勇者PT、全員集合!!
シニスターの魔人のエリアに、何故かフィーちゃんがいた。俺が聞くと魔人スロウを指差して言う。
「こやつが全然働かんでな?ここで更生させてやろうと思って連れて来たんじゃ。ここは昔から魔族の更生で良く利用されておるでなぁ」
話しつつ、フィーちゃんは俺の傍にいたフラムに近づいてくる。
「ん?なんじゃコイツ…わっちよりちびじゃの。おんしの子か?」
「うん。フラムって言うんだ。仲良くして上げて」
フラムはにこにこしながら「あぅぁー(こんちわ)」と挨拶する。そんなフラムをしばらく視ていたフィーちゃんが焦った様に俺を見上げた。
「おいっ、ほわいとっ、こやつ危険じゃぞ!?」
「…えw?何でw?」
「いま、わっちの『魔心眼』をまねようとしたでな!?」
「あぁ、フラムは『まねっこ』って言うスキル持ってるんだよwスキルとか魔法見せると真似するからねw?」
俺の説明を聞いたフィーちゃんはフラムをじっと見つめて呟く。
「…ほぅ、スキルや魔法をまねするんか…おもしろいやつじゃのぅ…」
そんなフィーちゃんに、鞄から幸せターンを一つ、出して上げるフラム。
「ん?わっちにくれるんか?」
そう言いつつ幸せターンを受け取ったフィーちゃんは包装された幸せターンを取り出して齧る。
「んんっ?これはうまいのぅ!!フラム、おんし良いヤツじゃな!?」
喜ぶフィーちゃんの傍で、それを見た煉が反応する。
「ああッ、それ幸せターン!?わたしにも頂戴ッ!!」
煉はフラムの前にしゃがんでお願いする。フラムは瑠以を見上げて確認する。
「フラムちゃん、その子はわたしの友達なのよ。一つだけ、上げてくれる?」
「あぅ~(はーい)」
フラムは鞄から一つ、幸せターンを取り出して煉にも上げた。
「フフフッ、こんな世界でこれが食べられるなんて…」
そう言いつつ、煉は幸せターンの味を噛み締めていた。その傍で、俺はフィーちゃんにこれまでの経緯を纏めて話す為に二人に付いて小屋へ向かった。
小屋に入り勧められた椅子に座って話をした。
「…そうか。それはやってしもうたのぅ。しかし『ゼルク』はオッサンではなくて爺でな?もう七十を過ぎた爺さんじゃ」
俺達は小屋の中で椅子に座り、話をしていた。
…あのオッサン、いやゼルクは爺さんなのか…五十代くらいにしか見えんかったが…。
「それでゼルク爺のスキルはどうじゃったかの?爺は『空間掌握』と『霧』を使うでな?後は極大殲滅魔法を持っておるんじゃ。中々、伝説に違わぬ爺さんじゃ」
「あの爺さん、かなり強かったよ。最終的には俺が『霧氷凍土』を破ったんだけど…そこで俺も動けなくなってね…その後、天罰喰らったんだよ…」
「…ほぅ、あの爺のスキルを破ったのか。しかし、おんし良く天罰を喰らって生きておるのぅ…人間辞めたんか?」
「…いや、まだ一応人間ですよw?」
次にフィーちゃんは俺の後ろに座っていたエイムを見る。
「ほわいと、おんしアンドロイドも連れておるんか…」
「うん。フラムの護衛として一緒に来て貰ってるんだ。エイムって言うんだ。よろしく…」
「魔皇様、初めまして。わたしはエイム。エイム・ヒトリゲンです。エイムと呼んで下さい」
俺達が話していると、魔人スロウが突然立ち上がる。
「魔皇様、侵入者を感知しました。エリアに入った者がいます」
同時にエイムが立ち上がる。
「南西の方角から三人、ですね。迎撃しますか?」
「…俺が見て来るよ。皆はここで待ってて…」
そう言うと俺は小屋の玄関の戸を開く。外では高速で回転する何かがドッカンドッカンと畑を荒らしていた。
「あぁぁっ、わっちが作った畑を…あいつ、何するんじゃっ!!」
俺の後ろから外に出たフィーちゃんがプンスカ怒っている。その後ろから魔人スロウ、フラムを抱っこしたエイム、煉と瑠以の二人が出て来た。
「…ぁ、あれはまさか…」
「そのまさかの様ね。バカが無駄に回転してる…。鋭斗くん達も来たみたいね」
煉と瑠以が見た事のある回転攻撃を見て話している。その傍で、がっくりとOrzの体勢で項垂れるフィーちゃんがいた。
「…あぁ、わっちが作った畑が…」
「あの辺りの畑、私が耕したんだけどね…。隗のバカ、何やってくれてんのよ」
見ると回転するヤツの後ろで鋭斗が叫んでいる。
「隗!!何で誰もいない所で回転するんだよ!!今からエネルギー消耗してどうするんだ!!」
必死に止めようとしている鋭斗の前で、回転野郎は次々と畑を潰していく。
「最初から回転してれば出て来るヤツ片っ端から潰せるだろッ!?」
その言葉に鋭斗は肩を竦めて溜息を吐いていた。俺もそれを聞いて溜息が出た。それはこっちがお前の攻撃範囲に入っていればの話だからな!!コイツ、バカなのか!?
