監獄惑星シニスター。
天界での刑の執行がされた頃、ブレーリンギルド宿舎ではエミルが、融真、キャサリン、クライと対面していた。
「皆、ごめん!!」
突然、エミルに頭を下げられ、困惑する融真達三人。
何をどうしたら、あの偏屈で完璧主義だったエミルがここまで変わるのか。余りの変化に三人はしばらく言葉が出て来ず、驚きでお互いを見る。
「…アタシらに謝るなんて…アンタ、ホントにエミルなの…?」
キャサリンの疑問に、明るく笑いながらエミルが返す。
「うん。復讐も綺麗さっぱり終わったし、色々決着も付いたから…皆に迷惑かけてたし、一応謝っとこうと思ってね」
人が変わったような表情の明るいエミルを見て、キャサリンが揶揄う。
「…あッ、エミル。アンタもしかして奥様にぶっ飛ばされて正気に戻ったんっしょ?」
ジョークとも本気とも付かないその言葉に、皆の後ろから現れたクレアがキャサリンに睨みを効かせる。
「オイ、ギャル子。おかしな事を言うな。エミルを変えたのは主だ。今度余計な事を言ったらお前をぶっ飛ばすからな?」
「…あっ、奥様!!居たんですか…あはは…」
慌てて、融真の後ろに隠れるキャサリン。その遣り取りに、エミルとアイリス、未依里、チャビーが笑う。
未依里、チャビーは王国に亡命を希望、頑なだったエミルも心のつかえを解消して投降したと聞いた融真達はほっとしていた。
アルギスという後ろ盾を失い、あのまま教皇領にいたとしても良い事にはならないだろう事を予感していたからだ。
しかし、エミルについてはシャリノアでの工作の件がある為に、暫くはブレーリンギルドでの事情聴取が行われるという。
「その聴取が終われば、エミルも皆さんと同じく自由になれますよ」
一瞬、不安な表情を見せる融真達だったが、テンダー卿と共に戻ってきたロメリックの言葉に安堵した。
「…結局、ダンさんはこちらには来なかったのですね…」
クライの言葉に、エミルが答える。
「…ダン老師は治療中だったからね…。置いて来ざるを得なかったのよ。まぁ、老師に亡命の話しても聞く耳持たなかった思うけど…」
その言葉に、融真達は笑いながら頷いていた。
「ジキタリスはどうしてるの?」
テンダー卿がジキタリスについての現況を話す。
「…あの者には聴取を行っている最中ですが…牢の中で黙したままですね…」
「リーロウはエミルが行けば話くらいは聞くんじゃね…?」
「そうだな、アイツはオカマの癖に騎士気取りだったからな…」
キャサリンと融真の話を来いたエミルが頷く。
「…所で、エミルの後ろにいる女性は…どちら様ですか…?」
クライの問いに、エミルが答える。
「あぁ、わたしのお母さんなの。あの男が連れて来てくれたのよ」
エミルの紹介に、軽く頭を下げる憂子。
「…あの男って、ホワイトのダンナの事か?」
「そう、ホワイトさんね。全く信じてなかったんだけど、あの人、地球からわたしをイジメてたヤツ、全員連れて来たのよ」
「…連れて来たって…ちょ、ちょっと待て!!ダンナは転移スキル持ってたのか?しかも地球に行ってこっちに帰って来れるのか…」
「…うん。そうみたいよ?実際の所、地球とこの星がどれだけ離れてるのかは知らないけど…確かに転移してた」
話しつつエミルがアイリスを見る。
「アイはあの人が転移スキル持ってるの知ってたの…?」
「いや、わたしがホワイトさんと知り合った時にはそんなスキルはなかったはずだけど…」
「…やっぱあのオッサ…いや、ダンナは普通じゃないね~…」
キャサリンの言葉に、融真がふと周りを見る。
「ところでダンナは?どこにいるんだ?」
「…あぁ、少し事情があってな…。暫くは戻って来れないのだ…」
クレアが話す横でエミルが肩を竦める。
「…なんかやらかしちゃったみたいよ?」
「…そうか。あのダンナは謎が多いな…。まぁ、ダンナが帰ってくるまでは奥さんに戦闘訓練でもしてて貰うか…」
融真の言葉にエミルが頷く。
「そうね。わたし達も先生に鍛えてもらう予定なのよ?わたしはしばらく聴取があるから動けないけど…」
