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新スキル。

 ボナシスの頭の中から『ゾンビモード』を抜き取ろうとした瞬間、スキルがス―ッ…と移動して逃げて行く。


 ここで逃がすと皆の苦労が泡になって消えてしまう。俺は必死でスキルを同時発動させた。その瞬間、俺を締め上げていた肉の壁が一気に爆散した。


 俺の身体が光りを放つ。同時に頭の中にインフォが流れた。


≪新スキル『ビッグバンエンド』獲得しました≫


 俺は新スキル獲得の感慨に耽る間もなく、すぐに『ゾンビモード』を視線で追う。俺の新スキルの威力の凄まじさに『ゾンビモード』は突然、硬直したように動きを止めた。


 すぐに闘気ハンドを翳す。同時に俺は籠手の中にセットされている『天獄』を出した。


「闘気ハンド!!一気に吸い込めッ!!」


 俺の強い意志と、天獄がその力を発揮する。動けなくなっていたスキル『ゾンビモード』を闘気ハンドと天獄が強く吸い上げた。


 こびり付いた油汚れの如く、そこから動かないゾンビモードを強力に吸引し、抵抗空しく、ゾンビモードは一気に天獄へと吸い込まれた。


「よっしゃッ!!スキル回収完了ォォッ!!」


 スキル『ゾンビモード』を回収した瞬間、爆散していて動きを止めていた肉片がシュッと一点に収束して、俺の目の前から全て消えた。


 肉の塊から開放された俺は大陸中央の大地に降り立つ。


「皆、スキルの回収、完了したよ!!」


 満面の笑みで親指を立てる俺の前で、三人とも固まったまま動かなかった。


 アレっ?どうなってる?皆動かないけど…。


 一瞬後、突然時が動き出した様に皆が宙を見上げる。


「…これはっ!?どうなったんじゃっ!?」


 フィーちゃんが滞空したまま叫ぶ。百メートル程後退して見ていたスロウとラスも顔を強張らせたまま状況が飲み込めていないようだ…。


「…どう…なった?いきなり肉の塊が消えたぞ…!?」

「…ですね。ほんの一コンマの間に僕達の目の前から…どうやって…!?」


 ラスとスロウは信じられないと言った感じで顔を見合わせながら近づいてくる。フィーちゃんは興奮した様子で滞空したまま俺に近づと俺の胸倉を掴んで質問の嵐をぶつけて来た。


「おんしっ、アレをどうやった!?わっちらの前から一気に消えたでなっ!?ほわいと、これは一体どういうことじゃッ!!」

「…ちょっ、ちょっといきなり何っ!?」


 俺はフィーちゃんにいきなり胸倉を締め上げられて困惑する。


「…魔皇様、一瞬。ほんの一瞬ですが時が止まっていた様です…」

「ほわいとっ!!おんし、これはどういうことじゃッ!!はやく教えんかっ!!」


 俺の胸倉を掴んだまま揺さぶるフィーちゃん。


「…わっ、解ったっ。説明するから揺さぶるの止めてっw!!」


 俺は慌てて事の成り行きを説明した。


「…闘気ドリルで何とか肉の塊の中心核まで到達したんだけど『ゾンビモード』を回収しようとしたらスキルが移動して逃げたんだ。そのまま逃がすと皆の苦労が泡になるって思って必死で…」


 そう説明しつつ、新スキル『ビッグバンエンド』の発動とその時の様子を話す。


「それで肉の壁が俺を締め上げて圧殺する前に思い切ってスキルを三つ同時発動したんだ…そしたら肉の塊が一気に爆散して…」


 俺はその時の状況をゆっくりと思い出す。


 …そうだ。肉の塊は一気に爆散したまま、宙で固まった様に動かなくなったんだ。あの時は必死で気が付かなかったけど…確かにすべての動きが止まってた…。


 俺は三人に新スキル『ビッグバンエンド』のスキル説明文を読んだ。


『ビッグバンエンド』すべての始まり、ビッグバンの如き爆発を起こす。その爆発は一気に拡がって時間を止める。そして宇宙が終わりを迎えるように一気に収束する。すべての収束と共に固定された時間は元に戻る。宇宙の始まりと終わりを体現したスキル。


