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黒髪ツインテ少女アイリス。

 俺は大きく息を吐いた。


「…やろう。ここで俺達がコイツを止めるっ!!」


 俺は覚悟を決めた。『逃げない覚悟』をだ。


「うむ、その意気じゃ」

「ティーちゃん、今回は本気で行くわ。龍神弓を使うよ?」

「うむ、やれるだけの、アンソニーの全てをぶつけるんじゃ!!」


 俺は龍神弓を取り出す。精霊のエネルギー矢はダメだ。とにかく魔力にしろ効果にしろ、消されてしまうからな。

 

 俺は考えた。その間に、二人が牽制攻撃を繰り返し、センチピードが俺に近づかない様にしてくれている。とにかく、あの甲殻を何とか粉砕しないとダメだ。

 

 粉砕か…。


 その時、俺は禅爺の気弾が木人形を破壊したのを思い出した。あれは闘気だ。闘気を凝縮して打ち出す技。属性も効果も付いていない。


 ただ、単純に強い気弾攻撃…。俺も闘気を持っている。特別な闘気『龍神闘気』だ。…試す価値はあるな…。


 俺は、ある事を思い出して、アイテムボックスから鉄の矢を取り出した。思い出したのは、昔のアニメのコ〇ラの宿敵クリスタルナントカとの最後の闘いのシーンだ。


 コ〇ラのサイ〇ガンは効かなかったが、腕を飛ばしてひびの入った所に旧式拳銃の弾丸を打ち込んで粉砕したアレだ。


 俺は、鉄の矢を軸にして、右手から闘気を出して纏わせる。イメージするのはあの甲殻を削り粉砕する形状。

 

 弓スキル、『トルネードアロー』だ。


 トルネードアローは本来、風の精霊のエネルギーを込めて放つエネルギー弾だ。形状は魔〇光殺砲に近い。しかし今回はトルネードアローを精霊のエネルギーで放つのではなく、鉄の矢に闘気を纏わせて攻撃する事にした。


 『ひそひそ』で準備が完了した事を伝える。


 二人とも妖精女王だから、魔力自体はこの攻撃で枯渇する程、少なくはない。しかし、牽制とはいえ、これだけの攻撃を続けて、倒れないセンチピードに精神的疲労は隠せなかった。

 

 …早く粉砕しないとな…

 

 俺は弓の弦を最大まで引いた。


≪ティーちゃん、シーちゃん、二人とも退避だっ!!射つぞッ!!≫


 今まさに、闘気を纏わせた矢を放とうとした瞬間、ティーちゃんが後ろを見て叫んだ。


「アンソニーよっ!!後ろじゃっ!!後ろに人間がおるぞっ!!」

「…はっ?ええっ!!なっ、なんでっ!?」


 俺は弓を引き絞りながら、慌てて後ろを確認する。レーダーマップにも確かに光点があった。草むらの向こうから、黒髪ツインテールの少女が両手を振っていた…。


 おいいいぃぃぃっ、なんで女の子がこんな所に来てるんだよぉっ!! 


 俺が弓スキル『トルネードアロー』をセットして、放とうとしたその瞬間、ティーちゃんからの密談で俺は後ろを確認した。


 そこに何故か、中学生くらいの女の子がいた。


 俺が後ろに気を取られて攻撃が止まったその一瞬のタイミングで、カイザーセンチピードが物凄いスピードで女の子に接近する。


 俺は神速を使って間に割って入ると、女の子に頭から嚙み付く寸前のカイザーセンチピードの顎を思いっきり殴り飛ばした。


 瞬間、センチピードの頭は攻撃の軌道がズレて吹っ飛んだ。


「…イッッテェェェッッ!!」


 俺は余りの拳の痛みに声を上げた。


 幾らステータスが振り切れてたとしても、痛覚耐性がないからメチャクチャ痛い。クソッ、闘気を纏わせて殴りゃ良かった…。


「…ぉ、オジサン…ぁ、ありがと…」

「そんな事は良いから、早く村に帰って!!ここは危険だから!!」

「…待って!!わたしも依頼受けてるのよ!!」


 は…?中学生くらいにしか見えない女の子がなんで赤色依頼の紙を持ってるんだよ…。


「…ちょっ!!危ないから下がって…!!…っていうか早く村に戻って!!危ないからっ…!!」


 俺の言葉を無視して、その少女は近づいてくる。急いで来たのか息を切らしていた。


「…ちょっと、ダメだからっ!!マジで危ないって…!!」

「…だ、大丈夫、わたしこう見えて一応、Aランク魔導師なのよ…ホント、大丈夫だから…」


 俺は思わず、顔を(しか)めてしまった。いきなり来てそう言われてもなぁ…。


「センチピードの退治、手伝うから!!お願いっ…!!」

 

