PT解散。
俺達が食後のお茶をまったりと飲んでいると突然、瑠以が立ち上がって声を上げた。
「決めた!!わたし、PT抜ける。もう帝国には戻らない!!」
俺を始めとした全員が、立ち上がった瑠以を見る。他の二人、煉と要はさして驚く風でもない。
「…いつか誰かが言うとは思ってたけどね」
要は既にこうなる事を予測していたようだ。瑠以の宣言に暫く考えていた煉が話す。
「瑠以に先に言われちゃったけど、私もいいタイミングだからPTから抜けるつもりだったのよ。戦闘は楽しいけどこれ以上、鋭斗くんの無茶に付き合うのも勘弁だからね」
煉の言葉に、瑠以が頷く。他の皆は黙って三人の話し合いを見ていた。
「それは良いとして。二人はどこに行くつもりなの?」
要の問いに、瑠以は座るとチラッと俺を見る。
「わたしはホワイトさんに王国へ口利きして貰おうかと思ってる。亡命って言えばいいのかな?」
俺は亡命についての可否は答えず、先にその理由を聞いた。
「理由ですか?食べ物ですよ?帝国から出ている今だから言いますけど、戦争や軍備拡大にかまけて国民の食糧事情を考えない国になんか居たくないんですよ。贅沢したいとは言わないけど、少なくともまともな食事はしたいですからね」
瑠以の話に、他の二人もうんうんと頷いている。
「煉はどうするの?瑠以と王国へいくの?」
「うーん、私はどうしようかな~」
そう言いつつ、フィーちゃんを見る。
「魔皇フィーアちゃん様、魔界に付いて行っても良いですか?」
「なんじゃ?突然。別にそれは構わんが魔界では、戦闘要員は募集もスカウトしておらんでな?今は魔界の文化水準を上げてくれる能力者をスカウトしておるんじゃ。煉は闘う以外は何かできるんかの?」
フィーちゃんの問いに暫く考えた煉が答える。
「…私、ハンドボールって言う競技を教える事が出来るよ?どう?ダメかな?」
「ハンドボールとな?ボールを使ったうんどうかの?」
「うん、団体で対抗して相手ゴールにボールを多く入れた方が勝ちって言うスポーツなんだけど…」
「ふむ。それなら来ても良いぞ?魔族の健康推進の為にそのスポーツを広めてくれ」
「やったー!!ありがとぉっ!!」
煉はフィーちゃんから良い返事を貰えて嬉しそうだ。そんな煉が要を見て聞く。
「要も魔界に行く?」
そう聞かれた要は首を横に振った。
「魔界がどんな所か良く解らないから、わたしは瑠以と王国に行こうかな…」
「解からないなら来てみればいいじゃろ?魔界は良いトコでな?ほわいと、おんしもフラムを連れて一度来てみたらどうかの?」
そう聞かれたので、俺は少し考えた後、答えた。
「今回の罰が終わったら謝罪巡りして周るから、その後かな…」
「じゃあわたしもその時に一緒に行こうかと思います」
要の言葉にフィーちゃんが頷く。
「取り敢えず瑠以と要の二人は一応、王国に亡命って事で良いのかな?」
「それで良いですよ」
「はい、お願いします」
瑠以に続いて要も頷く。
「ところでほわいと、おんしはいつ星に戻るんじゃ?」
「戻ろうと思えばすぐ戻れるよ?ボナシス倒したし、アスモアも倒したし…エイムは護衛で連れて帰るから良いとして…」
俺はちらっとスロウを見る。
「シニスターのエリアにいる五人を反省ついでに倒してこいって言われてるんだ。スロウは俺と闘いたいか?」
俺の問いにスロウが溜息を漏らす。
「…ふぅ。勝てる気がしませんね。自分の実力を知っているから尚の事ですよ」
俺は頷いた後、再び肉を喰っていたラスを見る。
「ラス、アンタはどうだ?俺と闘うか?」
シェフに肉を焼いてもらいながら、肉を喰いつつラスが肩を竦める。
「まだ死にたくねぇから止めとく。何か証明が必要なのか?」
「あぁ、そうなんだ。ボナシスからはネックレスを手に入れた。アスモアは毒の爪を拾って保管してる。二人からも何か証明になりそうなものを貰いたいんだ…」
俺の言葉に、肉を喰う手を止めたラスが、タテガミの一部をナイフで切って束ねる。
「これを持って行け。これで証明になるはずだ」
「あぁ、助かるよ。ありがとう」
俺がお礼を言うと、ラスはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向くと再び肉を喰い始めた。続いてスロウが歪なリング?を出して見せる。
「これは僕が若かりし頃に作った試作品です。周辺から魔素を集めて魔力に変換します。赤は魔素が枯渇している状態で緑になれば魔力充填完了です。これはごく弱い魔法なら三回、強い魔法なら一回使う事が出来ます。これを持って行って下さい」
…かなり小さいリングだな。試しにフラムの指にはめて上げるとぴったりだった。
「ありがとう、助かる。フラムにぴったりだからこの子に持たせるよ」
俺はスロウにもお礼を言って頭を軽く下げる。これで神様に報告すれば元の星に戻れるだろう。数日しか滞在していなかったが、目的は果たせたし、戻っても良いよなw?