そう言いつつ、エミルは憂子を見る。
「母さんはどうする?地球に戻りたい?」
突然、話を振られた憂子は戸惑いつつエミルに聞く。
「…絵未は…あなたはどうするの?」
「わたしは地球には戻らない。こっちの世界でやり直すつもりだからね」
その強い意志を感じさせる目に、憂子は頷いて答えた。
「…絵未、強くなったわね。あなたがこの世界にいるなら、わたしもここにいるわ」
「では、お母さんもこのギルド宿舎にお泊り下さい。ここではお金の心配はいりませんので…」
ロメリックの言葉に、憂子はありがとうございます、と頭を下げた。
「そう言えばホワイトさんのお子さん達はどうしたのです?」
クライに聞かれてクレアが答える。
「主の所に行っているのだ。子供らが戻るまでは主の事については何も解らぬ…」
クレアが話していると、丁度そこへティーアとシーアが戻ってきた。
「戻ったでしゅ!!」
「おかえりなさい。ホワイトさんの事はどうなりましたか?」
ロメリックに聞かれて話そうとするティーアを止めるクレア。
「待て。皆、まだ何も食べていないだろう?わらわは腹が減っているのだ。朝食を食べながら話を聞かせてくれ…」
クレアの言葉に、一同頷く。そしてギルド宿舎にある食堂へと向かった。
ブレーリンギルド宿舎の食堂はかなり広い。数多くの冒険者PTやハンターPTが使うとあって、カウンター席も大きく、大きなテーブル席も多い。
人数が多いのでエミル、憂子、未依里、チャビー、そしてアイリス、融真、キャサリン、クライ、その隣にクレア、ティーア、シーア、ロメリックがそれぞれ近いテーブル席を囲む。
テンダー卿は庁舎に戻って朝食を摂り、そのまま仕事に入るという事で庁舎へと向かった。朝食セットと飲み物を注文してから、ティーアとシーアが話を始めた。
「恐らくなんじゃが半日ほどで戻って来れると思うんじゃ…」
「たった半日で戻って来れるのか?それで主はどうなったのだ?」
クレアの問いにシーアが答える。
「惑星シニスターに流罪になったでしゅ。この程度で済んで良かったでしゅよ」
「そうか…惑星シニスターか…。確かに、協定違反と泥酔して暴れたにしては軽い罰だな…」
クレアの言葉に、ロメリックが質問する。
「その惑星シニスターとはどういった星なのですか?」
「惑星シニスターは別名『監獄惑星』と言うのだ。第一級犯罪者から第十三級犯罪者を押し込めた言わば犯罪者の掃き溜めだな…」
「…監獄惑星…ですか。それでホワイトさんは大丈夫そうなんですか?」
その疑問にティーアが答える。
「そうじゃな。大丈夫だと思うが、心配なのはフラムが付いて行った事なんじゃ…」
「…あのダンナの子だから大丈夫じゃねーか?視ただけでスキル真似たりするしなぁ…」
「そうは言ってもまだまだ小さい子ですからね。心配は心配でしょう」
クライの言葉に一同、うんうんと頷く。
「…アンソ…パパも偉い人によって一部、主要スキルを止められているんでしゅ。しかも今回のペナルティーとして、シニスターの五大凶悪犯を倒して、免罪符の代わりになるモノを集めて来んとダメなんでしゅ」
シーアの説明に、アイリスが反応する。
「ホワイトさんなら大丈夫でしょ?一部、スキル止められたってあの人、かなりスキル持ってるし…」
「そうだよな?ダンナ、他人のスキル引っこ抜けるしな?実際どれだけスキル持ってんだか…」
皆が朝食を摂っていると、ウィルザーとブラントが合流する。二人は先程までギルドの受付で本部ギルドに伝書を書いて発送していた。
「…面白そうな話をしているな。結局、ホワイトはどうなった?」
ウィルザーに聞かれて、ロメリックが答える。
「監獄惑星シニスターと言う星に流罪になり、強制転移で送還されたようです」
ウィルザーとブラントの二人は面識のなかった融真、キャサリン、クライと挨拶をしつつ、話を聞く為に席に座り朝食の注文をする。
「そのシニスターと言う星はどういった所ですか?」
ブラントの問いに、再びロメリックが答える。
「…凶悪犯罪者ばかりを収監する危険な星の様です。俄かには信じがたい話ですが…」
