肉の塊。
俺が鋭斗を連れて大陸中央に到着すると、フィーちゃんが既に回転ハンマー男をシバキ上げていた…。半殺し…いや半殺しどころじゃないな…。
10分の8殺しって所か…。顔が腫れ上がり血だらけで倒れて完全ノックアウト状態だった。
「…隗ッ!!オイッ、大丈夫かッ!?」
鋭斗が、隗と言うツンツン頭の男を抱き上げる。フィーちゃんはトコトコと俺の方に歩いてくる。さっきよりかは幾分か圧が収まっていたが、魔障気が溢れ出ている所を見るとまだ怒りは残っているようだ。
「これは…君がやったのか…?」
鋭斗の質問に、フィーちゃんが振り返って答える。
「…そうじゃ。わっちの作った畑を荒らした罰じゃ。しかし殺してはおらん。楽には死なせんからの。畑を荒らした分、キッチリ働いてもらうでな?」
隗を寝かせて、静かに立ち上がる鋭斗。
「…アンソニー・ホワイト。アナタを殺した後、そこのちびっこにも死んでもらう」
そう言うと鋭斗はスキル『シェイバーハッシュ』を発動させる。全身を覆う蒼い鋭利な闘気が少しづづ手元に集まり、一本の剣を作った。
…ふむ。刺々しいオーラを纏って常に動かしているのか。オーラで創った剣を振って相手を削り、オーラで全身も護っている感じだ。触れるとスリがねで大根を下ろす様に削れてしまう訳ね…。
「…さて、ほわいと。わっちはおんしの闘いを見させてもらうからの。あの程度の闘気、おんしなら問題ないじゃろ?」
「…えぇ、対策は練ってありますよ。しかしねぇ…」
俺はそう言いつつ、鋭斗に近づいていく。
「鋭斗、お前はホントに殺し合いをしたいのか?悪いんだがお前じゃ俺には勝てんよ?」
「大層な自信ですね。それは僕の『シェイバーハッシュ』を受けてから言って欲しいですね…」
「…そうか。鋭斗も自信があるようだが、お前には大変残念なお知らせがあるんだ」
そう言うと俺も全身から闘気を出した。人間では恐らく俺しか持っていないであろう特別な『龍神闘気』だ。
そして闘気を形状変化させる。鋭斗と同じ鋭利で刺々しいがプラチナに輝く闘気だ。俺はクレア程、闘気を薄く張る事は出来ないが、鋭斗のようにざっくり身体を覆う事は出来る。
俺の目の前で、鋭斗が驚愕の表情を見せた。
「…それは…?オーラ?まさか僕以外にも使える人間がいたなんて…」
「驚いた?ちなみに俺の持ってる闘気は少し特別でね。恐らくお前のオーラを粉砕出来る。それを踏まえてもう一度だけ聞く。それでも俺と殺し合いをしたいか?」
俺の問いに鋭斗が顔を強張らせたまま頷く。
「…やってみなければ解からない。僕の『シェイバーハッ…」
鋭斗が言い終わらないうちに、俺は『神速』で鋭斗の背後に周る。俺は両手にプラチナタガーを持って闘気を纏わせていた。俺が背中を切り付けようとして、ようやく鋭斗が反応する。
「遅いッ!!そんなんじゃ俺は殺せない!!」
実際、鋭斗の背中を護っていた蒼い刺々しいオーラは俺の闘気を纏ったプラチナタガーに抵抗出来なかった。
背中を浅く切り付けた所で、鋭斗は『瞬脚』を使って何かと逃げる。
「…くッ、そんなッ…!?煉より速いッ…!?」
「その感じだと自分と似たようなヤツとの戦闘経験がないな?井の中の蛙も良いトコだな。これでもまだやるか?」
背中の痛みに膝を付く鋭斗。
「…まだ、まだ…ですよ。僕は勇者キラーマン…強いヤツに勝ってこそ勇者…」
俺はその言葉に肩を竦めた。仕方ないな…。フィーちゃんの様に10分の8殺しなんて器用な真似は出来んけど、戦闘不能になって貰うか…。
「…解った。覚悟は出来てるんだな?悪いがこれで終わりにさせて貰う」
俺は神速で鋭斗に接近する。しかし、そのタイミングを狙っていたのか鋭斗の身体から、一本の槍の様に鋭利なオーラが飛び出して俺を襲う。
俺は敢えてそれを避けず、タガースキル『ストームラッシュ』で鋭斗のオーラの槍を削っていった。
それを見た鋭斗は驚愕で目を見開いていた。
「そんなバカなッ!?僕のシェイバーハッシュが…」
二秒掛からず、鋭斗のオーラの槍を削り切った後、再び三方向からのストームラッシュで鋭斗のオーラを全て削り剥がす。
そのタイミングで、俺は思いっ切り鋭斗の頬を殴り飛ばした。
「…ぐァッ!!」
錐揉みしながら転げて吹っ飛んでいく鋭斗。何とか立ち上がろうとするものの思うように動けないでいる。当然だ。俺が背中を切り付けた時と殴った時に『パラライズボルト』を流しておいたからだ。
後ろではフィーちゃんが、俺にダメ出しをする。
「…甘いのぅ。相手の力量が読めんバカなどすぐに捻り潰せばいいんじゃ…」
そのダメ出しをスルーして俺はうつ伏せに倒れて動けない鋭斗の前に立つ。
