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決意。

 ラスが無言のまま、肉の塊を見上げていた。その前で、俺はフィーちゃん、スロウに最後の攻撃を仕掛ける前に、二回目の突入ついて説明する。


「…再度、突入するならもっと強力な推進力が欲しいんだけど…。今のままだと真ん中辺りまでで、やっぱり押し出されるか押し潰されると思う…」


 一回目は跳躍を使ってから突入するまでの距離が少し長かったのかもしれない。そこを考慮に入れて、最接近してからの跳躍を使って突入し、闘気ドリルで掘って行ったとしても、やはり真ん中を超えた辺りで抵抗に会うだろう…。


 俺の話を聞いていたラスが、這ったまま背後から俺達に近づいてくる。


「…お前ら、強力な推進力を考えるより発想を変えろ!!推進力がないなら先に真ん中まで掘っておけば良いって事だろ!?」

「…まぁ、確かにそうじゃな。しかしラスよ、ほわいとの他にはあの塊を掘って行ける者などおらんでな?」


 フィーちゃんの言葉に、覚悟を決めた表情でラスが答えた。


「俺が行く。俺が先に突入してなんとしても真ん中まで掘ってやる!!」


 ラスが話を続ける。


「スロウ、全力でアイツの動きを止めろ。その間に俺が最初の突撃をする。どこまで行けるか分からねぇが俺が止められたら呑み込まれる前にホワイト、お前が闘気の手で俺を引っぱり出せ、良いな?」

「…それは良いけどアンタ、あの肉の塊に突入出来るスキル持ってるのか?」

「テメェ、俺をバカにしてんのか?これでも獣王の右腕だったんだぞ!?」


 …ホントかよ?なんでそんなヤツがこんな所に居るんだか…。そう思っている俺の目の前で、ラスが指の爪とは別に、手の甲から鋭い骨?の爪を出す。


 …ウル〇ァリンかッw!!


「…解った。作戦の続きを話してくれ」

「引っ張り出したらすぐにお前は俺を足場にして穴に突っ込んでいけッ!!なんとしてもあの塊の真ん中にあるスキルを取って来いッ!!」


 そう言われて俺はフィーちゃんとスロウを見る。二人は無言で頷いた。そしてラスを含めて、再度突入する手順を確認をした。



 その頃、魔族エリアではエイムがエリアの境界線の手前に立っていた。大陸中央から流れて来る邪気を止める為に、両腕両脚に付いている装甲をブースターで飛ばしていく。


 計四か所に装甲を展開させたエイムは、装甲同士を電磁フィールドで繋げると、エリアの境界線に防御フェンスを作った。念の為にエイムはその場で邪気の監視をする。


 その後ろから、テテテッとフラムが走り寄ってきた。瑠以もフラムについてエリアの境界線に来る。


「お嬢様、危険ですので後ろにいて下さい」

「あーぅ(はーい)」


 そう言うとフラムはエイムの後ろから、電磁フィールドの向こう側に小さな右掌を(かざ)す。それを見たエイムと瑠以は驚いた。


 フラムはつい先ほど、フィーアに見せて貰った『闇の渦巻き』を使っていた。そして少しづつ少しづつ、邪気を吸い取って行く。


(…この子、ついさっき見せて貰っただけの魔法をもう使ってる…)


 その目の前で、フラムの身体が光を放った。フラムは驚いたように小さな両手を見た後、再び邪気に手を翳した。


 本人は気付いていなかったが、吸い取った邪気を魔素に変換させると小さな左の掌から放出していた。身体から光を放ったフラムを見た瑠以はすぐに鑑定した。


 すると闇魔法『闇の渦巻き』とは別に、新しいスキルを獲得していた。


『無邪気』小さな子供は幼いが故に無邪気である。心が(よど)んだ大人も、無邪気な子供を見ると心の澱みが消えるもの。あらゆる邪気を吸い取り魔素に変換する事が出来る。人間と環境に優しいスキル。


 …無邪気って…確かに小さい子は無邪気ではあるけど…。


 瑠以はフラムの習得の速さに驚きつつも、変わったスキルとその説明文に呆れていた。あの親にしてこの子ありって感じだわ…。


 フラムは一頻り、邪気を吸い取るとエイムの足元でしゃがんだ。そこへ(れん)(かなめ)も来る。


「何かあったの?」


 要に問われて瑠以が振り返る。


「フラムちゃんがさっき魔皇に見せて貰った闇の魔法を使ってたのよ。しかも新しいスキルも獲得してる」

「えっ?もう使えるようになったの!?速すぎじゃない?しかも簡単にスキル獲得って…」


 驚く煉に瑠以が答える。


「…わたしも驚いたけどね。真似るスキルも持ってるし、ホワイトさんの娘だからね…」


 そう言いながら瑠以は煉と要と共に、エイムの足元でしゃがんでいるフラムを見る。そんなフラムの傍にしゃがんだ煉が声を掛ける。


「フラムちゃん。ここは危ないから小屋に戻っておやつ食べよ?」

「あぅぁー、あうぁぅ、あうぁー(フラム、いっしょいる、エイム)」


 現時点で出来る事のなかった瑠以、煉、要の三人は、小屋に戻ってフラムとおやつタイムにしようとした。しかし、フラムがエイムと一緒にいると言うので、このまま一緒に邪気の監視をする事にした。


