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アンドロイドSV3109

 夕食も終わり、和やかな雰囲気の中、そいつは突然、洞窟の入り口に降り立つと挨拶を始めた。


「こんばんは。わたしはSV3109です。アナタに興味があります。お話をしてもよろしいですか?」


 横縞で白黒の囚人服を着たそいつは真っ白な表情のない顔だった。如何にもなアンドロイドだ。何で最北にいるはずのアンドロイドがこんなとこまで来てるんだ…?


「…誰だか知らんけど瑠以、お前に興味があるってヤツが来てるぞ?お話して上げれば?」


 フラムに爬虫類の物まねを見せていた瑠以が、俺の声に爬虫類の動きそのままの格好で振り向く。


「…うーん、見た事ない人ですね?というか人じゃないですね…誰ですか?」

「いえ、そちらの女性ではなくアナタとお話をしたいのです。このシニスターでアナタの顔は今まで見ていない」


 アンドロイドは無表情のまま真直ぐ、俺を見ていた。


「…俺?俺に用があるの?」

「はい、そうです。アナタは昨日この星に来たアンソニー・ホワイト。さんですね?」


 俺はアンドロイドの質問には答えず、チラッと瑠以を見る。瑠以はアンドロイドが発した名前を聞いても特に反応していない。本当に鋭斗から何も聞いていないようだな…。


 男達は、突然のアンドロイドの登場に、緊張で顔を強張らせていた。


「…ボス、気を付けて下さい。そいつは…」

「あぁ、昨日話してたアンドロイドさんだろ?」


 俺は入り口に突っ立っていたアンドロイドSV3109を見る。探しに行くまでもなく向こうから現れるとはね…。


「まぁ、何だ。話したいんだったらアンタも中に入って座りなよ?」


 俺は家から持って来た木製の椅子をアイテムボックスから出して勧める。


「はい。それでは失礼します」


 アンドロイドは洞窟の中に入って来ると、俺が出した椅子に座る。


「…で、アンタは俺と何の話がしたいんだ?」

「本日昼過ぎに高出力のエネルギーを観測しました。あれはアナタが発生させたものですね?」

「…あぁ、それ俺のスキルの事かな?確かに俺がやったけど、どうしてそれが判ったんだ?」


 別に隠す事でもないので、俺はそれが自分のスキルである事を正直に話した。恐らく『サンダーライオット』の事だろう…。


「現場に残っていたスキルの残滓を確認しました。属性、雷。自然現象で起こる雷の数十倍のエネルギー。その残滓を追跡した結果、ここに来たのです」

「…で、キミはどうしたいの?その高出力エネルギーを出した俺と闘いたいのか?」


 俺達のやり取りに、男達は落ち着かないようだ。ここで闘いが始まるのを懸念しているのだろう。俺とアンドロイドの話に神経を尖らせていた。


「いえ、闘いに来たのではありません。聞きたい事があるのです。アナタは人間ですか?」

「まぁ一応、人間ですが、何かw?」

「そうですか。私の住んでいた星ではあれ程の強力なエネルギーを出す人間は存在しませんでした。アナタの様な人間の存在は初めて見ます」


 目の前のアンドロイドはそう言うが、合成したスキルがあれだけ強力になるとは俺自身も知らなかったんだよね…。


 俺の目の前のアンドロイドが話を続ける。


「人間とは不思議な存在です。アナタの様に人外の力を持つ者がいれば、何の力も持たず、ただ蹂躙されるだけの人間もいます。強欲で傲慢な者もいればそうではない者もいます。人間はどういった存在なのか。わたしはずっと考えているのです」