「…だってさ。俺も正直びっくりなんだけどね…」


 俺の説明にフィーちゃんは顔をしかめたまま唸っていた。スロウとラスの二人も顔を蒼褪めさせたままだ。その二人の思いを代弁する様に話すフィーちゃん。


「…おんし、危険人物じゃのぅ。まさかわっちまで時間停止に巻き込むとはの…」

「…危険人物って…俺も必死だったからね…」

「おんし、昨日の巨大な雷のスキルといい今回のスキルといいもう人間のレベルをはるかに超えておるでな!?」


「…まぁ、そこは…否定出来ないねw」


 俺はこの世界に来た時から、元々ステータスが振り切れてるし、もう今更な気もするよなw


 その時突然、思い出した様にフィーちゃんが話す。


「そういえばラスがおんしに言いたいことがあるらしいでな?ほれっ、ラスや、いいたい事あるんじゃろっ?」


 そう言われたラスは、小さく舌打ちをする。


「…あんなの見せられた後に、文句言えるかよッ!!」

「いや、おんしさっき怒っておったろ?ほれほれっ決着付けるでな!?」


 二人のやり取りが何の事かさっぱりわからない俺はスロウを見る。スロウは苦笑いのまま、フィーちゃんを止めた。


「…魔王様、危険な敵を倒したばかりなんですから、余り煽らないで下さいよ。それよりお腹減ったので早くランチに戻りましょう」


 さりげなく話をすり替えるスロウ。


「あっ、そうじゃ…ランチ忘れておったのぅ。皆も待っておるじゃろ、早く帰ってお昼にするでな!!ラスや、おんしも来るかの?」


 フィーちゃんの誘いにラスは暫く考えた後に小さい声で答えた。


「…あぁ、行ってやってもいいぜ…」


 その返答を聞いたスロウは苦笑いを見せる。俺達はラスを連れて魔族のエリアに戻る事にした。



 その頃、魔族のエリアではエイムをはじめ瑠以(るい)(れん)(かなめ)の四人が邪気が急速に霧散したのを確認した。


「どうやらホワイトさん達が勝ったようですね」


 エイムの言葉に、フラムがにこにこしながらわーっと万歳する様に両手を上げる。三人もほっとした様子でお互いを見ていた。


「早く帰ってきて貰わないと美味しいランチが食べられないからね」


 そう言いながら二人を見て笑う煉。瑠以と要もうんうんと頷いていた。三人がお昼の話をしている間に、エイムは邪気が完全に消えたのを確認して、電磁フィールドを止めると自動操縦で装甲を回収した。


「では小屋に戻ってホワイトさん達が戻ってくるのを待ちましょう」


 エイムの言葉に、皆小屋に向かって移動を始めた。途中、畑の傍に転がったままの二人を全員が無視していく。


「さぁ、今日のお昼の何かな~♪」


 嬉しそうに一人話す煉。


「ホワイトさんは今日の昼食、パスタにするって言ってたけど…」

「…は?パスタ?なんでそんな物がここに…どうやって持って来たの?」


 要の疑問に瑠以が答える。


「良くは解からないんだけど、とにかく色々持って来てるみたいよ?昨日は白いホカホカご飯と、野菜と肉の入ったコンソメスープだったよ?」

「ええぇっ、何でわたしを呼んでくれなかったのよ!!」


 要に胸倉を掴まれる瑠以。その隣で煉がボソッと話す…。


「…私は昨日、ステーキとホカホカライスだった…」

「はぁ?アンタ達ってホント…」


 がっくりと項垂れる要。そんな要にフラムが何やら一生懸命話す。


「…え?ハンバーグあるの?ホントにっ!?」


 同じPTのはずの二人にハブられて項垂れていた要のテンションが上がる。


「…あぁ、ハンバーグなんて何年振りか…」

「じゃあ私も魔皇様に頼んで夜はハンバーグにして貰おうかな…」


 小屋の中で三人が話していると、突然エイムが立ち上がる。


「皆さん、戻って来たようです」


 その言葉に三人も立ち上がった。



 俺達はラスを連れて、転移で魔族のエリアに戻った。畑を抜けつつ、小屋に向かって歩く。小屋の方からフラムが走ってくるのが見えた。


 途中、転がっている二人を見たラスが俺を見る。


「…コレも、お前がやったのか!?」

「いや、ツンツン頭の方はフィーちゃんにボコられたんだ。キラーマン…て言うか鋭斗の方は俺が殴っといた」

「…殴った…ってお前…コイツお前と殺し合いがどうとか言ってたヤツだろ!?どうして生かしたままにしてる!?」


 ラスの言葉に、フィーちゃんが反応した。


「わっちもそう思うでな?ほわいとは甘すぎるんじゃ。敵にアドバイスまでしてやってのぅ…」


 …そんな事言われてもなぁ…。俺達は、転がっている二人を通り過ぎつつ、理由を説明した。


「…人間、死に急がなくてもいつかは死ぬからね。誰彼構わず喧嘩売ってるといつか本当に死ぬって事を教えといただけだよ。相手の見極めも出来ないとダメだし、まぁ、今後の教訓にってとこかな…」


