体質変化のち、雷人間。
俺が惑星の状況を確認していると突然、籠手が赤く光り、頭の中に警告音が響いた。インフォメーションと共に、雷属性の全スキルが赤く点滅していた。
…これは…もしかして神様の『神雷』を二回も受けてしまったからなのか?もしかしてあの時、雷のエネルギーを籠手が吸収していたのか…?
良く解らなかったが、とにかく籠手が壊れるのはマズイ。俺は急いで籠手のスキル欄から、自分のスキル欄に雷属性のスキルを全て移動させた。
すると警告アラームが止まり、赤く熱を帯びていた籠手の光も収まった。
ふぅ、やれやれだな…。そう思いつつ、自分のスキル欄を見る。『雷耐性』、『帯電体質』、『流電体質』とスキルが増えていた。
そうだ。神様の天罰を受けた時に、インフォが流れてたな…。あの時は確認する余裕もなかったが、神雷を受けた事によって新たにスキルが発現したんだったな。
俺はスキル説明文を読んでみる。
『雷耐性』雷に関するすべての攻撃に対する耐性。軽減してくれる。
『帯電体質』常に周りから高圧電力を集める。許容いっぱいになると止まる。放出すると再び、高圧電力を集め始める。
『流電体質』高圧電力が許容範囲を超えると少しづつ、体外へと放出する。体内を巡らせて一部位から放出も可能。
…となっている。どうやら神様の天罰によって俺はびっくり電気人間になってしまったようだ…。
ついでにフラムのスキル欄も視ると、既にこの三つのスキルがリンクして半透明で登録されていた。
俺がスキルを視ていると、「あぅあぅ」とフラムが俺を呼ぶ。フラムは幸せターンを齧っていたが、どうやら最後の一個の様だ。
鞄の中に「もうない」と、仕草でアピールしている。
リーちゃんから持って来て貰ったヤツは全部食べ切ってしまったようだ。フルーツ牛乳も空になっていた。…どうするかな。俺は自分のアイテムボックスを探る。あるのは俺が好きな「ぱりんちょ」大袋が一つだけか…。
俺は、ぱりんちょを出してフラムに小袋三つ渡す。
「フラム、おやつをどうするか考えるから、その間ぱりんちょ食べててくれるか?」
「あぅ。あぅぁ~、あぅ、あぅ(うん、フラム、それも、すき)」
そう言って一つだけ手に持って、後は鞄にしまい込む。おやつもそうだが、まずは食料をどうするか考えないとだよな…。
後は風呂と寝床だな…。この荒涼とした星にそんなのあるかな…?そんな事を考えていると、リーちゃんが現れた。
「やっほー、わたしも来たよ~」
リーちゃんの登場に、フラムがぱりんちょを食べながらキャッキャッと喜ぶ。
「リーちゃん、来てくれたのか。今、困ってたんだよ。フラムのおやつもそうだけど、食料とか飲み物とか風呂とか諸々、どうしようかなって…」
「悪いけど、その辺りは自分で何とかして。わたしが来たのは神様からナビゲートを頼まれたからなのよ。二人だけだと迷子になるかもだしね」
…そうか。そんな都合よく行かんわな…。取り敢えずリーちゃんにこの星の事を聞いてからどうするか考えるか…。
と、いう事で俺達は、リーちゃんにこの星、監獄惑星シニスターについて歩きながら話を聞いた。
『惑星シニスター』は不吉を意味する惑星だそうだ。過去に超文明が栄えていたが、大量破壊兵器によってお互いを殺し合い、都市諸共、全生命体が死滅した。
その大量破壊兵器の影響で、星の氷が解けて水位が上がり、今では大陸が一つ残るのみ。そんな荒涼とした大地を監獄として使用する事を全宇宙連邦が決定したのはかなりの昔の様だ。
以降ここに送られてくるのは犯罪人のみ。派遣されてくる看守だけでは統制出来ない為、星の上の監視衛星基地から犯罪者が逃亡しない様に監視するだけで、犯罪人達は地上で勝手にさせてるらしい…。
争いを繰り返すうちに、犯罪者の中でヒエラルキーが出来上がったようだ。その中でも、五人のボスが凌ぎを削って勢力争いをしているという。
「…ふーん。取り敢えずそいつら見つけてヒャッハーするしかないか…」
「そうね。取り敢えず今の場所が爆破犯が仕切る領域だから、まずそこから攻略かな~」
そんな事を話しつつ、岩場の崖上から降りていると、数人の汚い恰好をした如何にもなヤツらが、俺達の前を塞いだ。
◇
さて、五大凶悪犯の一人、ボンバー〇ンを探しに行くか…。しかし探すと言う程の事もなく、如何にもな小汚い男達が五人、俺達の前を塞いだ。
「…おぅ、出迎えご苦労さん。捜す手間が省けたわ!!」