「お嬢様、ここはエイムが見ていますから女性達とおやつを食べてきてはどうですか?」

「あぅぁ、あうぁー、あぅぁう(パパ、もどる、まつ)」


 しゃがんだまま、パパがもどるまで待つと言うフラムを抱き上げるエイム。


「それではホワイトさんが戻ってくるまで一緒に待ちましょう」


 抱き上げられたフラムは、にこにこ笑いながら鞄からぱりんちょを出すと一つエイムに渡す。


「お嬢様、ありがとうございます」


 更にフラムは瑠以、煉、要にもぱりんちょの小袋を一つづつ渡すと、自分もぱりんちょを開けて、ぱりぱりと(かじ)り始めた。



 大陸中央で暴れる巨大な肉の塊を前にして大まかな手順を確認してから、俺達は作戦を開始した。ラスが巨大な肉の塊に向かって、素早く四足歩行で接近していく。


 その間、俺は神速を使いラスに降り掛かってくる礫をタガーで弾いていく。ラスが疾走の勢いそのままに、跳躍して肉の塊に突撃していく。


「行くぞッ!!スパイラルクロウッ!!」


 水泳選手が水面に飛び込むが如く、両手から延びた鈎爪を合わせて肉の表面を掘削していく。


「オラオラオラァッ!!」


 調子良く進んでいるラスだったが、中心部まで三分の二の距離で回転の動きが鈍り始めた。俺はラスに繋いでいた闘気の糸を徐々に手に変化させていく。


「…ホワイトッ!!まだ引っ張り出すなよッ!?」


 そう言われたが一応準備だけはしておく。タイミングがズレるとラスが肉の塊に呑み込まれてしまう…。そうなるとこの巨大なミートボールが更に強くなってしまう。


 手に負えなくなる前に俺達で決着を付けないとダメからな。見ているとラスは動きを完全に封じられて回転が止まっていた。


「まだだぜッ!!俺の本領はココからなんだよォォッ!!バローイングクラッシュッ!!」


 ラスが叫ぶと、その体毛が逆立ち硬質化する。そして今度は高速で前転を始めた。掘り進めた場所で高速前転しながら肉の塊の腹を掘っていく。


 堀った塊の穴から肉片が飛び散っていく。俺はそれを旋風掌で塊自身の方へ飛ばした。飛んで行った肉片が宙で爆発する。


 俺が確認すると、ラスは中間まで到達していた。俺はそのタイミングで闘気の糸を手に変化させる。

 

「交代だッ!!全力で引っ張りやがれッ!!」


 ラスに言われて俺は闘気ハンドに強い意志を通す。そしてラスの首を掴むと、思いっ切り引き戻す。同時に俺は軽くジャンプしてラスと入れ替わった。


「気に入らねぇが、俺を蹴って突撃しろッ!!スキルを回収して来いッ!!」

「あぁ、解った。遠慮なく行かせてもらうッ!!」


 俺は叫ぶと闘気のドリルを全身に纒い、ラスの肩に脚を乗せると全力で跳躍した。瞬間、ラスが地面に激突する…と思われたがスロウのスキルで激突は免れた。


「あの野郎ッ!!確かに蹴って行けって言ったけどよォ!!この俺をマジ蹴りしやがって…ちょっとは遠慮してスキル使えよッ!!」

「…まぁまぁ、無事だったんだから良しとしましょう。後はホワイトさんが何とかスキルを回収すれば問題は解決ですからね」

「…スロウ、テメェ他人事だと思って…」

「ラス、まだ終わってはおらんでな?ほわいとが無事、回収して戻ってきたら思う存分決着を付ければいいんじゃ!!」


 魔皇の言葉に、ラスが小さく舌打ちをする。何度も腹を抉られた肉の塊は、侵入者を弾き出す事に集中しているのか、暴れる事を止めていた。


 俺は闘気ドリルを回転させつつ、全力で肉の塊を掘っていく。推進力は十分ある。このまま行けばこの肉の塊の中心核まで到達出来るだろう。


 しかし、肉の塊も黙ってそれを許してくれる程、甘くなかった。


 暴れる事を止めて俺を身体の中から排除する事に集中を始めた肉の壁が外側へと蠕動を始める。さっきと同じ手法で俺を外へ出そうとしているのか?だが同じ手は俺には通用しないんだよ!!