「…鋭斗。お前、随分勝手なPTリーダーだな。これから俺が話す事を良く聞け。良いな?」
聞いているかどうか判らなかったが、俺はそのまま話を続ける。
「お前が誰かと殺し合いをするのは勝手だが、お前はソロじゃなくてPTなんだから周りの人間の事も考えろ。リーダーのお前が勝手な行動してたら皆が別々の方向を見るようになる。勝手が過ぎるとそのうち皆がお前から離れていくぞ?」
鋭斗は相変わらず何とか立ち上がろうとしているが、身体に力が入らないようだ。
「お前のその根性だけは認めるよ。けど、ただ強い相手に向かって行くだけってのは勇気じゃない。そりゃ、蛮勇ってヤツだ」
俺が話しているとフィーちゃんが傍に来る。
「ほわいと、もうお昼が近いでな?ランチの時間じゃから説教は手早く済ませるんじゃ」
俺は皆の所に戻る前に、鋭斗に最後の忠告をしておいた。
「お前には転移で移動させてくれるヤツがいる。隣で前線に立ってくれるヤツもいる。攪乱してくれるヤツも、対象を鑑定してくれるヤツもいるんだ。よく考えろ。リーダのお前が勝手な事をしていたらせっかくの仲間の能力を活かせない。だからお前はリーダを辞めろ。リーダーは転移スキルを持った子にさせるんだ。その子のサポートに瑠以。後衛の護衛に煉、前衛はお前と隗だ。状況に応じてどっちが先に出るかリーダーに確認してから行動しろ。最後に言っておく。ここで殺し合いしなくてもそのうち戦場で会う事になる。お前は帝国の勇者、俺は王国のフリーSランクハンターだ。次に戦場で会う時にお前がちょっとでも成長してる事を願うよ」
話し切った俺に、またまたフィーちゃんがダメ出しをする。
「ほわいと、おんし敵にアドバイスしてどうするんじゃ?まぁどう頑張ってもこの二人じゃ早死にするのがオチじゃ。今まで良くこの世界で生きて来れたのぅ…」
「まぁそこはPTメンバーがいたからなんとかやってこれたんじゃない?」
俺の返しに「まぁ、そうじゃな」と答えるとフィーちゃんは先に転移で魔人エリア…と言うか魔族の更生エリアに戻った。
俺も転移で戻ろうとしたその時、突然俺の背後に土の塊に塗れたヤツが現れた。
◇
俺は気配を感じて振り返る。そこには土の塊が盛り上がった人型の物体がいた。その物体が自らを覆っていた土を取り払っていく。
「…やっ…と、見つけ…た…」
土の中から出て来たのは俺が一昨日殺したはずのボナシスだった。
「オイオイ。マジかよ?アンタ死んでなかったんだな…?」
「…ア、アタイは…あの程度の電撃、じゃ…死なない…んだよ…」
途切れ途切れに喋るボナシスはそう言うが、どこからどう見てもゾンビっぽい。身体の一部はまだぐちゃぐちゃで欠けている。それを見ると、やっぱ一度、死んでるじゃねーか!!と突っ込みたくなった。
「ア、アタイ、には…死んでから発動する復活スキルが…あるのさ…」
「…って事はやっぱ一回、死んでるんじゃねーか!!」
ボナシスは俺の突っ込みを無視したまま、傾いた身体をゆっくりと真直ぐに直していく。徐々にではあるが肉体が再生?しているようだ。
「…い、今は一部、土で…か、身体を作っているけど…アンタを殺してその肉を喰えば…完全復活…出来る…」
暴発サンダークラップで焼け焦げた身体の部位を土を利用して補っているのか…。ボナシスが話している間に、俺はそのスキルを確認した。
『ゾンビモード』このスキルを持つ者が死んでから発動する隠れスキル。自身だけでなく周りの死人も蘇らせる事が出来る。土中での移動が可能。周りの死人も喰らう事により、より強力な個体となる。赤色スキル。
となっている。視ているとボナシスの後ろで次々と死体が復活していた。鋭斗に一度殺され、復活後に俺が殺したアスモアと、その下についていた人間達だ。
…コイツら、めんどくせぇな…。しかし、のんびり構えていられなかった。数百人単位のゾンビ軍団が形成されつつある。俺は神速で鋭斗と隗に接近すると二人を掴んで大陸中央の端まで避難させた。
しかしボナシスにしてもアスモアにしてもゾンビ化すると素早くは動けないようだ。俺は二人を置いて再び中央に戻ると、無差別に毒を撒き散らすアスモアに向かって『ストームライダー』を発動した。
身体の周りから風を起こして毒を外に飛ばしつつ、闘気を纏ったタガー二刀でアスモアとその配下数百人の中を乱撃と共に走り抜ける。
遅い遅い!!こんなゾンビ達が何体いようとただの土の人形と変わりない。しかし背後の爆発音を聞いて俺はすぐに振り返った。
見ると俺がストームライダーで切り刻んだはずのたゾンビ軍団が俺を追うように、どんどん爆発している。
…これはっ!?…ボナシスのスキルなのか!?
