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苦悩。

 わたしは天樂(てんがく) (かなめ)。帝国に所属する勇者キラーマン…というか綺良(きら) 鋭斗(えいと)PT(パーティ)メンバーだ。わたしは追跡転移スキルとPTの皆を密談でラインの様に繋げる『移身伝心』というスキルを持っている。


 攻撃スキルはない。わたしの役目は目的地にメンバーを転移させる事、そして活動地域で皆の連携を計るために密談を繋げる事だけ。


 今回、こんな辺境の(シニスター)に来たのは屋敷に戻ってきた鋭斗くんが、またおかしな事を言い出したからだ。


 わたし達はクラスごと召喚された。バスの運転手の居眠りによって崖から落ちて崖下に激突寸前にこの世界に召喚された。


 そもそもわたしは異世界召喚がどういうモノなのか良く知らない。


 けど一部のアホ…いや、良く知っている人達は歓喜していた…。ついに異世界召喚されたと…。しかしその後はオレワタシヒャッハーなどの理想的な展開などなく、まずは振るいに掛けられ、使える者、使えない者と選別された。


 今生き残っているのは、奴隷になった人を含めてクラスの半分、十五人程だ。後は死んだ。


 この世界に来て能力が発現したかどうか、そしてその能力が使えるかどうかが運命の分かれ道になった…。


 今、一緒にいるのは仲の良かったメンバーだ。部活終わりにご飯食べに行ったり、ボーリング行ったり、それまでは普通の学生生活を送っていたのだ…。


 それが異世界召喚に巻き込まれて以降、変わってしまった。それでも召喚されたばかりの頃はまだ良かった。


 能力や適性検査、それから続く能力を伸ばしていく訓練。ここまでは部活の延長のような感覚でやってたんだと思う。皆がおかしくなってきたのは実践訓練として帝国各地にあるダンジョン探索を始めてからだった。


 訓練と違い、常に死と隣り合わせ。少しでも判断を誤ればそれは即、死ぬ事を意味した。モンスター、トラップ、そしてダンジョン特有の気候変動。


 しかし最も困ったのはこのメンバーならではの連携の無さだった…。よくもまぁこんなに勝手なメンバーだったんだなと、この状況においてようやく解った。


 訓練でやった事なんかク〇くらえと言う感じで皆好き勝手に動くのだ。まずいつも最初に飛び出すのが(れん)だ。


 勇木(ゆうき) (れん)。青色に染めたショートヘアで、細身の中背ながら、燃えるハンドボール部員だった煉は、誰よりも早く動き、誰よりも高く跳んだ。


 ハンドボールを相手コートに打ち込むが如く火炎魔法を投げ付け、更にガントレットで対象を殴る事で、相手を発火させる『ブレイバーフレイム』スキルを持つ魔法拳士だ。


 いずれも火炎効果しか出せないのに洞窟型ダンジョン内で乱発するから困った。煉はそんなにバカじゃないと思っていたのに、この世界に来てバカが発覚した。


 それに輪を掛けてバカなのが(かい)だ。


 業田(ごうだ) (かい)。アイスホッケー部で元々、体格の良かった隗は力も体力もあった。逆に言うならそれしかなかった。


 煉と同じく真っ先に突っ込み、ホッケーのスティックをスレッジハンマーに持ち替え、所構わずブン回す。それによってスキル『遠心旋回打』を発現させたがこれがまた問題スキルだった…。


 縦横高速回転を使い分け、縦横無尽に飛び回っては破壊する。威力は凄まじいものがあったが、その回転はスキルが停止するまで止まらない。隗のせいで洞窟型ダンジョンで危うく全員生き埋めになる所だった。


 まぁ、わたしは転移スキルで出られたけどね…。


 羽中(はなか) 瑠以(るい)。コイツについては変態少女と言うより他に言葉が見つからない。攻撃スキルは持っていないが、姿を周りに同化させる『カメレオン』スキルを持っていた。


 女子には珍しい?爬虫類好きのオタクでそれが高じてスキルを発現させたようだ。鑑定スキルも持っており、瑠以の『鑑定+4』を使えば大体の事は解った。


 瑠以(コイツ)の困った所はその性癖にあった…。スキルを使って男女問わず、騎士団宿舎に出入りしてその着替えを覗き見したり、下着を盗んで来たりとやりたい放題していた…。