「…あれは業田さんですね。また無駄なエネルギーを消耗してますね」
俺は呟くエイムに近づくと、フラムに『神幻門』を借りる。
「フラム、ちょっとスキル借りるからな?」
「あぅっ!!」
そして回転し続けて畑を潰し周っているバカに、『ファントムランナー』で接近、『神速』で側面に周り込み龍眼で回転の動きを見極めると、思いっ切り顔をぶん殴ってやった。
「ぐわッ!!」
いきなり俺に殴られて、回転の余韻そのままに錐揉みしながら吹っ飛ぶ男。すぐに神速で接近するとそいつの首を掴んで転移で大陸中央まで飛んだ。
「このバカがッ!!お前はここで待ってろッ!!」
強制的に転移させられてキョトンとするガタイの良いツンツン頭を置いて、魔人エリアに戻った。
戻った瞬間、恐ろしい圧がフィーちゃんを中心に激しく旋回していた。周りの皆が立っていられない程だ。俺に高速接近したフィーちゃんが凄みを効かせて聞いてくる。
「ほわいと、おんしさっきのヤツどこへやったんじゃっ!?」
「…め、迷惑野郎は大陸中央に置いて来たよ。後でお仕置きしてやろうと思って…」
俺の言葉を聞くや、フィーちゃんは一瞬にして転移してしまった。凄まじい闇の圧が消えた所で、鋭斗が俺に近づいて来た。
「…アナタは昨日、大陸中央で会った人ですよね?後ろにいるのはアンドロイドSV3109…」
話す鋭斗の後ろから、一人の女が顔を出す。
「鋭斗くん。転移スキルの残滓がこの人と一致したわよ?つまりこの人が…」
メガネを掛けたショートボブの女が言い終わる前に、俺が鋭斗に話をする。
「この前は事情があってね。騙して悪かったよ。君の後ろにいるその子の言う通り、俺がアンソニー・ホワイトだ」
「…アナタ…僕を騙したんですね…?」
「…あぁ、そうだ。事情があったから仕方なかったんだよ…」
そう言う俺の前で、俯いて両手の拳を握りプルプルと震えている鋭斗。後ろにいた女がスッと後ろに下がっていく。瞬間、鋭斗の身体から、蒼い鋭利なオーラが飛び出してきた。
俺はそれを闘気で防ぐ。鋭斗のオーラが、俺の闘気をガリガリと削っているのが見えた。
「…許せない…この僕を騙すなんて…絶対に許さないッ!!」
そう叫んだ鋭斗のオーラが一瞬にして消える。
「ここで暴れるのは良くないな。魔皇様を怒らせると良い事にならない…」
いつの間にやら魔人スロウが、接近していた。これは恐らくスロウが持っているスキル『レジネスオブリビオン』だな…。鋭斗のオーラが完全に打ち消されていた。
「…これはッ…僕のオーラが…『シェイバーハッシュ』が消えた!?」
驚く鋭斗を尻目に、スロウが俺に言う。
「急いでこの男を連れて大陸中央に飛んで下さい。スキルを一瞬抑え込んでいるだけです。だから早く行って下さい!!」
俺はその言葉に頷くと、スキルを抑え込まれていた鋭斗の肩を掴んで神幻門を発動させた。
◇
「…やれやれ。これ以上ここで暴れられたら僕の仕事が増えるじゃないか…」
そう言いつつ振り返ったスロウは、ハッとした。
「そうだ!!人数が増えてるんだからそんな心配必要なかったな!!」
そして煉と新たに増えた、エイム、瑠以、要を見てスロウは話を始めた。
「さあさあ、皆、魔皇様が戻ってくる前に畑を元に戻すよ!!レンはすぐに皆の分の鍬を取ってきて!!」
