ゾンビ集合体。
俺は超巨大なキモチワルイ肉の塊を見上げていた。
ボナシスのヤツ、古代の超兵器で死んだヤツらも甦らせちまったらしいな…。
赤黒く脈動する肉から、人間の手や足やら顔やらが飛び出していて不気味過ぎる。俺が見ていると肉の塊から巨大な足がヒュッっと飛び出してきた。
慌てて『神速』で避けたが、その足は大地を抉って大きなクレーターを作った。石の欠片が無数に飛んでくる。
それを闘気だ防いだ瞬間、礫が爆発した。
この肉の塊は、ボナシスのスキルを持っているのか?それとも、この巨大な肉の塊の中にボナシスがいてコイツを操作しているのか?どっちか解らないがデカくなった分、土爆弾の爆発も威力が上がっていた。
やっかいなヤツだ…『ゾンビモード』スキルはヤバすぎるな…。その時、俺の様子を見に来たリーちゃんが巨大な肉の塊を見て驚いた。
≪…うわっ、アレ何ッ?なんでこんなのがここにいるのッ!?≫
≪…ボナシスのスキルがゾンビを取り込み続けた結果があれなんだよ…≫
≪すぐにフィー様を呼んで来る!!≫
リーちゃんがすぐにフィーちゃんの所に連絡に行ってくれた。
俺は神速で避けつつ、どう攻略するか考えた。その間にも、アスモアの毒噴射がスプラッシュしてくる。更に肉の塊の一部がグググッと盛り上がるとデカいも生えて来た。
巨大な腕が地面を抉り、無数の礫が爆発する。更にアスモアの鋭いラミアの爪が飛んできた。俺は飛んできた爪をタガーで弾き返す。
巨大な肉塊で忘れていたが、鋭斗と隗の事を思い出した俺は一旦距離を取って、二人の元にファントムランナーで接近する。その間にも爆発、毒噴射、爪攻撃が嵐の様に降ってくる。
全て避け切った後に二人を掴むと、俺は魔族のエリアに転移した。
◇
その頃、魔族のエリアでは皆が、大陸中央の異変に気付いていた。激しい地響きの後、連絡で戻ってきたリーアから現状報告を受けた魔皇フィーアと魔人スロウが山が隔てた向こう側を見ている。
「魔皇様、これはかなりの邪気ですね…勇者PTの二人が何か変なモノ召喚したんですかねぇ?」
「いや、あの二人からはその手のスキルも魔法も視えんかったでな?アレは全くヤツらとは別物の何かじゃな…」
話す二人の後ろで、瑠以が山際を見る。
「すごい邪気ね。普通じゃないわ…しかも邪気が山を越えようとしている。アレはかなり危険よ…触れると魂を抜かれて肉体を取り込まれるみたい…」
瑠以の鑑定を聞いた要がこの場所からの退避を提案する。
「危険が迫ってるなら、わたしがここにいる皆をベースキャンプまで転移させようか?」
「…いや、ベースキャンプは北側が山に挟まれて縦に谷の様になってたはず。たぶん、ここより早く邪気が到達するよ…」
要の提案を、煉が止めた。
「大陸中央はわっちが見て来るでな?エイム、あの邪気をこのエリア一帯に入らない様に出来るかの?」
魔王に問われたエイムが頷く。
「邪気の成分を解析、わたしに搭載されている防衛システムを使用すればここに残る皆さんを護る事が可能です」
「よし、ではその防衛システムでこの一帯を保護するんじゃ。後の者は動くでないぞ?」
そう言いつつ、フィーアがフラムを見る。
「フラム。今回は父の所に転移してはダメじゃ。わっちとほわいとで片づけて来るからの。良いな?」
「あぅっ!!(わかった!!) 」
フラムに言い聞かせる傍で、山をずっと見ていたスロウがフィーアに話す。
「魔王様、僕も行きますよ。おそらくあの邪気の主の動きを鈍らせる為には僕のスキルが必要かと思います」
「…うーむ。そうじゃな…。危険になったらすぐにここに戻るんじゃ、良いか?」
「えぇ、危なくなったらすぐに戻ります。まだ死にたくないんで(笑)」
「うむ。それではわっちとスロウは大陸中央に行ってくる。エイムはこのエリアの防衛じゃ…」
「エリアの防衛。了解しました」
「それから…」
と言いつつ、フィーアがフラムを呼ぶ。エイムが抱っこしていたフラムを下ろす。その目の前で、手を翳して『闇の渦巻き』を見せるフィーア。
「フラム。この魔法をよく見ておくんじゃ。危険になった時これで危険エネルギーを吸い取ると邪気を魔障気に変換してくれるでな?余り吸い取り過ぎると魔障気酔いを起こすからの。本当に危険が迫った時にだけ使うんじゃ」
「あーぅ!!(はーい!!) 」
「ではフラムは瑠以が抱っこしておくんじゃ。後の二人は危険に備えて全員が転移出来るように体勢を整えておいてくれ」