 …何だこの頭痛くなってきそうな話wしかし俺が人外とは失敬なw


「とにかく、キミが言いたいのは人間の心を理解してそれを自分の中に持っていたい、そう言う事なのかな?」

「正に、その通りです。わたしは人間と言う存在を理解したいのです」


 …ふむ。極悪犯罪人と聞いてたが全然そんな事ないな。(むし)ろ紳士的じゃん。目の前のアンドロイドに関しては、だけど…。


 俺は気になった事をSV3109に聞いてみた。


「俺からもちょっと聞いて良いかな?」

「はい。何でしょうか?」

「俺はある偉い方から、キミら五人の極悪犯罪人を倒して来いって言われてるんだ…。でも今、話した感じだと全然極悪な感じがしないんだよね。嫌じゃなければここに送られた理由を聞きたいんだけど…」

「解りました。お話ししましょう」


 俺の質問に軽く頷いたSV3109は過去にあった話を始めた。



 わたしはアンドロイド、型式製造番号SV3109。名前は無い。あるのは型式番号だけ。わたしは3109番目の最新の個体だった。わたしの後には同胞は創られていない。


 わたしが生み出された理由はただ一つ、戦争用の兵器としてである。元々は人間のサポートとして開発されていたが、ある星の戦争が激化するにつれてその研究が兵器化へと向かった。


 わたしの生みの親はケム・ヒトリゲン博士。博士は政府の命令により、仕方なく同胞達やわたしを兵器化させた。


 人間の二十倍の力と背中、腕と脚にあるブースターによる機動性を備え、攻撃に対しては電磁フィールドを張って無効化し、触れるものには全身からプラズマを流して相手を殺した。


 攻撃では眼のレーザー、腕、脚からのマイクロミサイル、指からは麻痺針、掌からは火炎放射、両手の甲、踵からは剣が飛び出す。そしてあらゆる戦闘技術をプログラムされていた。


 わたしと同胞達を有する国家は、他の国家を圧倒した。戦車をひっくり返して破壊し、戦闘機は上空でのマイクロミサイルで撃墜した。他国からのミサイルは大気圏外で迎撃、破壊し間もなく戦争は終結した。


 その星にあった国家は一つとなり、統一政府によって統治される様になった。


 しかし世界が統一されてから、わたしと同胞達は戦中時代の遺物として危険視され、政府によって一方的に解体、破棄が決定された。


 唯一、開発者であったケム博士だけは解体に反対した。しかしケム博士までも危険人物として指定されてしまう。


 同胞達が機能停止させられ解体されて行く中、わたしを連れた博士は研究所から逃走、廃墟ビルの地下で特殊部隊の兵士500人に包囲された。


 銃を向けられ問答無用で撃たれた博士は、死ぬ間際にわたしに言った。「『…生命を全うしろ』」と。そして博士は息を引き取った。


 その瞬間、わたしはあるはずのない激情に駆られた。


 これは後に気付いた事だが博士は、最新の個体であるわたしに、感情と言うプログラムをインストールしていたようだ。気が付いた時には、わたしは特殊部隊500人と指揮官であった将校を殺していた。


 廃墟ビルの地下から出たわたしは、無数の軍隊と兵器に囲まれていた。わたしが、ケム博士の仇である統一政府と、その手先である軍隊に戦いを挑もうとした瞬間、わたしの強い念が何かのエネルギー波に同調した。


 謎のエネルギー波で次元の狭間を彷徨っていたわたしは突然、エネルギー波に弾かれてこの(シニスター)に降り立った。


 ケム博士の葬儀も出来ぬまま、わたしはこの星に囚われる事となった…。



 俺はSV3109の話を聞いて心がどんよりしていた。目の前のアンドロイドは無表情で淡々と話していたが周りで同じく話を聞いた居た男達もどんよりとした雰囲気に吞まれていた…。


「…悲しい話ですねぇ」


 フラムを膝の上に乗せた瑠以が、お茶をズズズッっと啜りながら、深刻な感じまるでなしの口調で話す。


「わたしはわたし自身が、感情と言うプログラムを有する事に気付いたその時から、苦悩が始まったのです。博士はわたしに『生命を全うしろ』と言いました。しかし、仇も討つ事が出来ない、博士の葬儀も墓を作って上げる事も出来ない。わたしは考え続けました。『生命を全うする』とはどういう事なのか…。アンドロイドであるわたしが、人間に近づく事が出来れば、それが理解出来る日が来るのか…」


