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お子ちゃま対決!?

 エミルの願いを断れず前に出て来る未依里。それを上から身を(よじ)って見たフラムが下ろしてくれともぞもぞと動いた。


 俺はすぐに布を解くとフラムを下ろしてやる。フラムはにこにこしながらテテッと未依里に近づいた。


 …これはっ!!お子ちゃま対決勃発か…w?


「…だめよ…あぶないからきたらだめ…」


 未依里の忠告にもフラムはにこにこしながら嬉しそうに身体をゆすり、また一歩近づく。


「ホワイトさんッ、フラムちゃんを下がらせるべきですッ!!危険すぎますッ!!」

「そうじゃ、フラムがあぶないじゃろ!!相手は子供とはいえ能力者なんじゃからの!!」


 ロメリック、ティーちゃんにフラムを下がらせるよう言われたが、俺は無言で後ろに掌を見せて待ってもらう。


 チャビー、エミルも固唾を飲んで成り行きを見守る。アイちゃんは、フラムを下がらせるように俺に視線で伝えてくる。

 

 皆、心配しているようだが本当に危険になったら俺が割って入るつもりなので、フラムのやりたいようにやらせてみる事にした。


 フラムは相変わらず、にこにこしながらもう一歩近づく。その時、未依里の腕から、霊体?らしき半透明の腕が伸びて、フラムの身体をチョンと押した。


 半透明の腕に軽く押されたフラムは、コテッと尻餅をついてしまった。


 (しばら)く、驚いたように未依里を眺めていたフラムだったが、すぐに立ち上がると、お尻に付いた土を払い、またにこにこと笑い掛ける。


「…あ、あなた…わたしが、こわくないの…?」


 未依里の言葉に、「あぅ!!(うん)」と答えるフラム。そして小さな手で、未依里が抱いていた人形を指差した。


 おっ、次はフラムのターンかっw?そう思っていると、フラムが未依里に話しかける。


「あぅ、あうぁうー(それ、かわいい)」

「…えっ?このお人形?…うん、わたしのだいじなともだち…」

「あぅ、あぅあぅ、あぅぁー、あぅ?(それ、パパ、かってもらった?) 」

「…うぅん、わたしパパはしらない…」

「…あぅ~(ふーん)」


 未依里は、フラムの言葉が解るようだ。ハッキリと受け答えしている。しかし今は俺も何故だかフラムの言葉が分かるが、なんでみんなフラムの喋ってる言葉が解るんだろうw?


 俺が微笑ましく見ていると、二人が話を続ける。


「…これはね、ママがいなくなる前に…ママだと思ってだいじにしなさいって買ってくれたの…」


 そう話しつつ、未依里は人形をギュッと抱きしめる。それを見てフラムも、鞄から妖精人形を出して見せる。


「あぅぁ、あうぁぅ(ふらむ、もってる)」

「わぁ、かわいい。それはようせいさんね…?」

「あぅっ、あぅあぅ、あぅ、あーぅ(これ、パパ、かってくれた)


 未依里の表情が柔らかくなり、笑顔を見せる。フラムは妖精人形を鞄にしまうと、今度は中から幸せターンを取り出した。


「あぅ、あぅあぅ、あぅ?(これ、おいしい、しってる?) 」

「わぁ、幸せターンね。しってる、ママに買ってもらったことあるの」

「あぅっ、あぅあぅ、あーぅ、あぅぁ(これも、パパ、かってくれた)」

「え~、いいなぁ。それすごくおいしいよね…」


 その言葉を聞いて、フラムは袋から三つほど幸せターンを取り出すと、未依里に差し出す。


「あぅっ、あぅあぅー(これ、あげる)」


 にこにこしながらフラムは、幸せターンを渡す。


「…えっ?ほんとにくれるの…?あ、ありがとう…」


 未依里はフラムから幸せターンを受け取ると、頭上に仕舞い込む。どうやら未依里はアイテムボックス持ちらしい。


 …うーむ。フラムはモノで相手を釣ろうとしてるのかw?と言うか美味しいモノで相手を懐柔する作戦か…w?