 そして最後に、この勇者PTのリーダーである綺良(きら) 鋭斗(えいと)

クラスでも優等生で背も高く、顔も整っているのだが問題はその『坊っちゃん脳』にあった。


 家が金持ちだったせいなのか、とにかく人が良く楽観的過ぎた。世間知らずともいうだろう。人の話を最後まで良く聞かず、思い立ったら即行動。


 巻き込まれる事、数知れず…。そして今回も博士の話を最後まで良く聞いていなかったのだろう。こんな銀河の辺境の星にまで来て、人相や特徴を聞かずにどうやって人を探すのよ!!


 しかしこのメンバーでメチャクチャながらも帝国内のダンジョンを幾つも踏破し、リーダーの鋭斗くんは勇者称号を授けられた。


 これがまた鋭斗くんや、煉そして隗を調子に乗らせたのは言うまでもない。


 …ホント、思い出すだけで頭が痛くなる。しかし、博士に遠距離密談を繋いで人相や特徴を聞いておかないといつまで経っても屋敷に戻れない。


 わたしは仕方なく、『移身伝心』スキルでジード博士に遠距離密談を試みた。



 俺達は、配給争奪戦で五個中、四個奪取して意気揚々とアジトである洞窟に戻ってきた。リーちゃんが転移を使って安全に運んでくれたので、その辺りの労力もなかった。


 後から気付いたがあの時、物資をキャッチしてすぐにアイテムボックスに放り込んでおけば五個全部安全に取れてたんだよな…。

 

 今更だけど…。


 取り敢えず俺が『謎スキル』で運んだ事にしておいたが、転移で家に戻ったり、アイテムボックスから色々と出して見せたりしているので、その事について突っ込むヤツはいなかった。


「しかしボスがあんなに凄いとは思わなかったな。あの雷撃の球体、ボナシス姐さんの爆発なんか比にならねぇよな?」

「あぁ、あの狂暴なラミア族のアスモアを一瞬で黒焦げにしたからな…」


 そんな事を話しつつ、俺達がゾロゾロと洞窟内に入ると、何か得体の知れない違和感を感じた。先頭を歩いていた俺が、男達に止まる様に手で合図する。


「…ボス、どうしたんだ…?」


 俺は洞窟内をゆっくりと見渡す。大きく荒らされてはいないが何か物を動かしている形跡が見えた。こういう世界なので生活スペースに置いていた物は全てアイテムボックスに回収してから出掛けている。


 …人の気配は感じられない…。既に別の場所に移動したのか…。


「…スマン、気のせいだったわ。何かが隠れてるかと警戒したんだが…」


 そう言いつつ、洞窟内に戻った俺達は、まず物資が無事か確認した。四個中の一個が開かれて中の物を抜き取られていた。


「…ボス、どうやらアンタの勘、当たってたな…」

「…だな。俺達のいない間に、ネズミが入り込んでたようだ…」


 この後、夕食時になって俺達はその大きなネズミの正体を知る事となる。取り敢えず、配給争奪戦も終わったので、手に入れた物資を分ける事にした。


「俺とフラムは大丈夫だから、物資は全部お前らで分けろ。皆で勝ち取ったんだから不公平の無いようにしろよ?」


 そう言うと男達は声を上げて喜んだ。男達が物資を配分している間に、俺はアイテムボックスから諸々を取り出して再び、生活スペースを作っていく。


 台座にレジャーシートとクッションを敷いてその上にフラムを座らせて待ってもらう。フラムはリーちゃんと一緒にちょこんと座って、幸せターンを数個取り出し、カリカリ食べていた。



 その頃、シニスター大陸最北端ではアンドロイドSV3109と業田(ごうだ) (かい)が闘っていた。


 激しく回転するスレッジハンマーがSV3109を襲う。しかし隗が思っているよりもはるかに目の前のアンドロイドは戦闘慣れしていた。


 隗の知識で考える限り、アンドロイドはロボットの延長線上にあるモノであり、思考してから行動するまで、必ず間があると考えていた。


 しかし脚全体にブースターを付けていたSV3109は素早く攻撃を避けつつ、離れた位置から腕に収納されているマイクロミサイルを発射、指先から無数の麻痺針を飛ばし、掌からは火炎放射、眼からビームを放つ。


