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逮捕しちゃうぞっ!!

 俺はエミルの母親を連れて来る為に、神幻門で地球に降り立った。目の前には出勤中のエミルの母親がいた。疲れ切った表情の中年女性だ。


 名前は志度(しど) 憂子(ゆうこ)。エミルが生まれてからすぐに夫と死別し、一人で子育てをして来た。エミルが十六歳の時、宅配業者で事務や荷分けのパートをしていた母親は、同じくパートとして転職して来た末倉と出会う。


 始めこそは強引でいい加減な末倉を嫌厭(けんえん)していたが、強い押しに流されて付き合うようになった。翌年、入籍したがこの時すでに、末倉は影で絵未に暴力を振るっていた。始まりは絵未からの注意だった。


 入籍してから暫くして働きにに出なくなった末倉はパチンコや麻雀と言った賭け事にのめり込む。


 当時、委員長をしていた絵未が「遊んでないで働きにでたら…」と軽く注意をした所、末倉の隠れていた本性を呼び起してしまった。


 元々短気で、思慮の浅い男だった。注意されて癇癪(かんしゃく)を起した末倉は絵未の生意気な口を黙らせる為に殴った。


 ショックで顔を強張らせて震える絵未を見て、末倉は優越感を覚えた。賭け事に負けて、虫の居所が悪いと度々、絵未を殴る。


 それが日常化し、憂子に金をせびり断られると、その眼の前で絵未を殴りつけ、金を巻き上げた。


 学校へ行けば、教師は事なかれ主義で見て見ぬ振り、リオ、ミカ、レナは顔を腫れさせた絵未を殴ってもバレないだろうと高を括り、殴りつけてはパシリをさせた。


 果てには義父と同じく、暴力で絵未から金を巻き上げるようになった。その後、絵未は何度もリストカットで自殺を図る。しかし、いつも憂子がギリギリのところで発見して命を失う事は無かった。


 命を失う事はなかったが、家でも学校でも地獄が続いた。絵未は絶望し学校の屋上へと出る。上履きと事前に書いた恨みを綴った遺書を残し、迷う事無く柵を超えてそのまま飛び降りた。


 しかし余りにも強い恨みの念が、幸か不幸か召喚エネルギーの波を引き寄せた。地面に激突寸前、絵未は召喚エネルギーの波によって地球上から姿を消した。


 その後、警察が捜索するものの、絵未を見つけられず失踪扱いとなった。


 悲嘆にくれた憂子は心を病んで狂乱し、働きに出られなくなった。焦った末倉は離婚届を偽装し籍を抜いた後、その行方を暗ませる。


 憂子は実家の両親とも死別しており頼れる者がいなかった。精神を病んで一時期入院していたが、一年と半年程で何とか回復した。


 そして時は過ぎて、今に至る。

 

 …ふむ。年齢は俺より若いはずだが、今までの事があったからだろう。かなり老けて見えた。気力の無い、死んだような目。俺はそんなエミルの母親に声を掛けた。


「…おはようございます。志度 憂子さんですね?わたしは探偵事務所の者なんですが失踪した娘さんの事について少しお話があります。朝から大変申し訳ありませんが、お時間戴けますでしょうか?」


 俺の挨拶に、無気力な眼に少しの光が差した。


「…絵未、の事ですか…。娘は…もう死んでおります…お構いなく…」

「…そうですか。わたしが娘さんから遣わされた、と言ったらお母さんは…憂子さんは信じますか?」


 俺の言葉に、志度 憂子は再び光を失った死んだような目に戻った。


「…悪い御冗談を…娘は…もうこの世には…いないでしょう?」

「あぁ、確かにこの世界にはいませんね。信じられないかもしれませんが少し、お時間を戴きたいんですよ」


 そう言って俺は憂子に近づく。


「…手を貸していただけますか?」


 俺の言葉に、憂子が手を出してくる。俺はその手に軽く触れる。その瞬間、憂子の中に、エミルの記憶が流れていく。


 俺は事前に、フラムから『リーディングメモリー』を貸して貰っていた。エミルのお母さんである憂子が、言葉だけでは信じないと思ったからだ。


 目の前の憂子が、顔を強張らせて自身の両手を見ていた。


「…こ、これは…絵未の…記憶…?」

「信じられないと思いますがこの宇宙には信じられない様な事がまだまだあるんです。その辺りは、娘さんから直接聞いて下さい」


 そう言うと俺は右手を差し出す。


「…では、参りましょうか?」


 憂子は信じられないといった表情だったが、恐る恐る俺の手を握る。そして俺は『神幻門』を発動させた。



 エミルの母親を連れて神幻門で転移中に、俺は今までにない感覚を感じた。


 …これは…誰かが俺を追尾しているのか…?


