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魔人のエリア。

 瑠以(るい)が白いホカホカご飯と、野菜と肉のコンソメスープを食べていた頃―。


 シニスター北西部の魔人スロウのエリアにある小屋の中で、(れん)は魔人と魔皇を名乗る幼児と食卓を囲んでいた。


 目の前には厚切りステーキが小さな鉄板の上でジュウジュウと焼けている。その端には蒸したジャガイモとバターが溶けていた。


 煉は思わずゴクリと喉を鳴らした。


「まだじゃ、まだホカホカライスが届いておらんでな?もう少し待つんじゃ」


 ちびっこ魔皇の言葉に、無言で頷く煉。三人ともきちんと前掛けをして、ナイフとフォーク、そしてスプーンをセットして待っていた。


 暫くすると突然、魔族のシェフが現れる。


「魔皇様、ご注文のホカホカライスでございます」

「うむ。三人分、それぞれの前に置いてくれ。これはチップじゃ。取って置くと良いでな?」


 そう言いつつ、ちびっこ魔皇はシェフにお札を渡した。


「ありがとうございます。では御用があれば魔界通信機でお呼び下さい」


 そう言ってシェフは一瞬にして消えた。


「…では二人とも今日はよく頑張って畑を耕したでな?わっちからのご褒美じゃ。しっかり食べてくれ」


 続けて魔皇が話を続ける。


「スロウや、明日はレンとの約束通り、闘ってやるでな?いいかの?」

「…は、はい。わ、解ってますって…それより早く食べましょう!!」


 その言葉に練もコクコクと頷く。


「うむ。そうじゃな。それでは働く素晴らしさと、新たな出会いに乾杯じゃ!!」


 そしてお互いグラスをチンと鳴らした後、猛烈な勢いでステーキとライスを頬張り始めた。


 その時、煉の元に(かなめ)からの密談が入る。すぐ食事にするから呼び戻すと聞いて、煉は口に入れていたステーキとライスを一度、よく噛んで呑み込むと密談に答えた。


≪…魔人のスキルが凄いのよ。研究する為にわたしはもう少しここにいるから…≫


 適当な言い訳をして煉はすぐに密談を切った。


 …戻る訳ないじゃんッ!!目の前にホカホカライスとステーキがあるのに?いやいやいや、ないないない!!ベースキャンプに戻ったって食事で出て来るのは堅い干し肉と冷えたスープだけでしょ?あんなので胃袋が満たされる訳ない!!


 目の前にある食事と比べると雲泥の差だった。という事で、リーダーである鋭斗が屋敷に戻る、と言うまでは煉はここに滞在するつもりだった。


 勇者PTのメンバーである(れん)は当初、魔人がいると言うエリアに転移して貰った後、魔人スロウを倒すつもりでいた。


 しかし、転移してすぐに魔人スロウのスキルの範囲内に入ってしまった為に、何をしようとしていたのか忘れてしまった。


 そのままトコトコと歩いていると、畑を耕している魔人スロウに出会う。その傍では、しっかり働くように激を飛ばす幼児がいた。


 この幼児こそが魔界を統べる、今世代の魔皇フィーアであったが、煉は魔界の事も魔皇の事も知らなかった。


 煉の深層の心を読み取ったフィーアは、戦いよりも先に畑を耕す様に指示する。スロウのスキルに掛かっていた煉は、本来の目的を忘れてブツブツ言いながらも畑を耕していく。


 そして時々サボるスロウを横目に見つつ、生来の熱血精神で畑を耕しまくった。そこへフィーアが小袋から取り出した『魔力の実』を植えていく。


 『魔力の実』は魔素がある場所ならばどこでも育つ有能な種である。そして成長速度は三日もあれば芽を出して育ち、実を付ける程である。魔界でしか流通しておらず、食糧危機に備えて開発されたモノだった。


