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ご飯食べたい。

 配給争奪戦も終わり、夕刻。


 洞窟内で夕食を摂っていた俺達の目の前で、一人の少女が厚かましい程にご飯をおかわりしている。もしゃもしゃ必死にご飯を口に入れて、スープを飲むコイツの名前は羽中(はなか) 瑠以(るい)と言うそうだ…。


 俺達が出払っている隙に、物資を抜き取ったのはコイツだ。


 俺は明日早めにここを発って、魔人のいるエリアへと移動するつもりだった。だから少し早めの夕食にしたのだが…。


 夕食は白米を炊いた。米はシャリノアで貰ったものがアイテムボックスにかなり残っていたので、家から持って来た鍋で男達にもそれぞれ炊飯させた。


 根菜をぶつ切りにして肉と一緒に煮込み、コンソメ味のスープも作った。そしてグツグツと煮込む事、数十分。


 まだこの近くにいたのだろう。瑠以(コイツ)は匂いに釣られて現れた。最初に気付いたのはリーちゃんだった。


≪隠れてるヤツがいるよ…?≫


 俺はすぐに龍眼を発動。瑠以が『カメレオン』スキルを使って、フラムのぱりんちょをこっそり盗ろうとしたのを、腕を掴んで止めた。触るとスキルが解除される様だ。


「…オイ!!子供のおやつ、盗るなよ…?」


 俺に腕を掴まれた瑠以は、苦笑いで顔を引き攣らせていた。その後、俺は瑠以を正座させて話を聞いた。


 赤毛でポニーテール、細身で顔は細面。メガネを掛けて研究員の様なタイトな白衣を上下に着ていた。


 どうやら瑠以は勇者キラーマン、いや綺良 鋭斗のPTメンバーのようだ。この辺りの調査をして俺の痕跡を捜していたらしい。俺達が帰ってきたので、少し離れた場所で隠れていたが、空腹で匂いに釣られて侵入したという事だった。


「…今回は見逃がしてやるからすぐ帰れ。お前らのとこに転移のエキスパートがいるだろ?」


 侵入者に殺気立つ男達の中で瑠以は炊いていたご飯に目を向けてじっと凝視していた。


「…お前、ボスの話聞いてんのかッ!?見逃してやるからすぐに…」


 ご飯を凝視していた瑠以が男の声を遮る。


「…いやっ、絶対帰らない!!帰りたくないっ!!ご飯食べさせてっ!!」

「…は!?…お前なぁ…いくらご飯見てもお前にはやらないからな?そもそもお前らもここに来てるんだったら食料くらい持ってきてるだろ?」


 俺の話を聞いた瑠以が眼鏡の下、眼から涙を溢れさせて駄々を捏ね始めた。


「やだやだやだやだっ、帰りたくないっ!!ご飯が食べたいっ!!わたしはジャーキーみたいな干し肉とか堅いパンとか味のないスープとか食べたくないっ!!お願いだからご飯食べさせてっ!!ご飯が食べたいよぉぉぉ…」


 駄々を捏ねる瑠以に、男達も呆れていた。瑠以の駄々を捏ねる姿を見てフラムとリーちゃんがケラケラと笑っていた。


(…しょうがねぇヤツだな…)


 俺は男達を見る。


「…俺にもコイツくらいの娘がいるんだ。仕方ねぇ少しづつ分けてやるよ」


 男達の言葉に飛び起きた瑠以は今度は目をキラキラさせて正座して待っていた…。


 …で結局、スープも分けてやると調子に乗っておかわりし始めたのだ。厚かましいにも程がある。しかしまた、駄々を捏ねられてもめんどくさいので今回だけ、好きなだけ食べさせてやる事にした…。


◇ 


 鋭斗はかなり走っていたが、まだまだ目的地は見えなかった。最北端までどれだけの距離があり、走ってどこまで進んでいるのか、本人が解っていないのだから楽観的にも程があった。