 既に対策を練っていた俺はアイスエッジを持つと肉の塊の中を進みながら、ストームラッシュを使って暴れた。掘った肉の穴の壁が急速に凍結していく。


 凍結した肉の壁がミシミシと軋んでいる音が聞こえた。


 この単細胞が!!この次は肉の壁で俺を圧殺しようってんだろ?解ってんだよォォ!!お前が俺を潰して取り込む前に俺が中心核まで行ってやるッ!!


 俺は凍結した肉の壁にアイスエッジを突き立てる。そしてそれを足場にしてもう一度、闘気ドリルを回転させながら全力で跳躍を使った。


 掘り進めつつ、今度は腐蝕のタガーで肉の壁を突き刺しまくった。このタガーの効果は遅効性だが、腐蝕が始まればそれなりのスピードで腐っていく。


 ゾンビの肉の塊を腐蝕させて果たして効果があるか謎だったが、小さい事に構っていられなかった。


 出来る事は全部やる覚悟だ。


 俺は肉の壁が圧力を掛けてくるのも構わず、どんどん掘り進めて行く。そろそろ中心核に到達するはずだ。


 掘り進めた先で、俺はついに肉の塊に取り込まれていたボナシスを見つけた。



 外側では、目玉を真っ赤に充血させて怒り狂った肉の塊が、両手で腹に出来た穴に手を入れようとしていた。


 しかし手の方が大きい為に腹の穴には手も指も入らない。異物が侵入したまま排除出来ないのがもどかしいのか、頻りに腹の穴を気にしていた。


「魔皇様、そろそろ僕の魔力が尽きます。一旦退避します」

「うむ。あとはわっちがここで視とるでな?二人は後ろに退避しておくんじゃ!!」


 魔皇の言葉に、スキルを解除したスロウはすぐに転移で数百メートル後退した。


「…アイツは…ホワイトはどうなんだ?あの肉の塊の中心に近づいてるのか?」


 ラスの問いに、フィーアが状況を説明する。


「…順調に掘り進めておったが、肉の壁の抵抗に会っておるでな。今は特殊なタガーの効果で応戦中じゃ…このまま行けばもうすぐ中心核まで行けるじゃろう…」


 魔皇の言葉に、肉の塊を見るラス。


「…おんしも後ろに下がっておくんじゃ。あの塊は危険じゃからの。何があるか分からんでな?」


 そう言われて暫く巨大な肉の塊を見ていたラスが舌打ちをして下がっていく。それを確認したフィーアは、前面に闇の障壁を張り、『魔心眼』を使って塊の内部を注視していた。



 肉の塊の中心核に到達してボナシスを見つけた俺は、すぐに肉の壁に全力でパラライズボルトを喰らわせる。


 肉の壁を麻痺させて、闘気ドリルで少しづつボナシスに近づく。ボナシスとの距離二メートルのところで、俺は闘気をドリルからいつもの闘気ハンドに変化させた。


 そしてボナシスを視る。あった!!『ゾンビモード』だ!!


 ゾンビモードはボナシスの頭の中にあった。おそらくスキルが宿主のボナシスを操っているのだろう。俺は闘気ハンドで、ボナシスの頭を掴む。


 これで終わりだ!!吸い込めッ!!闘気ハンドッ!!


 闘気ハンドがボナシスのスキルを吸い上げようとした瞬間、それはスーッとボナシスの頭から離れて行く。


 そんなッ!?コイツッ…移動しやがった!?あのスキルは肉の塊の中を自由に移動出来るのか?


 ゆっくりだがスキル『ゾンビモード』は俺から離れて行く。同時に凍結していた肉の壁が破壊され、俺を全力で潰しに来た。


 …グオォォォッ、クソッ…ここまで来て逃がすかッ!!ココで失敗するともう手が付けられなくなる。絶対に捕まえてやるッ!!


 俺は完全に潰される前に、スキルを同時発動させた。


 …絶対逃がさねぇッ!!覚悟しろ!!俺はただの人間じゃねぇんだよォッ!!


 俺はサンダーライオットと同時に旋風掌を最大で発動、更に念を入れて暴風雷塵を全出力で放出させた。


 その瞬間、俺が思いもしなかったスキルが発動した。俺を圧殺しようとしていた肉の壁が一瞬で爆散して止まった。

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