快適!?監獄生活始まる。
俺が一度家に戻ってきたと話すと、男達は驚いて唖然としていた。
「…ボ、ボス…アンタ、ここに流された時に転移スキルを消されなかったのか…?」
「あぁ、俺の転移スキルは偉い人に止められてるから今は使えない。だから、この子のスキルを借りたんだよ」
俺は抱っこしたフラムを見せつつ説明した。
「…そう言えば転移スキルで付いて来たって言ってたな…ていうかスキルを借りるって…どうやったんだ…」
そんな男達の前で俺は持って来たモノを片っ端から出していく。空中からどんどんモノを出す俺に、男達は唖然としていた。
「食料分けてやるから、お前らも少し手伝えよ…」
俺は男達に手頃な石を拾ってくるように指示する。
「…ぁ、あぁ、解ったよ。石を集めてくりゃ良いんだな…?」
俺の言葉に戸惑いながらも、男達は石を拾いに散って行った。俺達はその間に簡易な生活スペースの設営をする。
生鮮食料、飲み物は食事のその都度リーちゃんに出して貰う事にして、まずは幸せターン三袋とフルーツ牛乳三本を出して貰い、フラムの鞄に入れておく。
台座のようになった石の上に、小さいレジャーシートとクッションを敷いてフラムをそこに座らせた。
「フラム、ちょっとねんねする所、作るからそこで座って待っててな…」
「あぅっ」
俺の言葉にフラムが元気よく答える。さっそく幸せターンを出して齧りながら俺とリーちゃんが生活スペースを作るのを見ていた。
まずは洞窟内に散らばった小さな石を、旋風掌で片っ端から飛ばして行く。平らな場所を作って、そこに丈夫なレジャーシートを数枚重ねる。
そして、その上に絨毯を敷いてソファーベッドを置いた。空いたスペースに食事用の卓袱台を置く。かなり簡素ではあるが、これで生活スペースは完成だ。
次に風呂の設置だが、男達が石を拾って戻ってこないと出来ないので、取り敢えず卓袱台を囲んで朝食を摂る事にした。
色々あって、まだ食べていなかったからな…。まずはフラムの分を用意してやる。持って来た座布団を三枚重ねて、そこにフラムを座らせた。
持って来た鍋にミネラルウォーターを入れて、鍋の下からメルトフィーバーをごく弱い加減で使い加熱する。すぐに沸騰したので、お椀にインスタントの味噌汁を入れて混ぜる。
「まだ熱いから、少し待っててな」
そうフラムに言い聞かせて、味噌汁が少し冷めるまでの間に、バターロールパンを三個、皿に乗せてフラムの前に置いてやる。
米はすぐには炊けないので、夕食からにして今はすぐに食べられるパンにしておいた。後は飲むヨーグルト、チーズ、赤ちゃん納豆を出して食べさせる。
パン以外は大体、毎朝と同じメニューだ。フラムは好き嫌いが無く、何でも食べてくれるのでとても助かる。時折、俺を見てにこにこしながら、スプーンとフォークを使って、元気良くもぐもぐと食べるフラム。
俺も同じメニューで食べるその傍で、リーちゃんは早速プリンの容器に頭を突っ込んで思う存分食べていたw
俺達が朝食を終り掛けた頃、漸く男達が戻ってくる。
「おぅ、ご苦労さん。パン配るから石は適当にそこら辺りに置いてこっちに並んでくれ」
「…あぁ、わかっ…アレ?え?ええェェェーッ…!!どッ、どうなってんだッ!!こりゃあッ…」
男達は様変わりした洞窟内を見て驚いて声を上げた。俺達が生活スペースを作って朝飯食ってるのを見て驚いてた。
「…パ、パンに…それは…スープか?」
「あぁ、まぁスープみたいなもんだな。これは好き嫌いありそうだから、今日は取り敢えずパンだけな…」
そう言うと男達は慌てて石を置いて俺の前に並ぶ。