 このまま農場に戻って良いものか迷ったが、ここから他の地点に転移する事が出来るかどうか分からない。しかも今は、エミルの母親を連れている。


 転移に失敗するとどうなるのかも分からない。仕方なく俺はそのまま農場に降り立った。


「…エミル。お母さん、連れて来たぞ?」


 その言葉にエミルは俺の後ろにいた女性を見る。そして憂子の方も恐る恐る前に出て来た。


「…ぁ、あなた…そんなまさか…本当に…絵未…?」


 憂子はその場で、膝から崩れ落ちる。両手で顔を覆い嗚咽を漏らしていた。


「…絵未、絵未、絵未っ…生きていた…絵未がっ…生きてた…」」


 エミルの名前を連呼して、嗚咽が止まらない憂子。


「…ううぅっ、わたしのせいで…あの男が怖くて…何もして上げられなかった。ごめんなさいっ…」


 そんな憂子に、そっと近づくエミル。


「…わたしの方こそ…ごめん…母さんを一人にして…。でもあの時のわたしには…他に方法が見つからなかったの…」


 母親の肩をそっと抱いて、エミルも瞳を潤ませる。


「…良かった…絵未、あなたが生きてて…良かった…」


 感動の再開に、禅爺とクレアも鼻を啜って感動していた。ロメリックも若干、瞳が潤んでいた。


 取り敢えず親子喧嘩とかにならなくて良かったwそう思いつつ、親子再会の感動に浸っていると突然、さっきまで感じていた転移の感覚を察知した。


 同じく、ティーちゃんとシーちゃんも転移のサインに気付いたようだ。


≪…アンソニーよ…これはまずいことになったぞ…≫

「…そうなんだよ。さっきの転移中に誰かに追尾されてる気がしてさぁ…」


 相変わらず酔ったまま、密談に切り替えるのを忘れていた俺は、そのまま喋る。


≪…来るでしゅ。おそらく全宇宙時空警備隊でしゅっ!!≫

「何?その、ぜんうちうじくうけえびたいって…?」


 俺が一人で喋っているので、他の皆は戸惑っていた。


 俺は酒が入っていたせいかよく聞き取れなかった。シーちゃんが言った、ぜんうちうじちじくうぎたい…?って何だ?と考えていると、そいつらは突然現れた。



 そいつらは濃紺に黄色のラインの入った警備帽を被り、警備服に身を包んでいた。肌の色は透き通るように真っ白だ。


 そんな二人のガタイの良い男が二人、俺を両側から腕を取ってガッチリと拘束する。


「…んっ?なんだおまいら?なんで俺の腕取ってる?男とデートなんかしないぞ?」


 俺は両側を交互に見る。


≪アンソニーよ、逃げたらダメじゃからの。暴れてもダメじゃ。わたしらも弁解するから大人しくしておくんじゃ…≫


 ティーちゃんの密談の後、男達がしっかりとした声で言い放った。


「アンソニー・ホワイト!!全宇宙連邦転移協定違反で第一級犯罪者として逮捕する!!」

「なお、お前は弁護人を付ける事が出来る…」


 …俺は空を見上げて思った。


 タイホ?コイツら、何言ってんだろう?俺は籠手から出していた風を止める。なんで俺が逮捕されなきゃいけないんだ?コイツらいきなりなんなんだよ!!


 怒りが沸いて来た俺は叫んだ!!