 そしてその後、ヒノキの風呂に入って汗を流した後、三人は食卓を囲んでいたのだった。


 厚切りミディアムレアのステーキが、見る見るうちに無くなっていく。ステーキとホカホカライスを食べ切った三人はお茶を飲みつつ、まったりとしていた。



 その頃、大陸南の山間部、勇者PTベースキャンプでは鋭斗(えいと)(かなめ)と焚火を囲んで話していた。


 傍には気絶したままの(かい)を寝かせている。


 ベースキャンプに戻って来てから鋭斗は、隗とアンドロイドとの闘い、その後の経緯を要に話した。鋭斗は要が持って来た物資の中から干し肉を貰って噛みちぎりつつ、煉と瑠以が戻っていない理由を聞く。


「どうして二人とも戻って来てないんだ?何か危険な事でもあったのか?」


 鋭斗の質問に、溜息交じりで応える要。


「煉は魔人のスキルをもっと研究したいから戻れないって…。瑠以は調査の核心に迫りそうだからまだ調査を続けるってさ…」

「ふーん、二人とも熱心なんだな」


 鋭斗の返しに要は心の中で突っ込んだ。(そんなワケないじゃん!!)誰よりも食事にうるさいあの二人が戻ってこないのはおかしい。要はそう思っていた。


 そもそも密談で話した時の二人の声に、緊急性や緊張感をまるで感じなかった。つまり、危険はなくそこに留まる何らかの理由があるのだ。


 あの二人の事だ。恐らくどこかしらで保存食よりも良い食べ物を見つけたのかもしれない。特に瑠以は日中の調査中にあの洞窟で物資を見つけた可能性が高い。


 それならそれを持って戻って来てくれればいいのだが、あの二人にそんな広い心などない。このPT全員が機能としてのアイテムボックスを持っていなかった。


 すぐに戻ってこれないのはそれを独り占めしたいからだろう。全く、自分勝手なヤツらの本領発揮と言った所だ。


 要は今日、何度目かの溜息を吐いた後、焚火の傍で少しだけ温かくなったスープを飲みつつ、干し肉を齧った。



 結局、瑠以はPTのベースキャンプには戻らず、絨毯の端で毛布を被って寝た。翌日の朝も、瑠以は白いホカホカご飯と味噌汁、納豆、ヨーグルト、ベビーチーズを遠慮なく平らげた。


 朝食を食べた後、軽く歯磨きをしてから、新たに仲間に入れたエイムと、俺達に付いて来ると言う瑠以と共に魔人スロウがいるエリアを目指して洞窟を発つ。


 男達には、物資の見張りをさせる事にした。


 俺達は一路、北西へと向かう。しかし、このまま普通に進むと三日以上は掛かるとリーちゃんに言われたので、最初の休憩地点で休んでいる間に魔人エリアの近くまで皆、纏めて転移して貰った。


 荒涼とした岩山の道を登って行く。その間にリーちゃんに凶悪犯罪者の凶悪である基準について聞いた。


 エイムは望んで人間を殺している訳じゃない。戦争ではプログラムで命令され、戦後は博士の名誉と自らを護る為に、指揮官と特殊部隊を殺した。


 だから凶悪認定される基準がどこにあるのか、疑問だった。しかしリーちゃんから帰ってきた答えは極てシンプルなものだった。


 エイムがいた世界の政府見解が基準になっているらしい。その状況とか経緯なんか一切無視されてるって事か…。


≪エイムの場合だと統一政府から危険で凶悪な存在として認定されちゃってるからね。上の都合だからそんなものだと思うよ?≫


 リーちゃんの答えに、何だかなぁと思いつつ山道を登っていく。ボナシス、アスモア、そして今から会いに行く魔人スロウ。そしてラス。


 ボナシスとアスモアはもう死んだので聞けないが、スロウとラスはどうしてここに来たのか聞いてみたい所だな…。


 俺達は山を登り切ると、今度は坂を下っていく。降りて行くにつれて、段々と気候が変わってきているのか、道端に草や花が生えていた。風も肌寒い感じから温暖に変わっている。

 