 回転し、跳んでくる隗の攻撃を、脚と背中のブースターを調整して避け、果てには、隗の回転攻撃の終わりに、腕をロケットパンチの様に飛ばして攻撃した。


 全く以って一方的な戦闘だった…。


「…クソッ、全然当たらねぇ…。ホントにアンドロイドかよ?サイボーグみたいな気がして来たぞ…」


 隗のダウンジャケットは、SV3109の攻撃によってボロボロだった。革パンツも同様である。そして身体中が腫れて血が滲み、切り傷から血が流れていた。


 動きが速い上に、兵器と暗器まで備えている。


「…甘く見過ぎてたか…ただの殺人ロボだと思ってたが…どうすればいい、勝つには、どうすれば…」


 傷だらけで呟く隗の言葉に、SV3109が反応する。


「業田さん、闘いを続けますか?今のままではアナタが勝つ確率はゼロです」

「…ハッキリ言ってくれるんだな…」

「わたしの、分析結果です。業田さん、アナタには無駄な動きが多いです。そしてわたしの動きを見てから攻撃を仕掛けていません。やみくもに突っ込んでもわたしは動かない人形ではないのでアナタの攻撃は当たりません」


 ハッキリと言うSV3109の言葉に目を丸くする隗。隗は思い切って聞いてみた。


「俺が…俺がアンタに勝つ方法があるとするなら、どうすれば勝てる?」

「アナタがわたしに勝つには、必殺の攻撃をタイミングを見て放つ必要があります。その為には対象の動きをよく見なければなりません。業田さんの攻撃は敵兵が密集した場所であれば効率よく虐殺出来ます。しかし一対一の場合は観察と判断力が決め手となります。わたしの動きを把握するには…」


 そこまで行ったところで、隗は手でそれを制した。


「…解った。もう良いよ。もう良い、俺の負けだ…」

「了解。戦闘は終了。わたしは先程の強いエネルギーの調査に行きますが、業田さんはどうしますか?」

「…付いて行っても良いか?その間にアンタに聞きたい事があるんだ」

「はい。では一緒に大陸中央部の平野へ行きましょう」


 そう言うとSV3109は業田を担ぎ上げる。


「…ちょッ、おッ、オイッ、これだと話しづらいだろッ…」


 アルゼンチンバックブリーカーの状態で隗が叫ぶ。


「ではどうしましょうか?」

「一度下ろして肩を貸してくれ…」

「了解しました」


 バックブリーカーの体勢から隗を下ろしたSV3109が隗の腕を取り肩を貸す。


「では参りましょう」


 そう言うと脚のブースターと背中のブースターを起動させ、一気に上空五十メートルまで上がった所で隗は下を見て気絶した。


「業田さん?どうされましたか?反応なし。高所恐怖症と思われる。一旦下降。低空で移動開始」


 気絶した隗を肩で担いだまま、高度二メートル程を保ちつつ、SV3109は南に向かって移動を始めた。



 鋭斗は、北へと走りつつ焦っていた。大陸の中央までは要の転移スキルによって移動したので、この陸地がどれほど大きいのか解っていなかった。


 進めど進めど、大小の岩山があるばかりで、目的地に近づいているのか解らなかった。鋭斗は海の上に陸が一つだけあると聞いていたので、大きな島レベルだと考えていた。


 だからまともな食料も飲み物も持って来ていなかった。要のいるベースキャンプに戻らないと食べるものも飲むものもない。


 ベースキャンプはこの星に降り立った時に、一番南の人がいない隠れた場所に設営して来た。


 鋭斗は走りながら考える。どうするか?一度ベースキャンプに戻って来るか?既に辺りは薄暗くなり、夕方から夜へと移り変わりつつある。


 この星の夜の気候も良く解っていない。今、走っていて肌寒いくらいだから夜はかなり冷え込む可能性がある。しかし、考え込んでいた鋭斗は、持ち前の楽観脳でシンプルな答えを導き出した。


 走れるところまで走ろう。それでアンドロイドのいる最北端に到着出来なければ、全員ベースキャンプまで要に転移で呼び戻して貰えば良い。


 そうと決まれば、後は走るだけだ。鋭斗は北へとひたすら走った。



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