 両手を合わせて必死にお願いしてくる。


≪アンソニーよ、何をしておるっ、早くそのコムスメを村に帰すんじゃ!!≫


 俺は、ティーちゃんからの『ひそひそ』に答える。


≪この子、一応Aランク魔導師だって…。赤色依頼の紙を持ってて、退治を手伝いたいって言ってるんだけど…≫

≪ふむ、そうか…。今は人数が多い方がいいかもしれんのぅ…。もう一度アンソニーの準備が終わるまで、魔法で牽制するように指示するんじゃ≫


 ティーちゃんに言われた通り、少女に説明する。


「えーっと、キミ名前は…?」

「…アイリス。アイリス・オオヤマル!!よろしく!!」

「分かった、俺はアンソニー・ホワイトね。よろしく。じゃあアイちゃん、うちのちびっこの後に合わせて魔法で牽制してくれるかな?」

「ほいほい、もちのロンよ!!」


 もちの…ロンって…。この子、何歳だよ…。

突っ込みたいところだったが、今はセンチピードに集中だ。


 まず、シーちゃんが胴体にドロップキック、前のめりでグラついて下がってきたセンチピードの頭をサマーソルトキック。そのまま蹴った勢いで退避する。


 次はティーちゃんの精霊魔法だ。風の精霊シルフィアから、大地の精霊ガイアスに入れ替わっていた。ガイアスは魔法ではなく、ソフトボール大の岩石を乱射していく。


 激しい音と共に、センチビードのカラダが揺らぐ。これで倒せるんじゃないかと思ったが、甲殻には傷が一つも付いていない…。どんだけ硬いんだか…。


 この間にシーちゃんは魔力の実を食べて、重ね掛けした魔法を強化する。俺も再び、鉄の矢を(つが)えた。


 隣にいたアイちゃんは、箒と杖を持ち替えると、無詠唱で魔法をスタックする。


「…行くわよォ、このAランク魔導師、アイリスちゃんの魔法を喰らいなさいッ!!『フレイムッ…」

 

 アイちゃんが魔法を放とうとした瞬間、ティーちゃんが何かに気付いて慌てて走って戻ってきた。


『フレイムバレットォッッ!!』


 アイちゃんが叫ぶと同時に、バスケットボール大の火炎弾が発射された。思わず俺は叫んでしまう。


「…あっ、バカっ…!!」


 同時にティーちゃんも叫んだ。


「コールっ!!イフリートス…!!吸収じゃっ!!」


 呼びかけに応えた炎の精霊が突然、空間から頭だけを出す。炎の精霊イフリートスは無言で、アイちゃんの放ったフレイムバレットをスウウゥッと深く吸って呑み込むんだ。


「…げっ、うそぉっ!!わたしの魔法が消えたッ!?ていうか…これは精霊魔法ッ…! ?もしかしてあそこにいるゴーレムもッ!?」


 驚くアイちゃんに、ティーちゃんが近づく。顔を(しか)めたティーちゃんは、ぴょっんと飛び上がると、アイちゃんの頭に思いっ切り拳骨(げんこつ)を喰らわせた。


 ゴツッ!!


