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魔皇さまはおこりんぼ。

 マショリカは、フィーアの攻撃を凌ぎつつ、スロウにも気付かれぬように少しづつ地中の砂を動かしていた。目の前の幼児の攻撃の凄まじさに、防御する事に必死だったが、その間に少しづつ砂を動かす事に成功する。


 地中に伸ばしていた砂が(れん)(かなめ)の足元から飛び出した時には、完全に二人を出し抜いていた。ここに、鑑定を持っている瑠以(るい)がいたなら、マショリカの能力に気付いたのだがここにはいない。


 煉、要もまさか地中から、マショリカの能力が移動しているなど想像していなかった。


「うわわわわっ…!!」

「…くっ…まさか下から来るなんて…」


 二人は突然、砂のロープで縛り上げられて驚き、何とか逃れようと藻掻く。要はすぐに転移で逃れようとしたが、スキル素粒子に干渉され脱出出来なかった。


「…む、むだ…だ…。我の最後の力を結集させた、のだ…逃れる、事は…出来ぬ…」


 その声に振り返るフィーア。すぐに押し切ってやろうと攻撃に躍起になり過ぎて、マショリカの能力が自分とスロウを通り越していた事に気付かなかった。


 フィーアはすぐに地面に視線を落とす。地中に細くて長い砂が連結して後ろに伸びているのが見えた。スロウもすぐに気付いて、駆け付けようとしたが、距離があり過ぎて間に合わなかった。


「…こやつっ!!わっちをだし抜くとは、やってくれたの!!しかしそうはいかんでなっ!!」

「…いや、もう、遅い…ここで死んだとしても、これで我の勝ちだ!!」


 マショリカが叫ぶ。


「我の事は良い!!早く転移させよ!!」


 しかし、空間に気配を消して隠れていた転移要員は、マショリカの転移命令に逡巡(しゅんじゅん)を見せた。転移要員が転移で運べる人間は二人までだ。煉、要を転移させてしまうとマショリカを置き去りにしてしまう。


 そうなると恐らくと言わずとも、目の前のマショリカは恐ろしい力を持ったあの幼児に殺されてしまうだろう。


 帝国の重要な戦闘要員であるマショリカを置き去りにして良いものか…。しかし、星騎将ジュウド様からの命令は、勇者PTの回収である。迫られる決断に転移要員は迷っていた。


 再び、マショリカからの激が飛んだが、迷いに迷った転移要員はマショリカを置いて転移する事が出来なかった。


 しかし、転移要員が見せたほんの数十秒が、煉と要を救う事になった。


「…我の事は良いのだッ!!早く転移せよッ!!」

「…そうはいきませんよッ!!」


 突然、空間から飛び出したエイムが、腕から電磁エネルギーを纏わせた剣で、地中のサンドクリーピングを完全に切断した。


 その瞬間、スロウのスキルで地味に体力、気力を吸われ続け、フィーアからの炎迅拳を浴び続けたマショリカは力尽きてその場に倒れた。



 瑠以が煉と要を救助したのを確認した俺は、すぐに帝国将官に接近してその首を掴む。


 煉と要を連れて行かれる前に、トドメを刺そうとしていたフィーちゃんの全力攻撃が止まらず、スキルを抽出する俺を襲う。


「…ちょっ、ちょっとぉぉっ!!フィーちゃんストップッ!!」

「なんじゃ!?ほわいとっ、おんしわっちの邪魔する気かっ…!!」

「…違う違うっ!!スキルだよっ!!スキル抜いとかないとまたコイツ、復活してくるかもでしょっ!?」


 俺の必死の説得に、多重分身していたフィーちゃんが元に戻った。三白眼でギロッと俺を睨む。


「そいつを完全に消してしまえば復活など出来んじゃろっ!?」

「そうなんだけど一応、スキルを抜いとかないとね。これがもしどこかの誰かさんに与えられたスキルだとしたらスキルだけ逃げて行くからね?」


 俺の言葉にようやく、幾分か怒りを抑えたフィーちゃんだったが、まだまだ完全には鎮まっていなかった。俺が割って入った事によって帝国将官は死を免れたが、どうやら魔皇の逆鱗に触れてしまった様だ…。