フィーアがそこまで話し、魔人スロウと共に大陸中央に転移しようとした時、ホワイトが鋭斗と隗の二人を連れて転移で戻ってきた。
◇
「…いきなりだけどごめん、この二人を頼む。リーちゃんから聞いてると思うけど巨大で危険なヤツが出て来たんだ。俺はすぐに大陸中央に戻るからフラムを頼む」
すぐに転移しようとする俺をフィーちゃんが止める。
「ほわいと、待つんじゃ。わっちとスロウも行くからの」
「マジで!?助かるよ!!アレ、俺だけじゃきつそうだったからね…」
「ほわいと、まずは転移の前に作戦を伝える」
そう言うとフィーちゃんがざっくりと作戦を説明してくれた。
「その危険なヤツをわっちが『魔心眼』で鑑定するからの。そこから対策を練る。その後はスロウの出番じゃ。ギリギリまでおんしがスキルを使って危険なヤツの動きを鈍らせるんじゃ…」
そう言われたスロウが頷く。そしてフィーちゃんが俺を見る。
「後はほわいと、おんしが殺るんじゃ。良いな!?」
「…えぇっ!?ぉ、俺がやるのっ!?」
「当たり前じゃ、わっちはまだ幼生体じゃからの。全力を出すと疲れるじゃろ?だからおんしがやるんじゃっ!!」
「…は、はい…解りました…」
付いて来てくれるって言うから、倒してくれるんだとばかり思ってた…。あんなの俺だけで倒せるかな…。
俺は念の為に、フィーちゃんとスロウにも巨大な肉の塊の腕と足、礫の爆発や毒噴射、ラミアの爪などの攻撃が来ることを伝えておく。
そして転移で大陸中央に戻る前に、フラムを抱っこして言い聞かせておく。
「フラム。パパはちょっと危険なヤツを退治してくるからここでエイムと待つんだ、良いか?」
俺の言葉に、フィーちゃんがエイムにはこのエリアの防衛を任せていると教えてくれた。
「そうだったのか。エイム、エリアの防衛を頼む」
「解りました」
「瑠以、フラムを頼むぞ?ちょっと時間が掛かるかもだけど、フラムは瑠以と待っててくれな?」
「あぅっ!!(うんっ!!) 」
フラムの元気な返事を聞いた俺は、フィーちゃんとスロウと共に大陸中央に転移した。
◇
大陸中央では巨大な肉の塊の中心に、大きな目が開いていた。ギョロッと辺りを見回し、見失った俺を探していた。
まだ右腕と左足しか生えていないので体勢は不安定だったが、真ん中に巨大な目が開いていて俺は驚いた。今でこの状態だと最終形態は『バ〇ちゃん』みたいになるのかw?
「なんじゃ、あいつ!?きもちわるいでなッ!?」
「…魔王様…コイツはかなりグロいですね…僕のスキルで止められるかな…心配になってきた…」
スロウも奇妙で巨大な肉の塊に、ドン引きしている…。そんな中、フィーちゃんが『魔心眼』を使って肉の塊を鑑定してくれた。
「…ふーむ。あの肉の塊のかなり奥の方に、宿主と操っているスキルがおるでな?コイツは宿主が死ぬと同時に発動する寄生自立型のスキルじゃ。しかしこんな特殊なスキル、なんでただの凶悪犯が持っておるんじゃ?」
「どこかで何かを拾い喰いした中にいたとかw?」
俺達が話していると、東側からラスが走ってくるのが見えた?
「オイッ、お前ら!!コイツは一体何なんだよッ!?」
「ラス。アンタも来たのか。今からアレを三人でどうやるか相談中なんだよ」
「スロウに…魔皇フィーアとホワイトか…お前ら冗談だろ!?あんなのどうやって倒すんだよ。ていうか何であんなのがここに出て来たんだ…?」
ラスの疑問に、俺が今までの経緯を簡単に話した。
「…マジか?アレはボナシスのスキルなのか…」
「確かにあれはボナシスじゃ。しかしスキルの力によって操られ、もう既にボナシスの意識はほぼないでな。アレは死体と魂を取り込み過ぎて暴走しておる状態じゃな…」
俺達がラスに説明している間に、スロウが範囲を拡げて準備をしていた。
「魔王様、いつでもいけます。ホワイトさんの準備が出来次第、退治を始めましょう」
「うむ。ほわいと、いけるかの?」
そう言われて俺は考えた。スキル『ゾンビモード』はあの肉の塊の中心部辺りにいる。そこまでどうやって到達するか…だな。
鋭斗の様に削って潜り込むか…。全身に闘気を纏い、鋭利な棘の付いたドリルをイメージ。『ファントムランナー』で勢いを付けた後に『跳躍』を使って突っ込む。
そのまま、『レ〇ル4』でも歌いながら『奈〇スクリュ…』いや『ドリル〇タック』で中心部まで突っ込んでいくかw
そうと決まれば実行あるのみだな。俺はスロウを見る。
「スロウ。始めるからアイツの動きを鈍らせてくれ」