 結構大きな音が森に響く…。


「…痛ぁッ!!、ちょっ、ちょっと!!このちびっこ何すんのよッ!!」


 アイちゃんの言葉に、ティーちゃんが怒りを露に叫んだ。


「このバカコムスメがっ!!それはこっちのセリフじゃっ!!森の中で火炎魔法など、どういうつもりじゃっ!!」

「…ちょっ…バカコムスメって…」


 反論しようとしたアイちゃんにティーちゃんが捲し立てる。


「森が火事になったらどうするんじゃっ!!考えなしで魔法を使いおって…」


 ティーちゃんは怒りが収まらないようだ。まぁ俺も激しく同感だ…。


「なんで森で火炎系使うんだよ。怒られて当たり前だわ。そもそも対象が避けたり、外れたらどうすんの?危うく森林火災起こす所だぞ…?」


 かなり痛かったのかアイちゃんは頭を押さえて蹲り、ブツブツ呟いていた。


「…くぅ、わたしよりちびっこのくせに、コムスメなんて言われたくないわよ…」


 そんな呟きを無視して、ティーちゃんはすぐにシーちゃんに指示を飛ばす。


「シーよ、済まぬが話が終わるまで暫く牽制じゃ、頼むぞ」

「…あーい、やるでしゅ」


 仕方ない、二人の話が終わるまで俺も牽制攻撃をするか。…なんか迷惑な子が来たな…。


「コムスメよ?他に魔法は何が使えるんじゃ?」


 ティーちゃんはイライラを隠す事なくアイちゃんに問う。


「ちょっと、さっきからコムスメコムスメって、わたしは立派な二十五歳よッ!!」


 …えっ?二十五歳!?…どうみても…。


 俺は突っ込みたい所だったが、今はそれどころではない。二人の横で弓スキル『狂襲乱射』でエネルギー弾の攻撃をセンチピードに当てつつ、強い口調で聞いた。


「そんな事は良いからっ!!他に何か使える魔法はないの?」


 俺が聞いている傍で、ティーちゃんも不機嫌そうに言い放つ。


「立派な二十五歳なら尚更じゃろ?森で火炎使うようなバカはコムスメで十分じゃ!!」

「ちょっと、二人とも今は戦闘中なんだから集中してよっ!!」


 俺の言葉に、何とか怒りを抑えつつ、ティーちゃんが聞く。


「他に魔法は?火炎の他は使えんのか?全く使えんヤツじゃのぅ!!本当にAランクの魔導師か?」


 ティーちゃんのキツイ言葉に、悔しそうなアイちゃん。アイちゃんは渋々、小さな声で言う。


「…り、流水魔法が…少々…」


 この言い方だと…コショウ少々みたいな感じのレベルだな。火炎以外の魔法は全く自信がなさそうだ…。俺はティーちゃんをチラッと見る。


「まぁ、良いじゃろ。その流水魔法を使うんじゃ、良いか?」

「…う、うん…」


 ティーちゃんの迫力に押されて、自信なさげに頷くアイちゃん。


「センチピードの目を狙ってくれる?とにかく、相手が嫌がるようなところに魔法を当てて!!」


 俺が言った後にもう一回、牽制攻撃の手順を確認する。


「良いか、シーの後にわたしが呼んだガイアスが岩石を投げる。その後に流水魔法を当てるんじゃ。分かったな?」


 無言で頷くアイちゃん。取り敢えず話が纏まったのでもう一度作戦遂行だ。


 今度こそあの堅い甲殻を粉砕してやる。俺がチラッと見ると、リーちゃんがティーちゃんのポケットの中でうとうとしていた…。


 まぁ、戦闘スキルないからしょうがないんだけど…。しかし、こんなにうるさいのに、よくうとうと出来るよな…。


 俺は別の意味で感心した。



 取り敢えず仕切り直しだ。突然、アイちゃんが現れて混乱したが、牽制攻撃から再開する事にした。その前に、シーちゃんの重ね掛けしている無属性魔法が薄くなってきているので、魔力の実で回復して貰う。


 その間、俺が牽制攻撃を繋いでおいた。シーちゃんの準備が出来たのでセンチピード退治作戦を再開する。


 まずはシーちゃんが例によって弾丸の様に突っ込んでいく。集中的にセンチピードの頭を狙い、素早い動きで反撃を許さない。


 隣で、ゴクリと喉が鳴るのが聞こえた。チラッと隣を見る。アイちゃんはかなり緊張しているようだ。さっきティーちゃんに言われたのもあるんだろうけど、この緊張ぶりだと火炎以外の魔法を使うのは慣れていないんだろう。

 

 まぁどの道、この子の魔法が弱くてもシーちゃんとティーちゃんの牽制で何とかなる。


 俺は三度(みたび) 、弓を(つが)えて弦を引いた。闘気で作ったトルネードアローを鉄の矢に纏わせていく。俺の番えた鉄の矢を、長い槍の様な闘気が包み、そこに闘気がスパイラルして纏わり付いていく。


 それを見てふと思い出した。ス〇リングマンを矢の様に飛ばすバッファ〇ーマンのシーンを…。

…いかんいかん、今は戦闘に集中だ…。どんどん闘気を練り、番えた矢に流し込んでいく。


 一応、森に何かあってもいけないので、ティーちゃんとシーちゃんの二人にセンチピードを海側へと誘導して貰った。


 俺は森を背にして弓を構えた。


 アイちゃんは何とかタイミングを合わせてウォーターボールを飛ばしてた。小さい塊だったがセンチピードの顔面?にどんどん当てている。


 俺は叫んだ。


「準備が出来たっ!!シーちゃん退避!!ティーちゃんも下がって!!」


 最後のアイちゃんの水塊が止まった時、センチピードの目が怒ったように赤く光る。そして口腔部を大きく開けて、センチピードが猛烈な勢いで俺に襲い掛かって来た。

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