 滞空していたフィーちゃんはスゥーッと下り立つと、気絶したままの帝国将官を小さな脚でガンガン蹴り始めた。


「…このっ!!こやつめっ、わっちをただの子供じゃと思うておったでなっ?魔皇を知らんとはっ!!帝国ごと消してやろうかっ!?この、とんちきがっ!!」


 無事、抽出が終わったので俺は男から手を離す。しかし、未だ怒りの収まらないフィーちゃんは、ブツブツ言いながら気絶した男をガンガン蹴り続けていた。


 …意外と根に持つんだな、この子…。


「…フィーちゃん。もうそれくらいにしといて上げたら?コイツの処分は後で考えよう。それより納屋にいた二人はどうなった?」


 こっちにとばっちりが来ない様に、やんわりとフィーちゃんを宥めつつ、話を変えた。そこへ納屋を確認したスロウが、顔を曇らせて戻ってきた。


「どうやら納屋の二人を先に転移させたようです。もぬけの空でしたよ…」

「どいつもこいつも許さんでなっ!?無断侵入の上にわっちをばかにしよってからに…」


 再び男に蹴りを入れようとしたフィーちゃんを後ろから抱きかかえるスロウ。


「…魔皇様。勇者PTの二人は諦めましょう。取り返しに行ってもイタチごっこになるだけです。それよりそこに倒れているマショリカという男をどうするか考えましょう」


 スロウの言葉に俺も同意した。


「そうだね。煉と要は無事だったから鋭斗と隗は放っておこう。転移要員も退避したようだし、後はそこの男をどうするかだよね…」


 俺が話していると、リーちゃんが突然の転移サインを感知した。


≪…アンソニーっ、フィー様、スロウっ…新たに転移サインを感知!!ここに来るよっ!?≫


 その言葉を聞いた俺は、すぐにエイムに瑠以、煉、要を小屋の中へ避難させる様に指示する。頷いたエイムは、すぐに三人と共に小屋の中へ入った。


 …さぁ、今度来るヤツは何者かな…。恐らく帝国のヤツだろうと思うけど…。俺はフラムを抱っこしたまま、フィーちゃんとスロウと共に戦闘態勢に入った。


  

 俺達の目の前に、身体のゴツい筋肉質な男が現れた。男は重鎧の上に闘衣を纏い、両肩からマントを付けている。そしてその男は、ガチガチに鎧を纏った闘牛の様な牡牛に騎乗していた。


 男は牛から降りると、牛の背に手を触れる。その瞬間、その牛はスゥーッと消えた。


 アレは召喚動物?魔獣かな…?


 日に焼けた肌と、厳めしい顔付の壮年の男で『歴戦の勇将』といった感じだ。濃いブラウンの短髪で、揉み上げからアゴに掛けて短い髭が生えていた。


 男は、俺達とマショリカの間に立つと、何もない空間に視線を向けて指示を出した。


「マショリカを連れて行け。早く治療させるのだ。わたしは残りのPTを回収次第、星騎獣で戻る」


 男は俺達に向き直ると、名乗り始めた。


「わたしはイシュニア帝国十二星騎将の一人、金牛(きんぎゅう)のジュウド・ブルゼブと申す。勇者PTの残りのメンバー三人の回収に参った。大人しく引き渡して貰いたい…」