俺の挨拶に、男達が顔を顰める。
「そりゃ、こっちのセリフだ新入り。良く聞け。ここら一帯はボナシス姐さんが仕切ってる場所だ。お前は今日から姐さんの配下だからな?」
「姐さん?爆発大好き凶悪犯って女だったのか…?」
「女だと思って甘く見てると痛い目に合うぜ?気を付けるんだな…」
…ボンバー〇ンじゃなくてボンバー〇ールだったのか…いや、年齢によってはボンバーウー〇ンかもしれんな…。
「…付いて来い!!姐さんに会わせる。新入りを連れて来いって言われてるんだ」
「新しく入ってくるって連絡でもあるのか?」
歩きながら、男が上空を指差しながら答える。
「…あぁ、毎回監視衛星から大陸に情報が流れるんだ。新入りは能力者なら仲間にするか、ダメなら殺す。能力なしは雑用とか小間使いだな…」
「ふーん。ところでもう一つ、聞いても良いか?」
「あぁ、いいぜ?」
「ここに食料とか飲み物、あと出来れば風呂、快適に過ごせる場所とかあるか?」
俺の質問に溜息を吐く男達。
「そんなの見れば解るだろう?食料は週一の配給、後は自給自足か奪い合いだ。良いモノ食えるなんて思うなよ?風呂なんか論外だ!!」
「…あっ、そう」
まぁ、予想していた通りだな。こんな所にまともな食料や飲料水、寝床なんかある訳ないわな。ましてや風呂なんかないか…。
予想通りの答えに、どうするか考える。そんな俺に男達が聞いてきた。
「俺達からも聞いて良いか…?」
俺が「どうぞ」と促すと、男達は顔を見合わる。
「…オイッ、お前何やらかした!?何でそんな小さな子供を連れてこんな所に来てんだよ!!」
キャッキャッと愛嬌を振りまくフラムを見て、男達は激しく突っ込んできた。
「…あぁ、大した事じゃないんだ。この子はここに送られる直前に転移で付いて来ちゃったんだ」
「…付いて来ちゃったんだ…って…お前なぁ、ここがどれだけ過酷な環境か知ってんのか?」
「いや、全然知らん!!」
「…お前、大丈夫か?せっかくだから教えといてやる。重力は他の星の三倍か四倍程だ。それから空気はかなり薄い。慣れるまでかなり掛かるからな。よく覚えとけよ?」
「あぁ、解った。覚えとくよ…」
俺達が、歩きながら話していると、目の前から良く通る大きな声が響いて来た。
「地球から人間を拉致し、宇宙連邦協定に違反した第一級指定犯罪者。そして泥酔の挙句に連邦の時空警備隊を相手に大暴れしたらしいな?お前がアンソニー・ホワイトか?」
俺が声の方を見上げると、二、三メートル程の高い岩場の上に赤毛の短髪でラフな革装備の女が座っていた。
「よくそこまで知ってるな?そう言う細かい情報まで上からお知らせが来るのか?」
俺の質問に、不敵に笑う女。
「あぁ、その通りだよ。アタイはボナシス・ラプチャーだ。新入り、今日からアンタが一番下っ端だからね?しっかり働くんだよ、いいかい?」
俺は溜息を吐きつつ、肩を竦める。
「悪いけどお前らに付き合ってやる暇はないんだよ。偉い人からちょっとばかり指令を貰っててね…」
「なんだい?その指令ってのは?」
俺は一呼吸おいて、ボナシスを見る。
「お前らの始末だよ」
その瞬間、ボナシスと男達の顔に一気に緊張が走った。
「…へぇ、アンタ、面白い事を言うねぇ。アタイを殺せるとでも?アタイの爆発は芸術だからねぇ。まずはアンタの子供を爆発でアートにしてやろうかね…?」
「…爆発が芸術?いや、そりゃ芸術は爆発だってヤツだろ…?」
「…いや、アタイのスキル『デトネイトスワップ』は爆発を芸術にまで高めるのさ。アタイの爆発スキルこそが芸術その物なんだよ!!」
一気に捲し立てたボナシスは、立ち上がったかと思うと、一瞬で俺の側面に立っていた。かなり動きが速いな。他のヤツらには見えないだろうが俺には完全にその動きが視えていた。
ボナシスが立ったのはフラムを抱っこしている側だ。
しかし、俺はその瞬間に体勢を入れ替えていた。フラムに触れようとしたボナシスの掌をには触れないように手首を殴って弾く。
俺は体勢の崩れたボナシスの首を掴む。
そしてボナシスを気絶させる為にサンダークラップを放った。
しかし、ここで予想外の事が起きた。軋むような大きな稲妻と共に、サンダークラップがまさかの大暴発を起こしたのだ。
今まで最大出力で放っても精々、前方三十センチ四方しか放電しなかったサンダークラップが、俺の掌から前方五メートル四方に激しく放電した。
「…………あれ?ナンダコレw?」