そんな事を考えていたら肝心な事を思い出した。俺が仕切るエリアの男達についてだ。俺は肉を喰うラスを見る。
「ラス、悪いんだがもう一つ、頼みたい事があるんだ」
「お前、頼み事が多いな。何だ?」
「俺のエリアのヤツらについてなんだ。これからはボスはアンタ一人で良い。この星のヤツらはアンタに仕切って貰いたいんだ」
俺の言葉に相変わらず肉を齧りながら考えるラス。
「…まぁ、いいぜ。他のヤツらは死んじまったし、お前は元にいた星に帰るんだろ?スロウも罰が終われば戻るだろうからな」
そう言いつつラスが話を続ける。
「…問題は当の本人達が納得するかどうかだな。ちゃんと説得しておけよ?」
俺が頷く傍で、フィーちゃんが魔族のエリアの今後について話を始めた。
「このエリアは気候が温暖で魔力の実も良く育つでな?ある程度畑を拡張したらおんしらに開放しても良い。この小屋はわっちのじゃから貸してはやれんがこの周りに自分達で居住区を作る分には構わんからの…」
フィーちゃんはシェフに用意して貰ったデザートのゼリーを頬張りながら話す。
「ここに来たくないヤツは無理に連れて来る事はないからの。あくまでも希望者だけじゃ」
その提案に俺とラスは頷いた。慣れ親しんだ所から動きたくないというヤツらもいるだろうし、これからはラスがボスとしてこの星を仕切る事を伝えて、後は本人達に任せるか。
続いて小屋の外の畑の端に、転がしたままの二人の処分について瑠以、煉、要が話す。
「畑を荒らした罰があるから隗はここで暫く働かせるとして、鋭斗くんはどうしよう?」
煉の言葉に要が答える。
「わたしが一度連れて帝国まで戻ってくる。鋭斗くんを屋敷に置いたらまた戻って来るから…」
要の提案に待ったを掛ける瑠以。
「それは止めた方が良いかも。わたし達がここに来ているのは目付の帝国兵が知ってるから、二人だけ戻ると何かあったのか疑われると思う。その時に転移防止フィールドを発動されるともう帝国から出られなくなるわよ?」
瑠以の見解に、考え込む要。
「…確かに、その可能性はあるね…」
三人が難しい顔で考え始めたので、俺が肉を食べつつ助け船を出した。
「俺が連れて行ってもいいぞ?帝国にある屋敷においてくれば良いんだろ?ツンツン頭と一緒に暫くここで働かせてフィーちゃんの気が済んだら二人とも転移させておくよ」
「うん、それがいいわね。要もそれでいいよね?」
瑠以に聞かれて頷く要。
「ホワイトさん、よろしくお願いします」
要に頭を下げられたので、俺はうんうんと頷いた。その後、瑠以、煉、要、フラムはシェフからデザートのゼリーを貰って美味しそうに食べていた。
…俺も後で貰おうw
食後のお茶を飲みながら今後について話あった後、ラスは一度エリアに戻った。
◇
俺達は昼過ぎから畑の手伝いをした。相変わらず鋭斗と隗は転がったままだ…。隗は仕方ないにしても、鋭斗にはパラライズボルトを強く流し過ぎたのかもしれんな…。
これからは一段と加減を考えないと周りの皆が危険になるな…。
そんな事を考えつつ、俺はフラムと一緒に畑を耕していく。フィーちゃん、スロウ、エイム、瑠以、煉、要、俺とフラムで耕したので、畑もかなり広がった。
とは言っても、フィーちゃんとスロウの二人は闇魔法で闇人と闇の小人を呼び出して働かせていたんだがw
午後三の刻。おやつの時間が来たので皆で休憩しつつ、おやつにした。
俺はアイテムボックスから、幸せターン、ぱりんちょ、チョコチップクッキー、チョコフレーク、ポテチなどを取り出す。
皆に好きなモノを取って食べて貰う。
「うむ。これは美味いのぅ…芋を上げておるんか?」