「喰らうが良い!!バン〇イ!!金色足〇地蔵ォォォ、ゴパアァァァァッ…!!」


 そして両側にいる男達に思いっ切り呼気を浴びせ掛けた。


「…ぐッ、ぐわぁぁっ…!!こッ、コイツッッ!!酒くせえぇぇ…!!」

「…やッ、やめろッッ!!お前ッ、どんだけ酒飲んだんだァッ!!」


 瞬間、男達は俺の両腕から逃げるように離れる。クククッ、コイツら驚いてやがるw


≪アンソニーよ、暴れてはいかんと言ったじゃろっ?≫

「…え?俺、暴れてないけど…?ちょっとバン〇イしてみただけだよw?」


 俺の言葉に、ティーちゃんは顔を顰めて頭を抱えてしまった。


≪とにかくアンソニーは大人しくしとくんでしゅっ!!警備隊の人怒らせたら大変な事になるんでしゅ!!≫

「…だから俺、全然動いてないってw?大人しくしてるでしょw?…暴れるって言うのはねぇ、こういうことを言うんですよォォォォ!!」


 俺は叫んだ後、両腕を水平に上げて身体を高速回転させて二人の男に突撃した。


「サイクロンラ〇アットオォォォッ!!」

「なッ、何するかッ貴様ッ!!公務執行妨が…ぐわァッ…!!こッ、この酔っ払いがァッ!!コイツッ、手が付けられんッ!!早く長官を呼べッ!!」


 上司の指示で部下の男が転移で距離を取る。男はトランシーバーの様な物に叫んだ。


「…長官ッ!!転移協定違反の対象が泥酔して暴れて手に負えませんッ!!応援を要請しますッ!!緊急で応援…を…」


 俺は連絡用のトランシーバーに叫ぶ男の背後に神速で接近する。そして肩をガッと掴んだ。


「…オイ、お前ェェェ…俺を捕まえるんじゃなかったのかァァァ…?」

「…ひぃぃッ、いッ、いつの間にッ…」


 俺は、すぐに離れて逃げようとする男の両足を捕まえる。そして男の足を両脇に抱えると、そのまま思いっ切り大回転した。


「地獄のメリィゴォラ〇ドオォォォォッッ!!」


 俺は回転するのが楽しくて、つい振り回し過ぎてしまった。


「ワハハハッ!!回れ回れーェッ、ヒャッハーッ!!…アッ…!!」


 振り回し過ぎて両脇から足がスポッと抜けて、男がすっ飛んでしまった。俺は回転した勢いでくるくる回る。


 俺はくるくる回り過ぎて眼を回し、その場に倒れた。それを見た未依里とフラムがケラケラと笑う。

その向こう側で、ティーちゃんとシーちゃんが何か話していた。


≪あねさまっ、警備隊の人が長官呼んだでしゅ!!まずいでしゅよ!!≫

≪…あぁぁ、ダメじゃ。これでは弁護のしようがない…。しかも、ゼルク長官が来る…どうすればいいんじゃ…≫


 ティーアとシーアが再び頭を抱える。


「ティーもシーも何を焦っておるのだ?酔って暴れているくらいなら一晩、牢に入るくらいであろう?」

「…姉さま、今回アンソニーは転移協定違反をしておる。その上、ゼルク長官が来るんじゃ…。全宇宙連邦時空警備隊の長官、ゼルク様じゃ…」

「…ゼルク?はて、どこかで聞いたような…ゼルク…ゼルク…?」


 クレアはそれをどこで聞いたかを必死に思い出そうとしていた。


 一方で、母娘の再会を果たしたエミルとその母親、憂子の感動は完全に消えていた。二人のみならず、そこにいた全員が顔を引き攣らせていた。


「…アイ。ちょっと聞いて良い?あの男、何やってんの…?」

「…アレが酒に吞まれたダメな大人の典型よ…これ以上は何も聞かないで…」


 皆がドン引きしている中、倒れたままの俺は何だか楽しくなってきて笑いが止まらなくなった。 

 

「…イヒヒッ、ウヒヒヒッ、ウヒャヒャヒャッ!!」


 回転して倒れたまま、笑い転げている俺に、上司の男が飛び掛かってくる。


「コイツッ!!やっと大人しくなったか…全く手間を掛けやがって、長官を呼んでしまったではないかッ!!」


 大人しく押さえ付けられたまま、俺は男の言葉を反芻した。


「チョーカンってなんだ?チョーカン、チョーカンチョーカンチョー…フヒヒヒッ、イヒヒッ、イヒッ、アヒャヒャヒャヒャッ!!」

「…変な笑い方しやがって…まぁ良い。サンダーロック!!」


 俺は男によって雷撃で作られた手錠を嵌められた。突然、手首に来るビリビリ感と拘束された事によって俺はまた腹が立ってきた。


「…ぅ…ぃ…うりぃっ…うぅぅっ…ウリィィィィィーッッ!!」


 俺は両手に嵌められた雷属性の手錠を引き千切ると、俺を押さえ付ける男の肩に嚙みついた。


「グワァッ!!こッ、コイツッ…!!嚙み付きやがったッ…!!」


 ジャイアントスイングで投げられて、暫く立てなかった部下の男も漸く復活し、俺を上司から引き離そうと俺を後ろから引っ張る。


「…ゥゥゥッ、ウリィィィィッ!!」


 今度は後ろのヤツに嚙み付いてやろうと振り返った瞬間、その男はそこに立っていた。


 

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