「お前ら、フラムに感謝しろよ?この子がいなかったらこの世界でこんな良いモン食えないからな?」
「…あぁ、解った…ありがとうな…」
男達は一人づつ、元気よく食べるフラムに頭を下げて、俺が配るパンを持って座る。
「…パ、パン…何年振りだろう…。凄く柔らかいし…しかもバターが練り込んである…!!」
男達はバターロールパンを齧って涙を流さんばかりに感動していた。
朝食が終わってから、俺は男達が持って来た石を円形に拡げて並べていく。フラムは午前のお昼寝タイムでソファーベッドの上で毛布を掛けて、すやすやと寝ていた。
その横でリーちゃんも寝ていた…。
俺は男達に石をCの形状で一部分だけを空けて石を置くように指示する。広く浅い噴火口のように石を積んでその真ん中に、釜風呂の釜を乗せた。
大人二人が入る事が出来る鉄製のデカい釜を、俺が軽々と持ち上げるのを見て、男達は顔を引き攣らせていた。俺はそれをスルーして、続いて釜の周りに石を積んで固定する様に指示をする。
最後に釜風呂の中に底板を嵌め込んで釜風呂が完成した。一か所だけ開けておいたのは、全体を石で囲むと、熱した時に石が熱くて風呂に上がれないからだw
その開けた一部分には家から持って来た脚立を設置した。これでこの世界でも風呂に入れるようになった。
それぞれが一生懸命やったおかげで、午前中のうちに風呂を作る事が出来た。
「お前ら良くやった。そろそろ昼飯でも食うか…」
時間は既に昼を少し過ぎていた。フラムとリーちゃんは昼寝から起きていて、俺達の作業を見ながら、二人でぱりんちょを齧っていた。
まずはフラムの昼食を用意する。座布団の上にちょこんと座らせて待ってもらう。皿を出して食パン二枚とハム二枚、器にきゅうりとキャベツを刻んで盛り付けトマトを添えた。
ドレッシングはイタリアンだ。飲み物は朝と同じく飲むヨーグルト。食後のデザートにカップケーキを用意した。それを羨ましそうに見る男達に、食パンとハムを配る。そして俺も卓袱台で昼食を始めた。
パンとハムを食べながら明日ある配給争奪戦について男達が話を始める。
「…ボス。明日なんだが配給があるんだ。監視衛星基地からシャトルが来て落としていくんだが各勢力で争奪戦になる。作戦を考えて欲しいんだが…」
「あぁ、解った。作戦は考えておく。まずは各勢力…と言うか後四人のボスについて教えてくれ…」
男達は頷いて各勢力について説明を始めた。この大陸はペンタグラムのような形をしていて、大陸の中央に広い荒野があるそうだ。そこに監視衛星基地からのシャトルが食料品や日用品を落としていくらしい。
中央から見て、俺達がいるエリアは南西だ。南東には『傲慢な獅子獣人』ラス・プライドが仕切るエリア。北西に魔族と人間のハーフで『怠惰の魔人』スロウ・ベルアゴルが、最北に人間になる事を夢見る『憂鬱のアンドロイドSV3109』がいる。北東に『色欲の半蛇人』のアスモア・バニティが仕切るエリアがあるそうだ。
獣人ライ〇ン丸に、めんどくさがりな魔人、人間になりたいって妖〇人間みたいな事言ってるアンドロイドと、後はヘビ子さんか…。
しかし男達によると魔人とアンドロイドは争奪戦には参加しないようだ。別に食べなくてもヤツらは生きていけるんだと教えてくれた。そしてその二人はほぼ単独行動の様だ。
という事で、毎週集まってくるのはラ〇オン丸にヘビ子、そしてボナシスだったそうだ。
「ボナシスはいつもどうしてたんだ?」
俺が聞くと、男達は苦い顔で話してくれた。どうやら所かまわず爆発させて敵が近づけないようにしていたようだ。その隙に、男達が拾い集める作戦だったが、敵も味方も物資でさえも構わず爆破するので危険だったそうだ。