そう言うとスロウは荒らされた畑に向かい、闇魔法を発動させた。黒い小人が土の中から無数に現れる。そしてその黒い小人達が畑の枠の土を整備していく。
それを見たフラムはエイムに下ろしてくれと頼んで、黒い小人の近くに寄っていく。フラムの急接近に一瞬、ビクッと驚いたような小人達だったがすぐに作業に戻った。
それを見たフラムは、小人の真似をして畑の枠を一緒に直し始めた。
「ほらッ、皆見て!!あんな小さな子供だって働いてるんだよ!?さ、皆は整備された畑を耕してくれ!!」
スロウの言葉に、煉、エイム、瑠以、そして要が鍬を持って畑を耕していく。そこへ、闇の小人達が、荒らされた土の中から『魔力の実』を拾って皆が耕した畑に綺麗に植え直していった。
それを見てうんうんと満足そうに頷くスロウがいた。その時、フラムのポケットに入っていたリーアが目を覚ましてスロウの傍まで飛んでいく。
≪…スロウ。アナタ相変わらずね…≫
≪やぁ、妖精リーアじゃないか。キミも来てたとはね。随分久しぶりだねぇ≫
≪そうね。アナタが子供の頃だったからね。今でも他人を巧く動かして楽してるのね?≫
リーアの言葉に、スロウは肩を竦めて苦笑いを見せていた。一方、要は煉、瑠以と共に畑を耕しつつ、二人を問い質していた。
「どうして二人とも戻ってこなかったのよ!?」
そう言われて煉と瑠以が顔を見合わせる。
「…要。それは聞かなくてもアナタなら解るでしょ?」
瑠以にそう言われて要は即答した。
「どうせ食べ物でしょ!?なんでわたしも呼んでくれなかったのよ!!」
「だって要を呼んだら他の二人も来るじゃん。あの二人が来るとややこしくなるから嫌なのよ!!」
「…それはそうだけど…」
煉に言われて言葉に詰まる要。
「取り敢えず要を呼ばなかったのは謝る。暫くここに居れば帝国にいるより遥かに良い物が食べられるから…」
煉の言葉に釈然としない要だったが取り敢えず頷いていた。
「ところで鋭斗くんと隗だけど、絶対に勝てないわよ?魔皇もホワイトさんも危険なレベルのスキル持ってるからね。隗はどう頑張っても無理、鋭斗くんでも今回ばかりはダメよ。勝つとか敗けるとかいうレベルじゃないのよ。鑑定持ってるからわたしには解る。あの二人は次元が違うの…」
「確かに私の火炎弾を左手で打ち消してたもんね。私より動きが早いし…」
「アレは『マジックキャンセル』ね。ついでにホワイトさんは『物理攻撃無効化』も、持ってるからね…」
煉も瑠以も、そのスキルの元々の出どころがジード博士からである事など知る由もなかった。
「…アナタたちも見たと思うけど、昨日の昼過ぎに空で強い光を放ってたアレ、ホワイトさんのスキルだからね?アンドロイドのエイムとホワイトさんが話しててたんだけど、わたしもスキルの残滓を鑑定したから。間違いないのよ…」
瑠以と煉の話を聞いた要は、一度鍬を振るう手を休めて肩を竦める。
「あの二人は一度、痛い目に合えばいいと思うよ?まぁそれでも改心しなさそうだけど…」
「…そうだね。まぁ、あの二人はほっといてお昼ご飯に期待して頑張ろう。良いモノ食べられるって絶対保証するから」
煉の言葉に頷くと、要は再び鍬を振るい始めた。




