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その男、酔ってます。

 エミルは未依里と話した後、強い眼差しで俺を見た。 


「…決着を…付けたいのか…?」


 俺の言葉に、エミルは強く頷く。


「そんなッ!!エミルッ!!もうホワイトさんと闘う理由はないだろう!?そんな事をしなくても、未依里ちゃんと一緒にこの国で暮らせるように手配を…」


 俺はそんなロメリックの話を止める。


「ロメリック…話を止めて悪いが、ここは俺に任せてくれ…」

「ホワイトさんッ、闘うのはダメです!!そんなの絶対にダメだッ!!」


 尚も食い下がるロメリックを、テンダー卿が静かに諭す。


「…ロメリック。ここはホワイト殿に任せるんだ…」


 テンダー卿に止められて渋々下がるロメリック。それを見た後、俺は改めてエミルと話す。


「…決着を付けたいんだったな?」

「…えぇ、そうでないと、わたしは前に進めない!!」


 その答えに、俺は頷く。


「俺もちょうど同じ事を考えていた所だ。エミル、お前がどうしたら心の(わだかま)りを開放して、前へ進めるかをな…」


 そして俺は、抱っこしていたフラムを見ながら話す。


「この子は、俺の子供なんだが能力をほぼ引き継いでいて、スキルを使う時、細胞の記憶を見てるんだ。お前がこの子を連れて行った時、何か異変が無かったか?」


 俺の問いにエミルが思い出しながら答える。


「…確かその子が遊び回って、わたしの所に戻ってきた時…。その子がわたしの腕に触れた瞬間、その子の身体が光って…その事がわたしにどう関係するのよ?」

「それなんだが、この子はその時に新しいスキルを習得してるんだよ。他人の記憶を読み取るスキルをね。そして戻ってきた時、それを俺に見せてくれた。エミル、お前のこれまでの人生の記憶の全てをな…」


 俺の言葉に、顔を曇らせるエミル。俺は構わず空を見上げて話を続ける。


「…俺は…人は皆、幸せになる権利を持ってると思うんだ…」


 俺の話に、今まで黙って聞いていたティーちゃんから密談が来た。


≪…アンソニーよ…突然一体何の話をするつもりなんじゃ…?≫


「…まぁ、良いから聞いててよ…」


 俺はかなり酔ってた。カッコイイことを言おうとしている自分にも酔っていた。


「…けどな、人が幸せになるには、前に進む為には一つ、自分の心に区切りを付ける必要がある。俺は過去の悲しみや辛さや怒りや恨みを忘れろとは言わないし、復讐なんかするなとも言わない。…ただ、過去を引き摺って過去に囚われたまま生きて行く様な事だけはして欲しくないんだ…」


 俺の話をだっまて聞いている皆の中で、クレアだけは腕を組んで、うむうむと頷いていた。

俺はエミルを見る。


「エミル、俺もお前と同じだ。過去に区切りを付けないと過去をバッサリ斬り捨てて、心を整理しないと前へは進めない…」

「…じゃあ、闘ってくれるのね?もう逃げないでよ?」


 俺達のやり取りに、一瞬にして緊張感が走る。


「…いや、エミル。お前が闘うのは俺じゃない」

「…じゃあ誰が闘うのよ?結局、ダラダラ話して口だけなの?」

「まぁ、いいから良く聞け。お前が闘うのは引き摺ってる過去だ。過去と向き合って乗り越えないとお前はずっと過去に囚われたままになる…」

「…ハァ?何が言いたいんだか…さっぱり…」


 エミルは呟きつつ、肩を竦める。取り敢えず闘いにはならないと解り、皆が緊張感を緩めた。俺は話し続ける。そしていつか言ってみたかったあのセリフを言った。


「…エミル。お前は覚悟が出来ているか?俺は出来ているぞ?」


 そう言い放った俺は、クレアにフラムを預ける。


「…主、どうするつもりですか?」

「まぁ、見ててくれ。フラム、少しだけクレアと一緒にいててな?それからこれからパパがする事を絶対真似するんじゃないぞ?」


 俺はフラムが頷くのを見て、「すぐ戻って来るからな」と言って頭を撫でてやった。次に俺はティーちゃんの傍に行く。


「ちょっとだけリーちゃん借りるね」


 そう言ってティーちゃんのポケットで寝ていたリーちゃんを自分のポケットに入れる。これで大丈夫だろう。


「何する気でしゅか?」

「また変な事、考え付いたんじゃろ…?」

「まぁまぁ、良いからみんな黙って見てて…」


 そう言うと俺はエミルを振り返り、改めて確認した。


「エミル、お前はこの星が好きか?」

「…えぇ、この星…と言うかこの世界は好きだけど…」

「解った。それならいい。じゃあ覚悟決めて過去と対峙してくれ!!」

「…だからさっきから何の事を言って…!!」


 抗議するエミルの前で、俺はスキル『神幻門』を発動した。俺の目の前に光の門が現れる。

目標は地球!!エミルの記憶の中で見たヤツらだ!!


 俺は一瞬で光の中に消えた。



 男が光の中に消えた後、エミルは困惑していた。


(あの男…一体何をする気なの…?)