 もう既に辺りは暗い。今日はここまでにして、(かなめ)に頼んで一度ベースキャンプに転移で呼び戻して貰うか…。


 要の転移スキルはメンバーをそれぞれ転移させるだけでなく、集結させる事も出来た。更にその能力は細かく、メンバーが転移してそこから移動した位置も追跡が出来る。


 つまり要に頼めば今、鋭斗が大陸のどの辺りにいるのかが解る。隗はアンドロイドと闘っていると言っていた。明日にでも改めてそこに直に転移させてもらった方が良さそうだな…。


 そんな事を考えていると、人を担いだ何者かが猛烈なスピードで通り過ぎた。その瞬間、鋭斗の眼に隗が腰からぶら下げているスレッジハンマーが眼に入った。


「…あれはッ!!隗かッ!?担いでいるのは…誰なんだ…?」


 すぐにスキル『瞬脚』で追い掛けようとしたが、鋭斗の小さな呟きを聞き取ったその者がピタッと動きを止めた。そして隗を担いだまま、鋭斗に近づいてくる。


「こんばんは、わたしはSV3109です。先程、業田(ごうだ)さんの名前を呼んでいたのはアナタですか?」

「…ぁ、あぁ、そうだが…キミはアンドロイドなのか?」

「そうです。わたしはアンドロイドです。アナタは?」

「僕はキラーマン。勇者キラーマンと呼んでくれ。(かい)は僕のPTメンバーなんだ」

「そうですか。業田さんはキラーマンのPTメンバー。記憶しました」

「…それで隗は…気絶してるのか?」

「はい。ここに至るまでの経緯がありますが説明した方がよろしいですか?」

「あぁ、頼むよ…」


 辺りが薄暗くなる中、隗と闘った事、一対一で闘う際の隗の動きについてなどを話した後、大陸中央の強い光の調査へ向かう為に、高度五十メートル上昇した所で隗が気絶した事を話すSV3109。


「…そうか、隗は一対一の戦い向きじゃないんだ。本人はそれを気にしていてね。色々な人に戦いを挑んでいるんだけどさっぱりなんだよ…。戦場で敵が密集していると強いんだけどね…」

