ。


 次に来たのは瑠以の記憶で見た帝都イシュタルにある、生物兵器開発研究所の前だ。俺が扉を蹴破る。


「何事だッ!!貴様ら何者だッ!?」

「侵入者だッ!!捕えろッ!!」


 俺達の侵入に警備兵が叫びながら、襲い掛かって来る。その警備兵の間をファントムランナーですり抜けつつ、コイツらも粘糸で繋いで一気に気絶させる。その後、神幻門で纏めて外に放り出した。


≪ほわいと、研究施設はどこかの?≫

≪瑠以の記憶だとこの先の地下に研究室があるらしい。新手の警備兵が集まってくる前に終わらせるよ!!≫

≪うむ。資料と設備はわっちが破壊するでな?≫

≪先に研究員を全員外に放り出すから、その後存分に暴れてw≫


 俺はファントムランナーで一気に地下入り口に到達。フィーちゃんは転移で移動する。俺達はそのまま、地下へと階段を飛び降りる。その先に重厚な鉄の扉があった。


 オイオイ。こりゃ、銀行並みの鉄扉だな…。まぁ良い。チョイと振り切れステータスの本領でも見せてやりますかw


≪フィーちゃん、ちょっと下がってて…≫


 俺は手に闘気を纏わせると、鉄の扉を全力で殴る。その瞬間、鉄の扉が中へと吹っ飛んで行った。その飛んで行った鉄の扉が、中にある設備を半分、破壊した…。


≪ほわいと、おんしやるのぅ!!わっちもどんどん破壊するからの!!≫

≪ラジャッ!!≫


「…なっ、何ですかアナタ達はッ!?」


 突然の侵入者に驚き、戸惑う研究員達をサンダーチェインズを使って気絶させ、そのまま神幻門で外に放り出す。俺は研究員から帝国の印章を剥ぎ取るとアイテムボックスに入れて、代わりに教皇領の印章を取り出してポイッっと転がしておいた。


 すぐに研究所内に戻ると、フィーちゃんがガンガン設備を破壊していた。俺は最初にぶん殴った鉄扉によって破壊された隠し扉を見つけて入って行く。中には怪しい緑の液体の中に開発中の生物培養設備があった。


 様々なモンスターが培養液の中にいる。俺は培養機械の大元の操作盤を強襲乱射で破壊する。その後、機械が止まり、培養液が抜けて行く設備をサンダーライオットで破壊する。


 鉄は溶解し、培養容器のガラスは粉微塵に砕け溶けて行く。元の部屋に戻るとフィーちゃんが魔念力で集めた資料を闇の炎で焼き尽くしていた。


≪俺は最後の仕上げをして戻る。フィーちゃんは先に戻ってて…≫

≪解った。では先に戻っておるからの≫


 そう言うと、フィーちゃんは先に転移でシニスターへ戻った。それを見届けた後、そこから俺は再び教皇領の召喚施設へと転移で戻った。


 山の中腹の道を破壊していたので、幸いな事に修道兵はまだ上まで登って来れないようだ。俺は気絶した警備修道兵の近くに帝国の印章を落す。


 この破壊と離間工作がどれだけ効果があるかは分からないが、戦争までに少しは時間を稼げるだろう。

俺は修道兵達が集まって来る前に、シニスターへと戻った。



 当初、帝国では戦争用の強力なモンスターを生み出す研究をしていた。強力なモンスターを解体し、繋ぎ合わせて創る合体モンスターである。


 しかし異種を繋ぎ合わせた事により、力はあるが単調な動きしか出来ず合体生物自体の思考が低く浅いものとなってしまった。能力を付与し、いくら強力な力があったとしてもそれでは簡単に攻略されてしまう。


 考えたジード博士は、強力な個体に別の生物の遺伝子を注入し覚醒させるという方向に切り替えた。何体かの試作を経て、スカウトした吸血鬼(ブラスレク)にワーウルフの力を覚醒させる事に成功する。


 王国での試験中、王国のハンターと見られる幼児を背負った謎の男とその家族に邪魔をされ、ブラスレクは死に掛けたが、森の狼と村の警備兵での生体実験では上々の結果であった。


 血液を媒介して伝染病の様に拡がり、弱い者は強力に生まれ変わるが耐えられずに死んでしまう。使い方によっては恐ろしい生物兵器になり得る。


 この新薬アローゼルによって、強力なモンスターをより強力なモノへと生まれ変わらせ、弱い者は淘汰する事が出来る。ジード博士は自信を持って意気揚々と皇帝に報告をしようとした。


「…では、今回開発中の覚醒新薬(アローゼル)について報告を…」


 しかし、そのジード博士の言葉は、警備兵の乱入によって遮られた。


「緊急事態により、ご容赦願いますッ!!博士ッ、研究所がッ…!!」

「おのれッ、貴様ッ何事かッ!!今は御前会議の最中であるぞッ!?」


 タイガの大きな怒声に恐れをなし、ひれ伏したまま頭を下げて震える警備兵。

朱星老将スジャークがタイガを見て宥める。


「タイガ殿、その者は『緊急に付きご容赦を』と申しておりましたぞ?畏怖させては報告が出来ますまい…」


 その言葉にタイガは、チッと舌打ちをするとスジャークを睨め付ける。


「そこの者、面を上げて早急に報告せよ。緊急とは何事か?」


 帝、自らの言葉に平伏し、震えたまま声を上げる警備兵。


「…け、研究所が…生物兵器開発研究所が…何者かによって完全に破壊されました!!」


 その報告に、会議場は騒然となった。

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