 皆が皆、ホワイトの行動に困惑し、顔を見合わせる。そんな中、アイリスがティーアの傍に近寄ると、その耳元でひそひそと話を始めた。


「…ティーちゃん。ホワイトさん、かなり酔ってたけど…アレ、大丈夫なの…?」

「…ん?あぁ、昨日呑み過ぎたから二日酔いなんじゃろ…?」

「…いや、二日酔いじゃないよ。だってさっきまでお酒グイグイ飲んでたよ?」

「アイ、何言ってるでしゅか?アンソニーが飲んでたのは清涼水でしゅ」


 シーアの言葉に、首を横に振るアイリス。


「…違うのよ。朝から様子がおかしいから鑑定したんだけど…あ、ホワイトさんが持ってた木製水筒ね。アレ、鑑定したのよ…」


 アイリスの言葉に、ティーアが眉を(ひそ)める。


「…まさか…まさかとは思うが…言われてみれば確かにおかしかったのぅ…」

「…そーでしゅ。さっきまで傍に寄って来るなって言ってたでしゅ…まさか…」

「…そのまさかよ。あの木製水筒の中身、『大吟醸』だったのよ…。しかもホワイトさん、状態が『激☆酩酊中』になってた…」


 『大吟醸』という言葉を聞き取った禅師が近づいてくる。


「お主ら、『大吟醸』がどうかしたか?何かあったのか…?」


 禅師の問いに、ティーアが答える。


「…爺ちゃん。どうやらうちのアンソニー…パパが…さっきまで『大吟醸』をグイグイ吞んでいたらしいんじゃ…」


 それを聞いた禅師が激昂する。


「なんじゃとッッ!!あやつめッ!!まだ酒を呑んでおったのかッッ!!しかも『大吟醸』を惜しげもなくグイグイと…一人だけ吞むとは許せぬわッッ!!」

「…いや、禅師。怒る所が違うだろう?何かおかしいと思っていたがホワイトのヤツ、まだ吞んでいたのか…」


 ウィルザーの突っ込みで、ハッと正気を取り戻した禅師が面目ない、と苦笑いを浮かべつつ謝る。その傍でもう一人、酒好きが激しく反応した。


「『大吟醸』を朝から呑んでいたとはッ!!主…なんと言う事をッッ!!何故、わらわにもこっそり渡してくれなかったのだッッ!!」

「…いや、クレアさん。それ、間違ってますよ?そこはホワイト殿に、注意をしなければならないかと…」


 テンダー卿に突っ込まれた、クレアも面目ない、と苦笑いを見せる。


「しかし、いつの間に木製水筒に入れ替えたんでしゅかね?」


 シーアの疑問に、ティーアが答えた。


「…恐らくじゃが朝、わたしらが眠っていた時にこっそり入れ替えたんじゃろう…」

「朝、入れ替えていたならフラムが見てるんじゃないでしゅか?」


 シーアの言葉に、一同がフラムを見る。


「…フラム、朝、パパが水筒にお酒を入れ替えるのを見たかの?」


 ティーアに問われたフラムが、暫く記憶を探る。フラムはパパが何かを水筒に入れ替えているのは見たが、それが何か分からなかった。


 しかし記憶を探っていたフラムが、父親の記憶から『お酒』を知る。そして記憶の中で、大吟醸を瓶から水筒へ移し替えていたのを確認した。


「あぅっ、あぁーぅ、あぅぁっ(みたっ、いれてる、おさけ)」


 フラムの言葉に一同、転移で消えたホワイトが、朝からお酒を飲み続け、相当の酩酊状態である事を確信した。


「…やはり、吞んでおったか…」


 ティーアの言葉に、一同が沈黙する中、ブラントが問い掛ける。


「…お酒を吞んでいる事は確実ですが…。問題は…転移で消えたホワイトさんが何をしようとしているか?ですよ…」


 それを聞いたアイリスが恐る恐る話を始めた。


「…さっきの…ホワイトさんの話を聞いて思ったんですが…わたしもまさかとは思うんですけど…」

「オオヤマル、何が言いたいのじゃ?」


 禅師に問われて話を続けるアイリス。


「…おそらく…地球に向かったんじゃないかなって…。エミルに過去と闘えみたいな事言ってたから、まさかとは思うんですけど…地球からエミルをイジメていたヤツを連れてこようとしているんじゃないかな…」

「…それはまずいのぅ…」


 アイリスの見解に、ティーアが顔を曇らせた。


「…エミル、どうしました?大丈夫ですか…?」


 話を聞いていたエミルが突然、顔を蒼褪めさせて身体を震わせる。そんなエミルを気遣うロメリック。エミルは聞こえない程の声でブツブツと呟いている。


「…おねぇちゃん?だいじょうぶ…?」


 未依里もエミルの突然の変化を、心配そうに見上げる。


「…ぁ、アイツ…らを…つ、連れて…来る…?」


 この時、エミルは過去の記憶から、トラウマが甦っていた。その心理状態が、顔を蒼褪めさせて、身体を震わせる。その様子を見たウィルザーが皆を見渡して指示を出す。


「他の星から人を連れてくるなど、ホワイトに出来るかどうか判らぬが…」


 と言いつつ話を続ける。


「皆、少し離れていた方がいいだろう。…それから未依里、君もすこしエミルから離れてあげてくれ。もしエミルがイジメられそうになっても、こっちで何とかするから能力は使わないでくれ、良いな?」

「…うん…」

「それからチャビーだったか?とアイリスは闘いが始まったら未依里の目と耳を隠せ。余り子供に見せるものではないからな…」


 そう言われて二人は無言で頷く。


 未依里は、心配そうにエミルを見ながらも、言われた通りチャビーとアイリスと共にその場を離れた。


「ホワイトが何をしようとしているのかは大体判ったが、もしエミルが過去との対峙に難をきたす様であれば…ロメリック、お前がその間に割って入れ。相手が男だろうが女だろうが容赦するな」

「…了解しました」


 全員が体勢を整えた頃、シーアが強大な転移サインを感知して声を上げた。


「…これは!!…戻ってくるでしゅよっ!!」


 その瞬間、全員に緊張が走った。

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