「解りました。行きますよ?僕の魔力が尽きる前に出来るだけ手早く終わらせて下さい」
「解かった。取り敢えずやってみる。失敗したら一度退がって待機しててくれ」
フィーちゃんとスロウが頷く。
「…さて、やってみますか。対象の動きを止めろ!!『レジネスオブリビオン』」
スロウのスキルワードの後、一気に魔障気の風が拡がっていく。同時にその魔障気の風が肉の塊の右腕、左足に干渉する。
魔障気の風は、肉の塊の動きを止め、邪気を吸い取り始めた。それを確認した俺は身体の周りにプラチナの『龍神闘気』をスーパーサ〇ヤ人の様に放出させる。
そしてドリルをイメージして全身に纏うとファントムランナーで一気に肉の塊に接近する。
しかし、ヤツ目が俺をギョロッと睨むと、目が充血したように真っ赤になり、瞳孔の部分から、圧縮された血液?をビームの様に飛ばしてきた。
俺は走りながら避ける。通り過ぎる瞬間に、チラッと確認すると血の涙が大地を溶かしていた。
…げっ、酸を含んでいるのか!?こりゃ喰らうとヤバいな…。俺は二十メートル程、手前の距離で『跳躍』を使う。
そしてそのまま闘気を回転させながら、塊のドデッ腹に一気に突っ込んだ。
「行くぜェッ!!ドリルア〇ァーック!!」
俺の闘気ドリルが、肉の塊の表皮を削っていく。そしてそのまま前進して、中心部まであと半分の所まで来た所で回転の勢いが削がれ始めた。同時に、肉の塊は俺を押し出そうと内側から外へと蠕動を始める。
…オイオイ、マジかッ!?まだ半分しか行ってないのに…このままだとマズイッ…押し出されてしまう…。
俺は必死に闘気に鋭い棘をイメージさせ、肉の壁に刺して回転させる。しかし、肉の壁が回転を止めようと、グググッと力を入れて闘気ドリルごと俺を締め上げる。
押し出される事はなくなったが、完全に回転を止められてしまった。肉の壁は俺を圧死させようと、更に力を入れてくる。
俺の身体がミシミシと軋んで悲鳴を上げる。
「…クソッ、こんな所でやられてたまるかッ!!これでも喰らえッ!!」
俺はその場でサンダーライオットを放つ。一気に極太の稲妻が肉の壁を焼き尽くしスパークした。その瞬間、肉の塊の腹に当たる部分が一気に爆散した。
俺はそのまま、地面へと放り出される。何とか着地をして再び跳躍を使おうとした瞬間、飛び散った肉片が俺の周りで爆発を起こした。
「…グッ…クソッ、厄介なヤツだな…」
俺はすぐに朧を使い、同時に神速でその場から退避する。
「…失敗だッ!!皆、一旦退避ッ!!」
俺の叫びに、フィーちゃんが『闇の渦巻き』を前面に展開させつつ後退する。
スロウもすぐにスキルを解除して下がった。
ラスは二人の後ろから、顔を強張らせて俺達を見ていた。俺はすぐに二人の所に戻る。
「半分まで言った所で押し戻された。肉の壁が蠕動して俺を押し出そうとしたから雷撃喰らわせたんだけど…」
俺はそう言いつつ、肉の塊を見る。大穴を空けたはずの横っ腹は見事に再生して戻っていた。更に左腕、右足も生えていた。
両手両足の生え揃った肉の塊は、寝ころんだまま駄々っ子の様にジタバタ暴れ始めた。両手両足をドッカンドッカンと大地にぶつける。
同時に俺達がそこで跳ねあがる程、激しく大地が上下動する。そんな中、前面に闇の渦巻きを展開させたまま、滞空していたフィーちゃんが言う。
「…これは…どうやら、怒らせてしまったようじゃの…」
俺とスロウ、ラスは立っていられず、その場にしゃがむしかなかった。
「…オイッ、お前らッ!!コイツ、どうするんだよッ!?」
激しく揺れる大地の中、這って来たラスが俺達に問う。どうするも何も、コイツを倒さないと皆が危ない。
俺は這ったままの状態で、ラスを振り返って言う。
「…どうもこうもない。もう一度やるッ!!さっきは半分まで行けたんだ!!あともう少しだけ強力な推進力があれば…」
「ホワイトさん、僕がスキルを使えるのはあと一度きりのみですっ!!この次で必ず決着を付けて下さいっ!!」
再び作戦を実行しようとする俺達の傍に、滞空したままスーッとこっちに寄ってくるフィーちゃん。滞空していたフィーちゃんでさえ、揺れる大地とその影響を受けた空気の振動に揺れていた。
「そのまま同じことをやってもいかんでなっ!?次は確実に中心部にいるスキルを捕らえるんじゃっ!!」
フィーちゃんの言葉に、俺とスロウが視線を合わせどうするか考える。俺達の後ろでラスが、顔を強張らせたまま、何かを決意したように暴れる巨大な肉の塊を見ていた。