「大丈夫だ。主ならあの星にいる程度の輩など相手にもならぬ。環境が少しきついくらいだな…」
「…環境がキツイのですか?先生、それはどれ程ですか?」
肉を齧るクレアに、クライが質問する。
「単純に重力がこの星の三倍か四倍程だな。魔素濃度は変わらぬが、空気が薄いので慣れるまでは時間が掛かる」
「…へぇ。その星、俺達の戦闘訓練には持ってこいの場所だな」
「そうね。先生、わたし達もそこに行く事が出来ますか?」
融真とエミルの言葉に、クレアが肉を齧りながら考える。
「…そうだな。おぬしらはスキルに頼り過ぎだ。まずは基礎体力からだな。その為には、よく食べ、よく訓練し、良く寝る。これが大切だ。焦らぬことだ」
そのまま続けて話すクレア。
「まずは基礎体力、戦闘訓練からだ。主が「融真にスキルを返す」、と言っていたからその後に主に相談してみると良いかもしれぬ」
クレアの説明に、エミルをはじめ融真達が頷く。
「では、まずは基礎体力からですね。未依里はまだ小さいのでお子さん達と一緒に訓練して貰っても良いですか?」
エミルの頼みを聞いてクレアが頷く。
「うむ、ティーとシーならば未依里のスキルも向上させる事が出来るだろう」
その言葉の直後に、アイリスが手を上げて元気良く声を出す。
「はいはいハーイ!!わたしもそっちで魔導訓練しまーす!!」
「アイよ、お前はわらわと共に訓練するのだ。まず体力、魔力コントロールを覚えた方が良いだろう」
その言葉に、手を上げたままアイリスは顔が固まってしまった。
「…そうじゃな、まずは基礎的な体力もそうじゃが、アイは魔力コントロールが全く出来ていないからのぅ。その後、わたしらが魔法の系統を拡げて強くする方法を教えるからの」
ティーアの言葉に、アイリスはがっくりと肩を落とす。
「大丈夫でしゅ。姉さ…ママは魔法も使えるんでしゅ。基礎がしっかりできていると後が楽なんでしゅ」
シーアの言葉にも、暗い表情のまま食事を続けるアイリス。そんなアイリスをからかうエミル。
「アイ、あなた楽な方に行こうとしたでしょ?それはダメだからね?Aランク魔導師ならわたし達と一緒の方じゃないとね!!」
エミルの言葉に、一同が笑う。そんな中、一人だけその話に巻き込まれない様に食事に集中するウィルザーがいた。それを見たブラントは苦笑いを隠せないでいた。
◇
一方、惑星シニスターでは…。
俺は思わず、溜息を吐いた。
「…あーぁ。フラム、付いて来ちゃったか…」
「あぅっ(うん)」
フラムは頷きながら「あぅあぅ~」と陽気だ。俺は周りを確認する。降り立ったのは荒涼とした高低差の激しい岩場のような場所だ。
心なしか身体が重い気がする。恐らく地球より重力が掛かっているのかもしれない…。俺は試しにジャンプしてみる事にした。
「フラム、ちょっとお空に飛んでみるぞ?
「あぅあぅっ~(とんでみる~) 」
俺はフラムを抱っこしたまま、膝を少し曲げる。そして『跳躍』を使ってみた。瞬間、俺とフラムが上空に飛んでいく。
…ふむ。普段の半分くらいしか飛べない…。いつも三十メートルは跳んでるから半分の十五メートル程か…。
そして少しではあったが呼吸がしづらい。もしかしてここは山岳の上の方か?空気が薄いのか…。
「…フラム、息苦しくないか?」
俺は確認しつつ、スーハースーハーして見せる。同じ様にフラムもすーはーすーはーする。
「あぅぁうぁ~(くるしい、ない)」
フラムは大丈夫そうだ。俺はちょっと苦しい気がするんですがw?
取り敢えず場所を確認する為に、マップを開いてみる。しかし何も映らず真っ暗なままだった。俺のレーダーマップは他の惑星には対応して無いようだ。
さて、どうするか…。そんな事を考えていると急に、警告のインフォーメーションが流れた。
≪精霊の籠手の許容が限界に達しています。すぐにスキルを移動させて下さい。繰り返します…≫
俺は慌てて籠手を視る。籠手自体が赤く光っていた。すぐにスキルウィンドウを開いて雷属性のスキルを視る。雷属性の全てのスキルが赤く点滅していた。