 そんな事を考えていると、続いてフラムは鞄から、大好きな黄色いボトルのフルーツ牛乳と赤い小ボトルのイチゴ牛乳を取り出し、未依里に見せた。


「あぅっ、あぅ?(これ、しってる?) 」

「うん、しってるよ。それもおいしいよね」


 二人とも、もうすっかり打ち解けたようだ。


「あぅぁぅ、あぅっ、あうぁ。あうぁっ、あぅあぅー(ふらむ、これ、すき。これも、あげる)」


 フラムはそう言うと、イチゴ牛乳の方を未依里に渡す。


「…えっ?これも…もらっていいの?わたしイチゴ牛乳すきなの。ありがとう!!」


 そんな二人のやり取りを見ていたエミルは、しゃがんだまま肩で息をしつつ未依里に注意する。


「…み、未依里…。…だ、ダメよ…。敵と馴れあっては、ダメ…」

「…で、でも…エミルおねぇちゃん、この子、わるい子じゃないよ…」


 エミルに注意され、再び心が揺れ動く未依里。その感情の揺らぎと共に、霊体らしき透明の人型がブレて見え隠れしている。


 どうやらクライと同じく、その感情の動きによってスキルが発動し強くなるようだ。


「…敵の子は敵よ…。未依里、わたしと…あなたの、為よ…闘って…」


 エミルの言葉に不安な表情を見せる未依里がチラッとフラムを見る。にこにこしているフラムを見て、未依里はぎゅっと目を閉じる。

 

 そして震える声で、言い放った。


「…わたしはっ…わたしはたたかいたくないっ!!わたしより小さい子をイジメるなんてできないっ!!」


 未依里の思い切った覚悟の言葉に、顔を強張らせてショックを受けるエミル。未依里の感情の昂りと共に、その背中から現れた霊体は、よりその姿をはっきりさせて浮かび上がった。

 

 これが未依里が持っているスキル『ハートクェイク・ビジョン』だな…。 俺は、スキル説明文を読んでみる。


『ハートクェイク・ビジョン』未依里の感情に呼応して現れる、先祖の霊の集合体。未依里の母親が病気で死ぬ間際、未依里の安寧を強く願った事から先祖の霊が集合体となり、その守護に就いた。強力なエネルギー体で、広範囲に高圧放電現象、火炎爆発現象などを起こす事が出来る。