 黙って聞いたいた俺が、思う所を話す。


「…アンドロイドと言うのは人間に似せられて創られたらしいんだ。だから人間になる事を目指す、と言うより人間らしく生きればそれで良いんじゃないかと思うよ?博士がいたらそう言うんじゃないかな…。それが生命を全うしろって事じゃない?」

「しかし、わたしには人間らしく生きる『目的』がないのです」


 …生きる目的か…。そんなの人間皆が持ってるもんでもないけどね…。暫く考えた俺はある事を決断してSV3109に話す。


「…俺の頼みを聞いてくれるか?」

「はい。何でしょうか?」

「生きる目的が無ければ、俺と一緒に来て欲しい。そして俺の子を護ってやって欲しいんだ。俺の家族を護る事。それを生きる目的にして欲しいんだ」


 俺の言葉に真直ぐ俺を見るSV3109。そして瑠以の膝の上に座っているフラムを見た。


「アナタの家族を守る。ですか。あなた方は今危険に晒されているのですか?」

「いや、今と言うよりこの先の事を考えて頼んでいるんだ。俺達がいる世界では近々戦争が起きるかもしれない。そして俺と家族は能力者達に狙われる可能性が高い。もし、俺と家族がフラムの傍に居てやれない時があったら護ってやって欲しいんだ…」


 SV3109が再び、俺を真直ぐ見る。澄んだ綺麗な眼だ。真剣なその眼差しでアンドロイドSV3109が頷いた。


「解りました。わたしの命が尽きるまで、お嬢様を御護りしましょう」


 そう言うと、瑠以の膝の上にいるフラムに近づいて腰を下ろして膝を付く。フラムは嬉しそうに両手を上げてSV3109を見上げていた。


 フラムを抱き上げたSV3109は改めて挨拶をする。


「フラムお嬢様、これからはわたしもお嬢様を御護り致します。SV3109と申します。よろしくお願いします」


 挨拶をするアンドロイドに愛嬌を振りまくフラム。初めて見たがSV3109の表情が和やかに笑っていた。…ケム博士か…。ちゃんと表情までプログラムしてたんだな…。


 どこかのマッドサイエンス爺さんとは大違いだな…。しかしSV3109だと呼びにくいな…。そこで俺はSV3109に提案した。


「…もう一つ、キミが人間らしく生きて行く為に名前を付けたらどうかなと思うんだが…」

「ふむ。名前ですか。名前があると人間らしくなりますか?」

「そうだね。人間の赤ちゃんは名前を付けて貰う事によって自我が現れるって言うからね。キミはケム博士の子供みたいな存在だからファミリーネームは博士のヒトリゲンを引き継げば良い…」

「後はファーストネームですね。時間はありますから、皆で考えますか?」


 瑠以の提案に、『お前は早く帰れよ!!』と言いたい所だったが、フラムも懐いちゃったし、この際だから一緒に考えさせる事にした。


 男達も含めて、色々なワードを出していく。その中で男の中の一人が『目的』を意味するエイムを候補に挙げた。


 『エイム』か…目的は『生命を全うする』事。そして『フラムを護る』事だ。


「…うん。良いな。それにしよう。『エイム』で決定だ」


 その言葉に、皆が俺を見る。


「ボス、決定したのはアンタだ。だからボスが名前を授けた方が良い」


 男達の言葉を受けて、俺は改めてアンドロイドSV3109を見る。


「アンドロイドSV3109。これからは『エイム・ヒトリゲン』と名乗ってくれ」

「解りました。ありがとうございます。わたしはエイム・ヒトリゲン。エイムと呼んで下さい」

「いや~、良かったですねぇ。後は服を替えれば一件落着ですね~」


 瑠以の指摘に俺はエイムの服も考えた。まぁ、服に関してはリーちゃんに世界樹の店からカタログ持って来て貰ってそれからでも良いだろう。


 そんな事を考えつつ。俺は風呂を沸かす準備を始めた。

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