 フラムがもぞもぞ動くので、下ろしてやる。フラムはテテテッっと走ると瑠以と一緒に道端の花やら草を見て歩いていた。


(エリアによって気候が違うのか?良く解らん星だな…)


 そう思いつつ坂を下っていくと、遠くに木造ではあったがしっかりとした作りの二階建ての小屋?が見えた。


 こんな星に何であんなしっかりした小屋が建ってんのw?そう思いつつ歩いていると、地面の色が変わっている事に気が付いた。


「…皆、待て。止まった方が良い」

「ホワイトさん、どうしましたか?」


 エイムに聞かれた俺は、下を指さす。


「…何者かのスキルの範囲がここまで来てる。どうやらあの小屋を中心に拡がっているみたいだ…」


 小屋からの距離は五キロ程はあるだろう。…かなりの広範囲だな…。お花や草を見る為に歩かせていたフラムを抱き上げるように、エイムに指示を出す。


「…ちょっと待っててくれ。まず俺が範囲に入ってみる…」


 エイム、瑠以に待つように指示した後、俺はリーちゃんとゆっくり、範囲に足を踏み入れた。瞬間、身体が少し重くなった気がした…。何だ、これは?…重力操作スキルか…?


≪リーちゃん。コレ、魔人のスキル?≫

≪うん。その範囲は精神操作、あと…≫


 そこまで言ったリーちゃんは「これ以上はネタバレになるから』と自分で確認する様にと俺に言った。


 …ふむ。取り敢えず危険はなさそうだが…。俺は『龍眼』で地面を良く視る。何かがゆっくりと流れているように見えた。


 …これは魔障気か?流れているように見えるこれは風かな…?俺は試しに籠手から風を出して俺の周径十メートル程の範囲から魔障気の風を外に逃がしていく。


 これなら皆が入っても大丈夫だろう。俺が、皆に入っても大丈夫だ。そう言おうとして振り返ると瑠以が足元を見て呟いた。


「…これは魔障気。魔障気を風に乗せて地面に這わせる事によって指定した対象の体力、魔力、気力を吸い続ける…。今はホワイトさんの周りだけ魔障気の風がなくなってるから傍を離れなければ大丈夫」


 そうだ。昨日コイツが『鑑定+4』を持っているのをスキル泥棒で視たんだ。

意外な所で役に立ってくれたなw


 瑠以の説明を聞いて、エイムがフラムを下ろす。「お嬢様、お父様の傍を離れない様に」と言い聞かせて入って来た。


 その瞬間、俺は何者かの気配を感じてすぐに前を見る。目の前には三メートル程ジャンプして右掌に持った火炎の球を投げ付けて来る女がいた。


 俺はすぐに『マジックキャンセル』を発動して飛んできたバンドボールサイズの火炎球を左の裏拳を当てて消失させる。


「…げッ!!ウソォッ!?私の『熱血火炎弾』が消された!?」


 そいつは着地すると再び飛び上がり、殴り掛かって来る。もうコイツのスキルは視えていたので何をしようとしているかが解った。


『ブレイバーフレイム』だな。殴られると燃えるワケねw俺はスッと前に入り込みヤツの右側に体を入れると右手で手首を掴み、そのまま微弱なパラライズボルトを流した。


「ひゃぁッ!!」


 電撃で驚いた女は、すぐに飛び退いて俺から離れた。


「何!?このオッサン!!わたしより動きが早い!?」


 叫ぶ女の前で、俺の後ろから瑠以が顔を見せる。


「煉、この人とは闘わない方が良いわよ?アナタじゃ勝てない」

「アレッ?何で瑠以がここにいるのよッ!?」

「鋭斗くんに頼まれた調査ついでに同行してるのよ」


 二人が話しているとその後ろから、魔人らしき男と…見た事のあるちびっこが駆け寄ってきた。


「んっ!?おんし、ほわいとか?なんでここにおるんじゃ!?」

「あれっ?フィーちゃんこそ、何でここにいるの?」


 何故か魔人のエリアに、フィーちゃんがいた。

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