「うん、ポテトを薄切りにして水分飛ばしてカラッと揚げて塩振ってるんだよ」
スロウも不思議そうにポテチやチョコチップクッキーなどを一つづつ取って食べている。帝国三人娘は地球から来ているので俺が出したお菓子は全て知っていた。三人とも我先にと取って食べていた。
「…うーん。魔界にはない味ですね。個人的にはこの揚げた薄い芋が適度な塩味で良いですね…」
そんな事を話しつつ、ふと気になった事を聞いた。
「ラスとスロウは何で凶悪犯指定されてんの?全然、そうは見えないけどね…」
その問いにフィーちゃんが答えてくれた。
「…ラスのヤツは同族殺しじゃな。前獣王が病気で弱った際に今の獣王との争いの中で同族を千人程殺したらしいんじゃ。古い掟を笠にポッと出のヤツが王になるのが気に入らんかったんじゃろ…」
「スロウは?魔族を殺したとか?」
「いや、スロウはもっと凶悪じゃ。そのスキルで自分はおろか周りの者まで怠惰にしてしまうんじゃ。働かないという事は何よりも凶悪じゃ。で、わっちが凶悪指定してここに連れて来たんじゃ」
「…そ、そうなんだ…」
確かに働かないのは良くないと思うが…凶悪かなw?
「魔界ではニート撲滅運動をしておるんじゃ。働かないヤツがおったら不公平じゃろ?皆が働かなくなったら困るでな?」
「…ま、まぁ、そうだね…」
フィーちゃんの話を聞いたスロウは苦笑いを浮かべつつ、ポテチを頬張っていた。
その後、煉が戦闘訓練してくれというのでエイムに教官を頼んだ。俺が教えても参考にならないからね…。エイムなら戦闘技術を全てプログラムされてるから丁度いいかなと思って任せた。
夕食は三人娘からの要望でハンバーグにした。魔界からもハンバーグが運ばれてきて皆で思う存分、もしゃもしゃと食べた。
食後のお茶を飲みつつ、俺はどういう形で神様への報告をするか皆に相談した。俺とフィーちゃんスロウが考えていると、エイムが提案をしてくれた。
「どの世界にもありますが高い山の上に登り(神に)、呼び掛けると言うのがあります。それが一番シンプルでいいのではないでしょうか?」
…そうだな。他に良い方法、思いつかないもんな…。俺はエイムの提案に賛成した。明日、早くにこの大陸で一番高い所に登って呼び掛けてみるか…。
方針は決まったので、小屋に泊めて貰う事にして俺達は眠りについた。
◇
翌朝、少し早めに起きる。フラムとエイムは既に起きていたので軽く朝食を食べる。他の皆はまだ寝ているようだ。リーちゃんはまだ眠いのか一度起きたものの、俺のポケットの中に潜り込んでまた眠り始めた。
朝食を食べていると、瑠以が起きて普通に席に混ざる。瑠以は俺が出した朝食を食べながら、シカイ山に付いてくると言う。
朝食の後、支度をして出掛ける準備をする。目指すのは大陸中央から北に向かった所にあるシカイ山だ。
エイムの案内で、まずは大陸中央に向かう。俺はリーちゃんをポケットに入れたまま、フラムを抱っこして、ファントムランナーで走った。俺の後を追う様に、エイムがブースターを使って飛んで来る。瑠以はエイムにしっかりと掴まって付いて来た。
大陸中央に到着、昨日の戦闘の跡が激しく残っている。そこを少し東寄りに進み、エイムが言う真北の方向に再びファントムランナーで向かった。
暫く走って行くと急に上り坂になって来たので、跳躍に切り替えて飛んで進む。そしてついに、俺達はシカイ山の頂上まで辿り着いた。少し遅れてエイムと瑠以も到着する。
さぁ、神様に呼び掛けてみるか!!
その同時刻。大陸中央に帝国の記章を付けた細面で無表情、切れ長な眼光鋭い士官の男が降り立った。