 俺の説明に溜息を吐くフィーちゃんと肩を竦めるラス。


 そこへ『ファントムランナー(弱)』を使って一生懸命走ってきたフラムが飛び付いて来た。


「あぅぁーっ(パパーっ)」

「…ぅおっ、と。フラム、ただいま」

「あぅあぅ~(おかり~) 」


 俺はフラムを抱っこする。視るとフラムが新たに『無邪気』というスキルを獲得していた。


「…おっ、フラム、凄いな!?新しいスキル覚えたのか!!」


 褒めてやるとあぅあぅ~と嬉しそうに話す。


「…えっ?魔法も覚えた?やみのまきまき?なんだそれw?」

「フラムが言っておるのは『闇の渦巻き』の事じゃ」


 フィーちゃんにそう言われてどこかで聞いた事がある様な気がした。俺はフィーちゃんを見る。


「…もしかして…フィーちゃんが見せたw?」

「そうじゃ。邪気が危険じゃったからの。『闇の渦巻き』は魔法レベルが上がると相手の攻撃エネルギーも吸収して自分の攻撃に変換できるでな?便利じゃし、持っておいてソンはないじゃろ?」

「あぁ、そうだね。ありがとう」


 俺達が話しながら歩いていると小屋の方から遅れて四人が迎えに来た。俺がラスを紹介しつつ、皆で小屋へと戻った。



 お昼はフィーちゃんが魔皇城からシェフを呼んでくれるという事で、ご馳走になる事にした。


「ほわいと、スロウ、それからラスもよく頑張ったでな?今回はフラムもおるから特別サービスじゃ!!」


 そう言うとフィーちゃんがライオンさんリュックから角付きカチューシャを取り出す。それを頭に付けると何やらブツブツ一人喋り始めた…。


 その間に、そっと瑠以が俺に聞いてくる。


「…ホワイトさん、パスタは…?」

「今回はフィーちゃんがご馳走してくれるって言うから、パスタは明日だな」


 俺の言葉にうんうんと頷いた瑠以は他の二人にもこっそりと話していた。そうこうしていると魔族のシェフが現れて火の魔法石を並べると、その上に大きな鉄板を乗せた。


 そしてシェフが三人程で、鉄板の上に肉やら野菜を並べて行く。暫くしてジュウジュウと焼ける肉に皆の目が釘付けになっていた。


「今回は最上級の各種肉を揃えておる。各自好きな肉を食べて良いでな?十分用意して貰ったからの…」

「…この世界で…焼肉…」


 そう呟きつつ、要が煉と瑠以を見る。三人は目を合わせて笑みを浮かべていた。


「…フフフ、焼肉なんて何年振りかな…」


 瑠以は口を開いたまま、涎を垂らして肉を見詰めていた。煉と要も同様に目を輝かせながら焼けて行く肉を見ている。


 食事中に汚れない様、シェフが一人づつ前掛けを渡してくれる。それを付けた俺達は手にそれぞれナイフとフォークを持つ。準備が出来た皆にフィーちゃんが説明を始めた。


「この鉄板の上は肉の種類で四区分されておるでな?牛肉エリア、鳥肉エリア、猪肉エリア、羊肉エリアがある。各自好きな肉を存分に食べてくれ」


 そんなフィーちゃんをスロウがチラッと見る。


「…魔皇様、説明はそこまでにしてはやく食べましょう!!」


 その言葉に、皆がうんうんと頷く。


「うむ。では危険な怪物退治の(ねぎら)いと素敵な出会いに乾杯じゃ!!」


 その言葉に、それぞれグラスをチンと鳴らす。その直後、全員で肉争奪戦が始まったw


 フィーちゃんは念力?を使って目的の肉をひょいひょい自分の皿に入れていた。スロウはスキルを使い、皆の動きを鈍らせて取り損ねた肉をフォークで取っていく。


 エイムは腕を切り離すと、自動操縦で正確無比に全体からまんべんなく肉を摘まみ上げて、フラムのお皿に入れている。


 肉を入れて貰ったフラムは、嬉しそうにもしゃもしゃ食べていた。


 ラスは五本の爪を使い、巧みに肉を釣り上げて口の中に放り込む。そんな中、俺はゆっくりと焼けた野菜を取りつつ、皆が取り合って残っていた肉を取って食べたw


 争奪戦になるとこのメンバーの中ではどうしても、瑠以、煉、要は不利だったが、かなりの量の肉が用意されていたので、皆が食べ過ぎて動きが止まった後、シェフに焼いて貰ってゆっくり食べていた。


 皆、たらふく肉を食べてまったりと食後のお茶を愉しむ。そんな中、突然瑠以が立ち上がると、何かを決意したように声を上げた。

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