 赤色スキル。


 …ふむ。未依里のお母さんは既に死んでいるのか…。さっきの会話からエミルと未依里本人はそれを知らないようだな…。


 たぶんアイちゃんは未依里の人物鑑定をみてるな。さっき未依里を戦闘に巻き込もうとするエミルに強く反対してたからな…。


 まぁ、そうじゃなくてもこんな小さい子に闘わせるのは俺もどうかと思うが…。


 さて、どうするか…。チャビーは闘わないって宣言したから、亡命希望だろう。未依里も同じだと思うが、この年齢だと亡命というより『保護』になるだろうな。


 そうなると残る問題は…エミルだけだが…。


 未依里の背中から現れた霊体は、未依里を護るように大きくなり、その激しい怒りの眼はフラムではなく、エミルを見下ろしていた。


 今まで未依里には頼れる者がエミルしかいなかったのだろう…。


 しかしフラムと話をして色々なモノを目にした事が、エミルのやり方に反対する、という未依里の決意を促したのかもしれない…。


 それは良い事なんだが…。


 このまま未依里までもがこちらに付くと、エミルを孤立させてしまう。…そうなるとより(かたく)なになって説得に応じないだろう…。


 …どうするかな…何か頭痛くなってきたな…。


 俺は取り敢えず、何本目か忘れたが木製水筒の中の飲み物を煽りながら、エミルの様子を窺う。

エミルは顔を俯けて、肩を震わせていた。


「…わたしは…わたしは敗けられない…のよ…。未依里…どうして…解ってくれないの…どうして闘ってくれないの…」


 呟きつつ、顔を上げるエミル。しかしその憔悴していたエミルの顔が一瞬、ハッとなった。


 エミルの眼が、未依里の隣に立ってにこにこと笑うフラムを見ていた。その瞬間、エミルはダッシュでフラムに向かって走る。


 俺は再び木製水筒を煽っていた為に、その一瞬を見逃していた。エミルは素早くフラムを抱き上げると、叫んだ。


「子供は預かっておくわ!!帰して欲しかったら教皇領まで来なさい!!遮蔽解除!!早く転移させてッ!!」


 エミルが叫んだ瞬間、その後ろから送迎屋フードが現れる。そしてフラムごと、エミルを転移させてしまった。


「…あっ、やべっ!!…もう一人隠れてたのかよっ!!」


 一瞬、焦った俺だったが、すぐに平静を取り戻す。…そういや、フラムは大丈夫だったな…。


 …ふぅ、やれやれだぜ。フラムが教皇領に行ってる間にチャビーと未依里の今後について皆に相談でもするか…。


 そんな俺にアイちゃんが早速、聞いて来た。


「…ホワイトさん、子供が(さら)われたのに随分のんびりしてるけど…大丈夫じゃないよね?」


 アイちゃんの質問を皮切りに、集まってきた皆が俺を非難する。


「…ホワイトさん、あれは油断し過ぎですよ…。ああ言う時は、不用意にフラムちゃんを前に出すべきではないですね…」


 ロメリックに続き、禅爺も俺を責めてくる。


「…全く、ロメリックの言う通りじゃ。お主は何をやっておったんじゃ!!子供が連れて行かれるのを許しおって…」

「…やれやれ、みすみす子供を連れて行かれるような事をするとは…」


 ウィルザーの言葉に、その隣でうんうんと頷くブラント。続いてうちのメンバーからのダメ出しだ…。


「だからフラムを前に出すなと言うたじゃろ?父親ならこういう事はしっかり想定しておかんとダメじゃ!!」

「そーでしゅ!!フラムを危険に晒すのはダメでしゅ!!」


 皆が集まって俺を非難轟々(ひなんごうごう)責めてくる中、傍で未依里が泣き始めた。


「…ご、ごめん、なさぃ…わ、わたしのせいで…」


 そんな未依里の前に、しゃがむと俺は頭を撫でてやる。


「…未依里、きみのせいじゃないよ。あの子は俺の子だからね。フラムなら大丈夫、待ってれば戻って来るよ」

「…くすん…ほ、ほんと?あの子、大丈夫なの…?」

「あぁ、大丈夫」


 そんな俺に再びアイちゃんが突っ込んでくる。


「いやいや、大丈夫じゃないでしょ!!何やってんの、早く助けに行かないとでしょッ!!」


 突っ込んできたアイちゃんの後ろから一人、冷静なクレアが皆を宥める。


「…皆、落ち着くのだ。主の言っている事は嘘ではない。フラムなら大丈夫だ。わらわ達は一度、フラムに振り回された事があったからな…」


 クレアの言葉に、ティーちゃんとシーちゃんが、ハッと気付いて顔を見合わせる。


「…確かに、そーだったでしゅね…」

「…そうじゃ、確かにフラムなら大丈夫じゃ!!」


 二人の言葉に、他の皆は一様に疑問の表情だ。


「…ホワイト殿、(さら)われたフラムちゃんが大丈夫というのはどういう事なのです?奥様が言う振り回された事があると言うのも気になるのですが…」


 テンダー卿に問われたので、俺は未依里を宥めながら説明した。


「実はフラムは俺と同じ転移スキルを持っているんですよ。俺の細胞の記憶を辿ってあっちこっち飛び回った事がありましてね…」

「…あぁ、そう言う事でしたか…。ならば(しばら)くすると帰ってくる。と、そう言う事ですか?」

「そう言う事ですw」


 皆が納得したので、俺達は改めてチャビーの亡命と未依里の保護について話す事にした。



「…お、おでは…ぼ、亡命希望だど。み、未依里も…ぉ、同じく亡命させて欲しいど!!}


 チャビーの言葉に、テンダー卿が頷きつつウィルザーを見る。ウィルザーが頷くのを確認してから、改めてテンダー卿が話を進める。


「…では名前と、これまでの経緯と何故、教皇領を離れたいのか、その理由を話して欲しい」


 その言葉に、チャビーが緊張気味に頷く。


「…お、おでは…ちゃ、チャビー・ミードって言うだ。お、おではいつも、街の…ち、チンピラにウスノロだって、ば、バカにされてたど。…い、いつも喧嘩売られてたから…み、見返してやろうと思って、五、五十人程…た、倒した所で、しょ、召喚されたんだど!!」


 続けてチャビーが話す。


「…きょ、教皇領のヤツらは…ひ、酷い事ばかり…させるんだど!!それがい、い、嫌になったんだど!!」


 チャビーの言葉に、辛抱強くその説明を聞くテンダー卿。続けて未依里が話す。


「…わ、わたし…は、心形(しんぎょう) 未依里(みより)…。ママと…離れてからずっとずっと会いたいってかみさまにお願いしてたら…この星にきてたの…。えーと、きょうこうりょうは、おかしもないし、ママもいないから…」


 未依里の話を来いた後、しゃがんで未依里の頭を撫でてやるテンダー卿。


「…解かった。よく話してくれたね。許可が出るまでは暫くギルドのお部屋にいて貰うけど、少しの間、辛抱して欲しい…」


 テンダー卿の優しい言葉に、頷く未依里。テンダー卿は立ち上がると、早急に亡命と保護に関する手続きの書類を作らせる為、ブレーリン庁舎に伝書を飛ばした。


 簡単ではあるが、二人の処遇も決まったので、俺達はフラムが転移で帰ってくるのを待つ事にした。

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