「無断侵入してきていきなり三人を返せと言われてもだめじゃ。三人は亡命希望者なんじゃ。渡すわけにはいかんでな?」


 ジュウドの要請を断固拒否するフィーちゃん。スロウが慌ててフィーちゃんを止める。


「魔皇様っ、ここは僕があの方と交渉しますのでどうか少し待ってて下さい」


 そのやり取りを見ていたジュウドが、二人を見て問う。


「…返せぬと申すか。ところでマショリカを瀕死にまで追い詰めたのはどちらか?」

「それはわっちじゃ」

「魔皇様っ、お願いですから後ろで少し待ってて下さい!!」


 事が大きくなるのを面倒だと思ったのだろう。スロウは必死にフィーちゃんを宥める。


「…ふむ。幼児か。俄かには信じがたいが…小さき者、そなたは何者か…?」

「わっちは魔皇っ…!!」


 スロウがフィーちゃんを抱きかかえて口を塞ぐ。苦笑いを見せつつスロウは藻掻くフィーちゃんを必死に抑え込んで、目の前のジュウドに説明を始めた。


「この方は転生したばかりの魔皇フィーア様です。僕もいつまで抑えきれるか解りませんので無礼は控えて下さい」

「ふむ。魔皇か…。わたしが幼少の頃にお爺様から聞いた事がある。しかし帝国では伝説の域を出ぬ話だ。子供の遊びなら付き合ってやる時間はない」


 その時、スロウの手からすり抜けたフィーちゃんが叫んだ。


「そう言ってさっきのヤツはわっちにやられて死にかけたがの!!」

「…もう良い。力づくで返して貰う。覚悟せよ!!」


 そんなジュウドにスロウが待ったを掛けた。


「お待ち下さい!!三人はエニルディン王国へ亡命を希望しています!!すぐそこに王国最強の男がいるので三人を返して欲しいならばその人と交渉して下さい!!」


 ずっと静観していた俺は急に話を振られて驚いた。


「…はw?えっw?」


 続いてスロウが俺に密談を飛ばしてくる。


≪ここで魔皇様が暴れるとすべての土地がダメになるのです。申し訳ないんですが後はよろしくお願いします≫


 スロウの話を聞いたジュウドが俺を見る。


「…そなたは何者か?本当に王国の者か?」

「…確かにその通りです。亡命希望の話もほぼその通りですが…」

「ではそなたを倒し、三人を返して貰う…」


 …こりゃ、戦闘は避けられんな。仕方ないやるか…。


 ここで戦闘が始まる前に、俺はすぐに神速四段を使ってジュウドに接近、肩に手を触れると『神幻門』で大陸中央に転移した。



「アンタはさっき俺が接近したのが見えていたか?」


 転移した直後、俺はジュウドに問い掛ける。俺が神速四段を使っても反応が無かったからだ。


「…これは…転移か…?」


 ジュウドは突然、場所が変わった事に驚いていた様だったが、一軍の将だけにすぐに落ち着きを取り戻した。


「そなたは子供を抱いたまま闘うつもりか?」


 …あっ、やべっ、フラムも連れてきちゃった…。


「フラム、皆の所で待っててくれるか?」

「あーぅぁー!!(やーだー!!) 」


 フラムはにこにこ笑いながら、いやだとごねて俺にくっ付いたままだった。仕方ない一緒に闘うか…。


「…このまま闘うよ。どっちにしろアンタの攻撃は俺には届かないし、当たらないだろうし…」

「大層な自信だ。後悔しても知らぬぞ?」


 そう言ってジュウドがマントを外して投げ捨てる。


 闘いを始めようとしたその時、エイムがブースターを使って超高速で飛んで来てくれた。良かった。フラムを預けておけば心置きなく闘う事が出来る。


 降り立ったエイムに、俺はフラムを預けようとしたが、エイムから発せられた言葉は意外なものだった。


「ホワイトさんはお嬢様と少し離れていて下さい。ここはわたしにお任せ下さい」


 続けてエイムがその理由を説明する。


「そちらの方は高い官位をお持ちの様です。ホワイトさんが闘ってそちらの方を倒してしまうと増々狙われるかと…。ですから無名のわたしが闘う方がよいでしょう。そして今まで見せていなかったわたしの実力をお見せする良い機会かと思います」


 そう言うので少し考えた後、俺はエイムに任せる事にした。


「…解かった。ただ無理はしないでくれ。限界が来る前に交代するからな?」


 俺の言葉に、無言で頷くエイム。そして俺とジュウドの間に入った。俺はすぐにフラムを抱いたまま後退する。


「お聞きになりましたか?アナタのお相手はわたし、エイム・ヒトリゲンが致します」

「…あい解った。一人増えた所で結果は変わらぬ。そなたらを倒して三人は連れて帰る。では、いざ参る!!」


 ジュウドの言葉と同時に戦闘の火蓋が切って落とされた。



 ジュウドという男はその体躯と反比例して動きが速かった。戦闘技術の塊のようなエイムの追撃に距離を取って手を翳す。


 キラッと鋭く光るものが、エイムを襲う。すぐに電磁フィールドを展開したエイムはその攻撃を完全無効化した。


「…ふむ。極小の針…これは面白い、暗器ですね。わたしも近いものを持っていますよ」


 そう言うとお互い離れての攻防を始めた。エイムはジュウドの攻撃を電磁フィールドで防ぎつつ、指から無数の麻痺針を射出する。


 無数の麻痺の針を、金属の籠手で弾き返すジュウド。その隙を狙ってエイムがマイクロミサイルを射ち込んでいく。ジュウドはそのマイクロミサイルを順次、素早い動きで避けつつ、着弾寸前のミサイル四つ全てに手を触れた。


 その瞬間、マイクロミサイルは爆発する事無く、その機能を停止して地面に落ちた。


 どうしてミサイルが爆発しなかったんだ? 俺は離れた位置からジュウドのスキルを視る。


 『センスオブギルティ』


 俺がスキル説明文を読もうとするとフラムが俺の袖を引っ張ってエイムを見るように促す。エイムを見ると、電磁フィールドを出す両腕両脚の強化装甲の四つが外れて地面に落ちていた。

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