「はい。わたしもキラーマンと同じ見解です。業田さんのスキルの破壊力は凄いです。しかし当たらなければ意味がありません」

「…そうなんだよ。それでも本人はそれしか使えないからって『旋回遠心打』を使ってばかりなんたよ…」

「業田さんが一対一で相手に勝つには、スキルの幅を拡げる事が有効かと考えます。スキルの幅を拡げる方法は…」

「ちょっ、ちょっと待って…スキルの幅を拡げるって…。スキルは発現したらそのままじゃないのか…?」


 SV3109の意外な言葉に、鋭斗が食い付く。


「わたしのいた星では、修練によってスキルを成長させる人間がいました。それは魔素の影響が考えられます」

「…魔素の影響で…スキルが変化する事があるのか…」


 鋭斗が呟いていると突然、要から密談が入る。


≪…とくん、鋭斗くん?聞こえてる?そろそろベースキャンプに皆を招集するけど良いよね?≫

≪…ぁ、あぁ、解った。もう少しだけ待ってくれ。今アンドロロイドと話をしてるんだ≫

≪…もう最北端に付いたの?早過ぎじゃない?≫

≪いや、ちょっと事情があってね。アンドロイドが隗を担いで南に来てたんだよ。強い光を調査したいってさ…≫

≪ふーん。で隗は何で担がれてるの?≫

≪その辺りは戻ってから話すよ。取り敢えずもう少し待っててくれ≫

≪解った。それじゃ煉と瑠以だけ先に呼び戻しとくね。あの二人はお腹空くと機嫌悪くなるから…≫

≪…ぁ、あぁ。そうしてくれ。先に食べてても良いよ…≫


 そして密談を切った鋭斗は、改めてSV3109と話を続ける。


「…済まない。『密談』が入ってね。そのスキルの話の続きも聞きたいんだけど、僕から一つ確認したい事があるんだ」

「はい、何でしょう?」

「キミの所に、アンソニー・ホワイトっていう人が会いに来なかったか?」

「アンソニー・ホワイト。昨日、このシニスターへと送られてきた第一級指定犯罪者。わたしはまだ会っていません」

「…そうか。どこが別のルートを移動しているのか…」


 考え込む鋭斗にSV3109が確認する。


「わたしは引き続き大陸中央へ向かいますがキラーマンはどうしますか?」

「あぁ、僕達は一度ベースキャンプに戻るよ。お腹も空いたしね。隗の事、ありがとう、恩に着るよ」

「はい。それではわたしは行きます」


 そう言うと背中と脚からブースターを出して上昇するSV3109。それを見た鋭斗は隗と同じ事を考えた。


「…アレ、アンドロイドかな?サイボーグっぽい気がするけど…」


 そう言いながら隗を担ぎ上げた鋭斗は、要に密談を繋ぐと転移でベースキャンプに呼び戻して貰った。



 瑠以(るい)はフラムに貰ったお菓子、ぱりんちょを食べつつ、スズズっとお茶を啜る。そして何も聞いていないのに勝手に話し始めた。


「…帝国では今、倹約令が出ていましてね。まぁ、それまでも大した食事は無かったんですけど最近になってさらにひどくなりまして…」


 近々戦争起こす気だろうからな…。ウィルザー、伯爵、そして禅爺がその可能性について晩餐会で話していたから、恐らく物資を前線に送っているんだろう…。


「それはわたし達、召喚者であっても例外ではなく優遇されないんですよ。召喚された頃は、能力者だって祭り上げてた癖にですよ?正直、今まで碌なモノ食べてないんです」

「そんな事言っても敵同士なんだから同情はしないけどな」


 俺の言葉に、お菓子をパリパリ食べながら瑠以が言う。


「いや、まだ敵じゃないですよ。鋭斗くんとアナタが闘ったら敵になりますが今はまだ敵じゃないです」

「ここでの話じゃない!!お前イシュニア帝国所属だろ?俺はエニルディン王国所属なんだよ!!だから敵だろうがッ!?」

「…エニルディン王国の人ですか…」


 そう言って瑠以は考える。


「ところでアナタは誰なんですか?」

「…はw?お前、知っててここにいるんじゃなかったのかよ?」

「…いや、全然。そもそも行かないって言ったのにPTなんだからとかいう理由で連れて来られて、この辺り調べろって言うから…」


 …頭痛くなってきた…。コイツら大丈夫か…?


「…つまりお前は何も知らないのに連れて来られてここらを調べてたって事か?」

「そうです」

「そう言うのを無駄骨って言うの知ってるか?そもそも目的聞かないで何探ってたんだよ?」


 俺の言葉に暫く沈黙した後、瑠以がポッと頬を染める。


「…いや、それは…言えませんよぉ…」


 …何なんだ、この反応はw?俺の予想だと調査をほったらかしにして食料を探っていたのではないか?と考えたが、この目の前の女が俺の想像の斜め上を行っていたなど思いもしなかった。


 地面を転げ回って駄々を捏ね、ご飯とスープを無心にもしゃもしゃと平らげた瑠以が面白かったのか、フラムは重ねた座布団から後ろ向きで下りると瑠以の傍へ寄って行く。


 鞄を開けて幸せターンを取り出して一つ上げた。


「…これはッ!!まさか…あの幸せターン!?」

「あぅっ。あぅあ~(うん。あげる)」

「…これ、くれるのね?フフフっ、やったーっ!!」


 瑠以は、フラムから幸せターンを貰って喜んでいたが、それをどこからどうやって持ち込んだかは疑問に思わないのかw?


 お菓子を貰ったのが嬉しかったのか、瑠以は爬虫類の物まねをしたり、消えたり現れたりして見せる。喜ぶフラムを見て瑠以は更に細かい爬虫類の動きを見せていた。


 そんな和やか?な雰囲気の中、真っ暗な夜空を飛んできた何者かが突然、洞窟の入り口に降り立った。

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