そして俺のすぐ傍にいた土ゾンビも、激しく爆裂した。
「…クソッ、どうなってる!?」
爆発し粉砕された土ゾンビの塊が俺に向かって飛んでくる。俺はその礫を闘気で防ぐ。その一瞬後に背後に気配を感じた。
「…ククッ、よ、漸く…スピードが戻ってきた…」
ボナシスが俺の背後に立って手に持った土の塊を投げてくる。俺はそれを闘気ハンドで弾いた。
瞬間、その土の塊が低いドンッと言う音と共に爆発する。どうやら土を爆発させるスキルもある様だ。
そんな事を考えていると、俺の足元に妙なエネルギーが集まっているのが解った。俺はすぐにそこから退避する。
案の定、俺が立っていた場所が土を撒き散らして激しく爆発した。マジでめんどくさいヤツだな…。俺は走りながら、ボナシスの周辺を確認する。
五十メートル程、その爆発スキルの範囲が拡がっていた。ついでにボナシスの爆発スキルも確認する。
『土爆弾』土に接触するとすべて爆弾に変えられるスキル。塊とその範囲の地面を指定して爆発させる事が出来る。赤色スキル。
見るとボナシスは膝を付き、地面に手を付いて俺を視線で追っていた。チッ、これだと逃げてもすぐに追って来てイタチごっこになるな…。
俺はすぐに逃げるのを止めて決着を付けるべく、ボナシスに向かって『ファントムランナー』で接近する。
あちこちで爆発するゾンビを全て避けて接近すると俺は飛んでくる土爆弾を闘気を纏ったタガーで全て弾き返す。弾いた土爆弾はボナシスの周辺で爆発し、その視界を遮る。すぐに神速を発動した俺は背後に周ってボナシスの首を掴んだ。
今度こそ、確実にあの世に逝って貰う為に、俺は強めに『サンダーライオット』を発動させた。俺を中心に直径三十メートルの球体が生成され、その中を太い稲妻が無数に現れて揺らめく。
そして強い光と軋むような音と共に、一気にスパークした。余りに強い雷撃にボナシスの身体は原型を留めていなかった…。手足の部位は欠けて焼け焦げた人形を掴んでいる感じだ…。
俺はボナシスの死体から手を離す。スキル『ゾンビモード』が視えなかったからだ…。おかしいと思って周辺を龍眼で探っていると、スキル自体が沈んで地中に沈んでしまった。
…どういう事だ…?どうしてスキルが勝手に動いてるんだ…?
考えていると突然、地響きと共にボナシスの死体が土に沈んで行く。…これは…!!本体がスキルに引っ張られてるのか…?
地響きは徐々に大きくなり、俺はそこに立っていられなくなった。急いで神速で距離を取る。
俺がいた場所を見ると、激しくなる地響きと共に土が大きく盛り上がっていく。俺は更に後ろに退避した。
巨大な球体の肉の塊が半分程姿を現す。そこには脈動する肉の塊に取り込まれた人間の足や腕、顔やら首のない胴体がそこら中から飛び出していた。
この時点で、直径百メートルはあるだろう…。その無数の人間の死体?を取り込んだ巨大な肉の球体がどんどんと土の中から出て来て、ついにその全容を現した。
それは無数の人間の部位があちこちから飛び出した、世にもキモチワルイ、歪で巨大なミートボールだった…。
*補足。『ストームラッシュ』ある一定の範囲でのタガー二刀による乱撃。『ストームライダー』は走り抜けながらのタガー二刀による乱撃です。