天界。
突然、父親が目の前から消えて、フラムがティーちゃん達に問い掛ける。
「…あぅぁー、あぅー、ぁうぁー? (…パパ、どこいった?) 」
「…フラムや、パパは偉い人の所に連れて行かれたからの。わたしらも行ってくるから暫くブレーリンの宿屋で待っててほしいんじゃ…」
≪クレア姉さま、フラムを頼むでしゅ≫
≪…あぁ、わかった。お前達も主の事を頼む≫
クレアの言葉に、ティーアとシーアが頷く。そして天界へと転移しようとしたその時、慌ててロメリックが駆け寄ってきた。
「…待って!!ホワイトさんはどこへ行ったのですか?もしかして以前話していたとても偉い方の所へ行ったのですか?」
その言葉に頷くティーア。
「…正確には、連れて行かれた。なんじゃ…。わたしらも行ってくるから、エミル達の事は、そっちで何とかしてやってくれんかのぅ?」
「…うん、その事は任せて欲しい。何とかホワイトさんが早く戻って来れるように頼むよ…」
ロメリックの言葉に、ティーアとシーアの二人が頷く。皆が困惑する中、二人は転移で天界へと向かった。
◇
脳天を引き裂くような凄まじい雷撃の後、俺は強制転移させられた。場所は天界だった。見渡す限りの白い平野。
流れていく雲の中、憤怒の表情の神様がいた。
「この馬鹿モンがッ!!知らなかったとはいえ、転移で地球の人間を連れて来るとは何事かッ!!しかも泥酔した挙句に、暴れおって!!」
俺は雷を受けた衝撃で膝を付いたまま、思考が回らなかった。よく見ると、ゼルクのオッサンも転移で天界へ連れて来られたようだ。
遅れて、ティーちゃんとシーちゃんも来た。
「…ファーザー・ゴッド、妖精女王、この人間は一体何者ですか?他の星から現地人を連れて来たのは知っていますが、この者は何をしていたのですか?」
ゼルクの問いに、神さまが答える。
「…うむ。まずはこやつの事なんじゃがワシが別の銀河から招聘した者じゃ。こやつは特別なスキルを持っておるんじゃ。『スキルを盗み取るスキル』なんじゃが、そのスキルで『神の使徒』をはじめとする危険な能力者の排除を依頼しておる…」
「…ふむ。ゴッドからの依頼を受けた者ですか…。しかしこの者、俺のスキル『空間掌握』を破っています。とても人間とは思えませぬが…」
ゼルクの言葉に、ティーちゃんが俺のスキルについて説明した。
「天使カイロシエル様にスキルを創成して貰っておってのぅ。それが範囲内の敵対意志を持つ者の動きを極端に鈍らせる、というものなんじゃ。それでゼルク長官の『空間掌握』とかち合ってお互いスキルを相殺したんじゃろう」
更にシーちゃんが説明を続ける。
「アンソニーは元々、脳のリミットが外れてるんでしゅ。それに加えてこの世界ではステータスが振り切れてるから力のコントロールがいまいちなんでしゅ…」
「…天使様にスキルを創成して貰い、脳のリミットが外れていてステータスが振り切れている…か。もう既に人外の域の様な気もしますが…。そのような者があの場所で一体何を?」
「その事なんじゃが、一人の人間に復讐をさせて気持ちを切り替えさせようとしてたんじゃ。それで地球から人を連れて来たんじゃが、わたしらもまさか本当に転移で連れて来るとは思うておらんかったんじゃ…」
ティーちゃんの話に沈黙して俺を見るゼルクのオッサン。
「…ふむ。成功するかどうかは解らなかったが、酒の勢いでやってしまったという事か。協定についてはこの者は知っていたのですか?」
「いや、その事については話してはおらん。よもや新たに上位転移スキルを発現させるとは思っておらんかったのでな…」
神様の言葉に、ゼルクのオッサンは眼を見開いて驚く。
「人間が上位転移スキルを新たに発現させたのですか?」
「正確に言うと、スキルを合成して新たな上位スキルを創った、ですよ?」
ゼルクの言葉に、ティーちゃんのポケットの中に戻っていたリーちゃんが答えた。
「…スキルを合成したのですか?そのような事はこの世界はおろか全宇宙でも聞いた事がない…。今後の宇宙においてこの者は脅威となるのでは…?」
ゼルクの言葉に、沈黙する神様と妖精族。暫くして神様が口を開いた。
「…ゼルク長官、済まぬが今回の処分についてはワシに任せて貰えんかの?確かに今回、ホワイトは協定違反をしておるが知らなかった事じゃ。今後、脅威になるかどうかは解からぬが、今しばらく、この世界に必要な男じゃ。勿論反省をして貰い、今回の件での罰も与える。考えて貰えぬか…?」
神様からの要請にゼルクが少しの間、考えつつ俺を見る。
「…解りました。ゴッドがそこまでおっしゃるなら、処分は任せます。ただ、今回の件は全宇宙神会議で報告させて頂きますので…」
「うむ、無理を言って済まぬ」
そう言って頭を軽く下げる神様。俺はその話を黙って聞いていた。
「…そう言う事じゃ、ホワイト。『無理に現地人を連れて来てはならぬ』という協定、今回だけ知らなかったという事でそこは免責する。しかし問題は酒を吞み過ぎた事、そして酒の勢いで暴れた事の罪は免れぬ。何か申し開きがあれば聞くぞ?」
神様の言葉に、俺は膝を付いて立てないまま、静かに口を開いた。
「…神様、今回俺は人間を一人、救い更生させたと考えています。話を聞いて、転移で人間を無理に連れて来るという事が悪い事だ、という事は解かりました…」
俺は一呼吸置いて話を続ける。
「しかし、ですよ?よく考えて下さい。俺は確かに、人間のクズ共を無理やり連れてきています。ですがちゃんと元の場所に戻してますよ?確かに末倉は連れて戻る前に…」
俺はそこでゼルクのオッサンを見る。
「…全宇宙ナントカ警備隊に邪魔されましたが、きちんと元の場所に戻すつもりだったんですよ?何でここまで俺が責められるんですか?それなら何故、教皇領の召喚儀式は糾弾されないのです?おかしいじゃないですか?」
俺の弁解、と言うか言い訳に、深く溜息を吐く神様。
「…ホワイトよ、それは屁理屈と言うモノじゃ。良いか?どの世界であってもルールと言うモノは存在する。そして知らなかったとはいえ事実、お主は地球から本人達の許諾無しに連れて来ておる。人を一人救い、更生させたかどうかはまた別の問題じゃ。しかも荒療治では下手をすれば救うどころか悪化しかねなかった…そうであろう?」
「しかし、エミルは自らのトラウマを乗り越えてその結果、人間として精神的に強くなっています。結果良ければ全て良し。そうではないですか?」
俺の反論に神様が瞳を閉じて話を続ける。
「…ホワイト、話をすり替えてはいかん。今回の件の問題点は三つある。一つ、本人の許諾無しに現地人を連れて来た事。二つ、地球で転移を見せている事。三つ、泥酔して暴れたという事じゃ。ワシはそこの所をよくよく理解して反省しろと言っておるのじゃ…」
その言葉に、俺は更に反論を試みた。
「…そこは理解しています。俺は協定については知らなかったし、しかもですよ?さっきも言いましたが俺は連れてきっぱなしではないんですよ?ちゃんと元の場所に戻しているんです!!」
俺の反論に神様の目がカッ、と開いた。
「まだ言うか!!この戯けがッ…!!」
その瞬間、俺の脳天に再び『神雷』が直撃した。