配給は本来、各エリアごとに用意されていて、それを荒野で拾って持ち帰ると言うルールだったが、いつからか他のエリアの物資を奪い合うようになったらしい…。
どこの世界も発端になる強欲なヤツがいるもんなんだな…。話を来いた後、俺は男達と作戦を練った。
◇
翌日。俺達が到着すると荒野に血の臭いが流れていた。俺は東に陣取っていた体長二メートル半はありそうな、ゴツイ筋肉の塊のような獅子獣人を確認する。
…アレがラス・プライドか…。そしてその前にいるのは…ヘビ子じゃないな…。ライオ〇丸は身体の細い黒い短髪のスマイルの仮面を被った男と向かい合っていた。
「…て、テメェ…何者だッ!?」
「僕の事かい?僕は勇者称号を持つただの人間だよ?そうだな…キラーマンと呼んでくれ。勇者キラーマンだ!!」
俺は離れた場所からその会話を聞いていたが、勇者なのにキラーマンって…ネーミング的にどうなんだ?と思った。
スマイル仮面は獣人ライ〇ン丸と比べると、身体が細い優男だ。しかも声がかなり若い。恐らく十代後半から二十代前半辺りだろう。勇者と言う割に装備は付けておらず、上は白のカッターシャツ、下は黒のスラックスとかなり簡素な格好だった。
俺は後ろから付いて来ていた男達に確認する。
「あのスマイルの仮面被ったヤツが魔人か?」
「…いや、アイツは知らねぇ。見た事ないヤツだ…」
…ふむ。魔人ではないのか。と言うかさっき勇者だって言ってたな…。どうやってこの星に来たんだ?
俺は『バードアイ』を使ってスマイル仮面を見る。そこから血の臭いを辿って後方を見ると、血の臭いを発していた肉片の山があった…。
そしてアスモアと言うヘビ子の姿が見えない。
「…テメェッ!!アスモアはどうしたッ!?」
「フフ、こんなヤツらが凶悪犯罪者か。この程度の実力で『殺し』を語るなんて笑っちゃうよ。ラミアとゴミ人間達ならキミがここに来る前に『削った』んだよ…」
どうやら半蛇人のアスモアは俺達の到着前にスマイル仮面に殺されたようだな…。しかもその勢力下の者達も全滅させられたのか…。あれは細切れにされたアスモア達の肉片の山だったのか…。
あれだけ細切れの肉片が山になってたら、そりゃあ血の臭いがこっちまで来るわな…。しかしどうやったらラミアや人間があんなに細切れの肉片になるんだ…?キラーマンのスキルか魔法なのか…?
「コイツら、僕の能力に気付かないで向かってくるからなぁ。無知って怖いね。ところでライオンくん、キミはどうする?掛かって来ないの?」
スマイル仮面の挑発に、ライ〇ン丸…いや、ラスは慎重にキラーマンの様子を窺う。数百人はいたと思われる配下の肉片の山とボスであるアスモアがあっさりと細切れにされているのを見たら、迂闊には動けないだろうな…。
俺がそんな事を考えているとラスが俺達に気付いた。
「…チッ!!今日は知らねぇヤツがやたらと来るな…。オイッ!!そっちのお前は誰だッ!?」
「あぁ、俺は昨日ここに来たばかりの期待の新人ですが何かw?」
「…ボナシスはどうした?今回は来ないのか…?」
ラスの言葉を訂正しつつ俺はその質問に答えた。
「…来ない。じゃなくて正確には『来れない』が正解だな。昨日、俺が力のコントロールを誤っちゃってね…」
「…まさか…冗談だろ…?」
「いや、冗談じゃない。ボナシスに代わって今は俺がエリアのボスをやってるんだ」
俺の言葉に顔を強張らせるラス。ネコ科の動物って表情筋少なかったような気がするんだがwそんな遣り取りの中、スマイル仮面…いや、勇者キラーマンが俺達の会話に割って入ってきた。




